質問主意書

第147回国会(常会)

答弁書


答弁書第三一号

内閣参質一四七第三一号

  平成十二年六月二十日

内閣総理大臣 森 喜朗   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員櫻井充君提出東海村臨界事故に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員櫻井充君提出東海村臨界事故に関する質問に対する答弁書

一について

 平成十一年九月三十日に株式会社ジェー・シー・オー(以下「JCO」という。)東海事業所において発生した臨界事故(以下「本件事故」という。)による放射線の線量が実測又は推定で評価された者は、平成十二年一月三十一日現在で、JCO東海事業所敷地内のJCO及びその関係事業者に雇用され、勤務していた者等(以下「JCO従業員等」という。)、JCO東海事業所周辺に居住又は勤務していた者(以下「周辺住民等」という。)並びに日本原子力研究所、核燃料サイクル開発機構等の職員で災害応急対策活動等に従事した者(以下「防災業務関係者」という。)の一部の合計で四百三十九名である。なお、被ばくしたおそれのあるその他の防災業務関係者等の推定による線量評価については、継続中である。
 この四百三十九名の放射線の線量は、JCO従業員等のうち本件事故の原因となった作業に従事していた三名のうち多い人で最低でも十六グレイ・イクイバレント(高線量被ばくにおける確定的影響に関する放射線の種類及びエネルギーによる差異を考慮した放射線の単位。以下同じ。)程度、少ない人で一グレイ・イクイバレントから四・五グレイ・イクイバレント程度、その他のJCO従業員等が〇・〇六ミリシーベルト(実効線量当量。以下同じ。)以上四十八ミリシーベルト以下、周辺住民等が〇・〇一ミリシーベルト以上二十一ミリシーベルト以下、防災業務関係者が〇・一ミリシーベルト以上九・四ミリシーベルト以下と評価された。
 実測による線量評価は、ホールボディ・カウンタ(全身からの放射線を測定する装置)又は個人線量計の測定値等を基に行われたものであり、推定による線量評価は、個人の行動調査の結果と周辺環境の線量評価を基に家屋の遮へい効果等も考慮して行われたものである。また、これらの線量評価は、JCO従業員等についてはJCOにより、周辺住民等及び防災業務関係者については、平成十一年十月四日の東海村ウラン加工施設事故政府対策本部の決定により平成十一年十月五日に設置された科学技術庁事故調査対策本部により、それぞれ行われたものである。

二について

 JCO従業員等については、東海村ウラン燃料加工施設事故に係る被ばく労働者の健康管理の在り方に関する検討会(労働省労働基準局長の行政運営上の会合)の報告書(平成十二年四月二十一日発表。以下「労働者健康管理報告書」という。)に基づき、労働省が、本件事故により被ばくしたJCO従業員等の長期的な健康管理を一元的にJCOに行わせるため、同省茨城労働局からJCOに対して、JCO従業員等に対する健康相談の実施、一般定期健康診断の確実な実施、健康管理情報の一元的・長期的管理等について必要な指導を行ったところである。また、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)第六十六条第一項の規定に基づき各事業者に実施を義務付けている一般定期健康診断以外の健康管理に係る費用については、JCOの関係事業者に雇用され、勤務していた者等に関するものについても、JCOが負担するよう指導しているところである。JCOは、当該指導に基づき、JCOの負担の下、JCO従業員等の健康管理に取り組んでいるところである。
 周辺住民等については、原子力安全委員会健康管理検討委員会報告書(平成十二年三月二十七日発表。以下「健康管理検討委員会報告書」という。)を踏まえ、健康相談については、科学技術庁が関係自治体の協力を得て、希望者に対して平成十二年度においては同年四月に実施し、健康診断については、茨城県が、希望者に対して同年五月に実施したところである。当該健康診断の具体的内容は、成人に対しては、問診、身体計測、理学的検査、胸部エックス線撮影、心電図、血圧測定、貧血検査、生化学検査、尿検査及びがん検診を原則に、問診した医師により必要と認められた検査を追加できることとしている。また、この周辺住民等の健康診断に係る費用は、茨城県に対する国の交付金をもって充てている。
 なお、周辺住民等に対する健康相談及び健康診断については、健康管理検討委員会報告書を踏まえ、今後も定期的に実施していくこととしている。

三について

 本件事故の被ばくにより生じたと認められた晩発障害は、原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号。以下「原賠法」という。)第二条第二項に規定する原子力損害に該当し、原賠法第三条第一項に基づき、JCOが賠償する責めに任ずることから、当該晩発障害に係る治療費については、JCOに対する損害賠償請求の対象となる。

四について

 本件事故に係る心のケアに関する健康相談については、本年一月以降、科学技術庁は茨城県に委託して実施しているところである。来年度以降同事業を継続するか否かについては、今年度の実施状況等を勘案した上で、検討することとしている。
 また、本件事故に起因して発生した心の病気の治療に係る費用については、原賠法第二条第二項に規定する原子力損害と認められるものであれば、原賠法第三条第一項に基づき、JCOが賠償する責めに任ずることから、JCOに対する損害賠償請求の対象となる。

五について

 加工事業者は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号)第二十二条第一項の規定に基づき保安規定を定めることが義務付けられており、JCOは、その保安規定において、非常事態の際に非常時対策組織を設置することを定めている。さらに、その社内規則により非常時対策組織の防護活動を担当する組織として防護隊を組織するとしており、その任務として、原子力災害の拡大防止・鎮圧、人命救助、避難誘導等が定められている。本件事故では、非常用電源の確保やJCO従業員等の避難誘導において、一定の役割を担ったものと承知している。また、現地においては、国は、原子力安全委員会が派遣した専門家等が中心となってJCOに対し臨界の終息や災害の拡大防止のための技術的な助言等を行ったが、当該防護隊は災害の拡大の防止等を目的とするJCOの内部組織であり、その活動を含め国が直接当該防護隊について指導する立場にない。

六について

 本件事故発生の原因となった作業に従事していた三名の医療機関への搬送に当たっては、所要の時間を要したが、これは救急車が本件事故が生じたJCO東海事業所に到着後搬送までの間に、当該三名の搬送のために必要な身体表面の放射能汚染の状況の測定、自然放射線等による通常の放射線の線量以下であることの確認等の措置が行われたものと承知している。また、JCOは特定の医療機関と原子力災害時等における連携を図っていなかったが、本件事故を含め業務上従業員が負傷した場合、医療機関において適切な処置がなされるためには事業者において当該医療機関との連携を適切に図っておくことが重要であると考える。
 本件事故を踏まえ、新たに制定した原子力災害対策特別措置法(平成十一年法律第百五十六号)により、原子力事業者に対し原子力災害の発生・拡大を防止するための業務を行わせる原子力防災要員や原子力防災資機材を置くことを義務付けており、原子力災害対策特別措置法施行規則(平成十二年総理府・通商産業省・運輸省令第二号)第三条第一項第八号で、当該原子力防災要員の業務として、被ばく者の救助その他の医療に関する措置の実施が明記され、同規則第十二条第一項で、当該原子力防災資機材として、被ばく者の輸送のために使用可能な車両等が掲げられており、これらの規定により従業員の被ばく者の搬送等の措置が適切に行われるものと考える。

七について

 労働安全衛生法第六十六条第一項の規定により、事業者に対しその雇用する労働者の一般定期健康診断を実施することを義務付けているところであり、労働省においては、JCOに対して、その趣旨を徹底をさせるとともに、本件事故を生じさせたことを踏まえ、JCO従業員等の長期的な健康管理を行わせるという観点から、労働者健康管理報告書に基づき、同省茨城労働局からJCOに対して、JCO従業員等に対する健康相談の実施、一般定期健康診断の確実な実施、健康管理情報の一元的・長期的管理等について必要な指導を行ったところである。
 また、科学技術庁においては、周辺住民等の本件事故による健康不安に適切に対応するため、関係地方自治体と連携・協力して周辺住民等に対して健康管理を行ってきているところである。

八について

 原子力災害時における地方公共団体による周辺住民等の避難、屋内退避については、原子力安全委員会が昭和五十五年六月三十日に作成した「原子力発電所等周辺の防災対策について」(平成十一年九月十三日一部改訂)においてその指標を示しており、その中で、予測線量当量(全身外部被ばく線量)が十ミリシーベルト以上五十ミリシーベルト未満である場合には、「住民は、自宅等の屋内へ退避すること。」、五十ミリシーベルト以上である場合には、「住民は、指示に従いコンクリート建屋の屋内に退避するか、又は避難すること。」とされている。また、当時の災害対策基本法(昭和三十六年法律第二百二十三号)に基づく防災基本計画(平成九年六月十一日中央防災会議決定)では、国は周辺住民等の屋内退避、避難誘導等の防護活動の実施を地方公共団体に対して指導及び助言をし、それに基づき当該地方公共団体は当該防護活動を行うものとされていたところである。
 本件事故が生じた東海村は、本件事故発生から約四時間半後に、事故現場周辺約三百五十メートルの範囲の住民に対して避難の要請を行ったが、この判断はその後確認された放射線の測定結果からすると妥当なものであったと考えられる。
 なお、国は、初動において事故状況の正確な把握が十分できず、防災基本計画に基づく指導及び助言を適切に東海村に対し行うことができなかった。こうした反省も踏まえ、原子力災害対策特別措置法においては、原子力事業者が選任する原子力防災管理者に対し主務大臣等への通報を義務付けているほか、原子力緊急事態が発生した場合には直ちに内閣総理大臣が原子力緊急事態宣言を発出するとともに、関係する自治体の長に避難のための立退き又は屋内への退避の勧告又は指示を行うべきこと等緊急事態応急対策に関する事項を指示することとしている。