質問主意書

第151回国会(常会)

答弁書


答弁書第四六号

内閣参質一五一第四六号

  平成十三年七月十日

内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 井上 裕 殿

参議院議員筆坂秀世君外三名提出トラック輸送の安全確保と公正取引の確立に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員筆坂秀世君外三名提出トラック輸送の安全確保と公正取引の確立に関する質問に対する答弁書

一の1について

 運輸省(当時)においては、御指摘の調査結果を踏まえ、貨物自動車運送事業の健全な運営の確保に資するため、平成九年六月に、荷主の事業者団体に対し文書で運賃及び料金に係る取引の正常化に関する協力依頼を行ったところである。荷主の事業者団体は、当該協力依頼を受けて、傘下の事業者に対し当該協力依頼の趣旨及び内容を周知させたものと聞いている。
 今後とも、必要に応じ、貨物自動車運送事業者の収受する運賃及び料金に関する実態の把握に努めるとともに、貨物自動車運送事業者と荷主との良好な取引関係の確立が図られるよう、貨物自動車運送事業者及び荷主に対して指導してまいりたい。

一の2について

 公正取引委員会は、「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」(平成十年三月十七日公表)で示された私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号。以下「独占禁止法」という。)に規定する不公正な取引方法に該当する優越的地位の濫用となるおそれのある行為が行われていないかなどの観点から、荷主と貨物自動車運送事業者との取引を含む貨物自動車運送事業における委託取引に関する調査を平成十一年十二月から平成十二年十月にかけて実施し、同年十二月に調査結果を公表するとともに、同調査の結果、独占禁止法上問題となるおそれのある行為が認められた荷主等に対し改善を要請したところである。
 今後とも、必要に応じ、貨物自動車運送事業における委託取引の実態把握に努めるとともに、荷主の貨物自動車運送事業者に対する優越的地位の濫用など独占禁止法に違反する行為があれば、厳正に対処してまいりたい。

一の3について

 貨物自動車運送事業法(平成元年法律第八十三号。以下「貨物法」という。)第六十四条の規定に基づく荷主への勧告は、一般貨物自動車運送事業者及び特定貨物自動車運送事業者(以下「一般貨物自動車運送事業者等」という。)の貨物法の規定等に違反する行為に対し、車両の使用停止等の行政処分を行う場合であって、その違反行為が主として荷主の行為に起因し、かつ、一般貨物自動車運送事業者等に対する処分のみによっては再発の防止が困難であると認められる場合に行うことができるものである。したがって、御指摘の「運賃ダンピング」の内容が明らかではないが、荷主が運賃又は料金の値下げを要求したというだけで直ちに勧告の対象となるものではない。いずれにせよ、荷主への勧告制度も十分念頭に置きながら、今後とも貨物法の適正な運用を図ってまいりたい。

一の4について

 一般貨物自動車運送事業者等は、貨物法第十一条第一項等の規定に基づき、運賃及び料金をあらかじめ国土交通大臣に届け出ることとなっているが、入札という方法で運賃及び料金が決定されても、そのこと自体は、同条第二項各号のいずれかに該当する場合を除いては、問題ではない。
 また、一の3についてで述べたとおり、荷主が入札を行ったことのみを理由として勧告を行うことはできないと考えている。

一の5について

 貨物法第六十三条の規定に基づく標準運賃及び標準料金は、特定の地域において一般貨物自動車運送事業に係る運賃及び料金が輸送に係る需給の不均衡等により著しく高騰し、又は下落するおそれがある場合において、公衆の利便又は一般貨物自動車運送事業の健全な運営を確保するため特に必要があると認められるときに、当該特定の地域を指定して、期間を定めて設定するものである。
 また、貨物法第七条の規定に基づく緊急調整措置は、特定の地域において一般貨物自動車運送事業の供給輸送力が輸送需要量に対し著しく過剰となっている場合であって、当該供給輸送力が更に増加することにより、当該特定の地域にその営業区域の全部又は大部分が含まれる一般貨物自動車運送事業者の相当部分について事業の継続が困難となると認められるときに、当該特定の地域を、期間を定めて緊急調整地域として指定し、新規参入の規制等を行うものである。
 いずれの措置についても、供給輸送力と輸送需要量の関係を示す車両の実働率等の指標に加え、経済や産業活動の動向等をも踏まえて、その発動の必要性を総合的に判断することとしているが、近年、車両の実働率等は安定的に推移しており、これらの措置を発動しなければならない状況にはないと考えている。

一の6について

 御指摘の荷主の貨物自動車運送事業者に対する発注に係る問題については、勧告制度も十分念頭に置きながら、適切に対処してまいりたい。
 また、貨物自動車運送事業の用に供する自動車への自重計の装着の義務付けについては、今後の過積載に係る違反の状況等を踏まえ、検討してまいりたい。
 さらに、貨物自動車運送事業者は、過積載等を防止し、輸送の安全を確保することが貨物法により義務付けられているが、この義務を果たすには、運送の引受けの際に荷主から通知される運送に必要な事項を記載した運送状の活用が有効であることから、運送状の発行について適切に指導してまいりたい。

二の1について

 厚生労働省が行っている「毎月勤労統計調査」によれば、石油類輸送業を含めた道路貨物運送業における平成十二年の総実労働時間は二千百七十時間で、前年のそれ(二千百七十一時間)とほぼ同程度となっている。また、同省が行っている「賃金構造基本統計調査」によれば、営業用大型貨物自動車運転者(男)の平成十二年の年間の現金給与総額は約四百七十二万円で、前年のそれ(約四百七十五万円)、前々年のそれ(約四百九十万円)とほぼ同水準で推移している。さらに、警察庁が行っている「交通事故統計」によれば、事業用貨物自動車による平成十二年の死亡事故件数は七百二十七件で、前年のそれ(六百九十一件)に対し約五パーセントの増加となっている。
 御指摘の労働時間等については以上のような状況であるが、貨物自動車運転者の労働条件の改善を図り、輸送の安全を確保することは重要であると考えており、引き続き貨物自動車運送事業者に対し適切な監督指導を実施していく所存である。

二の2について

 厚生労働省及び国土交通省においては、貨物自動車運転者の労働条件の改善及び過労運転の防止を図るため、相互に密接に連絡をとりつつ、貨物自動車運送事業者に対する監督指導を行ってきている。
 すなわち、厚生労働省では、平成十二年において、貨物自動車運送事業者に対して千八百八十件の臨検による監督指導を実施しており、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)等関係法令違反及び自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年労働省告示第七号。以下「改善基準告示」という。)違反が認められた事業場については、是正を図るよう指導しているところである。
 また、国土交通省では、平成十二年度において、貨物法に基づく輸送の安全確保に係る規定の遵守状況に関し、九百十八件の監査を実施しており、違反が認められた事業場については、貨物自動車運送事業者に対し、車両の使用停止等の行政処分を実施しているところである。
 なお、荷主に対しては、勧告制度の活用も含め適切に対処してまいりたい。

二の3について

 二の2についてで述べたとおり、貨物自動車運転者の労働条件の改善及び過労運転の防止を図るため、厚生労働省及び国土交通省が連携して、労働基準法、貨物法等関係法令及び改善基準告示の遵守について指導しているところである。
 なお、過労運転の防止の観点からは、貨物自動車運転者が車両の座席の後部に装備されたベッドで睡眠をとることは、一般的には望ましくないと考えている。

三について

 貨物運送取扱事業法(平成元年法律第八十二号)及び貨物法の運用については、貨物運送取扱事業及び貨物自動車運送事業の健全な発達を図るため、輸送の安全の観点も含め、関係省令及び通達の見直しを行ってきたところであり、今後、必要があれば関係法令等の見直しを検討してまいりたい。