質問主意書

第147回国会(常会)

答弁書


答弁書第二三号

内閣参質一四七第二三号

  平成十二年四月二十五日

内閣総理大臣 森 喜朗   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員照屋寛徳君提出ジュゴンの保護に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員照屋寛徳君提出ジュゴンの保護に関する質問に対する答弁書

一について

 環境庁においては、全国の藻場、干潟及びサンゴ礁の状況を把握する調査を行っている。その中で、沖縄県内においても昭和五十三年及び平成元年に調査を実施しており、十一年間で〇・四パーセントの藻場の減少を確認している。また、ジュゴンについては、平成九年度に文献等の資料の収集を行ったところであるが、生息確認、個体識別等を目的とした現地調査は実施していない。なお、今後の調査については、未定である。

二について

 国内においては、ジュゴンの生息に関する散発的な確認報告はあるが、組織的及び継続的な調査が行われていないため、全国的な分布や生態に関する知見や資料が少なく、地域に即した効果的な調査手法の設定が困難な状況にある。このようなことから、直ちに広域的調査を行うことは困難と判断したものである。

三について

 環境庁においては、ジュゴンの生息状況等について、平成九年度に国内外の文献等の資料の収集を行うとともに、それ以降においても情報収集に努めているところである。

四について

 普天間飛行場の代替施設(以下「代替施設」という。)については、普天間飛行場の移設に係る政府方針(平成十一年十二月二十八日閣議決定)において、建設地点を「キャンプ・シュワブ水域内名護市辺野古沿岸域」とするとともに、代替施設の工法及び具体的な建設場所については、地域住民の意向を尊重するため、沖縄県及び地元市町村とよく相談を行い、最善の方法をもって対処することとしている。
 また、同閣議決定において、代替施設については、沖縄に関する特別行動委員会(以下「SACO」という。)最終報告における普天間飛行場移設に伴う機能及び民間飛行場としての機能の双方の確保を図る中で、安全性や自然環境に配慮した最小限の規模とすることとしている。代替施設の工法及び具体的な建設場所が決定していない現段階で、自然環境保全のための具体的な対処策を示すことは困難であるが、代替施設の建設に当たっては、環境影響評価を実施するとともに、その影響を最小限にとどめるための適切な対策を講じることとしている。

五について

 ジュゴンは、文化財保護法(昭和二十五年法律第二百十四号)第六十九条第一項の規定により、天然記念物に指定されており、同法第八十条第一項の規定による文化庁長官の許可を受けない限り、捕獲を始めとする現状変更等を行うことはできない。
 文化財保護法には動物の生息地を天然記念物に指定する制度もあるが、ジュゴンについては種としての指定により保護が図られている。
 ジュゴンについては、水産資源保護法(昭和二十六年法律第三百十三号)第四条第一項に基づく水産資源保護法施行規則(昭和二十七年農林省令第四十四号)第一条第一項の規定により、北緯三十度の線以南かつ南緯三十度の線以北の海域において採捕を禁止している。
 水産資源保護法には特定の海域において保護を図るための保護水面制度もあるが、ジュゴンについては先に述べた措置により、広範な海域において保護が図られている。

六について

 ジュゴンは、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成四年法律第七十五号)第四条第四項に規定する国際希少野生動植物種に指定されており、同法第五条第一項に規定する緊急指定種の指定対象とはならない。
 また、同法上、緊急指定種を対象とする生息地等保護区の制度はない。

七について

 世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(平成四年条約第七号)に基づく自然遺産の世界遺産一覧表への記載には、同条約第十一条5の規定に基づき世界遺産委員会が定めた基準に照らして、その自然環境が顕著な普遍的価値を有すると認められるものであるとともに、国内法上その自然環境を保護するための措置を採ることが必要とされているところである。
 現在、環境庁においては、沖縄本島北部三村にまたがるやんばる地域において自然公園法(昭和三十二年法律第百六十一号)第二条第二号に規定する国立公園を指定することを念頭に置いて、調査及び検討を進めている段階であり、やんばる地域や辺野古沿岸域の世界遺産一覧表への記載について検討を行う段階にはないと考えている。

八について

 ジュゴンについては、五についてで述べたように、北緯三十度の線以南かつ南緯三十度の線以北の海域において採捕を禁止している。
 また、「水産資源保護法施行規則の一部を改正する省令の制定について」(平成五年四月一日付け五水研第二百九号水産庁長官通達)により、ジュゴンを意図せずに捕獲した場合には、生きているものは生きたまま速やかに海に戻すよう、都道府県を通じて関係漁業者等に対し指導を行っているところである。

九について

 中央省庁等改革に伴い環境省を設置するに当たり、専ら環境の保全を目的とする事務については、環境省に一元化することとなり、従来環境庁が主として所管していた法律に加え、従来他省庁が主として所管していた廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号)等の法律も環境省の所管となる。また、その目的及び機能の一部に環境の保全が含まれる事務については、環境省が環境の保全の観点からの基準の策定等の事務を所管し、関係府省と共同で事務を行うこととなる。
 ジュゴンなどの海生哺乳類は、水産資源保護法の対象となる海洋性の水産動物であることから、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律(大正七年法律第三十二号。以下「鳥獣保護法」という。)の対象とはなっていない。
 沖縄本島北部に位置する与那覇岳周辺の区域については、鳥獣保護法第八条ノ八第一項の規定に基づき、現在沖縄県知事により鳥獣保護区が設定されているところであるが、「国設鳥獣保護区の設定について」(平成八年十二月十二日付け環自野第五百四十六号環境庁自然保護局長通知)の国設鳥獣保護区設定計画において、当該区域を国設鳥獣保護区に設定すべき地域として位置付けており、今後、地元関係者の理解を得ながら国設鳥獣保護区の設定に努めてまいりたい。
 沖縄本島北部における国立公園の指定については、SACO最終報告に基づき、北部訓練場の過半が返還されることを機に、平成八年度から自然環境等の調査を実施しているところであり、また、平成十年度からは、地元有識者を含めた検討委員会において、やんばる地域において国立公園を指定することを念頭に置いた保全活用方策について検討を進めているところである。

十について

 政府としては、我が国に駐留するアメリカ合衆国軍隊(以下「米軍」という。)がキャンプ・シュワブにおいて行っている訓練の詳細については承知していないが、米軍は、当該施設及び区域の陸上区域において射撃訓練を実施する場合又は当該施設及び区域の水域のうち別図の第三区域(第一区域、第二区域及び第四区域を除く。以下同じ。)において訓練を実施する場合には、訓練期間等を事前に那覇防衛施設局長に通告することとなっている。その通告によれば、陸上区域における訓練内容は実弾射撃、非実弾射撃及び廃弾処理であり、訓練期間は通年となっており、また、第三区域における訓練日数は平成九年から平成十一年までの三か年の平均で年間約八十日となっている。
 当該施設及び区域における訓練による環境や生物への影響については具体的に把握していないが、米軍が訓練を実施するに当たっては、我が国の公共の安全に妥当な考慮を払うこととなっており、その一環として環境の保全にも考慮が払われるものである。
 また、当該施設及び区域における廃棄物や廃水については、米軍において、我が国の法令を尊重して適切に処理されているものと承知している。
 なお、政府としても、当該施設及び区域における排水口付近の海水について昭和五十三年から毎年調査を行っているが、これまで異状は見られない。

別図 (キャンプ・シュワブにおけるアメリカ合衆国が使用を許されている水域)