質問主意書

第147回国会(常会)

質問主意書


質問第二三号

ジュゴンの保護に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十二年四月十日

照屋 寛徳   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   ジュゴンの保護に関する質問主意書

 ジュゴンは、海牛目ジュゴン科の水生哺乳類の動物である。その標準和名はジュゴンと呼ぶものの、沖縄をはじめ南西諸島では、ざん、ざんのいゆ、あかんがいゆ等と呼んでおり、人魚のモデルとも言われている。また、沖縄では古来ジュゴンは「竜宮城」への使者であり、ニライカナイからの神の使者である、とも言い伝えられている。
 ジュゴンは、東経三〇度~一七〇度、北緯三〇度~南緯三〇度の範囲のインド洋と太平洋の熱帯・亜熱帯の浅い海域に生息している。オーストラリアを中心に、東アフリカ、インド、インドネシア、フィリピンなどが主な分布域であり、我が国の沖縄本島東海岸がアジア太平洋地域の北限に当たる。つまり、沖縄本島東海岸は、ジュゴンが周年生息し繁殖する我が国唯一の海域であり、しかも生息範囲がたいへん狭く、生息数も少なく、他の海域の個体群から孤立しているとみられることから、絶滅の恐れが強く、緊急の保護対策が必要とされる地域個体群であると考えられている。
 沖縄では石器時代からジュゴンを捕獲していたという。八重山群島の新城島は明治以前の旧藩時代にジュゴンを年貢として課せられていた、と立論する学者もいる。地球の歴史、生命誕生の歴史、人類の歴史、沖縄の歴史に照らすと、沖縄本島東海岸にははるか古代からジュゴンが生息し、人間とジュゴンは共に生き、生かされる共生の関係を保っていたものと考える。すなわち、ジュゴンの生息環境は人間にとっても大切な環境であり、ジュゴンの生息環境を守ることは、人類全体の使命である、と言っても過言ではない。
 そのジュゴンの生息環境が、開発や漁業や軍事基地建設によって破壊されようとしている。わけても、我が国唯一のジュゴン生息地と思われる沖縄本島名護市辺野古沿岸域に日米両政府が建設を計画している米軍普天間飛行場の代替基地は、ジュゴンの生息環境を壊滅せしめるに違いない、と思慮される。
 政府は、文化財保護法でジュゴンを「天然記念物」に指定しているが、その保護策は極めて不十分であると言わざるを得ない。今や「絶滅危惧種」となったジュゴンを保護するのは我が国の国際社会に対する責務であり、生物と人類の未来に対する責務である。
 以下質問する。

一、ジュゴンネットワーク沖縄(代表世話人・棚原盛秀、謝名元慶福)や粕谷俊雄三重大学教授らの調査によると、沖縄本島東海岸域は国内で唯一のジュゴン生息地であり、生息環境を緊急に改善しないと、絶滅の可能性が高いと指摘している。ジュゴンの保護を図るうえでその生息確認調査、えさ場である海草藻場の現状調査及び個体識別調査等が必要である。政府は、過去これらの調査を実施したことがあるか、あればその調査結果を、また、今後これらの調査の必要性、調査計画の有無等について明らかにされたい。

二、私は、平成十年四月六日の沖縄及び北方問題に関する特別委員会で環境庁に対し、ジュゴンの生息調査、生態調査等の実施を求めた。これに対し、環境庁は「御指摘の海洋動物についてでございますが、海域の自然環境の重要な要素と考えてはございます。しかしながら、海洋動物は一般にこれまで生息状況についての知見が非常に少なく既存資料も少ないという状況にございまして、調査手法そのものが確立されてございません。そういったことで、ジュゴンにつきましては、環境庁といたしまして直ちに広域的な調査を行うことは困難というふうに考えているところでございます。」と答弁している。
 右の環境庁答弁は、ジュゴンの保護に対する政府の消極的な姿勢を示したものであり、到底承服しがたい。環境庁が言う「生息状況についての知見が非常に少ない」、「既存資料も少ない」ということの根拠及び「調査方法そのものが確立されていない」から生息調査や生態調査が実施できないとする根拠を明らかにされたい。

三、政府は、ジュゴンの生息状況や生態についての国内、国外の研究者、自然保護団体等の知見並びに資料を速やかに、かつ、体系的に収集すべきと考えるが、その対応と方策を明らかにされたい。

四、私は、平成十一年十二月八日の予算委員会で環境庁長官に対し、稀少生物の宝庫であるキャンプ・シュワーブ水域に米軍普天間飛行場の代替施設をつくることについての所信をただした。これに対し、清水嘉与子環境庁長官は「…その規模だとか位置でありますとか、あるいは計画の内容もまだ決まっていない段階でございます。この段階で立地の是非についてコメントすることは差し控えたいと思います。ただ、仮にこの当該地域で代替施設の設置が具体化するということになりました場合には、自然環境など環境保全に十分配慮したものになるように当庁としても適切に対処するつもりでございます。」と答弁している。
 米軍普天間飛行場の代替施設の移設場所として稲嶺沖縄県知事、岸本名護市長はキャンプ・シュワーブ水域の名護市辺野古沿岸域を候補地として容認した。現在、当該地域での建設に向け日米両政府間の協議が進められている。私は、当該地域への移設に断固反対である。確かに、現段階では位置、規模、工法は確定していないが、政府は、いかなる規模、方法であれキャンプ・シュワーブ水域の名護市辺野古沿岸域での米軍基地建設は容認できない旨意見表明すべきと考えるが、その対応を明らかにされたい。また、当該地域で代替施設が具体化した場合の自然環境保全への適切な対処策についても具体的に明らかにされたい。

五、文化財保護法及び水産資源保護法において、同法に基づく具体的なジュゴンの保護対策についていかなる行政上の措置が講ぜられているのか明らかにされたい。また、ジュゴンの生息水域を「保護区」として指定する法的対応策についても明らかにされたい。

六、沖縄本島東海岸のジュゴンは、生息数が少ない、生息範囲が狭い、孤立した個体群であると考えられることから、絶滅の恐れが大変強い。また、生息の確認されたキャンプ・シュワーブ水域は、沖縄県が作成した「沿岸における自然環境の保全に関する指針」では保護度の最も高い「評価ランク1(自然環境の厳正な保護を図る区域)」に位置付けられている。
 よって、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」に基づき、ジュゴンを「緊急指定種」に指定し、さらに「生息地等保護区」として生息が確認された水域を指定すべきと考えるが、その対応を明らかにされたい。

七、ジュゴンを保護するうえでその生息場所の保全は不可欠である。サンゴ礁や藻場にとどまらず海辺や山原(やんばる)の森林、川の保全を含む生物の多様性を保全することがジュゴンの保護に必要であると認識すべきである。山原の森には、ノグチゲラ、ヤンバルクイナなど、地球上でここにしかいない固有種が数多く生息しており、森、川、海が一体となって生物の多様性に富み、豊かな自然環境を形成している。そのため、世界自然保護基金(WWF)などの国際自然保護団体が、沖縄本島北部の環境保全に大きな関心を持っている。
 よって、「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」に基づき、返還される米軍北部演習場を含めキャンプ・シュワーブ水域名護市辺野古沿岸域を一体として世界遺産に指定登録できるようにすべきと考えるが、その対応を明らかにされたい。

八、ジュゴンの生息を脅かす人間活動、とりわけ漁業との関係も解決を図るべき深刻な課題である。沖縄では一九七九年以降、漁網によるジュゴンの混獲が九件(うち三件が刺し網、六件が定置網)報告されている。適法な漁業活動とはいえ、ジュゴンの生息地における刺し網や定置網の設置について、漁民が不利益を被らない方法で、適切な漁業活動の調整がなされるよう行政指導や対策が緊急に求められていると考えるが、その対応を明らかにされたい。

九、環境庁が環境省になるに当たって、環境保全、野生生物保護に関わる法律を、さらに拡充すべきである。「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」には、海生哺乳類は含まれていないが、ジュゴンについては早急にこの法律に含めるべきである。また、同法によって、沖縄本島北部に「国設鳥獣保護区」を設定すべきと考える。さらに、「自然公園法」による国立公園の指定、同法による特別保護区、海中公園地区等の設定も必要と考えられるが、その対応を明らかにされたい。

十、政府は、キャンプ・シュワーブにおける在沖米国海兵隊の訓練について、特に海域における訓練に関し、その内容、規模、頻度、環境や生物への影響について把握しているか。また、同基地からの廃棄物や廃水の処理について把握しているか。把握していれば明らかにされたい。

  右質問する。