質問主意書

第151回国会(常会)

答弁書


答弁書第二一号

内閣参質一五一第二一号

  平成十三年五月二十五日

内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 井上 裕 殿

参議院議員櫻井充君提出不良債権の直接償却に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員櫻井充君提出不良債権の直接償却に関する質問に対する答弁書

一について

 金融機関は、金融検査マニュアル(平成十一年金検第百七十七号金融監督庁長官決定)及び日本公認会計士協会の「銀行等金融機関の資産の自己査定に係る内部統制の検証並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針」(以下「公認会計士協会の実務指針」という。)を踏まえつつその保有する資産についての自己査定基準及び償却基準又は引当基準を策定し、これらに基づき当該資産について自己査定及び償却又は引当てを行っている。金融検査マニュアル及び公認会計士協会の実務指針においては、破綻懸念先債権又は実質破綻先債権について、個別債務者ごとに債権額から担保の処分による回収が可能と認められる額及び保証による回収が可能と認められる額を減算し、破綻懸念先債権については残額のうち過去の貸倒実績率等に基づいて合理的に算定した予想損失額に相当する額を貸倒引当金として計上し、実質破綻先債権については残額の全額を貸倒引当金として計上する又は貸倒償却することとなっている。こうした自己査定及び償却又は引当てが適切に行われているかどうかについては、監査法人等による外部監査並びに金融庁による検査及び監督を通じて確認されており、改めてお尋ねのような調査を行う必要はないと考えている。

二について

 お尋ねの回収実績は、破綻懸念先債権と実質破綻先債権とを区分した回収実績を指すものと考えられるが、破綻金融機関の破綻懸念先債権及び実質破綻先債権については、株式会社整理回収機構(以下「整理回収機構」という。)がその大半を譲り受けていることから、整理回収機構に対して預金保険機構を通じ聴取したところ、整理回収機構においては、譲り受けた債権を破綻懸念先、実質破綻先等の債務者区分ごとに管理し回収することは行っていないことから、債務者区分ごとの回収実績については把握していないとのことであった。

三について

 お尋ねの大手行は、いわゆる主要行を指すものと考えられるが、主要行による不良債権の最終処理(債権放棄等により貸借対照表から全部又は一部の不良債権を除くことをいう。以下同じ。)が他の金融機関に与える影響については、最終処理される債権の債務者である企業に他の金融機関がどの程度貸出しを行っているか等により、また、大手企業の破綻が中小企業に与える影響については、中小企業がその大手企業とどのような関係にあるか等により、異なるものであることから、具体的に予測することは困難である。
 なお、緊急経済対策(平成十三年四月六日経済対策閣僚会議決定)においては、最終処理される債権の債務者である企業と取引等の関係にある中小企業の経営に連鎖倒産の危険等不測の障害が生じないよう、金融面で適切に対応するとともに、中小企業経営革新支援法(平成十一年法律第十八号)等に基づき中小企業自身の健全化に向けての前向きな努力を積極的に支援することとしている。

四について

 緊急経済対策においては、同対策が定める原則に従って、主要行が破綻懸念先債権、実質破綻先債権及び破綻先債権の最終処理を進めることとしており、平成十二年九月末時点で、主要行が保有する債権で破綻懸念先債権、実質破綻先債権及び破綻先債権に区分されているものの合計額は、約十二・七兆円となっており、その産業別の内訳は、不動産業約三・三兆円、建設業約一・五兆円、卸売・小売業約一・五兆円等となっている。
 なお、緊急経済対策では、主要行において新規に発生する破綻懸念先債権、実質破綻先債権及び破綻先債権についても、最終処理を進めるとしているが、これらの債権の発生については、経済環境、債務者の業況等、様々な要因に左右されることから、その具体的な金額を予測することは困難である。

五について

 主要行による不良債権の最終処理が貸出先の選定や雇用に与える影響については、最終処理される債権の債務者である企業の再建が可能であるかどうか、可能であるとした場合に具体的にどのような再建計画が策定、実行されるか、不良債権の最終処理に伴う主要行の資産内容の改善がどの程度新たな貸出しに貢献するか等、様々な要因に左右されることから、具体的に予測することは困難である。
 なお、緊急経済対策においては、不良債権の最終処理等構造改革に伴う雇用情勢の変化に機動的かつ弾力的に対応するため、様々な雇用対策を講ずることとしている。

六について

 銀行が保有する債権であって、金融機能の再生のための緊急措置に関する法律施行規則(平成十年金融再生委員会規則第二号)における破産更生債権及びこれらに準ずる債権、危険債権並びに要管理債権に該当するものの合計額のうち、日本銀行の業種別貸出金調査表の業種分類における「医療、保健衛生」に該当する業種に属する債務者に対する債権額の占める割合は、約一・一パーセントとなっている。また、不良債権の最終処理が医療体制に与える影響については、社会経済環境、最終処理される債権の債務者である医療機関の業況や地域における位置付け等、様々な要因に左右されることから、具体的に予測することは困難である。

七について

 主要行による不良債権の最終処理が金融機関の経営改善にどの程度寄与するかについては、具体的に予測することは困難であるが、金融機関の資産運用の効率化等が図られ、その収益力の増強に資するものと考えている。