質問主意書

第151回国会(常会)

質問主意書


質問第三一号

民法改正の世論調査に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十三年六月五日

福島 瑞穂   


       参議院議長 井上 裕 殿


   民法改正の世論調査に関する質問主意書

 夫婦別姓選択制、非嫡出子の相続分差別の撤廃、離婚の破綻主義等を盛り込んだ婚姻と家族に関する民法の一部を改正する法律案が法制審議会から法務大臣に答申されて以来、五年が経過した。夫婦別姓選択制、非嫡出子の差別撤廃を望む声は高まっているにもかかわらず、依然として法改正はなされていない。
 政府は、国会での答弁等で、民法改正については「世論の動向を見てから検討したい」と述べるにとどまっている。しかし、そもそも人権の問題である夫婦別姓選択制や非嫡出子の相続分差別の撤廃を、世論の動向、世論調査の結果などで決めることは適当とは言えない。
 姓を名乗ること、非嫡出子の問題は人権の問題であり、法改正の実現のために政府は世論を説得する立場にあると言われている。国連の規約人権委員会からも、一九九八年、「人権の保護や人権の基準が世論調査によって決定されるものではないということを強調する」という懸念が表明されている。
 にもかかわらず、民法改正を望む声に押されて、本年三月、当時の高村法務大臣は、今年中に世論調査を実施する旨を発表した。現在、法務省と内閣府の協議の下、世論調査が実施される運びとなっている。
 民法改正に関する世論調査としては、一九九六年に「基本的制度に関する世論調査」、一九九八年に「家族法に関する世論調査」が実施されているが、本来、公正であるべき調査項目や分析の中に、質問の意図が十分に伝わらないもの、一方に誘導的であるもの等が見受けられ、世論調査の信頼性を著しく損なっている。これらは、次回、政府が世論調査を実施するならば、当然、改善すべき点である。
 以上のことを踏まえた上で、一九九八年の「家族法に関する世論調査」に関し、以下質問する。

一 法制審議会案の答申後に世論調査を行った例は、民法改正以外に存在するかどうか、明らかにされたい。

二 調査票のQ7について

1 Q7の設問の趣旨を明らかにされたい。
2 Q7では「正式に結婚」、「正式な夫婦」という言葉が使用されている。一般社会において「正式に結婚」、「正式な夫婦」の意味するところは、結婚式を挙げたか否か、双方の親の賛成が得られたか否かなど、多種多様である。この設問において「正式」の意味するところは何か。
3 「正式な夫婦となる届出」という言葉を用いているが、これは「婚姻届」のことではないのか。なぜ「婚姻届」としなかったのか、理由を示されたい。
4 価値中立でない「正式」という用語を用いて設問したことは世論調査としては適当ではないと考える。仮に「正式」という言葉を「法律上」などと置き換えて設問した場合、全く異なる調査結果が出ていたことも十分にあり得る。あえて「正式」という言葉を採用した理由を示されたい。

三 調査票のQ11について

1 Q11の設問の趣旨を明らかにされたい。
2 Q11は、制度そのものに対する賛否と、制度に対する個人としての選択とがはっきりと区別されていない設問となっており、回答者に趣旨が明確に伝わらないと考える。例えば、「夫婦は必ず同じ名字を名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はないと個人的には考えるが、他人が、夫婦が婚姻前の名字を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」と考える人は、(ア)(イ)(ウ)のいずれを選ぶか、即座に判断しにくい設問となっている。夫婦別姓選択制について分かりやすく説明した上で、回答者に賛成反対を回答させる設問が望ましかったのではないか、政府の見解を示されたい。
3 Q11における選択肢は、「法改正に賛成」、「法改正に反対」といった明白に対峙するものではなく、「法律を改めてもかまわない」、「法律を改める必要はない」という賛否の境界があいまいなものになっている。このようなあいまいな設問をもって得られた回答を旧総理府は、公表した調査結果概要説明資料において、選択肢(ア)の最後の文末をもって「法律を改める必要はない」と一律に「反対」と断定した。この説明は不正確なものと考えるが、政府の見解を示されたい。

四 調査票のQ14について

1 Q14の設問の趣旨を明らかにされたい。
2 非嫡出子の差別の問題は、子どもの人権という面から捉えるべきであり、もはや婚姻制度の保護をもって正当化しうるものではない。現在、非嫡出子の出生については様々なケースがある。事実婚の子どもの場合、非婚の母(シングルマザー)の子どもの場合、結婚が破綻している状態であって離婚が成立しておらず、別の女性との間に子どもが産まれた場合等々、夫婦関係親子関係はますます複雑になっている。Q14のように婚姻制度を前提として非嫡出子の問題を問う設問は、もはや適当ではないと考えるが、政府の見解を示されたい。
3 設問には「『夫婦の一方が夫以外の男性又は妻以外の女性との間に子どもをもうけた場合でも、その子どもについて、法律制度の面で不利益な取扱いをしてはならない。』という考え方がありますが、」とあるが、これは問題を正確に説明していない。夫婦の一方ではなく、妻が他の男性の間に子どもをもうけた場合、嫡出推定(父性推定)によりその子どもは嫡出子とされることから、この説明は不正確であることは明らかである。Q14の設問においては正確に問題を指摘して回答を得るべきであったと考えるが、このような正確性を欠く調査票の下で行われたQ14の調査結果がどれだけ信用のおけるものなのか、政府の見解を示されたい。

五 今後行われる世論調査おいて、非嫡出子の相続分差別の撤廃に関し、国連規約人権委員会、子どもの権利委員会から勧告を受けている事実を、十分に説明した設問が含まれる調査票を作成すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。