質問主意書

第149回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一〇号

東京電力MOX燃料の品質保証確認に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十二年八月九日

福島 瑞穂   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   東京電力MOX燃料の品質保証確認に関する質問主意書

 東京電力MOX燃料の品質保証確認について、五月三十日に質問主意書を提出し、七月十八日に答弁書を受領したが、十分な答弁にはなっておらず、不明な点が多くあるので、改めて以下のように質問する。

一、監督官庁の責任について

 質問主意書は、英国核燃料公社(以下「BNFL社」という。)による関西電力高浜原発MOX燃料のデータ捏造事件を受け、東京電力の福島第一原発及び柏崎刈羽原発のMOX燃料を製造したベルゴニュークリア社(以下「ベルゴ社」という。)において、同様の不正が行われていないことを日本側がどのように確認したかを問うたものである。不正を見逃さないためには、いくつかの重要なポイントがあり、そのポイントについて、ベルゴ社とのMOX加工契約の日本側当事者である東芝、MOX加工の発注者であり利用者である東京電力、そして監督官庁である通産省の三者それぞれが、どのような方法で確認したかが明らかにされることが、品質保証という点では不可欠の要素である。特に日本政府の立場としては、監督官庁である通産省が、これをどのように確認したかを示すことが、最も重要であると考える。ところが、答弁の多くは「と聞いている」とくくられており、当事者側からの伝聞にすぎず、監督官庁として積極的に品質保証確認を行おうとする姿勢そのものがないのではないかと疑わざるを得ないものが多い。

1 六月二十八日に行われた東京電力の本年度株主総会では、「ベルゴ社に対し、所管官庁が安全確認上必要な検査や監査を実施したり、必要な品質保証用のデータを閲覧することは、可能でございます。」と東京電力自身が答弁している。この答弁は、所管官庁に対してはベルゴ社の専有情報は存在しないということであり、品質保証にかかわるデータは通産省が直接確認することができるという理解に間違いないか。
2 プルサーマル計画により国民が生命財産に甚大な被害を被ることがないよう、MOX燃料の品質保証について、通産省は監督官庁として最終的な確認を行い、安全性について最終責任を負うという立場にあるという理解に間違いないか。
3 関西電力の高浜原発3号機用MOX燃料については、通産大臣が一度は安全宣言を出した後、不正が行われていたことが明確となったにもかかわらず、安全宣言を出した通産大臣の責任は不問に付されている。最終責任を負うという立場から、今後、このずさんな安全宣言の責任を政府として取る考えがあるか。
4 東京電力MOX燃料について、仮に安全宣言が出された後に不正が発覚したり、不正に起因する事故が発生したりした場合、その責任は誰がどのように取ることになるのか。

二、不正の方法の可能性について

 答弁書によれば、ベルゴ社においてMOX燃料ペレットの外径測定を行う際、作業員が人為的にペレットを回転させるなどして合格範囲のデータを作成したりできないような防御システムは存在しない。にもかかわらず、「ベルゴ社においては、品質部門が製造部門から独立していること、MOX燃料ペレットの外径測定とその評価が別の人間によって行われていること、東京電力の社員等の立会いによる再度のMOX燃料ペレットの外径測定が行われていること、内部監査が計画的に実施されていること」などにより、「抑止効果」でこのような不正は行われないかのように書いている。

1 作業員が人為的にペレットを回転させるなどして、合格範囲のデータが得られるまでペダルを踏まずにデータを入力しなかった場合、ベルゴ社の品質部門の人間はどのようにしてその事実を把握することができるのか。また、別の人間が外径測定を評価する場合に、測定された数値でなく、その測定が不正に行われたか否かということをどのようにして認識するのか。
2 燃料ペレットは円筒形をしており、BNFL社のケースでも上、中、下の三点が同一ではなく、臼型若しくは植木鉢型をしていたことが英国原子力施設検査局(NII)の調査でも指摘されている。ベルゴ社のペレットが同様の形状をしていた場合、上、中、下のうち上と下はできるだけ中から離れた位置で測定されなければならないが、答弁書は、ベルゴ社ではこのような位置取りについて何の規定もなかったとしている。上、下の測定点が、仮に中から一ミリから二ミリ程度離れているだけであれば、この測定には品質保証上ほとんど意味がないと言わざるを得ないが、上、下の測定が適切に行われていることを監督官庁の通産省はどのようにして知り得るのか。
3 通産省はベルゴ社で「植木鉢型」の形状をしたペレットが製造されたか否かを確認していないというが、このような重要な問題は直接確認すべきではないか。それとも直接確認してはいけないという制約でもあるのか。
4 本来、燃料ペレットは正円筒形でなければならず、上、中、下、更に回転させた場合の上、中、下もほぼ同一の数値でなければならないが、監督官庁である通産省は、この一致度合いも確認していないと答弁している。品質保証確認のデータを取り寄せれば今でも通産省が確認できることであるが、これを電力会社とベルゴ社任せにして自ら確認しようとしない理由は何か。

三、ペレット外径の全数計測データについて

1 答弁書において、ベルゴ社は全数計測データを「保存していないと聞いている」と他人事のように答弁しているが、東京電力あるいは通産省においてもベルゴ社は技術が優れ品質が良いので加工契約を結んだということが何度も言われている。製造工程におけるの研削機の不良率を含め、製造工程のデータが保存されていない状態で、東芝、東京電力、そして通産省は、どのようにしてベルゴ社の「品質が良い」ことを確認し得たのか。
2 ベルゴ社が工程管理上ペレットの全数計測を行うレーザー計測装置の認定報告書について、通産省は「その内容を確認、検討していない」ということであるが、東芝及び東京電力は「確認、検討」しているのか。
3 東芝及び東京電力が確認しているのであれば、通産省はその内容を改めて確認し、示すべきであると思うが、どうか。
4 昨年秋の通産省の説明では、約五〇%が全数自動計測、残りの約五〇%は抜取りによる計測という説明が行われていた。この説明は、今年二月二十四日にまとめられた東電報告書から変わるが、これ以前に通産省及び東京電力が誤って理解していた原因は何か。
5 ベルゴ社における製造工程でペレット外径の全数計測が行われていたことを知ったのはいつかという問いに対し、答弁書では、柏崎刈羽原発分については東京電力が平成十年(一九九八年)六月以前、通産省が平成十一年(一九九九年)九月、福島第一原発分については東京電力と通産省ともに平成十二年(二〇〇〇年)一月であると答弁している。品質に関する情報が一括でなくバラバラに伝えられていることになった原因は何か。しかも、柏崎刈羽原発分については「以前」という表現で、時期の特定すら行われていない。バラバラとなった原因も含め、正確な時期の特定が必要と考えるが、政府の考えはどうか。

四、抜取検査規格について

 MOX燃料ペレットの品質保証のための、ベルゴ社における抜取検査はMIL-STD-105D(以下「MIL規格」という。)を参考に定めたというが、実際には、抜取率すら「MIL規格」を満たしているとは思われない。

1 MIL規格を参考に定めたという抜取率は何%か。
2 答弁書では、「個々のブレンダーから実際に何個のMOX燃料ペレットが抜き取られて検査をされたかについては確認していない」と答弁しているが、個々のブレンダーからの抜取り数を確認せずして、監督官庁である通産省はどのようにして、この抜取率が「MIL規格」を満たしていると確認できたのか。
3 監督官庁である通産省が行う輸入燃料体検査は、品質保証確認のために行われる抜取検査が、「MIL規格」なり「日本工業規格(JIS規格)」なりを満たしていなくとも構わないという考えか。仮にそう考えているのであれば、その理由は何か。
4 仮に「MIL規格」より多くの抜取りをすることが、より厳しい検査を行うことになるとしても、そこには何らかの法則性が存在するべきであると考えるが、ベルゴ社の抜取検査には何らの法則性も存在しない。あるものは数個、あるものは倍以上も抜き取っていると伝えられている。このような抜取り方でも「より厳しい検査」であると考えるのであれば、その根拠を示されたい。
5 監督官庁である通産省は、抜取検査の分母である各ブレンダーがそれぞれ何個のペレットで構成されているかさえ確認していない。分母のペレット数や、抜き取ったペレット数は、抜取検査の前に作成されたベルゴ社の品質管理計画書及び作業指示書に記されているはずであるが、通産省はこれも直接は確認していない。通産省職員は、品質保証検査の確認のため何度もベルギーに出張しているが、なぜこのような重要な確認を行わなかったのか。

五、不合格ブレンダーの取扱いについて

 MOX燃料を製造している会社は、ベルゴ社以外には、データ捏造事件を起こした英国のBNFL社とフランスのCOGEMA社しか存在せず、しかもCOGEMA社とベルゴ社はCOMMOX社を窓口とした兄弟関係にある。この三社の間に競争関係など存在しない。MOX燃料は、極めて特殊な燃料であり、その品質が多くの人々の安全性確保と不可分の関係にあるような燃料である。事実上存在しない「競争上の地位」を理由に、不合格ブレンダーが何ブレンダーあったかという、安全確保上の重要な問題を隠ぺいするということは、原子力安全行政にかかわる監督官庁としてはあってはならないことである。

1 通産省は原子力安全行政を担う行政機関であるのか、それとも安全性を無視して企業権益を守るための行政機関なのか。
2 不合格ブレンダーの数を通産省は把握しているのか。
3 不合格ブレンダーの要件である「仕様を外れたデータ」の意味は上、中、下の三点のうち一点でも仕様を外れていれば不合格という理解で良いか。違っていれば、正しい理解を示されたい。
4 ベルゴ社では不合格ブレンダーの処理手順について「不適合報告書」に記載しているというが、答弁書で、通産省はこれを直接確認する必要がないと書いている。では、今回の柏崎刈羽原発用MOX燃料の不合格ブレンダーの処理が、この処理手順どおりに行われたか否かを通産省はどのように確認したのか。
5 答弁書では、「一般に、ベルゴ社においては、不合格ブレンダーが発生した場合、必要に応じて原因調査及び是正措置を実施した後、当該ブレンダーのMOX燃料ペレットすべてを製造部門に戻し、再研削の必要と判断されたMOX燃料ペレットについては、再研削及び全数レーザー自動計測を実施した後、これを品質部門に引き渡し」と書かれているが、柏崎刈羽原発用MOX燃料の不合格ブレンダーは、再研削が必要と判断されたのか。また、原因調査の結果はいかなるものであり、是正措置はどのような措置がとられたのか。
6 仮に不合格ブレンダーが再研削もされることなく製造部門に戻され、当初と同じ「ゆるい検査」で合格したとすれば、これはMIL規格におけるゼロイチ判定の方法とは異なる。このような抜取検査方法でAQL(合格品質水準)が〇・一五%になるとは考えられないが、通産省はこれをAQL〇・一五であると考えているのか。

六、ヒストグラムについて

 BNFL社が製造した関西電力高浜3号機用MOX燃料の場合は、一ロットのペレットの数は約四千個で抜取検査のために抜き取ったペレットの数は二百個と、その規格に従って明確に示され、ペレット外径の測定データは千分の一ミリ単位ですべて明らかにされていた。ところがベルゴ社については、一ロットがいくつかのブレンダーに別れ、ロットごとのペレット数も、ブレンダーごとのペレット数も、さらにブレンダーごとに抜き取ったペレット数も何も明らかにされていない。ペレットの外径測定データも千分の四ミリ単位のヒストグラムが示されているだけで、しかも、このヒストグラムはブレンダーではなくロットごとに作成されている。ロットは品質保証上の単位ではないため、ヒストグラムは漠然としたペレット外径の分布を示すものではあるが、品質保証検査が正しく行われたということを証明するものではない。このように、ベルゴ社はBNFL社以上に情報をことさら秘匿し、品質の確認を行わせないような体質を保有しているように見える。

1 通産省はベルゴ社が作成したロットごとのヒストグラムで、ブレンダーごとに行われた品質保証検査の結果を読み取ることができたか。読み取ったとすれば、どのような方法によってか。
2 通産省は外径測定データが千分の四ミリ単位で、品質保証に関する統計的分析が可能であると考えているか。
3 答弁書によれば、ベルゴ社が製造したMOX燃料のうち、ブレンダーについては使用しなかったものはなかったが、ペレットについては「製造されたが使用されなかった数は承知していない」と書かれている。これは、ブレンダーの中に含まれないペレットが存在していたということか。

七、BNFL委員会の検討結果の反映について

 通産省はBNFL社のデータ捏造事件の発覚と、それに対する通産省自身の不適切な対応への反省を踏まえて、電気事業審議会基本政策部会の中に「BNFL社製MOX燃料データ問題検討委員会」(以下「BNFL委員会」という。)を設置した。この検討結果として、海外からの輸入燃料体検査に不備があり、MOX燃料の製造は当該原子炉の設置変更申請及び同許可、さらに輸入燃料体検査申請を済ませたあとに開始されるべきであるという結論を示している。

1 ベルゴ社が製造した東京電力福島第一原発、柏崎刈羽原発のMOX燃料は、いずれもこの条件を満たしておらず、今回特例措置として、事後の輸入燃料体検査で品質確認を行うとされているものである。現時点では、品質保証確認は書類の確認でしか行うすべがない。したがって、できる限りの品質保証に関するデータを通産省自ら取り寄せ、直接確認を行うべきであると思うが、政府の考えを示されたい。
2 答弁書において、「ベルゴ社においては、品質部門が製造部門から独立していること、MOX燃料ペレットの外径測定とその評価が別の人間によって行われていること、東京電力の社員等の立会いによる再度のMOX燃料ペレットの外径測定が行われていること、内部監査が計画的に実施されていること並びに従業員の教育及び訓練が適切に行われていることが確認されており、不正に対する抑止効果が働いている」と何度も書いているが、以上の五点の中でBNFL社において行われていなかったものがあるのか。BNFL社とベルゴ社の違いを具体的に示されたい。
3 東京電力はベルゴ社と二百体のMOX燃料加工契約を結んでいたが、昨年百四十体について契約変更を行い、加工工場をメロックス社に変更したという。ベルゴ社は実績があり、品質上も問題がないと言いながら、なぜこのような契約解除が行われたのか。

  右質問する。