質問主意書

第147回国会(常会)

質問主意書


質問第三四号

「衆議院議員伊藤茂君提出北富士演習場地区に係わる林野雑産物損失補償金の支出に関する質問に対する答弁書」に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十二年五月二十二日

照屋 寛徳   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   「衆議院議員伊藤茂君提出北富士演習場地区に係わる林野雑産物損失補償金の支出に関する質問に対する答弁書」に関する質問主意書

 平成十二年二月二十二日付けの衆議院議員伊藤茂君提出の北富士演習場地区に係わる林野雑産物損失補償金の支出に関する質問主意書(以下「伊藤質問主意書」という。)に対して、同年四月四日付けの政府答弁書(以下「答弁書」という。)が提出された。
 伊藤質問主意書は、横浜防衛施設局が長年にわたり北富士演習場関係住民に対して支出している林野雑産物損失補償(以下「林雑補償」という。)は、本来いわゆる実損主義に基づき支出されるべきであるが、実際には今日北富士演習場関係住民に実損が発生していないにもかかわらず、支出の実質的根拠を欠いたまま支出行為がなされている、と指摘し政府の対応をただしている。
 これに対し政府は、答弁書において、政府としては農業経営の実態調査を行い、林野雑産物を採取する農業経営上の必要性が存続し、かつ、立入制限等により林野雑産物の採取が阻害されていると認められる場合に補償を行っている旨回答している。
 しかし、答弁書における農業経営の実態調査、林野雑産物を採取する農業経営上の必要性に関する実質認識は著しく事実に反し、関係諸法令の解釈運用を誤る違法、不当なものである。
 以下、質問する。

一、農業経営の実態調査について

 答弁書において、政府は、北富士演習場については、現在においても、昭和五十年当時と同様に、野草及び粗だを引き続き採取する農業経営上の必要性があるとし、林野雑産物補償の申請があり、横浜防衛施設局において、申請者ごとに、耕地面積、牛馬飼育頭数、粗だ使用施設の台数、家族数、演習場以外の採取地の面積等農業経営の実態調査を行い、林野雑産物を採取する農業経営上の必要性が存続し、かつ、立入制限等により林野雑産物の採取が阻害されていると認められる場合に、補償を行っているところである旨強弁するが、農業経営の実態調査について以下の点を明らかにされたい。

1、農業経営の実態調査を行っている防衛施設局の担当部署
2、通常の実態調査で派遣する調査員の人数、及び調査に要する期間
3、農業経営の実態調査は、最近ではいつ行ったか
4、最近行った実態調査で派遣した調査員の人数、及び日程
5、3の調査において、申請者ごとに、耕地面積、牛馬飼育頭数、粗だ使用施設の台数、家族数、演習場以外の採取地の面積につき、実際に調査を行ったか
6、3の調査を行ったというのであれば、耕地面積、牛馬飼育頭数、粗だ使用施設の台数、家族数、演習場以外の採取地の面積に関する具体的な調査の内容、調査方法、及び調査結果
7、最近の調査の結果、林雑補償の対象から外れた人数
8、今から二十年前、十年前、さらに最近行った実態調査の結果、どのような違いが見られるか

二、農業経営の実態について

 今日において、林野雑産物を採取する農業経営上の必要性は実態として皆無であり、演習場関係住民に実損が全く発生していないと考えるものであるが、答弁書では、あくまで実損が発生していると主張するものであり、この点を明らかにするため、政府が考える農業経営の実態等について以下の点について質問する。

1、北富士演習場の立入制限により、当初、水田の堆肥としての野草の採取が阻害された結果、林雑補償がなされたが、今日では野草を水田の堆肥として使用する実態がないことは自明のことと考えるが、政府の見解を示されたい。
2、林雑補償額の算定においては、主として耕地面積が基準となるが、水田の作付面積を平成二年と平成十一年とで比較すると、富士吉田市では二六一ヘクタールあったものが一七七ヘクタールへと大幅に減少し、忍野村では、一一五ヘクタールから五〇ヘクタールに半減し、また山中湖村では三ヘクタールから一ヘクタールへと明らかに減少している(農水省関東農政局山梨情報事務局調べ)。
 一方、北富士演習場関係の林雑補償額の推移を見ると、平成二年に約七、〇〇〇万円であったものが、平成九年には約一億二、〇〇〇万円となっており(山梨県作成の平成十年北富士演習場問題の概要)大幅な増額が認められる。
 水田の作付面積の減少の推移からすれば、当然林雑補償額も減少してしかるべきであるのに、大幅な増額になっているのは明らかに不自然であり、増額となった根拠を具体的資料に基づき明らかにされたい。
3、答弁書では、農業経営の実態調査として、耕地面積のほか牛馬の飼育頭数並びに粗だ使用施設の台数が挙げられているが、今日、農業用の牛馬が一頭として飼育されていないことはいうまでもなく、また粗だを燃料として使用する「囲炉裏」、「かまど」など存在しない。このことは、野草や粗だの保管場所が各戸に全くないことからも明らかである。
 牛馬の飼育頭数並びに粗だ使用施設の台数に関する調査が行われているというのであれば、北富士演習場関係住民の牛馬の飼育頭数並びに粗だ使用施設の台数を明らかにされたい。

三、林雑補償金の算出の根拠となる資料の開示について

 伊藤質問主意書において、林雑補償金の算出の根拠となる個人別の田畑面積あるいは牛馬別の頭数及び家族数、粗だ使用箇所数等を付した個人別の補償額の資料の提出を求めたが、答弁書で、政府は、本件資料については、「公にしないとの条件で提供されたものであり、また、当該資料を公表することとした場合には、地元に混乱を生じさせ、ひいては北富士演習場の安定的使用を損なうおそれがあるので、当該資料の公表については差し控える」と回答しているので、以下の点につき、質問する。

1、「公にしないとの条件で提供されたもの」であるとのことであるが、事実の真偽を確認するため、取り交わされた書面を明らかにされたい。また、この条件は地元が出したのか、それとも防衛施設庁が出したのか、それはいかなる理由に基づくものか、明らかにされたい。
2、「地元に混乱を生じさせる」とは、具体的にどういう混乱が生じるというのか。
3、さらに、当該資料を公表することが、どうして「北富士演習場の安定的使用を損なうおそれ」を生じることになるのか。
4、いうまでもなく、個人は、その私生活をみだりに公開されないという法的権利が保障されるものであるが、そもそも本件資料は、これを公表しても個人の秘密いわゆるプライバシー権を侵害することにはならない。
 当該資料は申請者が、防衛施設庁に対して、申請書を提出し、行政措置による林雑補償金の支払いを受けるためのものであり、仮に、個人の秘密に関わる面があるとしても、申請書を提出した時点で、申請者は個人の秘密として保護されるような権利を自ら放棄しているのであり、純粋な意味で個人の秘密といえるものではなく、プライバシー権としての法的保障を受けるものではない。
 なにより、当該資料並びに防衛施設局の行った調査結果に関する資料は、林雑補償が法令の根拠に基づき適正に支出されているかどうか、基準に該当しない者に支出されていないかを調査確認するために必要不可欠の資料であり、これらの資料は講学上、いわゆるパブリックフィギュアの法理、公の存在の法理により、制約を受けるものであり、個人の秘密足り得ないのである。

(一) あくまで、本件資料の公開が個人の秘密を侵害するというのであれば、その法的根拠を明らかにされたい。
(二) また、資料の公表を拒むことは、国会における防衛庁予算に関する審議を実質的に拒否するものであり、民主主義国家における国会の最も重要な権能である予算審議権を否定することになるのであって、資料を公表することにより、害悪の発生する蓋然性が明白である場合に初めて、これを拒否することが可能と考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
(三) したがって、また地元に混乱を生じさせ、ひいては北富士演習場の安定的使用を損なうおそれがあるなどと抽象的で不明確な理由をもって、本件資料の提出を拒否できないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
(四) 本件資料の提出を拒んでいる真の理由が、今日では農業経営の実態が全く皆無となっているにもかかわらず、防衛施設庁が自らの違法、不当な支出を覆い隠さんがために資料の提出を拒んでいるのでないとすれば、自らの潔白を明らかにするためにも、本件資料を提出すべきものと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。