質問主意書

第150回国会(臨時会)

質問主意書


質問第五号

地球温暖化とメタンハイドレードに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十二年十一月六日

加藤 修一   


       参議院議長 井上 裕 殿


   地球温暖化とメタンハイドレードに関する質問主意書

 メタンと水分子からなるガス水和物の一種であるメタンハイドレードは、火を付けると燃焼する低温高圧で安定する構造をもつ氷状固体物質である。
 日本近海に存在するメタンハイドレード層のうち、将来資源開発が可能とみられるメタン総量は、七兆四〇〇〇億立方メートルとも言われ、これは国内の天然ガス消費量の約一四〇年分にも及ぶと見られる。この点からもメタンハイドレードは二一世紀の天然ガス資源として注目され始めている。
 一方、メタンハイドレードは、圧力や温度の変化に極めて敏感であり、温度を上げたり圧力を下げたりすれば、メタンハイドレードの構造が急速に崩壊し、気体と水とに分解する。一立方メートルのメタンハイドレードはガス化することによって約一六四立方メートルにもなり、結果としてメタンが大気中に放出され、メタンが二酸化炭素の四〇倍以上もの温室効果をもつことから、温暖化を助長することとなる。そして、温暖化が進めば、メタンハイドレードの崩壊は更に進むという悪循環に陥っていく。
 例えば、八〇〇〇年前にノルウェー沖で起きた一連のブロウアウト(海底でのメタンの爆噴)では、埋蔵量の三パーセントに当たる三五〇〇億トンが大気中に放出され、海底には一〇〇個以上のクレーターが一〇〇〇キロメートルにわたって広がっている。この量が現在の大気中に一気に放出されたら、地球の平均気温は一〇年間で四度以上も上昇するとの研究もある。
 これらの問題点が明らかになるまで安易な開発は行うべきではなく、メタンハイドレードの形成・崩壊のメカニズム解明のため、調査研究を先行すべきである。
 このような観点から以下、質問する。

一 メタンの発生状況と温暖化対策に係るメタン発生対策について

 メタンは一九九七年一二月の第三回国連気候変動枠組条約締約国会議(以下、「COP3」という。)において採択された京都議定書においても規制対象ガスとして取り上げられ、削減に向けての取組がなされている。政府はメタンについての温室効果についてどのような認識を持ち、発生対策としてどのような施策を実施しているのか。

二 メタンハイドレードの研究・開発の現状について

1 通産省は一九九五年度からの第八次国内石油及び可燃性天然ガス資源開発五カ年計画に基づく基礎調査において初めてハイドレード層の研究に着手し、一九九九年一一月から静岡県御前崎沖で石油公団が世界初の海上試錐掘を始めたと聞いているが、今後の我が国の超長期的なエネルギー政策において、メタンハイドレードをどのように位置付けているのか。また、これまでのメタンハイドレードに関する調査・研究の実績はいかなるものか。年度ごとに予算額と予算項目及び概要を示されたい。
2 一九九八年、二〇〇〇人以上の被害者を出したパプアニューギニアの大規模な津波は、地震のエネルギーに比較して非常に規模が大きく、ハイドレード層の急激な分解による海底地滑りが原因とも指摘されている。その他、一七七一年の八重山大津波(死者推定一万二〇〇〇人)、一九九三年の奥尻島の大津波(同約二四〇人)についてもハイドレード層の崩壊を指摘する研究者もいる。これらの指摘について、政府の見解を示されたい。
3 このような不可逆的、かつ甚大な被害が生ずる可能性のあるメタンハイドレードの開発は安易に行うべきではなく、逆に温暖化の進展に伴い生じると考えられるメタンハイドレード起源の大規模災害を考慮して、メカニズム解明のための調査研究を先行すべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

三 メタンハイドレードと地球温暖化促進との関係性の認識について

1 メタンハイドレードは地球温暖化に対していかなる影響があると考えているか。また、これについて政府としては、どのような調査・研究を行ってきているか。
2 ハイドレード層から供給されるメタンの温室効果ガスとしての役割や、グローバルな炭素収支におけるメタンハイドレードの貢献などは、グローバルな気候変動モデルの中において取り入れられていないとも言われている。この点について、政府の認識を示されたい。
3 他方、日本の開発している気候変動モデルにおいて、これらの効果をどのように織り込んでいるのか。また、織り込んでいないとしたら、その理由は何か。気候変動モデルにおけるメタンハイドレードの関与について今後更なる研究を重ねる必要があると思われるが、政府の見解を示されたい。
4 地球全体のメタンハイドレードの埋蔵量は七兆トンとも言われ、この挙動により地球温暖化の進展が加速度を増すことも考えられる。したがって、国際的な取組である気候変動に関する政府間パネル(以下、「IPCC」という。)の調査・研究課題としてメタンハイドレードを含めるべきであり、温暖化対策を推進する政府の立場からするとIPCCに進言すべきである。政府の見解を示されたい。
5 現在、国連海洋法条約に基づいて深海底鉱物資源を管理するために「国際海底機構」が設置されているが、従来から対象となっている資源について、その開発に係る「環境ガイドライン」の作成を検討し、十全な管理を進めるべきである。さらに温暖化対策を主導し、環境大国を目指すべき我が国としても、積極的にガイドライン作りに取り組むことは当然として、当該ガイドラインの中でメタンハイドレードの調査・研究や開発の在り方について、一定の制限をかけるよう働きかけるべきと考える。政府の見解を示されたい。

四 メタンハイドレードの開発制限及び禁止などに係る国際条約の推進と日本のイニシャティブについて

1 COP3を主導した我が国として、温暖化に大きな寄与があると思われるメタンハイドレードの開発・利用を見直し、温暖化対策の視点からメタンハイドレード形成・崩壊のメカニズム調査研究にのみ限定することを国際的にも呼び掛け、例えば「特定海洋生成物開発制限条約」作りと締結推進などの取組にイニシャティブを発揮すべきと考える。政府の見解を示されたい。
2 地球の持続的成長を担保することを考えると、メタンハイドレードは地球公共財的なものと言えるのではないか。メタンハイドレードをそのままの状態にしておくことが炭素循環の平衡性を保つことにもなり、種々の議論があるものの、人類全体の共有財産との位置付け、開発しないことこそがサスティナビリティを維持するものと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。