質問主意書

第147回国会(常会)

質問主意書


質問第四〇号

人種差別撤廃条約の実施をめぐる諸問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十二年五月二十六日

竹村 泰子   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   人種差別撤廃条約の実施をめぐる諸問題に関する質問主意書

一、「人種差別撤廃条約第一回・第二回定期報告書」について

1 政府は、本年一月一三日、「人種差別撤廃条約第一回・第二回定期報告書」を国際連合に提出した。同報告書第五七段落では、「一九九四年の春から夏にかけて、全国各地で、在日朝鮮人児童・生徒に対する嫌がらせや暴行等の事象が発生し……この関連の事案の検挙事例としては、例えば次のようなものがある」として(a)(b)二件を挙げている。この二件の処分結果を示されたい。また、この二件以外に検挙事例は何件あるか、その数とそれぞれの具体的内容及び処分結果を示されたい。
 また、同段落で一九九八年八月以降、同年末までに、「警察は朝鮮学校又はその生徒に対する嫌がらせ事案を六件認知し……必要な調査を行っている」とあるが、その調査結果、及び容疑者の検挙、処分結果を示されたい。

2 啓発活動について

(一) 第五七段落で、法務省の人権擁護機関が、在日朝鮮人児童・生徒に対する嫌がらせ等の発生を根絶するため、強力な啓発活動を展開した旨記されているが、在日朝鮮人児童・生徒が多数利用する通学路、利用機関等における街頭啓発は、いつ、どこで、どのように行われたのか。
(二) 私が取り寄せた資料によると、この時掲示された啓発ポスターは、朝鮮学校生徒への暴行、事件の廃絶を呼びかけたものではない。また、啓発冊子には、「外国人問題」という項目があるが、公衆浴場における入浴マナーやごみの出し方のトラブルが例示してあるとおり、一九八〇年代以降に新たに日本に入国してきた外国人の問題を指している。政府は、このようなポスターや冊子を目にした人達が、朝鮮学校の生徒に対する暴行や嫌がらせの防止や、朝鮮人差別、民族差別をなくす目的のものだと思うと考えているのか。
(三) そもそも、なぜ法務省が作った啓発冊子には、韓国・朝鮮人差別やアイヌ民族差別など、民族差別に関するものが入っていないのか。今後、啓発冊子の中に韓国・朝鮮人、民族差別に関する項目を取り入れたり、韓国・朝鮮人、民族差別の廃絶を訴える専門の啓発冊子を作る考えはあるか。

二、現在の帰化行政について

1 「人種差別撤廃条約第一回・第二回定期報告書」の第三三段落では「在日韓国・朝鮮人の中には、その本名を名乗ることによって起こる偏見や差別を恐れ、日常生活において日本名を通称として使用する場合もみられる。政府では、このような人類平等の精神に反する誤った偏見、差別意識が依然として一部に存在することを憂慮している」との認識を示し、被害者の救済に関する施策等の充実に努めるとともに、引き続き各省庁において関係機関や団体等に対する指導を行っていく旨記している。
 法務省は従来「民族意識の発露としてことさらに外国人的な呼称の氏に固執するということになると、帰化により日本国民とするにふさわしい者とはいえない」(稲葉威雄「帰化と戸籍上の処理」『民事月報』一九七五年九月号)という方針の行政指導を行い、帰化許可申請書には一九八五年の国籍法及び戸籍法改正まで、作成上の注意として「(帰化後の)氏名は日本人としてふさわしいものにしてください」と記していた。
 現在の政府の立場としては、これら従前の行政指導は、「人類平等の精神に反する誤った偏見、差別意識」による不適切な指導であったと認識しているのか。
2 政府は、私の質問に対する答弁書(内閣参質一四三第一号。以下「答弁書」という。)で、「帰化後の氏名については、日本人らしい氏名を使用するよう指導していた時期もあったが、昭和五八年から、そのような指導を行わないこととした」との答弁をしている。なぜそのような指導を行わないことにしたのか。それが昭和五八年であった理由は何か。また、答弁書で「この点については、部内担当者の会議等様々な機会を通じて国籍事務担当者に周知させ、また、帰化相談等の際に帰化許可申請希望者その他の照会者に対して周知を図っている」との答弁をしているが、具体的にどのような対応をしたのか。

3 帰化申請について

(一) 私が入手した各地方法務局が配布している近年の『帰化許可申請の手引』では、帰化許可申請書の記入例で、「帰化をしようとする者」の氏名欄に「通称名」を書く欄があり、「帰化後の氏名」の欄が、ことごとく「帰化をしようとする者」の欄と違い、日本人的氏名に変わっている。現在、『帰化許可申請の手引』の中で、「帰化をしようとする者」と「帰化後の氏名」の欄の氏名が同じであるものが存在するか。
(二) また、『帰化許可申請の手引』が(1)「通称名」を書く欄を設けていたり、「帰化後の氏名」の欄がことごとく日本人的氏名になっていること、(2)「帰化後の氏名の文字は、従前の通称名をそのまま用いても、任意に新しい氏名を用いても差し支えありません」(那覇地方法務局戸籍課『帰化申請の手引き』、一九九九年)などと従前の氏名の変更を促す記述があることは、「日本での戸籍の記載の際には日本名で記載しなければならないという規定はないし、当然に韓国名で記載することが認められている」(一九九八年五月、子どもの権利委員会での日本政府第一回報告書審議での答弁)とした政府の立場に反するのではないか。これは指導が行き渡っていないためか。
(三) 行政書士向けに書かれた、田中嗣久・甲斐順一『行政書士のための三日でわかる帰化・永住・在留許可申請業務』(法学書院、一九九九年)では、申請書類の書き方で、帰化後の氏名は「日本的(日本人として適当な)氏名であれば、これまでの通称名と異なっていてもかまいません」と説明している。政府が指導方針を変えたという一九八三年からすでに相当な年月が経過している今、八三年以前の指導方針に沿った書物が出回っていることに対し、政府はどのような見解を持っているのか。

三、人権啓発フィルム・ビデオ等について

 政府(総務庁や法務省)が毎年作成している人権啓発フィルム・ビデオは、現在までに何本出されているのか。そのうち部落、女性、障害者、韓国・朝鮮人、在日外国人、アイヌ民族に関するものは、それぞれ何本あるか。また、人権啓発フィルム・ビデオのための予算はいくらか。

四、国勢調査の統計について

 一九九五年国勢調査における失業率、職業分類、国民健康保険及び国民年金加入率について、全国及び都道府県レベルで、日本国籍者、韓国・朝鮮籍者及び外国籍者(全体)の統計を、それぞれ示されたい。

  右質問する。