質問主意書

第147回国会(常会)

答弁書


第百四十七回国会答弁書第四一号

内閣参質一四七第四一号

  平成十二年七月七日

内閣総理大臣 森 喜朗   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員竹村泰子君提出政府の国際人権条約履行義務に基づく東京都知事発言への対応に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員竹村泰子君提出政府の国際人権条約履行義務に基づく東京都知事発言への対応に関する質問に対する答弁書

一について

 あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(平成七年条約第二十六号。以下「人種差別撤廃条約」という。)は、その前文において、締約国は、あらゆる形態及び表現による人種差別を速やかに撤廃するために必要なすべての措置をとること等を決意し、本文のとおり協定した旨規定している。人種差別撤廃条約が作成されたこのような目的にかんがみれば、人種差別は、それが表現によるものである場合であっても、人種差別撤廃条約の精神とは相容れないものであると考える。
 石原東京都知事は、平成十二年四月九日の陸上自衛隊創隊五十周年第一師団及び練馬駐屯地創立記念行事における発言(以下「都知事発言」という。)について、同年四月十九日、「在日韓国・朝鮮人をはじめとする一般の外国人の皆さんの心を不用意に傷つけることとなったのは、不本意であり、極めて遺憾です。(中略)今後は、誤解を招きやすい不適切な言葉を使わぬように致します。なお、今後とも在日韓国・朝鮮人をはじめとする一般の外国人の皆さんに対する差別意識の解消を図るなど、人権施策の推進に積極的に努めてまいります。」と文書(以下「都知事文書」という。)で表明し、一般の外国人の心を不用意に傷つけることとなったのは不本意であること、人権施策の推進に積極的に努めること等を明らかにしたと承知している。このような都知事文書の内容にかんがみると、結果として、都知事発言は、人種差別撤廃条約第四条(c)にいう「人種差別を助長し又は扇動すること」に該当するものではないと解され、人種差別撤廃条約第四条(c)との関係で問題が生ずるものではないと考える。

二について

 政府としては、一についてで述べたと同様の理由により、都知事発言は、人種差別撤廃条約第二条1(a)及び(d)との関係で問題が生ずるものではないと考える。
 人種差別撤廃条約第四条(a)は、締約国に対し、一定の行為につき処罰立法措置を採ることを義務付けるものであるが、我が国は、この規定に基づく義務については、憲法の下における集会、結社及び表現の自由その他の権利の保障と抵触しない限度において履行する旨の留保を付しており、当該限度において刑法(明治四十年法律第四十五号)等によりその履行を担保している。また、市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五十四年条約第七号)第二十条2は、締約国に対し、一定の行為を具体的な立法措置により禁止することを義務付けるものであるが、我が国は、この規定に基づく義務については、憲法、刑法等によりその履行を担保している。
 したがって、政府としては、都知事発言に関連して、これらの条約の規定に基づく義務を履行するために何らかの措置を採る必要があるとは考えていない。
 いずれにしても、政府としては、今後とも、人種差別撤廃条約の目的及び原則の普及に努め、表現による人種差別を含め、あらゆる形態の人種差別の撤廃に向けて努力してまいりたい。