質問主意書

第147回国会(常会)

質問主意書


質問第九号

外国人登録法の改正に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十二年二月八日

円 より子   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   外国人登録法の改正に関する質問主意書

 第百四十五回国会において、外国人登録法の一部を改正する法律案が可決され、今年、四月一日の施行に向けて政・省令の準備に当たっていることと思う。
 外国人登録法に規定されていた指紋押なつ義務は、永住者、特別永住者に続き、今回の改正によりすべての外国人について、指紋による同一人性確認の手段に代えて、署名登録、家族関係事項の登録によって同一人性の確認をすることとされた。長年の在日韓国朝鮮人を始めとする当事者の粘り強い運動と、国会における論議を踏まえて法務省が対応したものと評価する。
 しかし、せっかくの改正が、法の目的の抜本的な見直しや、外国人登録証明書の常時携帯制度の廃止に至らなかったことと併せて考えると、なお、外国人登録制度の目的を含む、外国人の基本的人権に配慮した制度そのものの抜本的な見直しが必要であると考える。
 指紋押なつ制度が全廃されるに当たり、改正法の趣旨説明及び委員会審議における答弁などで、これまで法務省が同制度の必要性として挙げてきたことを真っ向から否定するような理由が挙げられた。
 それは、これまでに指紋押なつ拒否者として告発され、法廷に立たされた人々を有罪にするために法務省が展開した必要な理由、あるいは、法案審議の場で法務省が繰り返してきた答弁を、あっさりと捨て去ったことでもあったと考える。
 そのような一貫性のない理由付けは、指紋押なつ拒否者として有罪判決を受け、あるいは指紋押なつ拒否を理由に在留資格を失った人々に対する背信行為である。
 そこで、以下順次関連する事項について質問する。

一、指紋押なつ制度の全廃に至るまでの政府答弁の整合性について

 「同一人性確認のためには、切替えの都度、指紋押なつをさせ照合することが必要である。」としていたものが、一九八七年に「生涯一回押なつ制」となり、「永住者、特別永住者など長期在留者にこそ指紋押なつが必要だ」としていたものが、一九九二年の改正では、永住者、特別永住者のみ指紋押なつ制度の適用を除外した。論理の一貫性は、この時点で失われていたが、その当時、永住者以外のその他の外国人の指紋押なつ制度を廃止できない理由として、「永住者と異なり日本社会との定着性に欠ける。」ことを挙げていた。しかし、今回は、すべての外国人に対する指紋押なつ制度を廃止することになった。
 次々と前言を翻すことが、在日外国人ばかりではなく、外国人政策の抜本的見直しを求める有識者にも不信感を与えている。改めて、これまでの法務省の答弁と、制度改正の経過とを対照するなどして、在日外国人を含む人々に理解が得られるような回答をされたい。

二、指紋押なつ制度の廃止に伴う在留資格の回復について

 外国人登録法改正案の可決に際し、参議院は指紋押なつ拒否をしたことを原因として、在留資格などにおいて不利益な処遇を受けている者の資格回復などの救済措置を速やかに検討することを内容とする附帯決議を行った。この件については、法務省において検討を開始していることと考えるが、その検討状況について方向性、資格回復の手段、方法などについて経過を示されたい。
 法務大臣は、「入国管理行政上可能な限度でこの状態を救済するための柔軟な方策を検討してまいりたい(平成十一年五月六日・参議院法務委員会)。」と答弁しているが、在留期間更新不許可処分は、出入国管理法上の法務大臣の裁量による処分であることを考えるならば、「可能な限度」ではなく、人道上の問題として決断が求められたと理解すべきである。
 協定永住資格を失ったケースについては、法の附則改正で対応したが、在留期間更新が不許可になったケースの資格回復のための特別措置も、それと同等の重要事項であると考える。特別措置の内容として、在留と在留資格の継続性が維持されるような方法、手段を検討する趣旨であるが、政府の見解を示されたい。

三、常時携帯義務の存続について

 自国民には、身分証明の携帯義務を課しておらず、外国人にのみ義務を課し、しかも日本で出生した四世、五世にまでも義務として罰則で強制している国は、日本だけであることが、国会審議で指摘された。このことをどのように考えているのか。
 また、日本政府は、二〇〇二年十月までに、国連の規約人権委員会に対し、自由権規約に関する国内の実施状況についての第五回報告書の提出が義務付けられている。
 外国人登録証明書の常時携帯義務については、これまで二度にわたって規約人権委員会から改正するよう求められている。これに対し、法務大臣は、今後も制度の見直しを検討する、と答弁しているが、どのように見直すつもりなのか。国会答弁のように、必要性だけを制度維持の理由とするのでは、国際社会の人権水準を審査する同委員会の場で理解されるとは考えられない。制度の抜本的改正を図るべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

四、常時携帯義務違反の罰則について

1.今回の改正で、常時携帯義務違反の罰則が、特別永住者について「歴史的経緯」を理由に行政罰になった。しかし、結果として、同じ行為に対する罰則に差異が生ずることになった。このことについて、法務省は、どのような整合性ある説明をするのか。
2.常時携帯制度を維持する理由として、国会答弁では「不法入国者や不法残留者の摘発」を挙げていた。一部の違反者の摘発のために、すべての特別永住者に携帯義務を課すことには無理があるが、政府はどのように考えるのか。

五、常時携帯義務違反に対する罰則の適用について

1.常時携帯義務違反に対する罰則が、特別永住者については刑事罰から行政罰に修正されたことに伴い、委員会質疑で、逮捕して身柄を拘束することはできないとの答弁があったが、職務質問等の現場での対応は、どのような扱いになるのか。
2.入国警備官など入管局職員が特別永住者の常時携帯義務違反を認知した場合、過料にする具体的な事務処理はどのようになるのか。
 また、過料を納付しなかった場合には身柄を拘束されることになるのか。

六、登録原票の公開に伴う個人情報の保護について

1.委員会審議の場で、登録原票の公開については、個人情報の保護の必要性が指摘され、法務省も個人情報保護法を参考にすると答弁したが、プライバシーの保護についての基本的考えを示されたい。
2.第三者への開示には、本人の同意を条件にすべきであると考えるが、法務省としては、どのように考えているのか。
3.登録原票記載事項証明書の交付を求めることができるとされている弁護士以外の「その他の者」について具体的に特定して定めるべきであると考えるが、法務省の考えを示されたい。

  右質問する。