質問主意書

第154回国会(常会)

質問主意書


質問第一〇号

労働分野における規制改革に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十四年二月十八日

大脇 雅子   


       参議院議長 井上 裕 殿



   労働分野における規制改革に関する質問主意書

 二千年十二月十二日に行政改革推進本部規制改革委員会「規制改革についての見解」(以下「見解」という。)が公表され、二千一年十二月十一日には総合規制改革会議「規制改革の推進に関する第一次答申」(以下「答申」という。)が公表された。右の二文書の示す規制改革の方向は、物の製造の業務についての派遣の解禁、期間制限の緩和など、労働分野における更なる大幅な規制緩和を求めるものである。
 そこで、以下質問する。

一、「官民の関係」について

 見解は、有料職業紹介事業の取扱職業がネガティブリスト化され、「官民が労働市場という共通のフィールドにおいて競争しあう環境が従前に比べ、格段に整備された。」(二百二頁)とするが、ILO百八十一号職業紹介条約は、「官民の関係」について、「協力関係」でなく、「競争関係」ととらえていると解するか。
 また、見解がいう「競争」とは、どのような趣旨であるか。

二、派遣労働者の「職業選択の自由」について

 答申は、「派遣労働者にも、他の労働者と同様に職業選択の自由が認められるべきであり」、職種や機会が制限されていることは問題であるから、「対象業務や派遣期間の制限については、これを原則として撤廃することが望ましい」(二十八頁)と述べているが、業務や機会の制限を撤廃すれば、職業選択の自由が保障されるという趣旨か。
 また、労働者が派遣という就業形態を任意に選択するとしても、その際、法による規制を前提として選択していると思われるが、この点を職業選択の自由の観点からどのように考えるのか。

三、物の製造に係る業務を適用除外業務とすることについて

 物の製造に係る業務を適用除外業務とすることについて、見解は「ILO百八十一号条約に抵触するおそれがあるとの意見もある」と指摘するが、そのような指摘はILOの公式見解か。
 また、そのような指摘をなしている論者の氏名、職業、出典を明らかにされたい。
 答申が「他国の状況も踏まえながら、これを解禁することも含めて検討すべきである。」(二十八頁)としているのは、対象業務の解禁のみをいうのか、それとも常用代替を防止し、労働者の雇用及び労働条件を確保するための規制の在り方を広く検討する趣旨かも併せて確認したい。

四、派遣を通した雇用機会の拡大について

 見解が「『物の製造』の業務について派遣事業が認められるならば、これによって派遣を通した雇用機会の拡大が期待できるという一面もある。」(二百六頁)とする根拠は何か。

五、「期間制限三年の派遣対象業務の拡大」等について

 答申は、「現下の深刻な雇用情勢にかんがみ」、「緊急措置として現在三年の派遣が認められている業務(旧適用対象二十六業務)の範囲を拡大する」ことについて今年度中に検討・結論を得るべきである(二十九頁)としているが、「三年の派遣が認められている」とする法的根拠は何か。
 また、新たに期間制限三年の派遣対象業務を拡大すれば、現下の深刻な雇用情勢が改善されるかのように受け止められるが、その根拠はどこにあるか。

六、「法見直しの趣旨」について

 見解は、労働者派遣(臨時的・一時的派遣)の一年の期間制限を緩和する必要について、派遣会社の売上実績が当初の予想を下回ったとするアンケート回答が多いこと、そのうち大多数が一年制限がネックになっていると回答していることに触れている(二百六頁~二百七頁)が、これは派遣会社の売上が予想を下回る実績となったことを問題ととらえる趣旨か。
 また、派遣会社の売上実績が予想通りに確保できるようにすることが法見直しの趣旨と解してよいか。そうであれば、その根拠は何か。

七、「契約期間の短期化」の傾向について

 見解は、派遣労働者の「一年では雇用について不安、生活設計ができない」、派遣先の「一年だと仕事を覚えた頃には終了し、戦力にならない」という意見に耳を傾ける必要がある(二百七頁)とする。派遣労働者の「一年では雇用について不安、生活設計ができない」との意見に耳を傾けるべきだとするのは、派遣労働者の雇用安定のためにも期間制限を緩和すべしとする趣旨と解してよいか。
 また、派遣先の「一年だと仕事を覚えた頃には終了し、戦力にならない」という意見にも耳を傾ける必要があるとするが、そのような声の反面で、労働者派遣期間が短期化している傾向があることについてどのように考えるか。この「契約期間の短期化」の傾向について、見解の中で指摘しなかった理由は何か。

八、派遣労働者のデータについて

 見解は、労働力調査特別調査によると派遣社員の数はせいぜい「三十八万人であることから、労働者派遣法の改正による雇用拡大効果は、せいぜい数千人規模にとどまるものと推定される。つまり、規制緩和(ネガティブリスト化)の効果が、現実にはほとんど見られない」(二百七頁)と述べているが、労働力調査特別調査の派遣労働者数は実態をどのように反映していると考えるか。
 また、労働者派遣法に基づく平成十二年度事業報告の集計結果(平成十三年十二月二十八日厚生労働省発表)によると、派遣労働者数の飛躍的な増大、派遣料金の低下の反面で事業収入が伸びていることなど、経費削減を目的とした常用代替労働者派遣の活用が拡大している傾向を示すデータもあるが、これについてはどのように考慮したのか。
 さらに、いわゆる「構内下請け」といわれる労働者の受入れ形態や、請負・委託を偽装した違法派遣については、統計データに反映されないが、このことについてどのように考えるか。

九、「常用代替」について

 見解が、パートと一般労働者との間でもミクロの事業所レベルでは代替現象があまり生じていないという平成十二年度版労働白書の指摘に基づいて、労働者派遣について常用代替を問題にするのは大袈裟であると評価する根拠は何か。
 また、見解は、「『労働力調査特別調査』によれば、派遣の規模はせいぜいパートの二十分の一に過ぎない(三十八万人/七百五十三万人)。常用代替を問題にすること自体がいかに大袈裟かがこのことからも分かる。」(二百八頁)としているが、この指摘は、前述の物の製造にかかる業務を派遣対象とすれば、見解が「派遣を通した雇用機会の拡大が期待できるという一面もある」とし、あるいは答申が現下の深刻な雇用情勢にかんがみ三年までの派遣が認められている業務を緊急に拡大する措置を採るべきだとすることと齟齬すると考えるがどうか。

十、派遣先からの通知について

 見解が、「一年制限」に関連した派遣先からの通知を「書面」とする現行制度から、「口頭」でも認める(二百九頁)とする根拠は何か。
 また、答申が派遣先事業主から派遣元事業主に対する通知をなすについて「電子媒体による」ことも可能である(二百九頁)とする根拠は何か。

十一、見解及び答申取りまとめの考え方について

 「ハローワークもいらない組織」、「人材派遣や職業紹介などの仕事は民間に任せて欲しい」、「ハローワークに比べて情報の質量が違う」、「仕事の紹介は情報サービスなのだから情報料を戴くのは当然」、「百万円でも安いと感じるかもしれない。そういう部分に行政がいちいち介入しないで欲しい」という総合規制改革会議委員のマスコミ発言(平成十三年十一月二十二日夕刊フジ「トップ直撃」)は、既に日本が批准しているILO百八十一号条約の趣旨に照らして容認できないものと考えるがどうか。
 また、このような発言の趣旨に基づいて、見解及び答申が取りまとめられたと受け止めてよいか。

  右質問する。