質問主意書

第146回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三号

我が国の持続可能な森林経営実現に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十一年十一月四日

海野 義孝   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   我が国の持続可能な森林経営実現に関する質問主意書

 近年、国民の森林に対する要請がこれまでになく多様化しており、また、国際的にも「持続可能な森林経営」の推進に向けた取組がなされている。森林整備及び木材の有効利用の推進は、間近に迫った二十一世紀に向けて、環境と調和した「循環型社会」の基盤を構築するという意味において必要不可欠である。
 我が国は、先進国中有数の森林率を誇っている。我が国が戦後の急激な人口増加、右肩上りの経済成長を遂げる中にあっても国土の三分の二の森林率を確保してきたのは、森林の保全と造成に取り組んだ先人達の努力によるところが大きい。
 しかしながら、これまで我が国の森林を守り育ててきた林業と、木材の加工・流通を通じ資源の循環利用に寄与してきた木材産業は、木材価格の低迷や従事者の減少・高齢化等により厳しい状況に置かれている。
 このまま推移すれば、森林の整備が滞り、国民が求めている国土の保全や水資源の確保、教育・文化・保健休養の場の提供等、森林が有する多様な機能の発揮、森林整備を担っている山村社会の健全な発展及び「持続可能な森林経営」・「循環型社会」の実現に支障が生じることが懸念される。
 これらの状況に適切に対処し、健全な森林を次代に引き継ぐため、そして循環型社会の基盤確立のために今こそ森林・林業・木材産業政策を抜本的に見直し、新たな基本政策を確立すべきとの立場から、以下、質問する。

一、去る七月九日、森林・林業・木材産業基本政策検討会の報告を受けて、政府は、森林法と林業基本法の抜本的な見直しに着手し、二〇〇一年の国会に新法案を提出するという方針を示した。
 今後の検討に際し、我が国が目指すべき、循環型社会における基盤構築の担い手としての林業及び木材産業の位置付けを明示すべきと考えるが政府の見解を示されたい。

二、現在の我が国の木材自給率が二〇%を割り込む水準まで低下していることに鑑み、今後、政府が森林・林業・木材産業の基本計画を定め、木材自給率の目標設定を明示すべきであると考えるが政府の見解を示されたい。また、低下を続ける木材自給率への歯止めになる方策を検討すべきと考えるが政府の見解を示されたい。

三、近年、人工林を中心に、再造林が行われていない伐採跡地等、手入れの行き届かない森林の発生が問題となっている。このような山林の荒廃は、保水力の低下を招き、土砂崩れや河川の増水被害等の災害を大きくし、また、「持続可能な森林経営」の推進に重大な支障を来すおそれもある。こうした山林の荒廃の現状を政府はどう把握しているのか。また、その解消のためにどのような施策を講ずべきと考えるか政府の見解を示されたい。

四、従来の林政において、生産政策、構造政策等、多岐にわたる施策を講じてきたものの、林業及び木材産業は依然として厳しい状況に置かれており、これらの政策は十分に効果を発揮してきたとは言い難い。
 今後、林業の生産性の向上に必要な施策を積極的に推進することはもとより、木材の新規用途の研究開発及びその成果の普及の強化等を通じ木材の高品質化や加工・流通の合理化等を促進し、林業及び木材産業の振興を図っていくべきと考えるが政府の見解を示されたい。
 また、林業労働力確保のためには、福利・厚生や新規採用者の研修の充実が必要となっているが、これらの充実に対する政府の方策について明らかにされたい。なお、労災保険や研修に要する負担が事業者の経営を圧迫する状況も見られるが、労災保険料率の引下げ等事業者の負担軽減についてどのように考えるか政府の見解を示されたい。

五、木材価格の低迷等により、一〇〇~五〇〇ヘクタール層の森林を有する林家においても、林業所得が全産業勤め先平均収入を大きく下回っている等、厳しい経営状況に置かれている。林業振興のためには、林地取得等による経営規模の拡大、林道等路網の整備、機械化の促進等、条件整備が必要であるが、厳しい経営環境により、林業経営者の投資意欲が削がれており、その結果、造林、育林、間伐等が滞り、山の荒廃にもつながっている。
 こうした状況を踏まえ、林業関係融資について、利子補給、償還期限及び据置期間の延長等の措置を講じるべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
 また、過去の高金利時期に借り入れた制度資金の利払いが大きな負担となって、経営が危機に陥っている林業経営体がみられることから、既存の借入金の低利の融資への借換え措置等を講じるべきと考えるが政府の見解を示されたい。

六、八月十三日に取りまとめられた中山間地域等直接支払制度検討会の報告を受けて、平成十二年度から中山間地域等直接支払制度が創設されることになっている。同制度は、農業生産条件の不利を補正し、中山間地域等の多面的機能を確保することをその目的としており、特定農山村法、山村振興法等の地域振興八法の指定地域のうち、傾斜等により生産条件が不利で、耕作放棄地の発生の懸念の大きい農用地区域内の一団の農地において集落協定又は個別協定に基づき、五年以上継続される農業生産活動等を行う者に対して平地地域との生産状況の格差の範囲内で直接支払いを実施することとしている。
 林野庁の代替法による試算によれば、森林は、平成三年価格で三九兆二〇〇〇億円もの公益的機能を発揮している。このような農地に劣らない公益的機能を果たしている森林の保全のために活動を行う者に対して直接支払いを実施することについての政府の見解を明らかにされたい。

七、森林・林業の持続的発展のためには、育成に超長期を必要とする森林を円滑に承継していく必要があるが、その際、相続税の負担が大きな問題となっている。政府では相続税の最高税率の引下げ等について検討を行うとのことである。山林の相続税制については、森林の有する多面的機能に着目して、例えば、立木育成過程において繰り返し相続税が課税されることのないよう、伐採適期に達する以前の立木に対する課税の繰延べ制度の創設、相続後も森林として維持される森林について林業経営の収支性に対応した額で立木、林地を評価する等、森林経営の収益能力を超えた過重な課税とならないよう、林業資産の相続税評価額の大幅控除等について抜本的に検討を加える必要があると考えるが政府の見解を示されたい。

八、森林の果たす多様な機能は、流域住民のみならず広く国民全体に及んでいる。森林の持つ環境保全上の役割を積極的に評価し、こうした機能に対する国民の社会的な負担という観点から、森林整備等のために必要な財政支援を国が責任をもって措置すべきであると考えるが政府の見解を示されたい。
 その際、森林保全に大きな役割を果たしている地方自治体に対して、森林交付税制度や水源税といった森林整備に活用できる税財源を導入することについて政府の見解を示されたい。
 また、近年、水道料金に水源林整備への支出金として一定割合を上乗せする事例等、上下流の地方自治体が協力した森林整備への取組がみられるが、上流の山村と下流の都市部の協力による、森林の保全・整備の推進に対する政府の見解を明らかにされたい。

九、森林バイオマスは、化石燃料に代わる再生可能なエネルギーとして、地球温暖化の防止に大きく寄与するため、伐採くずや製材くず等の木質廃棄物を有効利用することが極めて重要であると考えられる。
 しかるに、我が国では、木質廃棄物の多くがそのまま埋設あるいは焼却処理されており、十分にリサイクルされていないのが現状である。こうした現状を踏まえ、廃棄物を含めた木質資源の有効活用のためにどのような具体的施策を講ずるべきと考えるか明らかにされたい。
 また、温暖化ガスの効率的な削減に向け、カーボンサイクルに配慮した森林施業の促進及びバイオマスエネルギーの開発に対し、どのような支援を行っていく方針か、政府の見解を示されたい。

  右質問する。