質問主意書

第150回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一六号

朝鮮人労務者等の未払金供託に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十二年十一月二十九日

福島 瑞穂   


       参議院議長 井上 裕 殿


   朝鮮人労務者等の未払金供託に関する質問主意書

 日朝国交正常化交渉は、平成一二年の一〇月三〇日、三一日で本交渉が一一回を数えたが、いわゆる「過去の清算」については具体的合意に達していない。「過去の清算」の具体的内容を構成するものの一つが未払金問題である。しかし、朝鮮人労務者等への未払金が各法務局に供託されたという事実は知られているが、今日に至るまでその実態はほとんど明らかにされていない。
 岩手県釜石市の旧日本製鉄株式会社釜石製鉄所に戦時動員され、米艦隊を中心とする艦砲射撃により死亡した元朝鮮人労務者の遺族が、供託された未払金の還付を盛岡地方法務局に請求した事件で、盛岡地方法務局供託官は四名(いずれも死亡者の子息)につき、請求を却下する決定を下した。さらに、四名の審査請求に対しても盛岡地方法務局長は請求を棄却した。法務局長の裁決書は、本件供託が、「朝鮮人労務者等に対する未払金等の供託に関する件」(昭和二一年八月二七日付け民事甲第五一六号民事局長通達、以下「民事局長通達第五一六号」という。)に基づき処理されたものであり、民法第四九四条に基づく弁済供託であると認めた上で、供託金還付請求権は「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律」(昭和四〇年法律第一四四号、以下「措置法」という。)第一項の規定が適用され、請求権は時効による消滅について論ずるまでもなく既に消滅している、と断定している。
 盛岡地方法務局の決定並びに採決は、本件供託が合法的になされ、日韓請求権協定(財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定)による「解決」の正当性を前提としている。しかし、未払金返還請求は当事者にとっては極めて当然の権利であり、問題解決に向けた日本政府・当該企業側の誠実な努力がなされたかどうかが問われなければならない。さらに、以下の点に照らせば、法務局の判断は不当と言わざるを得ない。

1 旧日本製鉄株式会社総務部勤労課「朝鮮人労務者関係」(駒沢大学図書館所収)並びに広島地方法務局及び盛岡地方法務局での供託書閲覧によれば、供託書には当事者の氏名、本籍、未払金内訳等が明記された名簿が添付されているが、供託通知が送付された事実はない。
2 未払金供託は当該企業と労務者個人との債権債務関係が前提となり、供託の要件は個別具体的に検討されるべきである。しかるに、民事局長通達第五一六号では、わざわざ供託要領を示し、通知は送付する必要なしと指示している。これは、供託制度本来の趣旨に反するものである。
3 多くの朝鮮人労務者関係供託が時効を迎えた昭和三一年に法務省は例外的に時効による歳入納付を保留するよう通達を出している。一貫して法務省は朝鮮人労務者関係供託の取扱いについて各法務局を指導しており、昭和四〇年一二月二日に参議院日本国と大韓民国との間の条約及び協定に関する特別委員会において、当時の椎名悦三外務大臣が、日韓交渉過程における「資料がない」という趣旨の答弁をしたことは事実と異なる。
4 厚生省は請求権にかかわる厚生年金脱退手当金の支払に応じている。

 以上の観点から、次の事項を質問する。

一、「受領不能」を理由とし、通知も送付されていない供託には、民法及び供託法上も重大な瑕疵があると考えるが、どうか。

二、法務省が民事局長通達第五一六号により供託を指示した理由は何か。なぜ、敗戦後直ちに当事者への返還を指示しなかったのか。

三、時効による歳入納付の留保を指示した理由は何か。また、現在は供託金はどのような取扱いをされているのか。

四、朝鮮人労務者関係供託の数、人数、総額など、その実態を明らかにされたい。

五、政府の日韓交渉過程における「資料がない」との答弁は事実に反する。意図的に隠していたのかどうか答弁の理由を説明されたい。

六、厚生省が厚生年金脱退手当金支払に応じていることと、法務省が請求権は消滅していると主張していることとの法的整合性について明らかにされたい。

七、大韓民国国民の財産権を一方的に消滅させる「措置法」と「財産権の保護」をうたった日本国憲法第二九条との法的整合性について明らかにされたい。

  右質問する。