質問主意書

第147回国会(常会)

答弁書


第百四十七回国会答弁書第五三号

内閣参質一四七第五三号

  平成十二年八月二十五日

内閣総理大臣臨時代理             
国務大臣 中川 秀直   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員福島瑞穂君提出国際人権規約委員会「最終見解」についての実施状況に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員福島瑞穂君提出国際人権規約委員会「最終見解」についての実施状況に関する質問に対する答弁書

第一の一について

 市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五十四年条約第七号。以下「B規約」という。)第二十八条1に基づいて設置された人権委員会(以下「委員会」という。)が我が国の第四回政府報告(以下「政府報告」という。)の検討を踏まえて千九百九十八年(平成十年)十一月五日に採択した最終見解(以下「最終見解」という。)については、法的拘束力を有するものではないが、その内容等を十分に検討した上、政府として適切に対処していく必要があると考えている。

第一の二について

 憲法第九十八条第二項は、我が国が締結した条約については、これを誠実に遵守することを必要とする旨規定しており、B規約を誠実に遵守することは、政府のみならず立法府及び司法府の義務であると考える。
 これに対し、最終見解は、法的拘束力を有するものではなく、そこに含まれる委員会の勧告は、B規約の各締約国にその実施が義務付けられているものではないが、政府としては、今後とも、最終見解も踏まえつつ、B規約の効果的な実施に努力してまいりたい。

第一の三について

 政府としては、B規約を効果的に実施するためには、政府のみならず、社会全体として取り組んでいくことが重要であると認識しており、従来から、関連する民間団体との対話を行い、その意見も参考として施策の策定に当たっているところである。今後とも、B規約の効果的な実施のため、最終見解で指摘された問題に関するものを含め、関連する民間団体との対話を行ってまいりたい。

第二の一について

 委員会は、最終見解の第三十四段落において、政府報告及び最終見解の広報を要請している。政府報告については、国際連合事務総長に提出した後、外務省から、関係省庁、最高裁判所、衆議院及び参議院の事務局並びに要望等のあった国会議員、民間団体及び個人に対し、その和文仮訳とともに配布した。最終見解については、委員会による採択後、外務省から、関係省庁、最高裁判所、衆議院及び参議院の事務局、各都道府県並びに各政令指定都市に対し、その和文仮訳とともに配布し、その際に、これらの関係省庁等に対し、最終見解の意義について説明したほか、最終見解の内容を関係者に周知することを要請した。また、政府報告及び最終見解は、報道関係者を含め国民等から要望がある場合には、それらの和文仮訳とともに配布している。さらに、インターネットの外務省ホームページに政府報告、最終見解及びそれらの和文仮訳を掲載し、容易に閲覧できるようにしている。

第二の二について

 御指摘の選択議定書の定める個人通報制度(以下「個人通報制度」という。)については、B規約の実施の効果的な担保を図るとの趣旨から注目すべき制度であると考えている。しかし、個人通報制度については、司法権の独立を含め、司法制度との関連で問題が生じるおそれがあり慎重に検討すべきであるとの指摘もあることから、現在のところ当該選択議定書を締結していない。御指摘の選択議定書については、個人通報制度の運用状況等を中心に研究し、その締結の是非につき真剣かつ慎重に検討しているところである。

第二の三について

 人権擁護施策推進法(平成八年法律第百二十号)第三条に基づき、平成九年三月に法務省に設置された人権擁護推進審議会においては、平成十一年九月から、人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項について(諮問第二号)の調査審議を行っており、その中で人権救済機関の組織や体制の在り方についても審議しているところである。政府としては、その結果も踏まえて、人権救済機関の設立等について慎重に検討してまいりたい。

第二の四について

 検察官については、その経験年数に応じて、憲法及び人権に関する諸条約における人権保障、女性、外国人及び児童の人権問題、同和問題等の各種人権課題等をテーマとする各種研修を実施しているほか、日常の業務においても、上司による指導を通じ、人権尊重に関する理解の増進に努めている。また、B規約、児童の権利に関する条約(平成六年条約第二号)等の人権に関する諸条約の概要や委員会の活動状況等については、随時部内誌に掲載するなどして検察官に周知させているところである。
 警察官については、新たに採用された者や昇任した者に対し、警察学校において、人権尊重に関する授業や訓育を行っているほか、犯罪捜査や留置業務に従事する者に対し、警察学校における専門教育や職場における研修会等により、被疑者等の人権に配意した適正な職務執行を期するための教育を行っている。
 刑務官については、被収容者の人権を尊重する観点から、人権教育として、矯正研修所及びその支所における各種の研修において、憲法、B規約等を踏まえた被収容者の人権に関する研修を実施している。
 入国警備官については、外国人の人権に配慮した出入国管理行政を遂行するため、様々な職員研修を通じて人権意識をかん養している。平成十一年度においては、特に、若手入国警備官に対する研修の中で、外国人の人権に係る講座を設け、人権研修についてこれまで以上に充実強化を図ったところである。
 なお、これらの職員の人権教育に関し、国際連合の機関と連携したセミナーの開催は予定していない。
 裁判所においては、裁判官に対する研修として、外国人事件、少年事件、被疑者・被告人の身柄拘束に関連する令状事務に関する諸問題等についての各種共同研究や各種講義において、人権問題を取り上げるなどしていると承知している。また、裁判所においては、最終見解の趣旨を踏まえ、最終見解を裁判官に提供するとともに、委員会がB規約第四十条4に基づき採択した一般的な性格を有する意見についても、最終見解が採択された時点において委員会から我が国に送付されていたものを裁判官に提供し、また、その後委員会から我が国に送付されたものも同様に裁判官に提供しており、さらに、司法研修所で行われる各種の裁判官の研究会において、最終見解等についての説明を行うなどしていると承知している。
 なお、裁判官の人権教育に関しても、国際連合の機関と連携したセミナーの開催は予定されていないと承知している。

第三の一について

 御指摘の事項については、政府においては法務省が所管している。
 民法(明治二十九年法律第八十九号)第九百条第四号ただし書は、嫡出でない子の相続分は嫡出である子の相続分の二分の一と規定しているが、これは、法律上の配偶者との間に出生した嫡出である子の立場を尊重するとともに、他方、被相続人の子である嫡出でない子の立場にも配慮して、嫡出でない子に嫡出である子の二分の一の法定相続分を認めることにより、嫡出でない子を保護しようとしたものであり、法律婚の尊重と嫡出でない子の保護との調整を図ったものである。したがって、この規定は、嫡出でない子を合理的理由もないのに差別するものとはいえず、B規約第二十六条が禁ずる差別には当たらないと考えている。
 法務大臣の諮問機関である法制審議会により、平成八年二月に、嫡出である子と嫡出でない子の相続分の同等化を図ることなどを内容とする答申が出されているが、この問題については、家族制度の在り方や国民生活に関わる重要な問題として、国民の意見が大きく分かれていることから、今後の議論の動向を見守りながら適切に対処していく必要があると考えている。そこで、右答申の内容や世論調査の結果を広く国民に公開するなどして、国民が議論をする上で参考となると思われる情報を国民に提供しつつ、国民各界各層や国会での議論の動向を注視しているところである。

第三の二について

 御指摘の事項については、政府においては文部省が所管している。
 御指摘の「朝鮮人のみを収容する教育施設の取扱いについて」(昭和四十年十二月二十八日文管振第二百十号文部事務次官通達)は、当時、国から都道府県知事に機関委任されていた私立の各種学校の設置の認可について、地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成十一年法律第八十七号。以下「地方分権一括法」という。)による改正前の地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第百五十条の規定する指揮監督権等に基づいて発出したものであるが、平成十二年四月一日、地方分権一括法の施行により、いわゆる機関委任事務制度が廃止され、私立の各種学校の設置の認可は都道府県の自治事務となったことに伴い、右通達における御指摘の部分については、現在は効力を失っている。

第三の三について

 アイヌの人々が、アイヌ語や独自の風俗習慣を始めとする固有の文化を発展させてきた民族であり、いわゆる和人との関係において、日本列島北部周辺、取り分け北海道に先住していたことについては、歴史的事実として認識している。
 先住民族の権利については、現在のところ、国際的な議論が行われており、先住民族の権利が具体的にどのようなものであるかについては、結論を下すことができる状況にはない。
 いずれにせよ、政府としては、アイヌの人々の社会的、経済的な地位の向上を図るため北海道が実施しているウタリ福祉対策を円滑に推進するため、昭和四十九年五月に、総理府、北海道開発庁、大蔵省、文部省、厚生省、農林水産省、通商産業省、労働省、建設省及び自治省で構成する「北海道ウタリ対策関係省庁連絡会議」を設置し、関係行政機関相互間の連絡を図りつつ諸般の施策の充実に努めているところであり、また、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図り、あわせて我が国の多様な文化の発展に寄与することを目的として制定された、総理府、北海道開発庁及び文部省が所管する、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律(平成九年法律第五十二号)に基づき、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する国民に対する知識の普及及び啓発を図るための施策を推進しているなど、アイヌの人々に関する様々な施策に取り組んでいるところである。

第三の四について

 御指摘の事項については、政府においては、総務庁、法務省、文部省等が所管している。
 政府としては、同和問題の早期解決を目指し、これまで三つの特別措置法を制定し、三十年余にわたって、同和地区における生活の安定のため、関係諸施策を積極的に推進してきたところであるが、その結果、同和地区の生活環境等の実態は大きく改善を見たところである。このような成果を踏まえ、平成八年七月の閣議決定において、これまでの特別対策は、基本的には平成九年三月末をもって終了し、一般対策に円滑に移行することとし、また、なお国民の間に残る差別意識の解消については、今後、すべての人の基本的人権を尊重していくための人権教育及び人権啓発として発展的に再構成して推進することとした。
 人権擁護推進審議会においては、平成九年五月から、人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について(諮問第一号)、様々な角度から調査審議を行い、平成十一年七月に答申を取りまとめた。同答申は、国を始めとする人権教育及び啓発の実施主体がその役割に応じて相互に連携協力して人権教育及び啓発を総合的かつ効果的に推進するための諸施策を提言しており、政府としては、これらの施策を実現するため、平成十二年度予算に所要の経費を盛り込んだところである。
 また、同審議会においては、第二の三についてで述べたとおり、平成十一年九月から、人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項について(諮問第二号)の調査審議を行っており、これまで、同和関係団体や国際法学者等からのヒアリング、同審議会委員による海外調査等を行ってきたところである。政府としては、その審議の結果も踏まえ、同和問題を含む様々な人権侵害の被害者の救済のための措置や制度について、検討してまいりたい。
 なお、最終見解の第十五段落において、教育、所得、効果的救済制度に関し、部落の人々に対する差別が続いている事実を我が国が認めている旨指摘されているが、憲法第十四条第一項の規定により、すべての国民は法の下に平等であることが保障されており、同和地区の人々に対する法制度上の差別は一切存在していない。

第三の五について

 御指摘の事項については、政府においては法務省が所管している。
 女性の再婚禁止期間を定めている民法第七百三十三条の規定は、女性が離婚後、直ちに再婚することによって、出生した子の父が前婚の夫か後婚の夫か不明となることを防ぎ、親子関係を安定させる必要から設けられた規定であり、合理的な理由に基づくものであって、B規約第二条、第三条又は第二十六条に違反するものではないと考えている。
 また、婚姻適齢(男満十八歳、女満十六歳)を定めている民法第七百三十一条の規定は、婚姻によって成立する家族が社会の基礎的構成単位であり、婚姻するには肉体的、精神的及び経済的な能力が必要であることから、これらの能力をいまだ備えない年少者については婚姻を認めないという趣旨の規定であるところ、肉体的及び精神的な発育において男女間に差異があることは一般的に認められており、この規定が男女の婚姻適齢に差異を設けているのは、このような差異を考慮しているためであり、合理的な理由に基づくものであって、B規約第二条、第三条又は第二十六条に違反するものではないと考えている。
 これらの問題については、法制審議会により、平成八年二月に、女性の再婚禁止期間を現行の六月から百日に短縮し、男女の婚姻適齢を共に十八歳とする旨の答申が出されているが、婚姻制度全体の在り方や国民生活に関わる重要な問題であることから、今後の議論の動向を見守りながら適切に対処していく必要があると考えている。そこで、右答申の内容を広く国民に公開するなどして、国民が議論をする上で参考となると思われる情報を国民に提供しつつ、国民各界各層や国会での議論の動向を注視しているところである。
 なお、民法第七百三十三条及び第七百三十一条以外に、女性に対する差別であるとして委員会から指摘されている法律については、承知していない。

第三の六について

 御指摘の事項については、政府においては警察庁、法務省等が所管している。
 平成十一年の外国人登録法(昭和二十七年法律第百二十五号)の改正により、特別永住者(日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(平成三年法律第七十一号。以下「入管特例法」という。)に定める特別永住者をいう。以下同じ。)が外国人登録証明書の常時携帯義務に違反した場合の罰則が二十万円以下の罰金から十万円以下の過料に改められたことに伴い、警察庁においては、改正後の外国人登録法の運用上の留意点等を取りまとめた執務資料を都道府県警察に発出し、その適切な運用に努めているところである。

第三の七について

 御指摘の事項については、政府においては法務省が所管している。
 我が国に在留する外国人が出国した場合、当該外国人に付与されていた出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号。以下「入管法」という。)上の在留資格等は消滅することから、これらの外国人が再び我が国に入国しようとする場合には、その入国に先立って査証を取得し、上陸許可に際して改めて在留資格等の決定を受けなければならないこととなるが、入管法第二十六条に定める再入国許可制度は、永住者(入管法別表第二の上欄の永住者の在留資格をもって在留する者をいう。以下同じ。)及び特別永住者を含め、我が国に在留する外国人が一時的に出国して再び我が国に入国する場合に、このような上陸の手続等を簡略化し、当該外国人の利便を図るとともに、同条の規定に基づき再入国の許可を受けて出国し、同許可により再入国した後は従前の在留資格等を継続させる効果を有するものであり、この再入国許可制度は必要かつ合理的なものであると考える。なお、特別永住者については、その歴史的経緯にかんがみ、入管特例法に再入国許可に関する特例の条項を設け、また、再入国許可制度の運用に当たっても、特別永住者の我が国における生活の安定に資するとの入管特例法の趣旨にのっとった配慮をしているところである。
 再入国許可制度は、永住者及び特別永住者を含め、我が国に在留する外国人の出国それ自体を制限するものではなく、また、B規約第十二条4の「自国」については、文理解釈及びその審議経緯から国籍国を指すものと解しているので、同制度は、B規約第十二条2及び4のいずれにも違反するものではないと考えている。御指摘の参議院法務委員会における答弁は、「出入国管理制度という行政上の制度や出入国管理法という国内法を根拠に、自由権規約の不履行を正当化する」ものではなく、そもそも再入国許可制度はB規約に違反するものではないという右のような考えに立ったものであり、条約法に関するウィーン条約(昭和五十六年条約第十六号)第二十七条との関係で問題となるものではないと考えている。

第三の八について

 御指摘の事項については、政府においては法務省が所管している。

1 B規約第九条1は、恣意的な逮捕又は抑留を禁ずるものであり、法律に定める適正な手続による逮捕又は抑留を禁ずるものではない。また、同条4は、身体の拘束に当たって必ず事前に裁判所が関与すべきことを規定しているものではないと解されるところ、我が国においては、収容が違法であると考える被収容者は、人身保護法(昭和二十三年法律第百九十九号)又は行政事件訴訟法(昭和三十七年法律第百三十九号)により、収容の適法性について裁判所の判断を求めることが可能である。したがって、入管法第五章に定める収容手続(収容令書の発付を含む。)は、B規約第九条に違反するものではないと考える。
 なお、このような考え方は裁判例においても是認されているところである(昭和六十一年七月十八日大阪高等裁判所決定等)。
2 退去強制手続は身柄を収容して進めることとされており、これは二十歳未満の者や病人あるいは難民認定申請者についても例外ではない。
 なお、収容令書又は退去強制令書の執行に際しては、年齢、健康状態等にかんがみ、人道的配慮を要する場合には、請求又は職権で仮放免を許可するなどしているものの、これらの事情は個々の案件ごとに異なるため、仮放免等の許否について一般的基準を設けることは困難であると考える。
3 被収容者の処遇については、入管法及び被収容者処遇規則(昭和五十六年法務省令第五十九号。以下「処遇規則」という。)に基づいて行われているところ、御指摘の被収容者処遇細則は、入管法及び処遇規則の被収容者の処遇に係る規定の適正な運用を期するため、収容施設等の実情に応じて具体的な手続を定めるものであり、また、同細則の制定に当たっては、処遇規則第四十五条に基づき、法務大臣の認可を受けることとされていることからも、収容施設の長において右細則を定めることに問題はないと考えている。
4 暴行事件といわれるほとんどのものは、収容施設内における規則に違反した被収容者、あるいは収容施設内の秩序を乱した被収容者の行為を入国警備官が制止する過程における偶発的なものであるが、入国警備官の行為に行き過ぎがあったと認められる場合には、当該入国警備官を懲戒処分に付すなど、厳正に対処している。また、収容施設の職員に対する監督指導の徹底、警備処遇に携わる入国警備官に対する法令研修及び実務に即した警備処遇研修の実施、処遇規則の改正等の措置を講じて被収容者の処遇の適正、公正を期している。
 女子被収容者に対する配慮としては、女子被収容者専用の収容区域を設置している入国者収容所及び東京入国管理局においては、女子被収容者の処遇はすべて女子入国警備官が行っている。また、その他の地方入国管理局等においては、身体検査、衣類の検査及び入浴の立会いは女子入国警備官が行っており、女子入国警備官が不在のときには、局長が指名した入国警備官以外の女子職員が行い、その他の処遇についても、できるだけ女子入国警備官に行わせるようにしている。
5 退去強制令書の執行による収容期間の上限を入管法に規定し、これを超えた者を一律に我が国に適法に在留するものとすることは相当ではないので、現在のところ、そのような規定を設けることは考えていない。しかし、収容期間が長期になる場合であって、年齢、健康状態等にかんがみ、身柄の拘束を解く必要が生じたときには、仮放免を弾力的に運用するなどして、柔軟に対応することとしている。

第三の九について

 死刑について規定している刑法(明治四十年法律第四十五号)は法務省が所管している。
 我が国においては、法定刑として死刑が定められている罪は、殺人、強盗殺人等一定の重大な犯罪合計十八の罪に限られている上、外患誘致の罪を除く十七の罪については懲役刑又は禁錮刑が選択刑として定められている。また、個別の事件における死刑の選択は、昭和五十八年七月八日最高裁判所第二小法廷判決において示された「死刑制度を存置する現行法制の下では、犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許される」との判断を踏まえて、極めて厳格かつ慎重に行われているものと承知している。このように、我が国においては、現在、死刑は、罪責が著しく重大な凶悪犯罪を犯した者に対してのみ科せられており、B規約第六条に規定する義務を履行している。
 また、検察官の求刑や上告も、右最高裁判所判決において示された判断を踏まえて、極めて厳格かつ慎重に行われていると承知している。

第三の十について

 御指摘の事項については、政府においては法務省が所管している。
 死刑確定者については、心情の安定に配慮しつつその身柄を確保するという収容の目的等にかんがみ、面会や信書の発受に一定の制約を設け、あるいは、執行前でなく、執行後速やかに家族等に連絡しているが、これは、B規約第七条及び第十条に違反するものではないと考えており、このような死刑確定者の処遇については、御指摘の勧告があった後も変更していない。

第三の十一について

 起訴前の勾留について規定している刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)は法務省が所管している。
 起訴前の保釈制度については、逮捕することを原則とし、しかも、その実施に当たり、必ずしも裁判官の事前審査を要しないこととしている国々とは異なり、我が国においては、極めて限られた範囲で、かつ、あらかじめ裁判官の審査を経た上で逮捕することを原則としている上、短い起訴前の勾留期間中にも十分な司法審査が行われるとともに、必要な場合の釈放の措置も備えているので、これらに加えて起訴前の保釈制度を設ける必要性はないと考えている。
 取調べの時刻と時間を規律する規則については、捜査の流動性や事件の多種多様性にかんがみると、そのような規則を設けることの現実的妥当性には疑問がある上、現在でも、被疑者に過度の負担を掛けることがないよう十分配慮されており、これらの点に関する法的規制を設ける必要性はないと考えている。
 公的な被疑者弁護制度の導入については、司法制度改革審議会等における議論も踏まえつつ、法務省において、最高裁判所及び日本弁護士連合会との間で、同制度に関連する諸問題について議論を行っているところである。
 刑事訴訟法第三十九条により被疑者と弁護人の接見交通権は十分保障されており、同条第三項による接見の日時等の指定については、従来から、最高裁判所の判例の趣旨を踏まえて、捜査遂行の観点からやむを得ない場合に限って接見指定を行うこととしているところである。
 被疑者取調べへの弁護人の立会いについては、捜査手続全般に種々の影響を及ぼすなどの問題があり、現行制度の下で一般的にこれを認めることは相当ではないと考えている。
 我が国において、検察官は、司法警察職員により逮捕された者の身柄を受け取ったときは逮捕の時から七十二時間以内に、また、自ら逮捕したときは逮捕の時から四十八時間以内に、公訴を提起するか、又は裁判官に勾留の請求をしない限り、直ちにその身柄を釈放しなければならないこととされ、公訴の提起又は勾留の請求が行われた場合には、当該被疑者等は遅滞なく裁判官の面前で陳述する機会が与えられ、勾留されるか釈放されるかが決定されることになっており、B規約第九条3との関係で問題となるものではないと考えている。

第三の十二について

 御指摘の事項については、政府においては警察庁及び法務省が所管している。
 いわゆる代用監獄の運営について、警察においては、従来から、捜査を担当しない部門に属する留置担当官が被留置者の処遇を行うといういわゆる捜査と留置の分離の制度を採り、人権に配慮して被留置者の処遇を行っているところであり、また、留置場への冷暖房設備や衛生機器の整備等留置施設の改善を進め、さらに、夜間等の執務時間外での弁護人等からの被留置者との接見の申出にも応ずるようにしているなど弁護人の弁護活動にも配慮している。
 今後とも、最終見解を踏まえ、被留置者の人権に配慮し、適切な被留置者の処遇を推進していく所存である。

第三の十三について

 人身保護制度は、現に不当に奪われている人身の自由を迅速かつ容易に回復することを目的とする、非常例外的な救済方法であると位置付けられており、そのような制度理念に基づいて救済請求の要件を定めた人身保護法第二条について、その意義を明らかにしたものが、人身保護規則(昭和二十三年最高裁判所規則第二十二号)第四条であるといわれている。
 最終見解については最高裁判所にも配布しているところ、最高裁判所においては、最終見解の第二十四段落において示された人身保護規則第四条の規定の廃止等の要否について、このような人身保護法の趣旨に従い、また、人身の自由を保護する他の制度との関連を踏まえつつ、今後とも慎重に検討していくものと承知している。

第三の十四について

 被疑者の取調べについて規定している刑事訴訟法は法務省が所管している。
 刑事事件の真相解明を十全ならしめるため、捜査機関は極めて詳細な取調べを行っている実情にあり、このような実情の下で取調べの電磁的手段による記録を実施した場合、その再生、反訳等に膨大な時間と労力、費用を要する等の問題がある一方、供述調書は、その内容を供述者に対して読み聞かせ又は閲読させ、補充訂正の申立てがあればそれを加筆し、内容が間違いないことを確認した上で供述者が署名押印するという手続が取られる上、公判廷においてその供述の任意性、信用性が争われれば、検察官においてその存在を立証する責任を負い、その存否の判断は裁判所にゆだねられているのであって、取調状況の電磁的記録をしなくとも、供述の任意性、信用性の担保措置は十分に講ぜられているものと考えている。

第三の十五について

 証拠開示について規定している刑事訴訟法は法務省が所管している。
 刑事訴訟法第二百九十九条第一項により、検察官が公判廷で取調べを請求する証拠物及び証拠書類については、あらかじめ弁護人等に閲覧の機会を与えなければならないものとされており、これに加えて、最高裁判所の決定により、裁判所は、一定の場合には、その訴訟指揮権に基づき、検察官が所持する証拠の開示を命ずることができるものとされている。実際にも、検察官において、事案に即して証拠開示の要否、時期、範囲等を検討し、被告人の防御上合理的に必要と認められる証拠については、これを適正に開示することとしており、また、検察官と弁護人との間で意見が異なる場合には、裁判所において判断されることとなるが、検察官においてはその判断に応じて適切に対応しているものと承知している。
 このように、弁護人等が公判の準備をするために必要な証拠の開示を受ける機会は既に適切に保障されていると考えているが、更にその時期、範囲等を改めることとするかどうかについては、その必要性のみならず、これと一体のものとして機能すべき適切な争点整理手続等と併せて検討する必要があると考えている。
 また、この問題については、現在、司法制度改革審議会において、「国民の期待に応える刑事司法の在り方」について調査審議を行う中で、検討しているところである。

第三の十六について

 御指摘の事項については、政府においては法務省が所管している。

1 行刑施設における被収容者の動作要領については、機会があるごとに、その内容が目的を達成するため合理的に必要と判断される限度を超えることのないように注意を喚起しているところであり、具体的には、例えば、平成七年及び同九年に、行刑施設の処遇部門の責任者等を集めた協議会において、今日的な保安の状況における被収容者の動作要領等の在り方について協議するなどし、必要性が減少したと認められるものについては必要な範囲内のものに改めるよう指導し、その適正な運用に努めるよう周知徹底したところである。
2 行刑施設における懲罰は、監獄法(明治四十一年法律第二十八号)第六十条において、十二種類の方法が定められているが、このうち重屏禁罰及び減食罰については現在では運用しておらず、残りの懲罰のうち、運用上最も重いものとして取り扱っているものは軽屏禁罰であるが、これは、一般の独居房内に昼夜間屏居させることにより、規律違反行為への反省を促すことを内容とするものであって、これが過酷なものであるとは考えておらず、現在の運用を直ちに変更することは考えていない。
 革手錠の使用等については、拘禁施設における革手錠及び保護房使用に関する質問に対する答弁書(平成十二年五月二十六日内閣参質一四七第二一号)三についてでお答えしたとおり、従来から、事態に応じ、その目的を達成するため合理的に必要と判断される限度を超えることのないよう努めてきたところであり、例えば、平成十一年十一月一日に、法務省矯正局長から各行刑施設の長等に対し、通達を発出するなどし、より一層の適正な運用を図っているところである。
3 行刑施設において懲罰を決定するに当たっては、規律違反行為容疑者から、事実関係、経緯等について事情を聴取するほか、職員からの報告、規律違反行為を見聞きした他の被収容者からの事情聴取等により事実関係を把握した後、当該行刑施設の幹部職員をもって構成する懲罰審査会において、当該被収容者を出席させて規律違反の容疑事実を告知し、弁解の機会を与えた上で、当該被収容者を補佐する立場の役割を果たす職員が、その者のために意見を述べ、これらを踏まえて懲罰審査会としての意見を決定して、これを行刑施設の長に具申し、当該行刑施設の長が、これを踏まえた上で、懲罰を科すか否か及び懲罰を科す場合におけるその内容を決定している。
 このように、行刑施設における懲罰手続の公正さは担保されており、改善を要するとは考えていない。
 また、懲罰手続は、外部に対して公開しなければならないものとはなっていないが、行刑施設における懲罰処分は、施設内の規律及び秩序の維持のために必要な限度で行われるものであるから、その要否等についての判断は、行刑施設内の実情に通暁し、その施設の運営の衝に当たる行刑施設の長による裁量的判断にゆだねるべきものであって、外部に公開する必要を認めないので、現状の取扱いの改善を要するとは考えていない。
 なお、懲罰手続等に不服があるときには、法務大臣等に対する情願の申立て、訴訟の提起等により、懲罰の手続及び内容が適正か否かを争う機会が保障されている。
4 法務大臣に対する情願については、平成十一年十二月二十日、法務省矯正局長から矯正管区長に対し、情願の調査に当たっては、原則として、矯正管区の調査担当職員が当該施設に赴いて情願申立者から直接事情を聴取するなどにより、情願申立者の不服とする内容を明確に把握すること等を内容とする通達等を発出し、情願処理の公正を担保しつつ、事務処理の迅速化等を図ったところである。
 被収容者が、行刑施設の処遇等に関し不服を申し立てたことを理由として、不利益な取扱いを受けることはなく、申立者保護の仕組みを新たに設けることは予定していない。

第三の十七について

 御指摘の事項については、政府においては労働省が所管している。
 中央労働委員会においては、不当労働行為の審査の公正、中立性を確保するため、審査手続において、示威行為である腕章の着用を認めない方針を採っている。しかし、一部の労働組合が、このような公正な手続の進行のための中央労働委員会の審査指揮に従うことを拒否しているため、当該事件の手続が進行しないという事態が生じていることは、誠に遺憾であり、中央労働委員会においては、審査手続を円滑に進行させるため、これまでも当事者の説得を続けてきたところであるが、今後とも、右の方針を堅持しつつ、関係者の協力を得て、審査手続を円滑に進行させることができるよう最大限の努力をする考えである。なお、労働省においては、本件については、準司法手続である不当労働行為の審査手続に関する問題であることから、独立行政委員会である中央労働委員会のこのような考え方を尊重すべきものと考えている。

第三の十八について

 御指摘の事項については、政府においては警察庁、法務省、厚生省、労働省等が所管している。
 御指摘の風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号。以下「風営適正化法」という。)の改正によって海外から日本への不正な女性の取引はどの程度減ったかについてお答えすることは困難であるが、警察においては、外国人女性の保護等のため、外国人女性の関係する売春事犯、不法就労助長事犯及び風営適正化法に違反する事犯に重点を置いた取締りを推進しており、この結果、平成十一年には、不法就労助長罪により五百八十三人(平成十年対比二十七人増加)、売春防止法(昭和三十一年法律第百十八号)違反により千三百三十人(同百三十四人減少)を検挙するなどした。また、売春事犯や風営適正化法に違反する事犯等において被疑者又は参考人として取り扱った外国人女性については、千四百三十七人(同八十五人減少)であった。
 劣悪な環境下で働く外国人女性の保護に関しては、労働基準関係法令は、日本国内にある事業に使用される労働者であれば、外国人労働者についても適用されるものであり、労働省においては、労働基準関係法令の内容の周知に努めるとともに、法定労働条件の履行を確保する上で問題のある事業場等については、監督指導を実施し、労働基準関係法令違反が認められた場合には、事業者に対して、その是正を求めるなど、的確に対処することとしている。また、法務省においては、入管法に定める退去強制事由に該当する外国人については退去強制手続を執ることになるが、その過程において、雇用主の賃金の不払い、労働災害等の事実が判明したときは、所要の救済措置が執られるよう雇用主、あるいは労働省に連絡するなどしている。
 海外における児童買春の状況等を正確に把握することは困難であるが、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号。以下「児童買春等処罰法」という。)の施行を踏まえ、政府関係機関が連携して、児童買春等の撲滅に向け、広報啓発活動を行うとともに、海外における日本人による児童買春の状況等について、情報収集等に努めているところである。
 外国の児童を買春目的で我が国に連れて来る行為は、児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第三十四条第一項第七号及び第六十条第二項の規定する児童に有害な行為をするおそれのある者に児童を引き渡す罪や、同法第三十四条第一項第九号及び第六十条第二項の規定する児童に有害行為をさせる目的で自己の支配下に置く罪に当たり得る。また、当該児童が、略取され、誘拐され、又は売買された者である場合には、これを買春目的で我が国に連れて来る行為は、児童買春等処罰法第八条第二項の規定する児童買春等目的居住国外移送罪に該当する。政府としては、これらの法律を適切に運用していくとともに、当該行為の防止に努めてまいりたい。

第三の十九について

 御指摘の事項については、政府においては総理府等が所管している。
 女性に対する暴力は、女性の人権を著しく侵害し、男女共同参画社会の実現を阻害するものであり、決して許されるものではないと認識している。
 本年七月三十一日、男女共同参画審議会から、「女性に対する暴力に関する基本的方策について」の答申が行われたところであるが、その中では、女性に対する暴力についての対応として、国民の意識啓発、体制整備、既存の法制度の的確な運用等を図るとともに、新たな法制度も含め早急に幅広く検討することが必要である旨提言されており、政府としては、この答申の趣旨を踏まえ、関係省庁が引き続き連携しつつ、平成十三年一月から設置される男女共同参画会議の場等において、女性に対する暴力への対応について幅広く調査検討を進めたいと考えている。
 警察庁においては、女性に対する暴力の被害者からの相談等を担当する各都道府県警察の職員を対象として、講義や事例研究等を内容とした研修を実施しており、また、各都道府県警察においても、講義や実技指導等によりカウンセリング技術の向上に努めているが、これらの研修は、被害者の二次的被害の防止、軽減や精神的被害の回復への支援に資しているものと考える。また、女性に対する暴力については、刑罰法令に抵触する場合はもとより、抵触しない場合においても、被害女性の立場に立った対応に努めなければならない旨、警察職員に対する指導、教養の徹底に努めており、このことは、被害者の安全確保のための警察職員の適切な対応に資していると考える。
 法務省、厚生省等においては、人権擁護委員、婦人相談所の職員等に対し、男女共同参画社会の形成に関する研修を行っており、これらも、被害者の相談等への適切な対処に資していると考える。

第三の二十について

 御指摘の事項については、政府においては厚生省が所管している。
 平成八年の改正前までの優生保護法(昭和二十三年法律第百五十六号。以下「旧優生保護法」という。)は、遺伝性精神病等の疾患にかかっており、その疾患の遺伝を防止するため優生手術を行うことが公益上必要であると認められる者について、都道府県優生保護審査会の審査等の厳格な手続を経て、その者の同意を得ることなく当該手術を行う旨等を規定していたものである。同法は、優生保護法の一部を改正する法律(平成八年法律第百五号)により改正され、本人の同意を得ない優生手術に係る規定等は削除されたところであるが、旧優生保護法に基づき適法に行われた手術については、過去にさかのぼって補償することは考えていない。
 当該手術の実施状況については、同法第二十五条の規定により、優生手術を行った医師は、その月中の手術の結果を取りまとめて都道府県知事に届け出なければならないこととされていたことから、厚生省においては、この届出により実施件数等を把握し、公表してきたところである。