質問主意書

第153回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第一号

内閣参質一五三第一号

  平成十三年十一月十六日

内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 井上 裕 殿

参議院議員峰崎直樹君提出アイヌ民族についての日本政府の認識に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員峰崎直樹君提出アイヌ民族についての日本政府の認識に関する質問に対する答弁書

一について

 政府は、我が国が単一民族国家である旨主張するものではなく、平沼経済産業大臣が本年七月二日に札幌市内で開催された政経セミナーの講演において「これだけの一億二千六百万のレベルの高い、単一民族でびちっと詰まっている国」と発言した趣旨も、我が国にはレベルの高い人的資源が豊富であることから日本経済の潜在的な可能性が高いということであり、「単一民族」との発言は本意ではなく、その本意は「日本国民」 であったと承知している。
 社団法人北海道ウタリ協会(以下「ウタリ協会」という。)からの質問に対する平沼経済産業大臣の本年七月十二日付け回答の趣旨は、「単一民族」との言葉を用いたことによりアイヌの人々の誇りを傷つけてしまったとすれば遺憾であるということであり、この趣旨については、平沼経済産業大臣が本年十月二十五日にウタリ協会の方々と会談した際に改めて説明を行い、御理解いただいたと承知している。政府としても、今般の発言によりアイヌの人々の誇りを傷つけてしまったとすれば遺憾であると考えているが、以上のような事実関係等に照らすと、内閣総理大臣の任命責任が問題となるような事案であるとは考えていない。
 また、平沼経済産業大臣の認識が、人種差別の撤廃に関する委員会の最終見解C項「懸念事項及び勧告」の趣旨に反するとの御指摘が何を意味するのか必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、政府としては、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律(平成九年法律第五十二号。以下「アイヌ文化振興法」という。)に基づく施策の推進を通じ、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図っていく所存である。

二について

 本年七月十六日から十七日までの間、田中外務大臣は、ユーゴースラヴィア連邦共和国を訪問し、十六日、コシュトゥーニツァ同国大統領と会談を行ったが、同会談で田中外務大臣が「日本は単一民族」と発言した事実はない。また、同日の会談後、外務省職員が記者に対し、当初、同会談における田中外務大臣の発言につき事実と異なる説明を行ってしまったものの、直ちにお尋ねのような発言はなかった旨を明確に説明したところである。なお、同会談の記録については、ユーゴースラヴィア連邦共和国との信頼関係が損なわれるおそれがあり、公表は差し控えたい。

三の1について

 本年八月三十一日から九月八日までの間、南アフリカ共和国のダーバンにおいて開催された「人種主義、人種差別、外国人排斥及びそれに関連する不寛容に反対する世界会議」(以下「人種主義に反対する世界会議」という。)の日本政府代表団については、会議の趣旨にかんがみ、政府代表団の一員として民間からの参加を内々に検討した。政府としては、当時ウタリ協会の副理事長の地位にあった者(以下「候補者」という。)について、財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構理事や北海道立アイヌ民族文化研究センター運営委員を務めるなど候補者の国内での活動、国際連合人権委員会や人権小委員会及び人種差別の撤廃に関する委員会への出席など候補者の国際的活動、候補者の人柄や見識の高さ等から判断して、政府代表団の一員にふさわしいと考え、本年七月までに、ウタリ協会を通じて、候補者に対し、代表団への個人としての参加を非公式に打診したものである。
 本年八月六日にウタリ協会から、事情により候補者が政府代表団に参加できなくなった旨の連絡があったので、同月八日、外務省を来訪したウタリ協会理事長らから事情を聴いたところ、ウタリ協会として副理事長を解任された候補者の政府代表団への参加は認められず、再検討にも応じられない旨の回答があったことから、候補者の政府代表団への参加を断念した。
 このように、政府としては、候補者に対し個人として政府代表団への参加を打診したものであって、ウタリ協会に対し政府代表団への参加に係る人選を依頼したものではないから、「協会に対する政府の不当な組織介入、人選への介入、人権と人格を無視した侮蔑行為」を行ったとの御指摘は当たらないと考える。また、本年八月八日にウタリ協会理事長らから事情を聴いた際、議論が白熱した場面もあったが、外務省においては、同人らに対し誠実に対応したと考えている。

三の2について

 人種主義に反対する世界会議に派遣する政府代表団の構成について、国際連合人権高等弁務官事務所からの事前の要請等はなく、したがって、人選に関するいかなる条件も付された事実はない。

三の3について

 政府としては、今後とも、ウタリ協会を始めとする関係者の協力を適切に得つつ、アイヌ文化振興法に基づく施策等、アイヌの人々に関する様々な施策に取り組んでまいる所存である。