質問主意書

第150回国会(臨時会)

質問主意書


質問第六号

政府の核・生物・化学兵器(NBC兵器)対処に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十二年十一月九日

井上 美代   
緒方 靖夫   
阿部 幸代   
畑野 君枝   


       参議院議長 井上 裕 殿


   政府の核・生物・化学兵器(NBC兵器)対処に関する質問主意書

 自衛隊は、創設以来米軍の指導の下に、核・生物・化学戦対処を重要な訓練項目とし、一九七〇年前後には核・生物・化学兵器(NBC兵器)対処のための訓練用の陸上自衛隊教範「特殊武器防護」や海上自衛隊教範「応急教範」などを作成した。
 防衛庁は二〇〇〇年度から核・生物・化学兵器対処のための本格的な予算を計上した。
 今や自衛隊が、生物・化学兵器の攻撃による汚染からの「防護」の研究から踏み出して生物・化学兵器が使われる戦闘状態の下でも米軍に協力していくことも想定した研究を行うようになっているのではないかということは、最近の米国防報告からもうかがわれる。
 政府は、二〇〇〇年度補正予算案の中に、厚生省分として六五億円の生物・化学兵器テロ対策の整備費を計上しようとしている。
 政府、防衛庁の進める核・生物・化学兵器対処研究が、大都市部で公然と行われることに対し、基地や研究施設などの周辺地域住民を始め、多くの国民は不安を持っている。生物・化学兵器の禁止が世界の流れとなっている中で、なぜ今、生物・化学兵器対処研究が必要なのか。
 次の点について質問する。

一、核・生物・化学兵器対処研究予算等について

1 防衛庁は、二〇〇〇年度から核・生物・化学兵器対処研究の本格的な予算を組んだが、この研究予算額、目的、概要及び数量を詳しく明らかにされたい。また、二〇〇一年度分の概算要求における同予算の内容を詳しく明らかにされたい。
2 防衛庁は、東京都世田谷区の陸上自衛隊衛生学校敷地内に、医学生物兵器に対処する装備などを研究する陸上自衛隊部隊医学実験隊(四〇人)を新編し、この中に、「医学・特殊武器衛生研究科」を設置する計画である。ここで行う研究内容、研究体制及び今後の研究計画等の概要を明らかにされたい。
3 自衛隊の「医学・特殊武器衛生研究科」では、生物兵器として使われる可能性がある細菌を実際に培養したり、それを使った研究を行うことになるのか明らかにされたい。また、自衛隊は、細菌兵器として使われる可能性のある細菌には、どのようなものがあると考えているのか明らかにされたい。
4 細菌の研究は、東京都世田谷区の陸上自衛隊衛生学校のみで行うのか、それとも陸上自衛隊朝霞駐屯地などに新たな施設を作って研究するのか、あるいは、防衛庁関係以外の病院、研究施設などと連携して研究することなどの構想があるのかどうかも併せて明らかにされたい。
5 今後、核・生物・化学兵器対処研究との関連で、陸上自衛隊朝霞駐屯地の役割はどのようなものになるのか明らかにされたい。
6 二〇〇一年度概算要求で、東京都練馬区と埼玉県の朝霞市、和光市、新座市にまたがる陸上自衛隊朝霞駐屯地の陸上自衛隊東部方面隊の下に、野外病院隊及び東部方面衛生隊を新編しようとしている。これらの部隊は、核・生物・化学戦にも対処できる部隊になるのかどうか明らかにされたい。
7 野外病院隊及び東部方面衛生隊は、練馬区、朝霞市、和光市、新座市などのうち、どこの地域に置くことになるのか明らかにされたい。
8 埼玉県大宮市にある陸上自衛隊化学学校は、これまで、核・生物・化学兵器対処研究とのかかわりで、どのようなことを行ってきたのか。また、同学校では、今後どのようなことを行うようになるのか明らかにされたい。

二、生物兵器への対処に関する懇談会について

1 防衛庁長官の私的諮問機関である「生物兵器への対処に関する懇談会」(以下「懇談会」という。)が設置されているが、そのメンバーと肩書を明らかにされたい。また懇談会の事務局のメンバーも明らかにされたい。
2 懇談会には防衛庁の幹部も参加しているが、「懇談会議事概要」には防衛庁の幹部の発言も記録されているのか明らかにされたい。
3 懇談会では、「事務局から参考資料が説明され、自由討議が行われた」ということであるが、参考資料の内容を明らかにされたい。
4 懇談会で、「バイオテロや兵器に対応するためには、研究費などの予算が必要である。米国厚生省も三年前から感染症センターを中心に対応している」、「地方衛生研究所や感染症指定医療機関の能力の向上は、生物兵器対処能力にかかる国のインフラストラクチャー(下部組織)として見ておく必要がある」との意見が述べられている。このような意見との関連で、政府は、二〇〇〇年度補正予算案の中に、核・生物・化学兵器対策費を計上しようとしている。この対策費の目的、金額や細目、数量などを詳しく明らかにされたい。
5 懇談会の自由討議の発言の中に、生物兵器対処の必要性について「国際社会がルール違反した国に対して制裁をするとき」、「海賊への対応など戦闘までは行かないが軍事力を使わなければならない」という箇所がある。この発言にあるような事態の下であっても、自衛隊及び米軍は、生物・化学兵器を使うことは許されないと思うがどうか見解を示されたい。
6 防衛庁は、核・生物・化学兵器対処のために、今年の防衛白書で、「生物、化学兵器対処に関し米陸軍化学学校、感染症研究所などでの研修」を行うことを明らかにしている。この研修の日程、場所、研修内容、研修人員及び予算を明らかにされたい。
7 懇談会のメンバーは今年、米国の生物、化学兵器対処研究関連施設などを視察したが、視察した施設名、目的、参加者氏名及び予算を明らかにされたい。
8 懇談会のメンバーには、国や地方自治体の研究所の幹部や民間会社の技術幹部、国立や私立大学の教官なども入っている。政府は、懇談会で出された意見等を踏まえて、国、防衛庁、地方自治体、大学、民間会社などを総動員した核・生物・化学兵器対処体制づくりに踏み出そうとしているのではないか見解を示されたい。
9 政府は、八月一日に内閣安全保障危機管理室を中心にして、「NBCのテロ対策会議」を発足させた。この「会議」の構成メンバー、目的、これまでに行われた「会議」の内容等を明らかにされたい。

三、米軍と自衛隊との核・生物・化学戦対処訓練について

1 米軍は、今年八月から九月にかけて神奈川県の米軍相模総合補給廠で、「統合野戦病院演習」を行った。「統合野戦病院演習」は、日本の「周辺地域」から連日、米軍負傷兵を横田基地や厚木基地を経由して相模総合補給廠にヘリコプターで運び込むというもので、演習想定の中には、核・生物・化学戦にも対応したものが含まれていた。この演習を自衛隊の衛生部隊が見学している。「周辺事態法」がある下で、今後自衛隊や、国、地方自治体の医療機関、研究機関などが、米軍の核・生物・化学兵器戦による負傷兵の治療にも対応する「統合野戦病院演習」などに参加・協力することはないと言えるのか見解を示されたい。
2 防衛庁は、陸上自衛隊朝霞駐屯地に、陸上自衛隊研究本部を設置しようとしている。この研究本部には核・生物・化学兵器が使用されたときの戦争を想定し、それに対処するための研究を統括する特殊武器研究官も置かれる。
 この朝霞駐屯地には、自衛隊の戦闘訓練場がある。また、駐屯地の一部は、地位協定二条四項bの日米共同使用になっている。朝霞駐屯地で日米の「統合野戦病院演習」のような訓練が行われるのではないか、と地元住民は危惧している。朝霞駐屯地の戦闘訓練場で「統合野戦病院演習」のような演習が行われることはないと言えるのか見解を示されたい。
3 核・生物・化学兵器対処研究が進む中で、「周辺事態」の際、核・生物・化学兵器による米軍負傷兵などの治療に自衛隊や、国、自治体、民間などの医療機関、研究機関などが協力していくことはないと言えるのか見解を示されたい。
4 政府、防衛庁は、核・生物・化学兵器対処研究について、核・生物・化学兵器による大規模なテロ又は攻撃に対処するためと説明しているが、核・生物・化学兵器によるテロ又は攻撃の可能性はどこにあると考えているのか見解を示されたい。

  右質問する。