質問主意書

第149回国会(臨時会)

質問主意書


質問第八号

北富士演習場の管理権が米軍から自衛隊に転換した後に防衛施設庁が山梨県などに支払った約五〇〇億円の土地賃借料・使用料に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十二年八月七日

田 英夫   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   北富士演習場の管理権が米軍から自衛隊に転換した後に防衛施設庁が山梨県などに支払った約五〇〇億円の土地賃借料・使用料に関する質問主意書

 北富士演習場は、沖縄の本土復帰と時を同じくする昭和四八年米軍から自衛隊に管理権が移転され、いわゆる使用転換が行われた。以来、防衛庁は、同演習場内に土地所有権を有する山梨県や地元三市村等との間で北富士演習場使用協定を締結し、五年ごとに内容を改定して平成一一年四月には第六次協定を締結し現在に至っている。
 北富士演習場が使用転換された昭和四八年から平成九年までの二四年間、国有地以外の借地である県有地(約二四〇四ヘクタール)、民公有地(約三一一ヘクタール)に対し、毎年借地料・使用料が支払われ、平成九年度にはおよそ三七億三〇〇〇万円にもなり、昭和四九年から平成九年までの間に支払われた総額は実におよそ四九三億七八〇〇万円にも達している。
 防衛庁の支払った右借地料・使用料は、山梨県有地の近傍の借地料に比較し、不当に高額であり、しかも、そもそも借地等の必要性自体に大いに疑義が認められるので、この点について明らかにするため、以下の事項について質問する。

一、北富士演習場約四六一九ヘクタールのうち、防衛庁所管の国有地約一九〇三ヘクタールを除く山梨県有地及び地元民公有地約二七一六ヘクタールに対する借地料・使用料は、いかなる基準によって算出されているのか明らかにされたい。

二、昭和三七年閣議了解の「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱の施行について」によれば、「各省庁は、その所管にかかる事業に必要な公共用地の取得に伴う損失の補償について、この要綱に定めるところにより、すみやかにその基準を制定、改正する」と規定されている。
 したがって、防衛庁は、北富士演習場における借地料・使用料を算出するにつき昭和三七年六月二九日閣議決定の「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」に定めるところにより、現地の事情を考慮して、具体的な基準を制定(改正)すべきものと考えるが、北富士演習場において、具体的な基準が制定されているか明らかにされたい。もし、北富士演習場に関する具体的な基準が制定されているのであれば、その内容を示されたい。

三、防衛施設庁が北富士演習場として山梨県から賃借している普通財産の借地料は、民間が山梨県から賃借している普通財産の借地料と比較すると、以下に述べるとおり不当に高額である。
 防衛施設庁が演習場として山梨県から賃借している普通財産の面積は、ほぼ三二三ヘクタールであるが、平成一〇年度の借地料は、およそ九億七〇九四万円であり、一ヘクタール当たりの単価はおよそ二九三万円となる。
 一方、民間が山梨県から借地している普通財産の借地料について述べると、(1)山中湖畔の山梨県有普通財産約四四一ヘクタールを賃借している富士急行株式会社の平成一〇年度の借地料は、およそ五億〇三八三万円であり、一ヘクタール当たりの単価はほぼ一一四万円となっている。また、(2)北富士近傍の鳴沢村にある山梨県有普通財産約六五ヘクタールをスキー場として賃借している富士観光開発株式会社の平成一〇年度の借地料は、およそ五四六一万円であり、一ヘクタール当たりほぼ八四万円である。さらに、(3)平成一一年に環境庁が生物多様性センター用地として富士吉田市上吉田に借り受けた山梨県有普通財産約一・一三七八ヘクタールの一年間の借地料はおよそ一〇五万円であり、一ヘクタール当たりほぼ九二万円となっている。
 しかも、富士急行株式会社が賃借している山梨県有地は、山中湖畔にあり、商業用、別荘地、ゴルフ場として利用されており、また、鳴沢村の県有地及び環境庁が借地している県有地は極めて市街地に接近しているなど、いずれも経済的な利用価値が非常に高く、当然借地料も高いのに対し、北富士演習場に組み込まれている普通財産は林業以外には利用できない土地がほとんどであり、それらの土地に比較すると借地料も安いはずである。
 しかしながら、北富士演習場に組み込まれている山梨県有普通財産の借地料は、一ヘクタール当たりの単価がほぼ二九三万円となっているのに対し、民間が賃借している山梨県有普通財産の借地料はおよそ八四万円ないし一一四万円となっており、防衛施設庁は極めて経済的利用価値の劣る土地に対し、市街地近接地の約三倍もの不当な借地料を支払っていることになる。

1 これは、地方自治法第二三七条第二項末段の「適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けてはならない」、さらには予算決算及び会計令第八〇条第二項の規定を全く無視して定めたものであると思うがどうか。
2 仮に、市街地に近接する環境庁の一ヘクタール当たりほぼ九二万円の単価をもって北富士演習場の山梨県有普通財産の借地料に当てはめたとしても、二億九七〇〇万円余りで済むのであり、実際に支払われているおよそ九億七〇九四万円の借地料と比較すると、その不当性は明らかであると思われるが、政府の見解を明らかにされたい。
3 なぜ、このような高額の借地料が支払われているのか、算定の合理的根拠を示されたい。また防衛施設庁が賃借している山梨県有普通財産に対する賃借料は、少なくとも近傍の借地料と同様の価格に改定すべきだと思うが、政府の見解を示されたい。

四、他方、防衛施設庁が演習場として山梨県から使用許可を受けている行政財産の面積は、おおよそ二〇七二ヘクタールであり、平成一〇年度の使用料は一五億六二四六万円余りとなっている。
 しかし、行政財産たる右県有地は、そのほとんどが寒冷火山灰土地帯で、林業地としてもスギ、ヒノキはおろかアカマツさえ育たず、経済的価値のほとんどないカラマツだけがやっと生育できる土地であるにもかかわらず、これに対しても一ヘクタール当たり七五万円強もの使用料が支払われている。

1 ところが山梨県においては、既に昭和三九年三月三一日に山梨県条例一〇号で「山梨県行政財産使用料条例」を制定している。しかし、現在徴収している演習場に対する使用料は、これに基づいて算定されていないと考えるがどうか。
2 このように市街地にもほぼ匹敵する高額の借地料が支払われているのは、明らかに不当であると考えられるが、政府の見解を示されたい。また、この不可解ともいえる借地料の算定根拠を明らかにされたい。

五、前述したとおり、北富士演習場は、昭和四八年に米軍から自衛隊に管理権を移管し、いわゆる使用転換された演習場であり、以来、防衛庁と山梨県及び地元三市村(富士吉田市、忍野村、山中湖村)は、北富士演習場使用協定を締結し五年ごとに内容を検討、改定してきている。その結果、同使用協定第四条「北富士演習場を自衛隊が使用する場合の使用条件」の第一項ただし書きでは、「実弾射撃訓練のために設定された弾着区域は、原則として国有地内に設定されるものとする」と規定され、山梨県有地等は弾着区域から除外されていることになるが、これは現在も変わりはないか。
 また、北富士演習場が使用転換された昭和四八年から平成九年までの二四年間、国有地以外の借地である県有地や公民有地が一度でも弾着区域として使用されたことがあるか明らかにされたい。

六、山梨県有地や山中浅間神社有地等約二六九三ヘクタールの賃借地において、自衛隊が一般訓練を行う場合は、北富士演習場使用管理規則第二九条に基づき、県有地等立入申請書を北富士駐屯地業務隊長に提出し、同業務隊長が許可証を出すことになっている。
 これまで、県有地等立入申請書が提出された事実があるか、あるとすれば、立入申請書及び許可証の写しを示されたい。

七、国立公園特別地域内に割り込んでいる北富士演習場内において、自衛隊が(1)立木の伐採又は損傷、土地の形状の変更、(2)火入れ、たき火、(3)広告物等の掲示及びこれに類する工作物等への表示等をする場合は、自然公園法第四〇条に基づき、防衛庁ないし防衛施設庁はあらかじめ環境庁長官と協議しなければならない。
 これまで、防衛庁ないし防衛施設庁が環境庁長官と協議した事実はないと考えるが、もし、協議した事実があるというなら、協議した事実を示す文書を明示されたい。

八、いずれにしても、使用転換された昭和四八年以降、県有地及び地元民公有地では、林木及び林地を損なうような訓練が行われたことはないと考えるものであるが、そのような訓練が行われたことがあるか明らかにされたい。また、林地等が損傷したことにより、これまで山梨県等から損害賠償請求が行われた事実があるか明らかにされたい。

九、実際、県有地及び地元民公有地は、実弾射撃の弾着地域にもされず、ほとんど一般訓練も実施されておらず、何ら実質的に演習場として利用されていないと思料されるが、そうだとすれば、年間約四〇億円にも上る不当に膨大な借地料・使用料を支払ってまで演習場として借りておく必要性は全く認められず、当然、これを演習場の区域から除外し返還すべきものと考えるが、政府の見解を示されたい。

一〇、また、防衛施設庁が北富士演習場として賃借している山中浅間神社有地について、同地約一〇八ヘクタールは、昭和六三年に開通した東富士五湖道路によってほぼ真ん中を半分に分断され、この分断された東富士五湖道路の北側約五〇ヘクタールは、いまだに北富士演習場から除外されないまま、毎年約三億円もの借地料が支払われている。
 しかし、同地以外の東富士五湖道路の北側は全て返還されていることからすれば、同地も当然返還されるべきものであり、演習場から除外されてしかるべき区域であると考えるが、返還する予定があるか明らかにされたい。返還する予定がないというのであれば、なにゆえ、高額の賃料を支払ってまで演習場に組み入れる必要があるのか、その理由を明らかにされたい。

一一、以上のとおり、県有地及び民公有地は、実弾射撃のための弾着区域から除外され、しかもほとんど一般訓練も行われていないと考えられ、演習場として使用する必要性も何らないまま、年間約四〇億円、昭和四九年から平成九年までの間には実に総額およそ四九三億円にも上る不当に膨大な借地料・使用料が北富士演習場に費やされているのであり、行政や政治の勝手な予算の執行を許さないとする国民の納税者意識が高まりをみせている今日、このような税金の使われ方は到底国民の納得合意を得られるものではなく、速やかに返還すべきものと考えるが、政府の見解を明確に示されたい。

  右質問する。