質問主意書

第148回国会(特別会)

答弁書


答弁書第三号

内閣参質一四八第三号

  平成十二年七月十八日

内閣総理大臣 森 喜朗   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員櫻井充君提出そごう向け債権の放棄に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員櫻井充君提出そごう向け債権の放棄に関する質問に対する答弁書

一について

 金融再生委員会は、本年六月三十日、預金保険機構(以下「機構」という。)がそごうグループ(株式会社そごう(以下「そごう」という。)及びそごうが主宰するそごうグループ経営会議が本年六月に策定した「そごうグループ抜本再建計画」(以下「再建計画」という。)において再建・整理の対象となった、そごうの経営と密接な関係を有する会社をいう。以下同じ。)に対する債権を放棄することを了承した。
 当該了承をした際(以下「決定時」という。)においては、機構が、仮に、そごうグループからの債権放棄要請に応じなければ、そごうグループは会社更生法(昭和二十七年法律第百七十二号)等により法的に処理されることとなり、機構に二百億円以上の損失が発生することが見込まれたところである。一方、機構が債権放棄要請を受け入れた場合、放棄要請額以上の貸倒引当金があるため、その段階で直ちに機構に損失が生じるものではなく、また、再建計画に沿ってそごうグループが再生すれば、機構は債権放棄後に残る債権(以下「残債権」という。)の全額を回収することが可能であり、損失は生じないと考えたところである。
 また、決定時においては、そごうグループのいわゆるメインバンクである株式会社日本興業銀行の協力により、機構による残債権の回収期間が他の金融機関の回収期間に比して短縮され、機構は残債権を十二年間で回収することが可能となっており、回収の確実性も向上していると見込まれたところである。
 本件は、破綻金融機関の処理過程において、結果として私企業に対する債権を取得することとなった機構による当該債権の回収の問題であり、金融再生委員会は、金融機能の再生のための緊急措置に関する法律(平成十年法律第百三十二号。以下「法」という。)第三条に規定する破綻処理に係る費用が最小となるようにすることとの原則に従って、機構がそごうグループに対する債権を放棄することを了承したものである。
 決定時においては、そごうグループについて会社更生法等による法的な処理が行われることとなる場合の社会的影響やそごうグループに係る経営責任等の明確化に向けた取組が認められることも考慮したところである。
 なお、そごう等は、近時における状況の大きな変化を踏まえ、再建計画の実行を断念し、本年七月十二日、東京地方裁判所等に民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)に基づく再生手続開始の申立て等を行ったことから、機構は、再建計画に係る債権放棄を行わないこととしたところである。

二について

 金融再生委員会は、我が国の金融機能の安定及びその再生を図るため、法第三条第二号に規定する経営の健全性の確保が困難な金融機関を存続させないものとすることとの原則に基づいて、施策を行っているところである。

三について

 一についてで述べたように、決定時においては、仮に、そごうグループについて会社更生法等による法的な処理が行われる場合には、機構に二百億円以上の損失が発生することが見込まれたところである。このほか、決定時においては、約一万社に及ぶ取引先、約三百六十億円に上る商品券の保有者、正規従業員約一万人を含む約五万人の従業員にも影響が生じるものと考えたところである。

四について

 そごうグループの経営責任等については、決定時においては、そごうの代表取締役会長であった水島廣雄氏は、そごうグループの全役職を既に辞任しており、そごう等の現経営陣も再建計画が実施されるに伴い退任することとなっていた。また、これらの者に対する退職金の支払いは行われないこととされていたものと承知している。
 また、水島氏が保有していた株式会社千葉そごう(以下「千葉そごう」という。)の株式や他のそごうグループ会社の株式のすべてをそごうに無償譲渡し、同氏のそごうグループへの影響力は排除されることとなっていたものと承知している。
 決定時においては、このようなそごうグループに係る経営責任等の明確化のための取組が認められることも考慮したところであるが、御指摘のような事態を招くことのないよう、そごうグループの経営責任については、今後更に厳しく追及されることが必要であると考えている。
 経営陣の私財提供については、水島氏が保有していた千葉そごう等の株式のそごうへの無償譲渡が行われているが、機構等の強い要請を受けて、そごうから水島氏に対し、さらなる私財提供の要請がなされているところであると承知しており、両者において適切な対応がなされることを期待している。

五について

 御指摘の「国が公的資金によって民間企業を救済した」が何を指すか明らかではないが、御質問が金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律(平成十年法律第百四十三号)によるいわゆる公的資本増強に関するものであるとすれば、同法は、金融機関等の資本の増強に関する緊急措置の制度を設けること等により我が国の金融機能の早期健全化を図り、もって我が国の金融システムの再構築と我が国の経済の活性化に資することを目的とするものであって、いわゆる公的資金により民間企業を救済することを目的とするものではない。同法においては、金融再生委員会が健全な自己資本の状況にある旨の区分に該当する金融機関に係るいわゆる公的資本増強を承認する場合には、役員の退任等が承認の要件とはなっていないところであり、これまで公的資本増強を行った金融機関はすべて当該区分に該当するものであった。
 一方、特に著しい過少資本の状況にある旨の区分に該当する金融機関については、当該金融機関の存続が地域経済にとって必要不可欠である場合等に限り、金融再生委員会がいわゆる公的資本増強を承認できることとされており、その場合には、役員の退任等が承認の要件となっている。
 また、そごうグループの経営責任については、四についてで述べたとおりである。

六について

 本年二月九日に機構、株式会社日本長期信用銀行(以下「長銀」という。)及びニュー・LTCB・パートナーズ・CVの間で締結された長銀に係る株式売買契約書第八条に規定する瑕疵担保特約(以下「瑕疵担保特約」という。)は、長銀の譲渡候補先が長銀譲渡後における二次的な損失を補てんする何らかの措置を要望していたことに応じるものとして考えられたものであり、長銀の早期譲渡を実現し、破綻処理費用の最小化を図るために必要不可欠なものであったことから、瑕疵担保特約は、妥当なものであったと考えている。

七について

 株式会社新生銀行(長銀の変更後の商号。以下「新生銀行」という。)は、そごうグループからの債権放棄要請に応じることはできないとの方針であり、新生銀行が債権放棄要請に応じない場合には再建計画に対する関係金融機関の合意が得られないことから、そごうグループが法的に処理されることとなることは確実であるとして、それまで破綻懸念先として区分していたそごうグループ各社を実質破綻先として区分することとし、これに伴い、そごうグループに係る貸出関連資産の大部分について二割以上の減価が生じるとの見解であった。これについて、新生銀行の監査法人は、金融監督庁が作成した金融検査マニュアル等に照らして妥当であると判断した。
 機構がこれらの考え方について新生銀行の監査法人及びそごうグループの監査法人とは別の監査法人に見解を求めたところ、当該監査法人から、そごうグループ各社の債務者区分を実質破綻先とする新生銀行及びその監査法人の考え方には合理性が認められるとの報告を受けた。
 以上のことを踏まえ、機構においては、新生銀行及び新生銀行の監査法人の考え方には合理性が認められるとの判断に至ったものである。

八について

 瑕疵担保特約については、六についてで述べたとおりである。
 今後、機構が瑕疵担保特約に基づいて取得することとなった債権について、債権放棄を要請されるという事態が起こり得るか否かについては予測し難いが、仮に、このような事態が生じた場合には機構による債権放棄が安易に認められるべきではないのは当然であり、慎重の上にも慎重に対応する必要があるものと考えている。

九について

 金融再生委員会及び機構は、仮に、瑕疵担保特約に基づき機構が取得することとなった債権について債権放棄要請が行われた場合には、以下のような要件が満たされているか否か等について慎重な検討を行うこととしていたところであるが、機構によるそごうグループに対する債権放棄の問題に関して行われた様々な議論を踏まえつつ、今後の対応について更に検討を進めてまいりたい。

1 機構が債権放棄の要請に応じない場合、当該債務者に係る再建のための計画の合意形成が不可能となり法的な処理への移行が避け難いと考えられること。
2 当該債務者が法的な処理に移行するのと比較して、合理性があると認められる再建のための計画の下で債権放棄の要請に応じることにより機構による債権回収額の増大が見込まれること。
3 当該債務者が法的な処理に移行した場合、連鎖倒産等の社会的混乱を惹起するおそれがあること。
4 当該債務者に係る再建のための計画において、旧経営陣の退陣を始め、その影響力排除と責任の明確化に向けた取組が認められること。

 いずれにせよ、機構による債権放棄が安易に認められるべきではないのは当然であり、慎重の上にも慎重に対応する必要があるものと考えている。