質問主意書

第147回国会(常会)

答弁書


答弁書第四四号

内閣参質一四七第四四号

  平成十二年六月二十日

内閣総理大臣 森 喜朗   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員齋藤勁君提出税務行政における適正手続の法的整備に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員齋藤勁君提出税務行政における適正手続の法的整備に関する質問に対する答弁書

一について

 御指摘の税務調査については、例えば、所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第二百三十四条に質問検査権の行使の要件及び相手方、質問検査権の内容等に関する規定が設けられているが、最高裁判所の判例によれば、同条の規定は、「質問検査権を行使しうべき場合につき、具体的かつ客観的な必要性のあることを要件としており、質問検査の範囲、程度、時期、場所等、権限ある収税官吏の合理的な選択に委ねられていると解される実施の細目についても、質問検査の必要と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度内という制限を課して客観的にその範囲を画定している」と解されている(昭和五十八年七月十四日最高裁判所判決)。また、同法第二百三十六条には、税務調査の際の身分証明書の携帯等に関する規定が設けられている。さらに、国税庁において税務行政を遂行する上での基本原則を税務職員に示した「税務運営方針」(昭和五十一年四月一日)において一般の税務調査の際には事前通知の励行に努めることとし、「調査結果の通知の実施について」(平成十年六月二十九日国税庁長官通達)において実地調査の結果何らの非違も認められない納税者に対して書面により調査結果の通知を行うこととするなどとしており、税務調査は、これらの法律の規定等及びその趣旨に則して適正に実施されている。

二について

 御指摘のアメリカ合衆国の「納税者としてのあなたの権利」の中の「私たち(内国歳入庁)は、ほとんどの納税申告書を提出されたとおり認めています。私たちがあなたの申告書について質問を行い、又は調査対象として抽出したとしても、それは、あなたが不誠実であると示唆するものではありません」との記載については、「質問や調査の結果、税額は増えるかもしれませんし、増えないかもしれません」との記載につながるものであり、「税務行政における適正手続の法的整備に関する質問主意書」(平成十一年十二月十四日質問第一四号。以下「前回質問主意書」という。)において「納税者の誠実性の推定」の内容として記載されている「納税者は基本的に誠実であり、納税者が提出した申告書は真実であると推定すること」と実質的な内容を同じくするものではないと承知している。また、「私たちは、多くの調査及び質問を郵便により行います」、「私たちがあなたの調査を個人面談により行う旨の通知を行った場合又はあなたがそのような面談を要求した場合、あなたには、その調査があなたと内国歳入庁の双方にとって都合が良い合理的な時間と場所で行われるよう要請する権利があります」等の記載については、書面により調査及び質問を行うことが適当な場合には郵便を利用することが多いこと、一定の場合に納税者には個人面談による調査を行う時間及び場所について内国歳入庁に要請する権利があること等を述べたものであって、前回質問主意書において「税務調査の事前通知」の内容として記載されている税務調査を行う場合の書面による事前通知の義務付けについて述べたものではないと承知している。さらに、前回質問主意書において「違法調査の無効」の内容として記載されている「手続規定に違反して行われた税務調査に基づく処分は無効とすること」に相当する内容の記載は、「納税者としてのあなたの権利」の中にはなく、アメリカ合衆国においても、違法な税務調査に基づく処分の効力の有無は、個々具体的な事例に即して判断されているものと承知している。

三について

 諸外国の納税者の権利保護に関する法令に規定されているような納税者の権利については、日本国憲法第八十四条に定められているいわゆる租税法律主義の下、各税法において具体的な規定が設けられているものがあること及び各税法の具体的規定等の趣旨に則した適正な税務行政により、基本的にその保護が図られており、また、このような納税者の権利の取扱いは、基本的にこれらの規定等により明らかになっている。
 なお、税務当局では、従来から、納税者と税務当局との間の信頼関係に十分配意し、納税者の理解と協力を得ながら適正に税務行政を行っているところであり、今後とも、これを徹底していく考えである。