第145回国会(常会)
答弁書第二二号
内閣参質一四五第二二号 平成十一年八月二十四日 内閣総理大臣 小渕 恵三
参議院議員清水澄子君提出日米防衛協力のための指針と周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。 参議院議員清水澄子君提出日米防衛協力のための指針と周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律に関する質問に対する答弁書 一について 我が国は、日本自身の安全と繁栄及びそれと不可分の関係にある国際社会全体の安定と繁栄を確保すべく包括的な外交政策を推進していくことにより、二十一世紀に向け「世界への架け橋」を築いていく考えである。
二について 周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律(平成十一年法律第六十号。以下「周辺事態安全確保法」という。)に基づく対米協力は、我が国の平和と安全の確保に資するものであり、我が国の安全並びに極東の平和及び安全の維持という日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(昭和三十五年条約第六号。以下「日米安保条約」という。)の目的の枠内で行われるものである。
三の1について 周辺事態安全確保法第九条第一項に基づき協力の求めを受けた地方公共団体の長は、協力を求められた事項について定められた法令に基づいて正当な理由がある場合には、協力を拒むことができる。この拒否の事由が正当な理由に当たるか否かは、個別具体の事例に即して、当該権限について定められた個別の法令に照らして判断されることとなるため、あらかじめ網羅的にすべての場合について示すことは困難であるが、あえて例を挙げれば、港湾及び空港施設の使用に際しての権限行使について協力を求められた場合には、例えば、使用内容が施設の能力を超えることが、建物、設備等の安全等を確保するための許認可について協力を求められた場合には、例えば、設置しようとする施設が法令に定める基準を満たしていないことが正当な理由に当たるものと考える。 三の2について 地方公共団体の長が協力を拒否した場合であっても、周辺事態安全確保法には、協力拒否に対する罰則等の規定はない。
三の3について 周辺事態安全確保法第九条第一項に基づく協力の求めは、地方公共団体の長に対して、個別の法令に基づき地方公共団体の長が有する権限を適切に行使することを求めるものであり、これを拒む正当な理由があるか否かは、個別具体の事例に即して、当該個別の法令に従って判断されるものである。地方議会の決議や住民の請求等は、一般に、このような行政上の個別の権限行使について、法的に影響を及ぼすものではないと考える。 三の4について 地方公共団体の行う輸送、給水、医療機関への患者受入れ、物品の貸与等については、公権力の行使として行うものではないことから、周辺事態安全確保法第九条第二項に基づく協力の依頼の対象として整理しているものである。
三の5について 御指摘の「基地周辺住民等が殺傷された場合」が具体的にどのような場合であるか明らかではないが、周辺事態安全確保法に基づく協力の求め又は依頼に応じた場合に、そのような事態が発生することは想定し難い。
三の6について 民間船社、民間航空会社等港湾又は空港を通常使用している者が、周辺事態安全確保法第九条第二項に基づく施設の使用時期の変更等に関する協力の依頼に応じ、協力と相当因果関係のある損失を受けた場合には、同条第三項に基づき財政上の措置を講ずることは考えられる。 四の1について 周辺事態安全確保法にいう我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(以下「周辺事態」という。)が生起しているか否かにかかわらず、日米安保条約第六条の実施に関する交換公文にいう事前協議の主題に該当する場合があれば、米側の日米安保条約上の義務として当然事前協議が行われることとなる。 四の2について 事前協議の主題となる「日本国から行われる戦闘作戦行動のための基地としての日本国内の施設及び区域の使用」にいう「戦闘作戦行動」とは、直接戦闘に従事することを目的とした軍事行動を指すものであり、したがって、米軍が我が国の施設及び区域から発進する際の任務及び態様がかかる行動のための施設及び区域の使用に該当する場合には、日米安保条約第五条に基づいて行われるものを除き、米国は我が国と事前協議を行う義務を有する。 四の3について 事前協議は、米国が一定の行動を執ろうとする場合に事前に我が国に対して協議を行わなければならないことを義務付けたものであって、このような性格上、米側から提起すべきものであり、我が方から米側に対し発議するものでないことは当然である。 四の4について 四の3についてで述べたとおり、事前協議は、その性格上、我が方から米側に対し発議する問題ではない。
四の5について 御指摘の「米国の協力要請」とは事前協議に係るものであると理解するが、事前協議の運用に際してのに係るものであると政府の基本的立場は、周辺事態安全確保法にいう周辺事態が生起しているか否かにかかわらず、我が国の国益確保の見地から、具体的事案に即して自主的に判断して諾否を決定するということである。したがって、戦闘作戦行動のための基地としての我が国国内の施設及び区域の使用についての事前協議並びに配置における重要な変更についての事前協議について、「イエスもあればノーもある」というのが政府の基本的な立場である。なお、核持込みについての事前協議が行われた場合には、政府として常にこれを拒否する考えである。 四の6について 平成九年九月二十三日に日米安全保障協議委員会において了承された日米防衛協力のための指針(以下「指針」という。)は、日米安保条約及び日米安保条約第六条の実施に関する交換公文を含む関連取極に基づく権利及び義務は変更されないことを前提としており、指針の中で言及されている米軍の諸活動につき、事前協議の主題に該当する場合があれば、米側の日米安保条約上の義務として当然事前協議が行われることとなる。 五の1について 指針は、日米両国政府が(1)平素、(2)日本に対する武力攻撃及び(3)周辺事態という三つの場合における日米協力の在り方について一般的な大枠及び方向性を示すものであり、政治的な意思の表明として作成した文書である。すなわち、日米いずれの政府も、指針により、立法、予算又は行政上の措置を採ることを義務付けられるものではない。また、指針により日米両国の間に国際法上の権利義務関係が生じることはない。
五の2について 周辺事態安全確保法は、指針の実効性確保のため、我が国としての検討の成果等を踏まえて制定されたものであり、周辺事態に対応して我が国が実施する措置、その実施の手続その他の必要な事項を定めるものである。
(一) 指針において日米両国政府が各々主体的に行うこととされている諸活動のうち、我が国が行う活動として「後方地域捜索救助活動」につき必要な規定を整備した。
五の3について 五の1についてで述べたとおり、指針自体は国内法又は国際法としての法的効力を持つものではない。しかし、指針で言及されている活動の中で周辺事態安全確保法に規定されていないものであっても、別途日米安保条約及びその関連取極並びに既存の国内法を根拠として実施することが可能な活動も存在する。 五の4及び7について 指針は、日米安全保障協議委員会の下にある日米防衛協力小委員会における検討結果を取りまとめたものであり、平成九年九月二十三日、ニュー・ヨークにおいて開催された日米安全保障協議委員会において報告され、了承されたものである。
五の5について 平成九年九月十六日、閣議に引き続いて、病気療養中であった越智農林水産大臣を除く全閣僚の出席の下で、閣僚懇談会を開催し、その時点での指針見直しの概要について外務大臣及び防衛庁長官からの説明があり、その実効性を確保するとの観点から閣僚による議論が行われた。
五の6について お尋ねの「橋本総理談話」が何を指すのか明らかではないが、平成九年九月二十九日の閣議において橋本内閣総理大臣から言及のあった「先般の閣僚懇談会」とは、指針見直しについての議論が行われた同月十六日の閣僚懇談会を指している。議論の内容等については、五の5についてで述べたとおりである。 五の8について 御指摘の期間に日米間で締結された防衛協力に関する国際約束は以下のとおりである。
五の9及び10について 指針VI「指針の下で行われる効果的な防衛協力のための日米共同の取組み」の下で検討される「共通の基準」及び「共通の実施要領等」は、日米双方の関係機関の関与を得て構築される包括的なメカニズムにおいて検討され、日米両国政府が確立することとなっている。これらの作業の進捗状況及び結果は、節目節目に日米安全保障協議委員会及び日米防衛協力小委員会に対して報告される。
五の11について 指針に示す「各々の部隊の活動を適切に律するための基準」とは、日本に対する武力攻撃に際して日米の共同対処行動が円滑かつ効果的に実施されるよう、日米各々が定めるその部隊の活動の準拠となる事項を念頭においており、この基準の具体的な内容については、日米間の包括的なメカニズムにおける共同作業において検討されることとなっている。 五の12について 五の1についてで述べたとおり、指針により、日米両国の間に国際法上の権利義務関係が生じることはないので、指針は条約ではなく、国会の承認の対象となるものではない。したがって、指針は、和文テキスト、英文テキストともに、承認のために国会に提出されてはいない。このことは、旧指針についても同様である。 五の13について 指針の和文テキストについては、(1)旧指針の和文テキストとの整合性、(2)指針の見直しに際する米側との協議の経過等を踏まえ、また、日本語として文脈上最も適した表現となるよう、政府部内において最善の努力を払って作成したものである。指針についての事務を所掌する省庁は、外務省及び防衛庁であるから、英文テキストと和文テキストの整合性については、それぞれの省庁の長である外務大臣及び防衛庁長官が最終的な責任を負う。 五の14について 指針策定に際し、日米間で指針の解釈と実施に関する附属文書が作成されたということはない。 五の15について 「bilateral」については、「双方の」、「二国間の」、「双務的な」等の意味があるが、日米が協力し合うという文脈で使われていることから、「共同で」という用語を使用している。その意味において、旧指針における「joint」との間で本質的な違いがあるわけではない。 六の1について 指針は、日米防衛協力小委員会において作成され、日米安全保障協議委員会に報告され、了承されたものであり、指針の所管大臣は、同委員会の日本側構成員である外務大臣及び防衛庁長官である。指針の閣議報告については、外務省が米国との協議等を横断的に調整し、総合的に取りまとめていたことから、外務省設置法(昭和二十六年法律第百八十三号)第三条第一号、第十号等の規定に基づき外交政策の企画立案及びその実施、対外関係事務の処理及び総括等がその任務とされている外務省が主請議省庁となったところである。このため、閣議及び事務次官等会議付議事項の件名等目録において、外務省、防衛庁の順に記載したものである。
六の2について 旧指針も、日米防衛協力小委員会において作成され、日米安全保障協議委員会に報告され、了承されたものであり、旧指針の所管大臣は、同委員会の日本側構成員である外務大臣及び防衛庁長官である。
六の3について お尋ねの「周辺事態法の所管が防衛庁とされた」との意味が明らかではないが、周辺事態安全確保法に基づく対応措置については、措置の内容に応じそれぞれ関係行政機関が所掌するものである。この場合、実態上、対応措置は自衛隊が行うものが多く、これらは防衛庁設置法第五条第四十号等に基づき防衛庁の所掌事務となり、内閣総理大臣官房安全保障・危機管理室、外務省等との間の協力態勢の下に、防衛庁がその実施を担っていくこととなるものである。
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