質問主意書

第150回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第一三号

内閣参質一五〇第一三号

  平成十二年十二月十九日

内閣総理大臣 森 喜朗   


       参議院議長 井上 裕 殿

参議院議員福山哲郎君提出土地収用法等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員福山哲郎君提出土地収用法等に関する質問に対する答弁書

一の1について

 公共用地の取得に関する特別措置法(昭和三十六年法律第百五十号。以下「特別措置法」という。)は、昭和三十五年に建設省の附属機関として臨時に設置された公共用地取得制度調査会(以下「調査会」という。)の答申を受けて、昭和三十六年に制定されたものである。調査会においては、その審議の過程で御指摘のような見解も一部の委員から提起されたが、認定機関を建設大臣とすることについては、審議の結果、全会一致により了承されたものと承知している。

一の2について

 特別措置法において特定公共事業の認定を建設大臣に行わせることとしたのは、一の1についてで述べたとおり、調査会の答申を踏まえたことによるものであって、御指摘のような建設省の反対によるものではない。

一の3及び4について

 建設大臣は、土地収用法(昭和二十六年法律第二百十九号)第二十条の規定に基づき事業の認定に関する処分(以下「事業認定」という。)を行うに当たっては、従来から、公共の利益の増進と私有財産との調整を図る観点から公正に審査を行ってきたところである。
 なお、建設省においては、現在、土地収用制度の見直しを行っており、その中で、事業認定に係る審査をより公正に行うための方策についても検討しているところである。

二の1について

 事業認定を行う建設大臣又は都道府県知事(以下「事業認定庁」という。)による専門的学識及び経験を有する者の意見の聴取又は公聴会の開催(以下「意見聴取等」という。)については、昭和五十八年度以降では、高圧送電線によって生じる電磁界の人体に与える影響に関して専門的学識を有する者の意見の聴取を建設大臣が行った例がある。昭和五十七年度以前の意見聴取等の実施状況については把握していない。
 なお、意見聴取等は、事業認定庁が必要であると認める場合に実施されるものであり、その判断は事業認定庁の裁量にゆだねられているところである。

二の2について

 土地収用法第二十五条の利害関係人の意見書は、事業認定庁が事業認定に係る審査を行うに当たっての参考資料とされるものであり、このような意見書の位置付けからすれば、事業認定庁が意見書に対して個別に回答することは適当でないと考える。
 なお、建設省においては、現在、土地収用制度の見直しを行っており、その中で、事業認定の手続における住民参加や情報公開の在り方についても検討しているところである。

三の1について

 御指摘の「事業計画の決定後速やかに申請すべきであるという立場」の意味するところが必ずしも明らかでないが、建設省においては、「事業認定等に関する適期申請のルール化について」(平成元年七月十四日建設省経整発第五十三号・建設省河総発第百八十二号・建設省道一発第三十号)及び「事業認定等に関する適期申請のルール化について」(平成元年七月十四日建設省経整発第五十四号・建設省河治発第四十六号・建設省河都発第三十一号・建設省河開発第九十号・建設省河海発第三十号・建設省河防発第七十八号・建設省河砂発第四十九号・建設省河傾発第四十五号・建設省道一発第三十一号)に基づき、原則として、用地取得率が八十パーセントとなった時又は用地幅杭の打設から三年を経た時のいずれか早い時期(以下「事業認定申請に関する適切な時期」という。)までに事業認定申請に係る準備に着手し、着手後一年以内を目途に当該申請を行うこととしている。

三の2について

 建設省において、平成七年度から平成十一年度までの間に、事業認定申請に関する適切な時期までに事業認定申請に係る準備に着手し、着手後一年以内に当該申請を行った事業は、別表のとおりである。また、事業認定申請に関する適切な時期までに事業認定申請に係る準備に着手せず又は着手後一年以内を目途に当該申請を行わない場合としては、例えば、ダム建設事業等の大規模な事業においてなお交渉すべき土地所有者等が多数存在する場合等が考えられる。

三の3について

 御指摘の「事業認定取消訴訟を起こしても、事実上、訴えの利益がなく、地権者は対抗できないという問題」の意味するところが必ずしも明らかでないが、一般に、事業に反対する土地所有者の土地だけが未買収である状態で事業認定が行われたとしても、これをもって直ちに当該土地所有者が当該事業認定の取消訴訟に係る訴えの利益を失い、又は訴訟上不利益な取扱いを受けることはないと考える。
 なお、御指摘のように事業に反対する土地所有者の土地だけが未買収となるのは、事業者において可能な限り交渉による用地取得を行おうとした結果によることが多いものと考えられる。

四の1について

 行政事件訴訟法(昭和三十七年法律第百三十九号)が採用する「執行不停止の原則」の長所としては抗告訴訟の提起により行政の円滑な運営が不当に阻害されることがないこと、濫訴の誘発を予防することができることが、短所としては執行停止を得るために抗告訴訟の提起とは別個の手続を執る負担を原告に課することが挙げられる。
 これに対し、「執行停止の原則」の長所としては執行停止を得るための別個の手続を執ることなく抗告訴訟の提起により処分、処分の執行又は手続の続行による不利益を免れることができるため原告の保護に手厚いことが、短所としては抗告訴訟の提起により行政の円滑な運営が不当に阻害されるおそれがあること、濫訴を誘発するおそれがあることが挙げられる。

四の2について

 行政事件訴訟法第二十七条の内閣総理大臣の異議の制度が違憲であるとする説は、執行停止が司法作用に属する事柄であるとの見解を前提とした上で、内閣総理大臣が執行停止の手続に介入することは司法権を侵害するものであること等をその理由としているものと承知している。
 しかしながら、執行停止は、本案の訴訟における終局判決と異なり、判決前の暫定措置としてされる行政作用に属する事柄であり、行政事件訴訟法においては、このような行政作用に属する執行停止の許否の判断権を立法政策上裁判所にゆだねたにすぎず、したがって、裁判所による執行停止の決定を覆す権限を内閣総理大臣に認めたとしても、司法権を侵害することにはならず、内閣総理大臣の異議の制度が憲法に違反することにはならない。

別表 1/2

別表 2/2