質問主意書

第147回国会(常会)

答弁書


答弁書第九号

内閣参質一四七第九号

  平成十二年三月七日

内閣総理大臣 小渕 恵三   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員円より子君提出外国人登録法の改正に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員円より子君提出外国人登録法の改正に関する質問に対する答弁書

一について

 昭和二十七年の外国人登録法(昭和二十七年法律第百二十五号。以下「外登法」という。)の制定とともに指紋押なつ制度が導入され、昭和三十年四月から実施された。これは、外国人登録をして本邦に在留する外国人の同一人性の確認を行うためには、切替交付申請等外国人登録証明書(以下「登録証明書」という。)の交付を伴う申請の都度、指紋の押なつを求め、過去の押なつ指紋と対照することが最も確実であると考えられたことによるものである。
 昭和三十三年の外登法の改正においては、一年未満の在留期間を決定されその期間内にある外国人について、指紋押なつ義務を免除した。これは、このような外国人は、短期間在留した後に本邦を出国する観光客等であり、我が国社会及び各種の行政へのかかわりが少ないことから、指紋の押なつを求めてまで人物を特定する必要性に乏しいと考えられたことによるものである。
 昭和五十七年の外登法の改正においては、指紋押なつ義務が課せられる外国人を、十四歳以上の者から十六歳以上の者に改めた。これは、外国人登録事務の簡素化及び外国人の負担軽減を図るためである。
 昭和六十二年の外登法の改正においては、切替交付申請等登録証明書の交付を伴う申請の都度求めていた指紋の押なつについて、人物の入れ替わりの疑いがある等の場合には指紋の再押なつを命ずることができることとした上で、これを原則として一回行えば足りることとした。これは、昭和三十年に指紋押なつ制度を実施して以来、年月が経過する間に、押なつ指紋の対照により人物の入れ替わりが発見される例が見られなくなってきたことに加え、外国人の心情に配慮したことによるものである。
 平成四年の外登法の改正においては、永住者及び特別永住者(以下「永住者等」という。)に係る指紋押なつ制度を廃止し、これに代えて署名及び家族事項の登録の制度を採用することとした。これは、昭和六十二年の外登法の改正の際の衆議院及び参議院法務委員会において、同一人性の確認手段につき、指紋押なつ制度に代わる制度の開発に努めること等を内容とする附帯決議がなされたことやその後の日本と韓国との間の協議の結果等を踏まえて検討した結果、我が国の社会で長年にわたり生活し、我が国への定着性を深めた永住者等については、写真、署名及び家族事項の登録という複合的な手段をもって指紋の押なつに代替し得るとの結論に達したためである。
 平成十一年の外登法の改正においては、それまで指紋押なつ義務が課せられていた非永住者についても指紋押なつ制度を廃止し、永住者等と同様、署名及び家族事項の登録の制度を導入することとした。これは、平成四年の外登法の改正の際の衆議院及び参議院法務委員会において、外国人登録制度の在り方について検討し、外国人登録法の一部を改正する法律(平成四年法律第六十六号)の施行後五年を経た後の速やかな時期までに適切な措置を講ずること等を内容とする附帯決議がなされたことを踏まえ、また、右の改正により、永住者等について、指紋の押なつに代えて導入した署名及び家族事項の登録という同一人性の確認手段は、その後特段の問題も生じておらず、定着しているものと認められ、他方において、諸外国の実状を調査したところ、特に先進国において指紋押なつ制度を採用している国は少なく、また、外国人登録事務を実施している地方公共団体から、事務の合理化の観点から、指紋押なつ制度の廃止についての要請が出されていたとの状況を背景として、検討を進めた結果、非永住者の中にも、「日本人の配偶者等」、「定住者」及び「家族滞在」の在留資格を有する者のように、本邦に家族が存在し、家族事項の登録により同一人性を確認できる者が増加しており、非永住者についても写真、署名及び家族事項の登録という複合的な手段により指紋の押なつに代えることができるとの結論を得るに至ったことによるものである。
 外国人登録制度の中での同一人性の確認手段の在り方はこのような変遷を遂げているが、これは、内外の諸情勢の推移の中で合理的な制度の在り方を検討してきた結果であり、法務省においても、法案審議等の場でこのような検討結果を答弁してきたものであって、それぞれの時点で、それぞれの制度は合理的なものであったと考えている。

二について

 指紋の押なつを拒否した結果、在留期間の更新を許可されず、長期間の不法残留に至っている者等を数名確認しており、これらの外国人については、御指摘の附帯決議の趣旨も踏まえ、出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)の枠組みの中で、在留特別許可を与えることをも視野に入れて対応していきたいと考えている。

三について

 不法入国者や不法残留者が多数存在する等の今日的状況の中では、外国人が合法的な在留者であるか否か等、その居住関係及び身分関係を即時的に把握するためには、登録証明書の常時携帯制度は合理的かつ必要なものであり、その目的を達成するためには、登録証明書の常時携帯義務の違反に対し間接強制である罰則により担保することが必要であると考えている。
 また、外国人が合法的な在留者であるか否か等を即時的に把握するため、外国人に一定の義務を課し、罰則でこれを担保することについては、右に述べたような目的の合理性、必要性及び方法の相当性が認められ、日本人に対する取扱いとの間に差異があったとしても、その差異には合理的根拠があり、市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五十四年条約第七号)第二十六条に違反するものではないと考えている。
 なお、歴史的経緯等を有する特別永住者については、平成十一年の外登法の改正に係る国会での審議の結果、登録証明書の常時携帯義務に違反した場合の罰則が刑事罰である「二十万円以下の罰金」から行政罰である「十万円以下の過料」に修正され、本年四月一日から施行されることとなっている。
 いずれにせよ、登録証明書の常時携帯制度の在り方については、平成十一年の外登法の改正の際の衆議院及び参議院法務委員会の附帯決議の趣旨を尊重しながら、今後とも検討を続けてまいりたい。

四の1について

 特別永住者が登録証明書の常時携帯義務に違反した場合の罰則については、平成十一年の外登法の改正の際、国会において、それまでの「二十万円以下の罰金」から「十万円以下の過料」に修正されたものであるが、これは、国会審議において、特別永住者の有する歴史的経緯等が配慮された結果であると考えている。なお、登録証明書の常時携帯義務自体は特別永住者に対しても課せられていることに変わりはない。

四の2について

 不法入国者や不法残留者が多数存在する等の今日的状況の中では、外国人が合法的な在留者であるか否か等、その居住関係及び身分関係を即時的に把握するためには、登録証明書の常時携帯制度は合理的かつ必要なものであり、特別永住者についても、登録証明書の常時携帯制度を維持する必要があると考えている。

五の1について

 平成十一年の外登法の改正により、特別永住者が登録証明書の常時携帯義務に違反した場合の罰則が刑事罰から行政罰に改められ、本年四月一日から施行されることから、その後はこの義務に違反したことを理由として逮捕されることはない。
 なお、従来から、例えば、外国人であるという理由だけで画一的、機械的に登録証明書を携帯しているかどうかを確認するような運用は行わないなど、常識的かつ弾力的な運用に心掛けており、いやしくも濫用にわたることのないよう努めているところである。

五の2について

 御指摘のような場合に過料を科すための具体的な手続としては、違反事実を知った入国警備官等からの通報により、当該外国人の住所地の地方裁判所が、職権で手続を開始し、原則として当事者の陳述を聴いた後、決定により過料の裁判をする(非訟事件手続法(明治三十一年法律第十四号)第二百七条)というものが考えられる。
 また、過料の裁判は検察官の命令をもって執行するものとされ、検察官の命令は執行力を有する債務名義と同一の効力を有するものとされており、過料の裁判の執行は民事執行法(昭和五十四年法律第四号)その他強制執行の手続に関する法令の規定に従って行うこととされている(非訟事件手続法第二百八条)が、これらの法令による強制執行の手続には身柄の拘束を伴うものはなく、御指摘のような場合であっても身柄を拘束されることはない。

六の1について

 外国人登録原票(以下「登録原票」という。)には外国人のプライバシーにかかわる事項が多く含まれていることから、その取扱いには慎重な配慮が必要であると考えている。
 そこで、平成十一年の外登法の改正においては、第四条の二として、「市町村の長は、登録原票を当該市町村の事務所に備えるに当たっては、記載内容の漏えい、滅失、き損の防止その他の登録原票の適切な管理のために必要な措置を講ずるものとする。」との規定を新設した。また、登録原票の開示に係る規定の新設に伴い、第十九条の三として、「偽りその他不正の手段により、第四条の三第二項から第五項までの登録原票の写し又は登録原票記載事項証明書の交付を受けた者は、五万円以下の過料に処する。」との規定を新設した。

六の2について

 平成十一年の外登法の改正により、他の法律の規定に基づく場合以外の場合であっても、一定の要件及び範囲内で、国の機関、地方公共団体、弁護士等が本人の同意を得ることなく登録原票の開示に係る請求を行うことができることを明らかにする規定が設けられた。
 本人の同意がない場合でも、一定の場合にこれらの者に登録原票の開示に係る請求を認めているのは、これらの者は、それぞれ法律の定めるところにより公共性の高い事務を遂行しており、このような事務を適正に遂行するため、登録原票の開示を必要とする場合があり、これを認めることが公益にかなうと考えられること等によるものである。

六の3について

 弁護士以外に登録原票記載事項証明書の交付を請求することができる「その他政令で定める者」については、平成十二年に外国人登録法施行令(平成四年政令第三百三十九号)を改正し、その別表において、日本赤十字社等三十五の法人を制限的に列挙し、特定したところである。