質問主意書

第145回国会(常会)

答弁書


答弁書第二一号

内閣参質一四五第二一号

  平成十一年八月十日

内閣総理大臣 小渕 恵三   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員荒木清寛君提出脳外傷者の救済策の確立等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員荒木清寛君提出脳外傷者の救済策の確立等に関する質問に対する答弁書

一について

 御指摘の脳外傷者については、厚生省が三年ごとに実施している患者調査において、特定の調査日における全国の医療施設で受療した脳外傷(後遺症を含む。)の患者数を推計しているところである。また、厚生省においては、知的障害者対策及び老人対策の対象とならない若年痴呆者(十八歳から六十四歳までにおいて痴呆症状を生じた者をいう。)の実態について、平成八年度からの厚生科学研究費補助金による研究課題として「若年痴呆の実態に関する研究」を取り上げているところであり、当該研究において御指摘の脳外傷者の人数及びニーズ等の実態について調査を実施したところである。

二の1について

 障害を有する脳外傷者については、その障害の種別及び程度に応じ、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号。以下「精神保健福祉法」という。)第四十五条の規定に基づく精神障害者保健福祉手帳、身体障害者福祉法(昭和二十四年法律第二百八十三号)第十五条の規定に基づく身体障害者手帳又は「療育手帳制度について」(昭和四十八年九月二十七日厚生省発児第百五十六号厚生事務次官通知)に基づく療育手帳が交付され、それぞれの障害に応じた施策の対象とされているところであり、また、国民年金法(昭和三十四年法律第百四十一号)第三十条第二項又は厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第四十七条第二項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときは、障害基礎年金又は障害厚生年金が支給されているところである。これらの各制度における障害の認定及びその等級は、それぞれの制度の目的に応じて定められており、御指摘のように脳外傷者について別途の認定を行い、各制度に反映させるようなことは困難である。御指摘の自動車損害賠償責任保険についても、「自動車損害賠償責任保険(共済)支払基準」(昭和五十年一月二十二日自保第二百五十八号運輸省自動車局長通知)は、自動車損害賠償保障法(昭和三十年法律第九十七号)第三条の規定に基づき保有者の損害賠償の責任が発生した場合において保険会社等が支払う保険金等の内容を、障害による損害及び後遺障害による損害の程度に応じて定めているものであり、御指摘のように他制度における障害の認定と連動させることは困難である。

二の2について

 国民年金法又は厚生年金保険法に基づく障害を支給事由とする年金の支給手続においては、国民年金法施行規則(昭和三十五年厚生省令第十二号)第三十一条第二項又は厚生年金保険法施行規則(昭和二十九年厚生省令第三十七号)第四十四条第二項に基づき、受給権者に障害の状態に関する医師又は歯科医師の診断書を受給権の裁定請求の際に提出することを求めている。この場合において、精神障害を事由として年金受給権の裁定の請求を行うときは、「国民年金法の一部を改正する法律の施行について」(昭和三十九年六月五日庁保発第二十三号社会保険庁年金保険部長通達)等により、精神保健福祉法第十八条第一項の精神保健指定医又は精神科を標ぼうする医師が作成した診断書の提出を求めているところである。これは、精神障害の認定については、脳外傷者の場合を含め、その障害の特殊性から、精神障害に関する専門的知見を有する医師により障害認定日における障害の状態やその後の見通しを十分考慮して作成された診断書の提出を求める必要があると考えているためであり、現在のところ、これを変更する必要はないと考えている。

三の1について

 障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号。以下「障害者雇用促進法」という。)第二条第一号においては、障害の原因や種類については限定せず、身体又は精神に障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者を障害者と定義している。したがって、脳外傷者についても、身体又は精神の障害により、職業生活に相当の制限を受けている場合は、障害者雇用促進法に基づき、障害の特性に配慮した職業指導等の措置の対象となるものである。
 また、御指摘の職業準備訓練に関しては、日本障害者雇用促進協会において、脳外傷等により高次脳機能障害を有する者の職場復帰の促進及びより効果的な職業リハビリテーション技法の確立のため、同協会が行った頭部外傷者及び高次脳機能障害者に関する研究等を踏まえ、同協会の障害者職業総合センターにおいて、「高次脳機能障害を有する者の職場復帰支援プログラム」を平成十一年度から実施しているところである。

三の2について

 脳外傷者を含めた障害者の雇用を促進するためには、障害者が事業所において必要な支援を受けながら職場適応を図ることが有効であると認識しており、現在、障害者雇用促進法に基づく障害者雇用納付金制度において、一定の程度の障害を有する労働者の雇用に伴い必要となる介助等を行う者の委嘱又は配置を行う事業主に対して重度障害者介助等助成金を支給することとしている。また、障害者に対する就職前の職業準備訓練として、日本障害者雇用促進協会が各都道府県に設置している地域障害者職業センターにおいて、民間の事業所に委託し、個々の障害者の障害の状況や特性に応じて、生活支援パートナー及び技術支援パートナーによる指導及び援助を受ける職域開発援助事業を実施しているところである。御指摘の就職後も含めた支援体制については、この職域開発援助事業の成果も踏まえ、今後充実に努めてまいりたい。

三の3について

 障害者雇用促進法においては、第十八条第二号から第七号まで及び第三十九条の十三の規定に基づき、身体障害者、知的障害者その他政令で定める障害者等一定の程度の障害を有する労働者を雇用する事業主等に対して、障害者雇用納付金制度に基づく助成金を支給することとしている。御指摘の脳外傷者についても、これらの者に該当するような身体又は精神の障害が生じている場合には、その者を雇用する事業主等を助成金の支給対象として雇用の促進を図っているところである。

四について

 御指摘の介護者の疲労回復等、在宅の脳外傷者に対する支援措置については、当該脳外傷者の障害の内容に応じ、各種の在宅生活の支援措置を講じているところであり、御指摘の身体機能の障害を有する者に対する施策としては、十八歳未満である場合は児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第二十一条の十の定めるところにより、また、十八歳以上である場合は身体障害者福祉法第十八条の定めるところにより、居宅介護等事業、デイサービス事業、短期入所事業等の居宅生活支援事業の対象となるものである。

五の1について

 御指摘の認知リハビリテーションとは、記憶障害や失語症等の脳機能障害に対する治療法の一つとして日常生活上必要な行為を繰り返し行わせること等を通じてリハビリテーションを行うことを指すものと考えられるが、このような治療法については、現行の診療報酬において既に作業療法等として評価され、点数化されているところである。

五の2について

 脳外傷の治療、リハビリテーション等については、地域の医療機関等において必要に応じて実施されていると承知しているが、御指摘の脳外傷専門のリハビリセンターについては、現在のところ、そのような施設の機能や内容について特に定めていないことから、厚生省においては、このような施設の設置及び運営の状況を把握することは行っていない。また、御指摘のような施設の整備目標は、設定していない。
 なお、国立身体障害者リハビリテーションセンター病院においては、神経内科の医師を中心に高次脳機能障害評価訓練室を設け、脳外傷者も対象としたリハビリテーションを実施しているところである。

五の3について

 脳外傷の診断、治療及びリハビリテーションのように高度の専門性が要求される分野における医師の養成については、関係学会等における専門医制度や研修等により、自主的な取組が行われていると承知している。なお、厚生省において、医師等が行う研究活動について、厚生科学研究費補助金等により助成しているところであり、脳外傷に関しては、平成九年度から「中枢神経系外傷に関する研究」を課題として取り上げているところである。
 また、臨床心理士については、現在、財団法人日本臨床心理士資格認定協会が資格認定を行うとともに、主催する研修会において脳外傷に関連する内容が取り上げられていると承知している。なお、臨床心理に係る技術者の資格に関しては、平成九年度から厚生科学研究費補助金による「臨床心理技術者の資格のあり方に関する研究」において研究者による検討が進められているところである。

六について

 お尋ねの当事者団体の育成については、厚生省においては、保健所における患者及びその家族に対する相談活動や患者の会に対する支援活動の活用を図るとともに、当事者団体の支援を行うボランティアの活動を促進するため、都道府県社会福祉協議会及び市町村社会福祉協議会が地域住民の社会活動への参加の促進を目的として行うボランティアセンター事業に対する助成を行ってまいりたい。
 また、お尋ねの公的相談機関の充実については、平成十年度の厚生科学研究費補助金による「若年期痴呆の処遇に関する研究」において、脳外傷の後遺症も含めた若年痴呆の症状、介護の方法等に関する情報を患者の家族並びに医療及び福祉関係者に対して分かりやすく説明するための診断、治療等に関するガイドラインの作成を課題としているところである。今後、このガイドラインが作成された場合には、厚生省において、これを医療関係者のほか、都道府県等の精神保健福祉センター、福祉事務所等の全国の関係機関に配布する等により周知し、脳外傷者及びその家族からの相談に対し適切な対応を行い、保健又は福祉サービスの利用の促進を図りたいと考えている。