質問主意書

第147回国会(常会)

質問主意書


質問第四四号

税務行政における適正手続の法的整備に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十二年五月二十九日

齋藤 勁   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   税務行政における適正手続の法的整備に関する質問主意書

一 私は、納税者の権利を明確化する必要があるとの観点から、平成十一年十二月十四日に、「税務行政における適正手続の法的整備に関する質問主意書」を提出し、平成十二年一月十四日付けで内閣総理大臣臨時代理の青木幹雄国務大臣から、その質問に対する答弁書の送付を受けた。
 答弁書の政府見解を要約すると、所得税については、所得税法二百三十四条、同法二百三十六条、判例の見解及び税務運営方針で必要な事項が定められ、独自の体系が整備されている。したがって、諸外国の納税者の権利保護に関する法令に規定されているような納税者の権利については、日本国憲法八十四条に定められているいわゆる租税法律主義の下、各税法において具体的な規定が設けられているものがあること及び各税法の具体的規定等の趣旨に即した適正な税務行政により、基本的にその保護が図られているので、質問のような理由に基づいて国税通則法の改正を行うことは考えていないということである。
 しかし、税務調査手続に関し、調査の事前通知、調査理由の開示、調査の場所・時間、代理人選任の教示などの手続規定が具備されていない現状に対し、客観的かつ具体的に「必要な規定が設けられ、独自の体系が整備されている」というためには、政府見解は説得力に欠け、我田引水的な説明であるといわざるをえない。したがって、政府見解は、何をもって「必要な規定が設けられ、独自の体系が整備されている」というのか、その具体的規定を示されたい。

二 答弁書には、「例えば、アメリカ合衆国の『納税者の権利章典』及び『納税者としてのあなたの権利』においては、納税者の誠実性の推定、通常の税務調査の事前通知、個人の住所等における調査の禁止及び違法な調査に基づく処分の無効に関する項目は掲げられていないと承知している」と断じているが、以下の点を参照してもなおその見解を維持するのか問う。
 アメリカの一九八八年の改正内国歳入法「包括的納税者権利保障法」で導入され、及び同法の規定で公布することとなった「納税者としてのあなたの権利」をみてみると、政府見解がいう項目は、独立した項目としては表現されていないが、以下のようにその全体の内容に含まれているのではないか。

1 納税者の誠実性については、「申告に関し、質問を受けた場合」の項目の中で、「私たち(内国歳入庁)は、ほとんどの納税者の納税申告書を申告したとおり認めます。私たちがあなたの申告書について質問したり、調査対象として選出しても、それは、あなたを不誠実であるとみてのことではありません。」と記載されており、他の納税者の権利憲章を具備する国のような「誠実性の推定」という項目がなくともその実質内容は同様と考えるがどうか。
2 税務調査の事前通知(コンタクト・レター)については、「書面による調査と照会」の項目の中で、「私たちは、多くの調査と照会をもっぱら郵便で行います。私たちは、更に詳しい説明を要求する手紙、あるいは、私たちが申告の変更を必要と考えている理由を記した手紙を送付することもあります。」とある。また、「面談による調査」の項目の中では、「私たちが個人面談を通して調査を行うことを通知した場合、若しくはあなたが面談を要求した場合、あなたは調査があなたと内国歳入庁の両方に都合が良い適当な場所と時間で行われるよう要請する権利があります。私たちが提案した時間若しくは場所の都合が悪いときは、調査官はより適当な時間若しくは場所を選択するよう努力します。」と記載されており、事前通知を前提にした調査手続になっている。なお、コンタクト・レターは、従来から慣例化しているものである。さらに調査の場所については、例えば個人の住所が不都合である場合には、それ以外の適当な場所を選択できるということも含まれている。内国歳入法七六〇五条、七六〇六条では合理的な時間と場所について規定されている。
 このような点からみれば、税務調査の事前通知について、アメリカ合衆国においても、他の納税者の権利憲章を具備する国のように独立した項目がなくともその実質的内容は同様と考えるが、どうか。
3 違法な調査の無効性については、裁判所等で事後救済手続を経なければならないが、これまでの国家賠償とは別に、一九九七年改正法で内国歳入庁の行為だけを対象にした個別の損害賠償制度(係争の際これまで納税者にあった立証責任を内国歳入庁に転換すること、内国歳入庁が職務執行を怠ったときには、納税者が損害賠償請求訴訟を提起できること)が導入されており、また、アメリカでは、訴訟により徴収執行が停止する制度も保証されていることなどにより、違法な調査の無効性について、日本より数段主張しやすく、また認められやすいものとなっている。加えて、最近のIRS内国歳入改革法では、一層の納税者の権利の拡充を図っており、納税者のための「苦情処理委員会制度」も導入されていることも留意されるべきである。こうした点について、アメリカの場合を、違法な調査に基づく処分の無効性に関する項目がないと断じた政府の答弁は、誤っていると考えるが、どうか。

三 私は先の質問主意書で、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス、カナダ、韓国における納税者の権利保護の動きを紹介し、我が国の経済社会が急速に国際化している現状において、納税者の権利を含む税務行政手続の法的整備が急務であると述べ、その必要性について政府の見解を質問した。上記、1、2、3で明らかなように、政府答弁が国税通則法の改正を必要としないことの論証のために例示したアメリカにおいては、政府答弁とは違って、納税者の権利が極めて具体的に明確化されている。その上で、日本における権利明確化の必要性をどう考えるのか。
 我が国の申告納税制度を維持発展させていくためには、納税者と行政がより信頼しあえる関係を作っていくことが必要である。高度情報化社会、国際化時代を迎え、世界の一員として我が国も先進諸国と同様、納税者の権利を明確に認め、保障することによって、納税者の理解と協力を得ていくことが必要と考えるが、どうか。

  右質問する。