質問主意書

第145回国会(常会)

答弁書


答弁書第三二号

内閣参質一四五第三二号

  平成十一年十月十二日

内閣総理大臣 小渕 恵三   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員加藤修一君提出サハリンII石油開発プロジェクトにおける石油流出事故対策等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員加藤修一君提出サハリンII石油開発プロジェクトにおける石油流出事故対策等に関する質問に対する答弁書

一について

 政府の危機管理体制に関しては、大規模な災害、事故、事件等の緊急事態が発生した場合の対処等に係る体制整備を内容として盛り込んだ行政改革会議の最終報告を踏まえ、平成十年四月、危機管理機能を強化するため内閣官房に内閣危機管理監が設置され、これに伴う体制の整備を図ったところである。
 このような体制の中で、油流出事故を含め、災害、事故、事件等への各種対処マニュアルの作成等を行い、緊急の事態における応急対策等に万全を期しているところである。

二について

 ロシア国内で実施されるサハリンII石油開発プロジェクト(以下「サハリンIIプロジェクト」という。)は、ロシア政府の規制を受けるものである。サハリンIIプロジェクトの実施主体であるサハリン・エナジー・インベストメント社(以下「サハリン・エナジー社」という。)の作成した環境対策を含めた開発計画は、ロシア政府の審査及び承認を受けており、サハリン・エナジー社の油流出事故対策は十分なものであると聞いている。

三について

 政府としては、サハリン・エナジー社に出資している我が国企業を通じ、サハリン・エナジー社に対して、御指摘の「油流出事故対策計画(OSCP)」(以下「OSCP」という。)の日本語による情報開示を要請しており、同社は、これに応じる意向であると承知している。
 また、サハリン・エナジー社は、OSCPを既にロシア国内では開示しており、我が国においても、情報開示を行う意向があると承知している。

四について

 OSCPについては、その作成過程において、化学薬品の使用と海上燃焼処理がロシアの現行法において禁止されている旨の表現が一時盛り込まれていたことは、御指摘のとおりである。
 しかしながら、その後、化学薬品の使用と海上燃焼処理がロシア現行法で禁止されているとの事実はないことが確認されたことから、当該記述は事実誤認に基づくものであるとして、OSCPから削除されたものと承知している。したがって、本年三月に完成したOSCPにおいては、当該記述は盛り込まれていないところである。
 以上にかんがみれば、OSCPで述べられている流出油の処理方法がロシアの現行法に違反しているとの御指摘は当たらず、また、日本輸出入銀行等による融資が行われる本件事業が、ロシアにおける規制に違反しているという御指摘も当たらない。
 なお、念のため一般論として申し上げれば、こうした政府系金融機関による融資の判断が融資対象国の国内法や規制等を遵守する形でなされるよう、政府として適切に対処すべきことは当然であり、今後とも引き続きそのように努めてまいりたい。

五について

 日本輸出入銀行では、出融資を検討する案件の中で環境への影響が大きくなる可能性があると判断されるものについて、審査部内に設置されていた環境室が審査を行ってきたと聞いている。環境室においては、日本輸出入銀行で規定する環境チェックリストを活用するとともに、必要に応じ外部専門家を活用する等して、効率的な環境審査を実施してきたと承知している。
 情報公開については、日本輸出入銀行は、法律の規定に基づく措置以外にも、出融資案件について随時新聞発表を行うなど積極的に対応してきたところである。社会環境ガイドラインについては、環境配慮のためのガイドラインを策定し、本年九月十四日に公表した。なお、旧日本輸出入銀行と旧海外経済協力基金の各業務を継承して本年十月一日に発足した国際協力銀行においても、それらの業務の目的や性格を踏まえつつ、統合された環境ガイドラインを策定する予定である。また、社会環境対策部門については、国際協力銀行において、旧日本輸出入銀行、旧海外経済協力基金のそれぞれの環境担当部署を統合し、部と対等の独立室として環境社会開発室を設置し、両機関が有していたノウハウ及び経験を活用して環境配慮を行う体制の一層の強化を図ったところである。政府としては、環境配慮の観点から、これらの点につき引き続き適切に対処してまいりたいと考えている。
 環境保護団体等からの意見については、日本輸出入銀行はこれまでもその聴取に努め、適切な指摘については必要に応じて環境審査の内容に盛り込むなど活用してきたところであり、国際協力銀行においても今後とも意見の聴取等が適切になされるよう、政府として引き続き努めてまいりたい。

六について

 タンカーからの油流出事故の未然防止対策については、船舶の設備及び構造、船員の資格等について、千九百七十三年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する千九百七十八年の議定書(昭和五十八年条約第三号)等により基準が定められており、船舶の登録国は自国の船舶に対しこの基準に適合するよう義務付けることとなっている。また、これらの条約において寄港国政府がその港にある外国船舶に対し、国際条約の適合の有無を確認する目的で立入検査を実施することができ、一定の場合には、当該外国船舶の航行を差し止める等の措置をとることとなっている。これらの内容は、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(昭和四十五年法律第百三十六号)等の我が国国内法で規定されており、具体的な措置が講じられているところである。

七の1について

 サハリンIIプロジェクトに係るタンカーからの油流出事故の未然防止対策については、六についてで述べたとおり、必要に応じ国際条約に基づく立入検査等を実施することができるよう措置しているところである。

七の2について

 政府としては、我が国沿岸部に影響を及ぼす油流出事故が発生した場合には、「油汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」(平成九年十二月十九日閣議決定。以下「緊急時計画」という。)において定めるところに従い、関係省庁間で十分に連携を図り、迅速、的確に対応していくこととしている。
 具体的には、ナホトカ号海難・流出油災害等の教訓を踏まえ、外洋においても対応可能な大型油回収装置、高粘度油にも対応できる油回収装置その他の大規模油流出事故に対応するために必要な油防除資機材の整備に努めるとともに、油防除の専門家である機動防除隊の増強、大型浚渫船兼油回収船の建造を行う等流出油防除体制の強化を図っているところである。

七の3について

 サハリンIIプロジェクトにおける生産施設からの油流出事故については、事業主体であるサハリン・エナジー社は、当該事故に対する所要の資金手当が可能であると聞いている。
 また、タンカーからの油流出事故については、千九百六十九年の油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約を改正する千九百九十二年の議定書(平成七年条約第十八号)等により、二千トン以上の油を運搬するタンカーの船主は、一定額の保険契約等の締結を義務付けられている。さらに、当該保険契約等で填補される額を超えた場合は、被害者は千九百七十一年の油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する国際条約を改正する千九百九十二年の議定書(平成七年条約第十九号)等により、一定額までの被害について、国際基金から補償を受けることができることとなっているところであり、これらの内容は我が国の油濁損害賠償保障法(昭和五十年法律第九十五号)で規定されている。

七の4について

 サハリンIIプロジェクトにおける生産施設からの油流出事故については、サハリン・エナジー社において、生産施設に近いノグリキ市に油回収船(オイルフェンス等搭載)を配備しているほか、サハリン州政府所有の機材を活用する計画を有しているとともに、人員の訓練を行う等、迅速に所要の設備と人員の配置ができるような体制を整備していると聞いている。
 また、我が国沿岸部に影響を及ぼす油流出事故が発生した場合には、七の2についてで述べたとおり、緊急時計画に定めるところに従い、関係省庁間で十分に連携を図り、迅速、的確に対応してまいりたい。

八の1について

 政府としては、北海道漁業協同組合長会議及び北海道指導漁業協同組合連合会の関係者に対し、サハリン・エナジー社の作成した資料に基づき、サハリンIIプロジェクトの具体的な内容についての説明を行った。また、当該関係者が、同社に出資している我が国企業に対し当該プロジェクトに関し直接説明を受けることを希望していたため、当該我が国企業に対して、当該関係者の要請内容を伝達するとともに、当該関係者から説明を求められた場合には積極的に対応してほしい旨依頼したところである。政府としては、今後とも、我が国関係企業に対し、サハリンIIプロジェクトに関する情報開示を積極的に求めてまいりたい。

八の2について

 政府としては、ナホトカ号海難・流出油災害等の教訓を踏まえ、機動防除隊の増強、大型浚渫船兼油回収船の建造等我が国周辺海域で発生する大規模油流出事故に対する防除体制の強化を図っているところである。

八の3について

 御指摘の点については、海上保安庁とロシア運輸省海運局海洋汚染防除・救助部との間で油流出事故発生時に備えて相互に連絡窓口を設定するとともに、日本国、ロシア及びアメリカ合衆国の三か国で油防除合同訓練を実施し、並びに日本国、ロシア、大韓民国及び中華人民共和国の四か国で実務者会合を開催してきているところであり、引き続き、こうした機会を通じて、我が国とロシアとの連携及び連絡を密にしていく必要があると考える。
 両国間の協定の締結に関しては、政府としては、ロシアが事故発生時の迅速な協力の実施を確保するための千九百九十年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約(以下「OPRC条約」という。)を早期に締結することが、まずは重要であると考えている。

九について

 二についてで述べたとおり、サハリン・エナジー社の油流出事故対策は十分なものであると聞いている。
 また、我が国沿岸部に影響を及ぼす場合の我が国における油流出事故対策については、六について及び七の2についてで述べたとおり、必要な措置が講じられているところである。

十について

 政府としては、サハリン・エナジー社は、事故防止に必要な対策を講じており、万が一事故が発生した場合であっても、迅速な対応を行うことにより、周辺環境に極力被害が及ばないように安全対策を講じている旨を聞いている。
 また、オホーツク海における今後の石油開発の全体像は必ずしも把握していない。
 なお、政府としては、エネルギー供給源の過半を石油に依存する我が国においては、その石油のほぼ全量を輸入に依存し、中東依存度が高いなど石油の供給構造が脆弱であり、緊急時において安定的な供給が期待される原油の確保が必要であるため、自主開発政策を推進しているところであるが、その実施に当たっては、産油国の規制を遵守するとともに、周辺の水産資源及び自然環境に十分配慮するよう我が国関係企業に促してまいりたい。

十一について

 本年七月二十三日、モスクワにおいて開催された第二回日露エネルギー協議では、サハリン・プロジェクトの進ちょく状況について意見交換がなされた。その中で日露双方は、サハリンIIプロジェクトが七月から石油生産を開始することを評価した上で、更にプロジェクトを円滑に実施していくための措置につき意見交換を行ったが、油流出事故対策については特にやりとりは行われなかった。
 本年六月二十九日から三十日までモスクワにおいて開催された日露環境保護合同委員会第二回会議では、両国の環境行政及び環境政策、両国における環境問題及び地球環境問題に対する取組等について話し合われたが、サハリン沖での石油開発計画における環境汚染対策については議論にのぼらなかった。
 環境の保護の分野における協力に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定(平成三年四月十八日署名)に基づき設置された日露環境保護合同委員会をロシア極東地域において開催すること及び同委員会に地域の環境保護団体の代表者を参加させることは、政府としては、現段階において考えていないが、今後検討してまいりたい。

十二について

 OPRC条約は、船舶、油取扱施設等から生ずる油による汚染事件を原因とする被害を最小限に抑えるための国内の体制を整備すること及びかかる事件に対して迅速かつ効果的な措置をとるための国際協力の枠組み等について定めるものであり、我が国は平成七年十月に本条約を締結したが、ロシアは未締結である。
 政府としては、平成九年一月のナホトカ号海難・流出油災害後、ロシアに対して本条約の早期締結を申し入れたが、より多くの国が本条約を締結することが海洋環境の一層の保全に資すると考えられるところ、今後とも、ロシアに対し本条約を早期に締結するよう働きかけてまいりたい。