質問主意書

第145回国会(常会)

答弁書


答弁書第二五号

内閣参質一四五第二五号

  平成十一年八月三十一日

内閣総理大臣 小渕 恵三   

       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員荒木清寛君提出聴覚障害者の社会参加を制限している欠格条項の見直しの推進等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員荒木清寛君提出聴覚障害者の社会参加を制限している欠格条項の見直しの推進等に関する質問に対する答弁書

一の1について

 御指摘の調査は、「障害者対策に関する新長期計画」(平成五年三月二十二日障害者対策推進本部決定。以下「新長期計画」という。)に定められている障害者に係る欠格条項の必要な見直しの検討を推進する観点から、見直しの現状を把握することを目的として実施したものである。

一の2について

 御指摘の調査結果を踏まえて、政府は総理府を中心に関係各省庁が連携して障害者に係る欠格条項の見直しを推進するための方策を検討し、必要性の薄いものについては障害者に係る欠格条項を廃止すること等を内容とする「障害者に係る欠格条項の見直しについて」(平成十一年八月九日障害者施策推進本部決定)として決定したところである。

一の3について

 新長期計画及び「障害者プラン~ノーマライゼーション七か年戦略~」(平成七年十二月十八日障害者対策推進本部決定。以下「障害者プラン」という。)において障害者に係る欠格条項の見直しについての検討が定められていることは御指摘のとおりであり、その進ちょく状況について、毎年度調査を行ってきたところである。平成九年に総理府が行った御指摘の調査は、各省庁における見直しの検討が必ずしも十分には進んでいないと判断し、新長期計画等のより一層の推進を図る観点から、見直しの現状を把握することを目的として実施したものである。

一の4について

 障害者プランにおいては、「心のバリアを取り除くために」の項において、障害者に対する「資格制度における欠格条項の扱いの見直しを行う」と明記しており、障害の種別にかかわらず障害者に係る欠格条項の見直しを行うことを明確に定めている。

一の5について

 御指摘の「障害者に係る欠格条項一覧」は、総理府が各省庁の所管する制度における障害者に係る欠格条項を照会した結果を整理したものであり、回答に遺漏はないものと認識している。
 なお、「「調査漏れの欠格条項が多数あり、法律本数で三百近くある」等々の指摘」については、承知していない。

一の6について

 平成十年五月以降、中央障害者施策推進協議会において、障害者に係る欠格条項の撤廃又は緩和が可能か否かを検討するに当たっての視点及び欠格条項の撤廃又は緩和を行う場合に留意すべき点を中心に議論が行われ、同年十二月十五日に欠格条項見直しに係る検討方針の視点に関する報告書が取りまとめられた。その後この報告書を踏まえ、政府において統一的な対処方針について検討を行い、平成十一年八月九日に「障害者に係る欠格条項の見直しについて」として、障害者施策推進本部において決定したところである。

一の7について

 「障害者に係る欠格条項の見直しについて」においては、「本方針に基づく見直しは、可及的速やかに行うものとし、遅くとも「障害者対策に関する新長期計画」の計画期間内に必要な措置を終了するものとする。」とされている。これは、個々の制度について具体的な見直し作業や必要な法令改正の時期を同じにすることを意味するものではなく、基本的には見直し作業が終わったものから順次法令改正を含めた必要な措置が行われるものと考えている。

二の1について

 「障害者に係る欠格条項の見直しについて」においては、基本的考え方として、現在の障害及び障害者に係る医学の水準、障害及び障害者の機能を補完する機器の発達等科学技術の水準等を踏まえ、制度の趣旨に照らして、現在の障害者に係る欠格条項が真に必要であるか否かを再検討し、必要性の薄いものは廃止するとし、再検討の結果、真に必要と認められるものについての具体的な対処方針として、対処の方向の一つに「絶対的欠格から相対的欠格への改正」を掲げている。聴覚障害を絶対的欠格事由とする制度については、今後この決定に従って各制度ごとに検討が行われるものである。
 なお、陪審法(大正十二年法律第五十号)については、陪審法ノ停止ニ関スル法律(昭和十八年法律第八十八号)により、昭和十八年四月一日から現在に至るまでその施行を停止されているのみならず、陪審法に規定する陪審員の資格要件について「帝国臣民タル男子」とするなど現行法制に適合しない規定が少なからずあり、これらの規定を存置したまま、同法の障害者に係る欠格条項のみの改正を行うことは適当ではないと考えている。

二の2について

 第百四十五回国会において、御指摘のような措置を講じる内容の規定を盛り込んだものは、「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」による検察審査会法(昭和二十三年法律第百四十七号)の一部改正のみであったが、継続審査とされたところである。
 また、障害者に係る欠格条項については、「障害者に係る欠格条項の見直しについて」に従ってそれぞれの制度の所管省庁において見直しが開始されたところである。

二の3について

 「耳が聞こえない者」であること等障害者に係る運転免許の欠格事由については、現在、新長期計画、障害者プラン及び「障害者に係る欠格条項の見直しについて」の趣旨を踏まえ、道路交通の安全に配慮しつつ、所要の調査検討を行っているところである。

二の4について

 薬学部における聴覚障害者の受験について、障害の程度により受験制限を行う場合がある大学は、国公私立四十六大学のうち九大学あるが、これらは、いずれも修学上の支障をその理由としているものと承知している。
 政府としては、従来から、各大学に対し、身体に障害のある入学志願者については、その能力、適性等に応じた学部等への進学の機会を広げる観点から、受験の機会を確保するよう配慮することを求めているところであり、今後とも、受験の機会の確保について、指導してまいりたい。
 薬剤師については、薬剤師法(昭和三十五年法律第百四十六号)に基づき調剤のほか、処方せん中に疑義があった場合の医師等への照会及び患者等に対する調剤した薬剤の適正な使用のために必要な情報の提供の業務を行うものであり、これらを適切に行うためには、患者の状況を的確に把握し、患者や医師等と適切な意思の伝達を行うことが必要であることから、同法第四条第二号において「耳が聞こえない者」には免許を与えないこととする欠格条項を設けているところである。当該欠格条項については、このような業務の特性に十分配慮した上で、政府全体の欠格条項の見直し状況等を踏まえて、その在り方について検討してまいりたい。

三の1について

 保育士の資格を取得するためには、保育士養成施設を卒業するか、又は保育士試験に合格しなければならない。保育士養成施設における教育課程においては、基礎技能の教科目を履修することとされているが、「保母を養成する学校その他の施設の指定基準について」(平成三年七月五日付け児発第六百二十号厚生省児童家庭局長通知)により、音楽については、この基礎技能の教科目において、図画工作、体育等とともに総合的に技能を修得できるよう、科目の開設に際して配慮することを求めている。また、保育士試験についても、「保母試験の実施について」(平成元年三月二十七日付け児発第百八十六号厚生省児童家庭局長通知)により、音楽関係の技術については、保育実習の実地試験において、絵画制作技術等の他の三分野と併せた四分野から三分野を選択し、その各々について出題することとしており、保育士の資格取得に際して音楽をとりわけ重視しているものではない。
 なお、聴覚障害者の資格取得の状況については、把握していない。

三の2について

 聴覚障害者のための字幕ビデオの作成等に当たっては、映画、放送番組等の複製及び字幕作成のための音声内容の要約や省略が行われることが通常であることから、これを自由に認めるためには、著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第二十一条の複製権や同法第二十七条の翻案権を制限するとともに、要約や省略の方法によっては著作者の人格的権利である同法第二十条第一項の同一性保持権を制限することが必要となる。
 しかしながら、著作権法における聴覚障害者関係の問題の検討に当たっては、これが多くの権利者が関係する問題であるとともに、同一性保持権という著作者の人格的権利を一律に制限することは問題であることから、制度改正については慎重に考えてきた一方で、円滑な字幕ビデオの提供のため字幕ビデオ作成に係る簡便な権利処理を促進してきたところである。
 政府としては、最近の技術の発達を踏まえ、聴覚障害者が著作物をより適切公正に利用することができることは重要であると考えており、今後、関係者の意見を十分聞きながら、必要な方策について検討してまいりたい。

三の3について

 手話通訳を付した政見放送については、参議院議員(比例代表選出)選挙について平成七年の通常選挙から制度化され、また、衆議院議員(小選挙区選出)選挙について平成八年の総選挙から候補者届出政党等が自ら録音し又は録画した政見を提出する方式が採用されたことにより、手話通訳を付した政見放送も可能となっている。なお、政見放送の認められているその他の選挙については、手話通訳士の地域的偏在等から当面は制度化が困難であり、手話通訳士や候補者等の数の推移を見守ることが必要であると考えている。
 字幕を付した政見放送については、多数の候補者の政見放送に字幕を付することは極めて困難であること、政見放送の時間内に字幕により表示できる文字数に限界があることなどの問題点があり、現時点で導入することは困難と考えている。
 また、聴覚障害者がファクシミリを使用して投票依頼の文書図画を不特定若しくは多数人に配布する場合又は当該文書図画の配布を受けた者を通じて当然若しくは成り行き上不特定若しくは多数人に配布されるべき情況の下に当該文書図画を配布する場合については、公職選挙法(昭和二十五年法律第百号)第百四十二条に規定する文書図画の頒布に該当し、禁止されるものと考える。
 なお、聴覚障害者がファクシミリを使用して投票依頼の文書図画を頒布することを認めることは、当該文書図画を頒布した者が聴覚障害者であるか健聴者であるかを特定することが困難であること等から同条の規定による規制の実効性が失われるおそれがあり、同条の趣旨を述べた昭和五十二年二月二十四日最高裁判所判決「公職の選挙につき文書図画の無制限な頒布を許すときは、選挙運動につき不当の競争を招き、これがため選挙の自由公正を害し、その適正公平を保障しがたいこととなるので、かような弊害を防止すること」にかんがみると、困難であると考えられる。