質問第四七号
東京電力MOX燃料の品質保証確認に関する質問主意書
右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。
平成十二年五月三十日
福島 瑞穂
参議院議長 斎藤 十朗 殿
東京電力MOX燃料の品質保証確認に関する質問主意書
BNFL社のMOX燃料の品質管理データ捏造事件では、関西電力株式会社(以下「関電」という。)が、調査、確認の結果、一九九九年十一月一日に高浜4号機用燃料に不正はないとした調査報告書(以下「最終報告書」という。)を通産省に提出し、通産省もこれを妥当と判断したにもかかわらず、その後の英国原子力施設検査局(以下「NII」という。)等の調査により、新たな不正と不正方法が判明した。これらの経緯により、日本の原子力安全行政の信頼性がますます疑われる結果となっている。
この問題を受け、東京電力株式会社(以下「東電」という。)は、同じMOX燃料の加工委託先であるベルゴニュークリア社(以下「BN社」という。)において同様のことがないことを調査及び確認するよう、通産省から二度の指示を受け、二〇〇〇年二月二十四日に調査結果をまとめ、報告書(以下「東電報告書」という。)を通産省に提出した。東電の調査及び確認は、BNFL社の不正方法と関電の調査及び確認方法が不十分であったことを学んだものでなければならないが、東電報告書の内容は調査方法と確認内容ともに不十分であり、データ整理及びデータの公開においては関電の最終報告書よりもはるかに劣るものといわざるを得ない。
東電報告書における調査方法、確認内容、データの公開には疑義があり、MOX燃料の健全性が確認できるとは考えられない。政府は、より厳密な品質確認をする必要があると考えるので、以下質問する。
一、不正の方法の可能性について
通産省の二度にわたる東電に対する調査指示は、BNFL社における品質管理データの改ざんと捏造を受けたものである。したがって、関電の最終報告書を妥当とした誤りの反省に立ち、調査、分析がなされねばならない。通産省は、電気事業審議会基本政策部会が設けたBNFL社製MOX燃料データ問題検討委員会(以下「BNFL委員会」という。)において、関電の調査が「検査時間の短縮を目的とした単純なコピーに絞って調査を進めたため、BNFL社の品質管理状況を深く追求する等の点で調査が不十分なものとなった」(BNFL委員会第一回資料7)と反省点を挙げている。
東電報告書はペレット外径抜取検査データについて、コンピュータに入力されたデータは加工できないようになっているとしている。しかし、入力に際しては検査員が手でペレットをセットし、足でペタルを踏み、入力をするのであるから検査員の作意の入る余地はある。
1 BNFL社での不正問題について今年三月一日に関電が発表した報告書で新たに発覚した不正は、合格範囲を超えるペレットを、九十度回転させて測り直し、合格させていたというものであった。BN社においてもペレットの位置を変えて不正測定をすることができるのではないか。できないとすれば、どのような防御システムになっているのか。
2 測定するペレットを動かせないとしても、不合格値を測定したらペタルを踏まずに測定点を変えて合格値を探す、また、合格値を測定したらペタルを続けて踏み、入力させることもできるのではないか。できないとすれば、どのような防御システムになっているのか。
3 上・中・下部の三点の測定をする位置はどこか。それは何に規定されているのか。作業員が規定の位置で測定していることはどのように確認するのか。規定の位置でない点で不正に測定することは可能か。できないとすれは、どのような防御システムになっているのか。
4 上・中・下部の三点のデータの一致度合いは確認されているのか。確認されているのであれば、その結果を示されたい。もし確認されていないのであれば、それはなぜか。
5 東電報告書によれば、生産当初の三ブレンダーについては、測定点が上・中・下部の三点と更に九十度回転させて三点の計六点を測定しているとのことであるが、九十度回転前後のデータの一致度合いは確認されているのか。確認されているのであればその結果を示されたい。もし確認されていないのであればそれはなぜか。
二、製造工程におけるペレット外径全数計測について
東電報告書によれば、ペレットの外径寸法についてBN社は製造工程で全数レーザ計測を行っており、計測したデータの保存義務はないとしている。BNFL社ではペレットの全数上・中・下部の三点を、レーザ自動計測装置により計測し記録して保存している。
1 BN社の製造ペレットは全数、上・中・下部の三点をレーザ自動計測装置により計測しているのか。違うとすれば、どのような計測をしているのか。
2 BN社はペレット全数の計測データを記録し、保存しているのか。通産省は保存の有無は確認したのか。確認していないとすればそれはなぜか。
3 保存していたとすれば、その記録内容を確認したのか。確認していないとすればそれはなぜか。
4 保存していないとすれば、なぜ保存しなかったのか。不正の有無を確認するための抜取検査データとの比較検討、あるいは製造されたペレットの品質水準が恒常的に維持されているかどうかの確認、計測の実証や不良率のチェックには必要なのではないか。
5 記録を部分的に保存したものはないのか。あるとすればそれはどのようなものか。
6 平均値、標準偏差、分布のヒストグラム等が記された二次データは保存されているのか。それはどのようなものか。それを確認、検討したのか。どのような検討を行ったのか。
7 レーザ計測装置認定報告書には、全数の計測に関し、どのようなデータが添付されているのか。それを確認、検討したのか。どのような検討を行ったのか。確認、検討をしていないとすればそれはなぜか。
8 BNFL社では「植木鉢型」の形状をしたペレットが製造されていたために、上・中・下部の三点の計測で上下二点を中心点にずらし計測をしていた。
(1) BN社では「植木鉢型」の形状をしたペレットは製造されなかったのか。
(2) BN社での計測は、上・中・下部三点が計測され、上下二点はペレットの端を計測していたことを確認しているのか。
9 BN社で製造された福島第一原発用ペレット及び柏崎刈羽原発用ペレットは製造工程ですべてが外径の全数計測を行っているのを東電が知ったのはいつか。通産省はいつか。なぜ最近まで知らなかったのか。品質管理計画書等には記されていないのか。不合格ブレンダーの扱いを協議した中で問題にならなかったのはなぜか。
三、抜取検査について
東電報告書によればBN社の品質保証の観点から、抜取率はMIL-STD-一〇五D(JISZ九〇一五に相当)に基づき、ゼロイチ判定を採用し、抜取検査はAQL(合格品質水準)〇・一五%に相当だとのことである。
1 BN社の抜取検査は、抜取率の設定のみがMIL-STD-一〇五D(以下「MIL規格」という。)に基づいているのか。それともMIL規格の抜取検査規定にすべて基づいて行われているのか。
2 東電報告書と東電によれば、寸法検査の方法は、燃料品質管理計画書(以下「計画書」という。)に記載されており、これに基づき作業指示書が発行される。ブレンダーごとの抜取個数は、作業指示書に基づき三十二個以上とブレンダーによって抜取個数が異なるとのことである。
(1) 通産省はブレンダーごとの抜取個数を確認しているのか。
(2) 抜取個数の種類は何種類あり、その個数はそれぞれ何個か。
(3) なぜ、ブレンダーごとに抜取個数が異なるのか、その理由は何か。
(4) MIL規格及びJISZ九〇一五の抜取検査規定では、三十二個以上であれば何個でもブレンダーごとに抜取個数が一定でなく、不特定数で異なってもよいことになっているのか。
(5) 計画書等には抜取個数と不特定数の抜取であることの理由は記載されていないのか。通産省は計画書を確認しているのか。
(6) 作業指示書に抜取個数は記載されているのか。通産省は作業指示書を確認しているのか。
(7) 一定でない抜取個数は、誰により何を基準にして抜取個数が決まるのか。
3 東電によれば、生産当初の三ブレンダーの抜取個数は八十個以上であるとのことである。生産当初三ブレンダーの抜取検査での抜取個数を八十個以上としたのはなぜか。MIL規格に基づいてのことか。
四、不合格ブレンダーについて
1 東電によれば、不合格ブレンダーがあるとのことだが、不合格ブレンダーは何ブレンダーあるのか。不合格ブレンダー数を言えないとすれば、言えない理由は何か。
2 不合格となったブレンダーのペレットは、すべてつぶされ製造工程へ戻されたのか、全数レーザ計測の工程へ戻されたのか、そのまま再び抜取検査をしたのか。それはMIL規格に基づくものか。
3 不合格ブレンダーの処理手順はどこに明記されているのか。通産省はこれを確認しているのか。確認していないとすればなぜか。
4 そのまま抜取検査をしたとすれば、ゼロイチ判定の意味はないのではないか、MIL規格に反するのではないのか。
5 不合格となったブレンダーのペレットの処理について明記している書類等は何か。通産省はこれを確認していないとすればなぜか。
6 MIL規格によれば不合格ブレンダーの判定があった場合、それ以降の抜取検査は「ゆるい検査」から「なみ検査」に強化されなければならないはずである。
(1) 不合格ブレンダーの初検査における抜取個数はいくつか。
(2) 不合格ブレンダーを再検査した際の抜取個数はいくつか。
(3) BN社の場合、不合格ブレンダー以降の抜取検査は強化されたのか、それまでと同じだったのか。
(4) それまでの抜取検査と同じだとすればなぜ、そのままなのか、MIL規格に反するのではないか。
(5) 不合格ブレンダー以降の抜取検査について明記している書類等は何か。通産省はこれを確認しているのか。確認していないとすればなぜか。
7 前述のようなBN社の抜取検査における検査方法で、AQLが〇・一五%であるといえるのか、その根拠は何か。
五、規格に従わない抜取検査と安全審査指針について
発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針(以下「安全審査指針」という。)では従うべき規格について、指針1の「準拠規格及び基準」において、「安全機能を有する構築物、系統及び機器は、設計、材料の選定、製作及び検査について、それらが果たすべき安全機能の重要度を考慮して適切と認められる規格及び基準によるものであること。」と定めており、この指針に対応して、福島第一原発3号炉及び柏崎刈羽原発3号炉の原子炉設置許可変更申請書(以下「申請書」という。)では、準拠すべき規格の(4)に「日本工業規格(JIS)」を挙げている。
1 東電が「基づいた」とするMIL規格は、申請書の中には挙げられておらず、東電はこれがJIS規格に相当する根拠を示さなくてはならないが、通産省は報告を受けているのか。
2 BN社では、(1)不合格ブレンダーが存在してもその後の検査を「なみ検査」にせず、「ゆるい検査」を継続した、(2)抜取の数がブレンダーごとにまちまちであった、(3)始めから「ゆるい検査」を行っていた、といった、MIL規格に違反するようなやり方を、事業者と製造会社間の協議で定めて運用していた。これは、規格に準拠するよう求めた安全審査指針及び申請書で定めた内容に抵触するのではないか。
六、東電の立会検査について
東電報告書では、BN社の抜取検査測定データと東電の立会検査測定データとの比較分布図から、分布形状が同じであり、仕様値を満足していることを理由にBN社の信頼性を確認したとしている。
1 東電が立会検査を行ったブレンダー数、ブレンダーごとの抜取数、測定点数はいくらか。
2 東電立会検査でのペレット測定は、上・中・下部三点のうち一点以上の測定であるとのことだが、通産省はこれを承知しているか。また、この立会測定データを通産省は調査、確認をしているのか。
3 なぜ、東電は三点を測定せずに一点以上の不特定数測定にしたのか、知らないとすれば、通産省はなぜ確認をしなかったのか。
4 一点以上では、上・中・下部三点が規定の位置で測定されていたかを確認することはできない。これをどのように確認するのか。
5 三点測定、二点測定、一点測定とする選択基準は何か、誰が決め、どこに明記されているのか。
6 一点以上の値と三点の値という条件の異なるものの比較をするのに、どのように比較値を取ったのか。
7 東電立会検査とBN社抜取検査の測定データの比較分布図は、東電がBN社の信頼性を確認した重要な分布図であるにもかかわらず、比較する前提条件の異なるものを無理に比較したものではないのか。通産省は、このような分布比較を妥当だとして認めるのか。認めるとすれば、その根拠は何か。
七、基本的な数値の確認
1 ロットとブレンダーの意味と関係は何か。
2 製造ロット数、ブレンダー数、ペレット数は、福島第一原発3号機向け(以下「1F3」という。)、柏崎刈羽原発3号機向け(以下「KK3」という。)それぞれでいくらか。
3 そのうち合格して使用したロット数、ブレンダー数、ペレット数は、1F3、KK3でそれぞれいくらか。
4 製造したが使用しないロット数、ブレンダー数、ペレット数は、1F3、KK3でそれぞれいくらか。
5 抜取検査で合格したロット数、ロットごとのブレンダー数、ブレンダーごとのペレット数、ペレットごとの測定点数は、1F3、KK3でそれぞれいくらか。
八、外径測定データの分布図について
BNFL社の抜取検査の測定データ、全数計測データはほとんど公開された。しかし、調査方法と分析に問題があったために不正があったにもかかわらず、疑義なしとの結論となった。NII、市民団体の抜取検査の不正、疑義の指摘は、抜取検査測定データと全数計測データの分布図比較などの分析によるものである。通産省はBNFL委員会において、関電が行ったデータの分析が不十分なものであることを指摘した上で、「関西電力に対しより広範な分析を行うよう求めていく必要があり…独自の分析を行うことも考えられた」(BNFL委員会第一回資料7)としている。
1 BNFL社のデータは、千分の一ミリ単位であったので分布図の比較が有効であった。ところが、東電報告書は千分の四ミリ単位のデータしかない。千分の四ミリ単位では有効性が無くなり統計的分析はできない。
(1) なぜ、千分の四ミリ単位なのか。
(2) なぜ、千分の一ミリ単位のデータとするように指導しないのか。これで統計的分析ができるとの認識か。
2 東電報告書に添付されているBN社の抜取データ分布図は、母集団であるブレンダーごとではなくブレンダーの集まりであるロットごとになっている。
(1) なぜ、ブレンダーごとの分布図ではなくロットごとなのか。
(2) ブレンダーごとの抜取データを通産省は調査、確認をしているのか。
3 東電報告書には、全数計測データの分析について全く触れておらずデータ分布図も添付されていない。
(1) なぜ、母集団である全数計測データの分布図を付けないのか。分布図は存在しないのか。
(2) BNFL社の不正は、母集団であるロットごとの全数計測データの分布図と抜取検査データの分布図との比較により発覚したものもある。ブレンダーごとの全数計測データの分布図がなければ、抜取検査データの疑義を統計的に分析できないのではないのか。
4 このような加工した資料で、BN社の抜取検査データには不正がなかったと言い切れるのか。言い切れるとすれば、その根拠は何か。
九、東電向けMOX燃料の輸入燃料体検査について
1 福島第一原発3号機向けMOX燃料の輸入燃料体検査において、通産省はどのような客観的データに基づいて、その品質保証の妥当性を検討しているのか。
2 輸入燃料体申請書類及びその添付書類にはどのような資料があるのか。その中に抜取検査の元データは存在するのか。もしないとすれば、どのように品質保証の妥当性を検討するのか。
十、逆委託加工貿易について
1 東電の海外MOX燃料加工委託契約の締結に際し、逆委託加工貿易に基づく変更申請の申請年月日はいつか。また、変更申請認可の年月日はいつか。
2 変更申請に際しMOX燃料加工委託契約書の添付はあったのか。ないとすれば、契約書の内容を確認、審査せずに認可したのか、なぜ、確認と審査をせずに認可したのか。
十一、データ、情報の公開について
1 通産省が妥当と判断し、その後不十分であったことを認めた関電最終報告書よりも東電報告書は添付データ、分析ともに劣る。所管官庁として同じ過ちをせず、東電に対してデータの開示を指導するつもりはないのか。
2 関電のこれまでの報告書に比べて、東電報告書の公開データはあまりにも少なく、しかも加工されている。このような報告書で通産省はBN社の品質管理に疑義はないと判断できるのか。
3 東電、通産省の説明では、BN社の占有情報だからBN社の許可がないと言えないという事項があまりにも多い。たとえ民間契約であっても原子力の安全性の問題であり、プルトニウムを扱う事業において所管する官庁の指導が及ばないとすれば問題ではないか。
(1) なぜ、BN社の占有が優先されるのか。
(2) 関電でなされているデータと情報の公開が、東電ではなされないのは契約条項に違いがあるからなのか。
(3) 契約によるとすれば、なぜそのような契約を通産省は許可をしたのか。
十二、仏国コジェマ社製MOX燃料の品質管理状況については、どのような調査を行うのか。
右質問する。
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