質問主意書

第149回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第四号

内閣参質一四九第四号

  平成十二年八月十五日

内閣総理大臣 森 喜朗   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員照屋寛徳君提出犯罪米兵に対する裁判権放棄に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員照屋寛徳君提出犯罪米兵に対する裁判権放棄に関する質問に対する答弁書

一について

 御指摘の事件(以下「本事件」という。)の犯罪事実は、米海兵隊員である当時十九歳の被疑者が、平成十二年七月三日午前四時四十五分ころ、沖縄県沖縄市所在の民家に正当な理由がないのに侵入し、同所において、当時十四歳の被害女児が睡眠のため抗拒不能の状態にあるのに乗じ、同女に馬乗りになって接ぷんし、もって、わいせつの行為をしたというものである。
 本事件については、同日、沖縄県沖縄警察署警察官が、被疑者を住居侵入及び準強制わいせつの被疑事実により現行犯逮捕し、翌四日、那覇地方検察庁検察官に送致した。同地方検察庁においては、被疑者の身柄を勾留の上、所要の捜査を遂げた結果、本事件については、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(昭和三十五年条約第七号。以下「日米地位協定」という。)第十七条3(b)に規定する我が国の第一次裁判権を行使しないことを相当と判断し、同月二十三日、同条3(c)に基づき、米軍当局にその旨通告し、本事件を家庭裁判所に送致せず、米軍当局に被疑者の身柄を引き渡したものと承知している。

二について

 第一次裁判権を行使するか否かは、具体的事案に即して判断される事柄であるが、本事件については、準強制わいせつの罪が親告罪であり、その捜査処理に当たっては、被害者のプライバシーに十分な配慮を払う必要があるところ、那覇地方検察庁においては、本事件の内容及び性質を考慮し、かつ、被害者側の意思を最大限に尊重した結果、我が国が裁判を行うことは適当でないと判断し、米軍当局に対して、第一次裁判権を行使しない旨通告したものと承知している。
 なお、本事件については、右のような理由により、第一次裁判権を行使しないこととしたものであって、米国からの要請に基づいてこれを放棄したものではない。

三について

 本事件については、我が国が第一次裁判権を行使しないことを決定し、米軍当局にその旨通告した結果、米軍当局の処分にゆだねられたものであるが、米軍当局は、統一軍法典等の米国の法令に従って、軍事裁判所による裁判等の適切な措置を執ることとなると承知している。

四について

 日米地位協定の下において、日米の当局は、第一次裁判権を有しない当事国が裁判を行った場合における最終の裁判結果及び一方の国が第一次裁判権を行使した犯罪で他方の国又はその国民に対して犯されたものに係る事件の最終の裁判結果について通報することとされており、さらに、日米両国の現地当局間において、要請に基づきすべての事件に関し相互に裁判結果その他の処分を非公式に通報することを妨げないとされている。また、我が国が第一次裁判権を行使しないこととした事件等の裁判及び米軍構成員の公務執行中の作為又は不作為から生ずる罪で我が国又は我が国の国民に対して犯されたものに係る事件の裁判は、我が国において、犯罪が行われたと認められる場所から適当な距離内で、直ちに行われなければならず、我が国の当局の代表者は、その裁判に立ち会うことができることとなっている。このように、米軍当局による裁判権行使の状況を我が国が把握することができる制度となっている。

五について

 沖縄県内で発生した米軍構成員等による犯罪のうち、我が国が第一次裁判権を行使しないこととした事案及び米国が第一次裁判権を有する事案であって、我が国又は我が国の国民に対して犯されたものについて、昭和五十年五月十五日から平成十一年十二月三十一日までの間に、米軍当局から裁判結果の通告を受けた事案の件数は二十三件である。
 また、懲戒処分については、四についてでお答えしたとおり、要請に基づいて通報を受けることとされているところ、沖縄県内で発生した米軍構成員による公務執行中の犯罪で、我が国の国民に対して犯された事案について、昭和五十三年二月一日から平成十一年十二月三十一日までの間に、米軍当局から懲戒処分等に付した旨の回答があった人員は九十九人である。

六について

 米軍の未成年の構成員等による犯罪について、検察庁において送致を受けた事件数及びその処理結果は把握していない。
 なお、未成年者を含む米軍の構成員等による犯罪について、昭和四十七年から平成十一年までの間の検察庁における受理人員及び起訴人員は別表のとおりである。

七について

 民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第二百二十六条は、書証の申出は、文書の所持者にその文書の送付を嘱託することを裁判所に申し立ててすることができる旨規定しているところ、同条は、文書送付の嘱託先を何ら限定していないことから、文書の所持者が外国の国家機関である場合であっても、裁判所が、外交ルートを通じ、司法共助要請として、当該国家機関に対して文書送付の嘱託をすることは可能であると解されるが、この要請に応ずるか否かは嘱託先の判断によることとなる。
 他方、不起訴記録については、被害者等が民事訴訟等において被害回復のため損害賠償請求権その他の権利を行使するために必要と認められる場合には、相当と認められる範囲で、閲覧又は謄写に応ずることとしており、裁判所から文書送付嘱託があった場合にも、そのような取扱いをすることとなる。

八について

 米軍の構成員である少年の事件に関しては、当該少年が米軍の規律に服しており、その制裁と矯正については米軍当局による裁判及び懲戒の制度が存在すること、保護処分に付したとしても、米軍の構成員である少年は、軍の命令により予告なく他国等に移動することもあり得るとの特殊事情もあって、我が国の保護処分になじみにくい面もあることから、当該事件を捜査した地方検察庁においては、刑事処分を相当と認める事件を除き、我が国の第一次裁判権を行使しないこととし、事件を家庭裁判所に送致せず、米軍の処分にゆだねることとしているのが通例であると承知している。

九について

 米軍の構成員である少年の事件の取扱いは、八についてでお答えした事情によるものと承知している。
 なお、外国人少年に対する保護処分については、これに十分対応し得る処遇態勢の整備に努めるとともに、保護処分の実効を上げるための諸施策を講じているところである。すなわち、少年院については、全国十三の施設に外国人少年を対象とする処遇課程を設けており、うち二施設については日本語の理解力又は表現力が特に劣る外国人少年を対象とした施設に指定し、職員の語学力養成及び外国語図書の整備等に特に配慮している。また、保護観察についても、語学力のある保護観察官を保護観察所に配置し、保護観察官に語学研修を受講させ、語学に堪能な保護司の確保に努めているほか、英語を始めとした十か国語による外国人保護観察対象者のための説明資料を作成、配布している。

別表