質問主意書

第149回国会(臨時会)

質問主意書


質問第四号

犯罪米兵に対する裁判権放棄に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十二年八月二日

照屋 寛徳   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   犯罪米兵に対する裁判権放棄に関する質問主意書

 私は、「基地の島」沖縄に五十五年間住んできた。これからも住み続けるであろう。沖縄に住む者にとって基地は避けられない存在であり、逃げられない存在である。もっとも、私を始め多くの県民が望む「基地のない平和な沖縄」が実現すれば、沖縄に住む者は基地の存在による恐怖から解放されることになろう。
 戦後五十五年。復帰前も復帰後も沖縄県民は基地があるがゆえの犠牲や負担を強いられてきた。その上、米軍人・軍属による事件・事故によって尊い生命が奪われ、傷つけられ、人権と財産が侵害されてきた。
 米軍人・軍属による犯罪は枚挙に暇がなく、沖縄に住む限り誰が、いつ、被害者になってもおかしくない。復帰前、復帰後を通じ米軍人・軍属による「加害」と「被害」の構造は何ら変わっていない。
 それは本質的に基地あるがゆえの、軍隊あるがゆえの犯罪だからである。
 沖縄に住む者は、米軍人・軍属の事件・事故によって非業の死に追いやられた被害者の無念さを胸に刻み、関係者の涙と怒り、慟哭を忘れてはならないと思う。
 さて、二〇〇〇年七月三日未明に沖縄市で発生した海兵隊員による女子中学生へのわいせつ事件も、つらく悲しい事件である。家族と一緒に就寝中の少女が襲われる。何ということか。もはや「基地の島」沖縄に安全な場所はない。本当に許せない蛮行である。
 一九九五年九月の海兵隊員らによる小学生の少女に対する暴行事件以来、米軍当局は「良き隣人」でありたいと言い続けてきた。だが、今度の女子中学生に対するわいせつ事件は、正に「良き隣人」による「悪しき犯罪」であることの証左である。「基地の島」沖縄に住む者にとって、兵隊は所詮「悪しき隣人」に過ぎない。もはや繰り返される米兵犯罪のごとに発せられる「遺憾の意」や「綱紀粛正」、「再発防止」という言葉は、あまりにもむなしく、耳障りで陳腐な言葉の響きしかない。
 基地あるがゆえの、軍隊あるがゆえの構造的暴力から人間としての誇りと尊厳を守るには、米軍基地の整理・縮小、そして撤去を実現するしかない。
 女子中学生に対するわいせつ事件の犯人米兵は現行犯逮捕され、警察・検察庁で捜査を受けた。ところが、那覇地方検察庁は去る七月二十三日、当該米兵に対する日本の裁判権を放棄する決定をした。
 言うまでもなく、裁判権は独立国家にとって主権の重要な典型である。そもそも簡単に裁判権の放棄が許されるはずがない。なぜ裁判権の放棄なのか、政府は国民に説明する責任がある。
 以下、質問する。

一、二〇〇〇年七月三日未明、沖縄市で発生した海兵隊員による女子中学生に対する準強制わいせつ事件の犯罪事実の詳細及び捜査の経緯と結果を明らかにされたい。

二、当該事件で逮捕された海兵隊員に対する日本の裁判権を放棄した理由とその手続を明らかにされたい。

三、日本が裁判権を放棄した当該海兵隊員に対し、米国の軍事裁判等で処罰されるという制度的担保があるか。あるならば、その仕組みを明らかにされたい。

四、一九七六年のスペイン・米国間地位協定では、スペインが第一次裁判権を放棄した場合、スペイン当局は、米軍当局の法廷における審理にオブザーバーを出廷させる権利を認められているという。日米地位協定や日米合同委員会合意で、米軍当局の裁判権行使の状況を確実に把握することが可能な制度が作られているか明らかにされたい。

五、我が国で惹起された米兵犯罪で、米国側に裁判権がある場合の起訴率は極めて低く、ほとんどが無罪放免に近い、との研究者の批判的指摘がある。一九七五年五月十五日以降、一九九九年十二月三十一日までの間、沖縄県内で発生した米軍関係者の犯罪(米国側が裁判権を有するもの)のうち、軍事裁判を受けた件数、懲戒などの処分を受けた件数を明らかにされたい。

六、一九七二年五月十五日以降、一九九九年十二月三十一日までの間、未成年の米軍人・軍属及び米軍人・軍属の未成年の子らによって惹起された刑法犯、道交法違反、その他犯罪で送致を受けた事件数及びその処理結果を明らかにされたい。

七、日本が加害米兵への裁判権を放棄した場合、被害者から加害者への損害賠償請求(被害回復)が困難になると思われる。米国の軍事裁判での一件記録は日本の司法手続で取り寄せが可能か。また、裁判権を放棄することになった警察・検察の捜査記録は被害者が提訴した損害賠償請求事件で取り寄せが可能か明らかにされたい。

八、少年米兵の事件で、「刑事処分相当でない事件の場合、家裁送致し、保護処分を求めることは、外国軍隊所属員という性格上、妥当ではなく、従来家裁送致の手続きを取らず、一次的な裁判権不行使の運用をしている」との那覇地方検察庁稲川竜也次席検事のコメントが新聞報道(二〇〇〇年七月二十四日、琉球新報)されているが、少年米兵事件の処分でかかる運用がなされてきたのは事実か明らかにされたい。

九、従来の政府の対応は、刑事処分不相当の少年米兵の事件では、その処分が甘く、むしろ野放しでは、と批判せざるを得ない。少年米兵の事件は多発し、刑事処分不相当の事案で家裁送致の上保護処分が必要とされる事案も予想されるのに、対応する人的配置や施設整備を行わない理由を明らかにされたい。

  右質問する。