質問主意書

第150回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三号

戦後処理問題としての戦時遭難船舶犠牲者に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十二年十月五日

照屋 寛徳   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   戦後処理問題としての戦時遭難船舶犠牲者に関する質問主意書

 戦時遭難船舶遺族会(島袋林功会長)は、第二次大戦中、米国潜水艦等の攻撃を受け撃沈された対馬丸を除く戦時遭難船舶二十五隻の犠牲者遺族らによって組織された団体である。
 戦時遭難船舶遺族会は、結成以来今日まで十七年余、犠牲者の遺骨収集、遺族補償及び国による洋上慰霊祭の実施等の要求実現を目指しているが、戦後五十五年余が経過し、遺族も高齢化している。
 戦時遭難船舶犠牲者の遺骨収集、遺族補償及び洋上慰霊祭の実施等の問題は、優れて戦後処理問題であり、政治の責任において速やかに解決を図るべき重要問題と考える。
 今年七月二十一日から二十三日まで沖縄県で「九州・沖縄サミット」が開催され、G8の首脳が沖縄を訪れた。戦時遭難船舶遺族会は、今世紀最後の慰霊祭、サミットが沖縄で開かれる意義ある年の慰霊祭で、サミット参加国首脳らにメッセージを発出した。
 メッセージは、各国首脳に対し「戦争が終わって五十五年、沖縄県には残された戦後処理問題があります。戦時遭難船舶犠牲者に対する日本政府の補償が促進されますように、戦後処理問題を積極的にすすめてこられたサミット参加の首脳の皆様がそれぞれの国の経験を日本政府に教えて頂きますように、戦時遭難船舶犠牲者の慰霊祭の名において強く要請いたします。」と呼び掛けている。
 また、クリントンアメリカ大統領に対しては「アメリカは、戦時中における日本商船の無線傍受暗号解読の記録を公開しました。沖縄・鹿児島間において非戦闘員が乗船した定期航路船舶を何故標的にしたか解明するために同暗号解読記録の提供を求めます。」と要請している。
 戦時遭難船舶遺族会の声がサミット首脳らに届いたかどうか、私は知らない。届いた上でしかるべき対応を望む気持ちと戦後処理問題として解決しようとする日本政府の熱意のなさに失望する気持ちで複雑である。
 戦時遭難船舶遺族会の皆さんに残された時間は多くない。政府は、一刻も早く遺族会の諸要求を実現すべきである。私は、戦後処理問題としての戦時遭難船舶遺族会の要求実現こそが、二十一世紀の新時代に平和国家日本の未来を拓くことになると信じる。
 よって、次の点について質問する。

一、私は、平成十年八月十二日付けで「戦時遭難船舶犠牲者の洋上慰霊祭・遺族補償等に関する質問主意書」を提出した。その中で「対馬丸以外の戦時遭難船舶の犠牲者についても、洋上慰霊祭の開催、その他の慰霊事業等を実施すべきと考えるが、所信を明らかにされたい。」と問うたのに対し、政府は、九月八日付けの答弁書(以下「答弁書」という。)において「沈没艦船に係る洋上慰霊については、海域ごとにその海域で亡くなられた方々を対象としてこれを行ってきたところであるが、(中略)他の戦時遭難船舶については、既に過去に洋上慰霊の対象となったものもあると考えられるが、今後関係遺族の要望等を踏まえながら、海域ごとに行う方式による洋上慰霊の実施を検討してまいりたい。」と回答している。
 そこで、平成十年度以降実施した洋上慰霊祭の実施年月日、慰霊祭参加者、実施場所、対象遺族及び慰霊祭執行予算額を明らかにされたい。

二、戦時遭難船舶遺族会が求めている国主催の洋上慰霊祭をいつ、いかなる規模と予算で実施するのか明らかにされたい。

三、私は、国が主催し実施する洋上慰霊祭は、各戦時遭難船舶ごとに沈没地洋上で実施すべきと考える。それが困難であれば、せめて湖南丸や開城丸が沈没した「沖縄-鹿児島間」海域とその他の沖縄関連戦時遭難船舶が沈没した中部太平洋海域での合同慰霊祭として実施すべきと考えるが、政府の対応を明らかにされたい。

四、私は、戦時遭難船舶犠牲者は、被害の特殊性等に照らし、国が戦争を遂行する過程で強いた「特別の犠牲」であり、その遺族等に対しては、国の責任において現行法令上、又は新規特別立法等の措置により、十分な補償がなされるべきものと考えている。ところが、政府は、答弁書の中で、「対馬丸遭難学童遺族特別支出金の支給は、沖縄戦が目前に迫った時期に政府の軍事政策に協力するという形で対馬丸による学童疎開が行われ、その途中で遭難したという特別の事情を考慮して、このような特別な状況下で死亡した対馬丸遭難学童の遺族に対し、国として弔意を表す措置として支給しているものであるが、御指摘の戦時遭難船舶犠牲者については、対馬丸遭難学童を除き、特別支出金を支給すべき特別の事情はないものと考えている。」と回答している。政府の右答弁は、とても納得できるものではない。
 政府が掌握している沖縄関係戦時遭難船舶のうち、対馬丸を除く二十五隻の船舶について、船舶名、船舶会社名、航行目的、船の管理主体、護衛の有無、沈没原因、出港地、遭難年月日、遭難海域、乗船人員、船客死亡者数、生存者数、事故報告書の有無及び死亡者名簿の有無を明らかにされたい。

五、戦時遭難船舶のうち第一千早丸及び第五千早丸は、政府の軍事政策に協力する形の疎開船であり、その他の戦時遭難船舶には、阪神方面の軍需工場へ赴く徴用工や女子挺身隊の犠牲者、召集令状を受けて自宅から出征しようと帰省の途上の犠牲者、定期客船に便乗した少年航空兵の犠牲者などの乗船が確認されている。まさに「政府の軍事政策に協力」した「特別の事情」による犠牲ではないか。これらの者が「政府の軍事政策に協力するという形で遭難したという特別の事情」に該当しない、すなわち国家補償の対象に該当しないとする理由を明らかにされたい。

  右質問する。