質問主意書

第145回国会(常会)

答弁書


答弁書第五号

内閣参質一四五第五号

  平成十一年三月二十六日

内閣総理大臣 小渕 恵三   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員櫻井充君提出臓器移植等に伴う感染症予防対策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員櫻井充君提出臓器移植等に伴う感染症予防対策に関する質問に対する答弁書

一及び二について

 お尋ねの文献情報の収集については、厚生省の内部部局においては、現在、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン(以下「NEJM」という。)、米国疾病対策予防センター(CDC)の週報(以下「MMWR」という。)、サイエンス及びランセットの各誌について、健康政策局、保健医療局又は医薬安全局の関係課が入手し、各課内において回覧する等の方法により活用を図っているところであるが、これらの文献情報についての過去の入手等の実態の詳細は不明である。また、厚生省所管の試験研究機関である国立感染症研究所においては、NEJM誌については千九百四十六年から、MMWR誌については千九百六十七年から、サイエンス誌については千九百四十七年から、ランセット及びプロシーディング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ザ・USA(以下「プロナス」という。)の各誌については千九百五十一年から、それぞれ入手し、同研究所附属図書館において保存しており、国立医薬品食品衛生研究所においては、NEJM誌については千九百六十九年から、MMWR誌については千九百九十八年から、サイエンス誌については千九百二十七年から、ランセット誌については千九百五十二年から、プロナス誌については千九百七十四年から、それぞれ入手し、同研究所の図書室又は同研究所医薬品医療機器審査センターにおいて保存しており、それぞれ現在においては、健康危険情報の情報源として活用しているところである。
 御指摘の遅発性ウイルス感染に関する研究班(以下「遅発性ウイルス研究班」という。)は、厚生省の特定疾患調査研究事業の研究班の一つとして昭和五十一年度から国内の研究者により組織され、毎年度設定された研究課題に応じて研究を行っているものである。遅発性ウイルス研究班の研究報告書は、毎年度当該事業の実績報告の一部として遅発性ウイルス研究班において作成され、刊行されるものであり、全国の大学医学部、医師会等に直接送付して公表されるとともに、厚生省においては、これを国立国会図書館及びその支部図書館である厚生省図書館に納本してきたところである。
 なお、昭和六十二年度までの御指摘の遅発性ウイルス研究班の報告書の一部や海外文献は、ヒト乾燥硬膜とクロイツフェルト・ヤコブ病(以下「CJD」という。)発症の直接的な関連を示唆するものではないと考える。
 厚生省においては、従来から、国民の健康及び生命に直結する各分野において国内外の情報収集等を行い、それぞれの時点で得られた情報を基に必要な対応を行ってきたところである。しかしながら、非加熱製剤によるHIV感染問題や腸管出血性大腸菌O157問題への対応において、省内における情報の収集、分析、活用及び伝達の体制が必ずしも十分ではなかったとの認識に基づき、平成九年四月に、国立感染症研究所を改組し、感染症情報センターを設置するとともに、同年九月に、国立衛生試験所を国立医薬品食品衛生研究所に改組し、医薬品医療機器審査センターを設置して、健康危機に関する情報の収集、分析等の体制強化を図ったところである。また、同年一月から、厚生省内の情報の集中及び伝達体制の整備を図るため、試験研究機関を含めた関係部局の職員により組織する厚生省健康危機管理調整会議を設置し、関係部局間の定期的な情報交換、情報伝達等の強化に取り組んでいるところである。さらに、特定疾患調査研究事業においても、平成九年度から、各研究班がその研究過程において健康危険情報を把握した場合に当該情報を厚生省に報告するよう要請し、研究班の活動との連携の強化に努めているところである。

三について

 御指摘の人体の一部及びそれに類するものを医療用具として取り扱っているものとして、ヒトの臍帯血管を利用する人工血管及びヒトの大腿筋膜を利用するヒト乾燥筋膜が薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)第二十三条において準用する同法第十四条第一項の規定による輸入の承認を受けており、同法第二十二条の規定による輸入販売業の許可を受けた者が、輸入及び販売を行えることとなっている。なお、ヒト乾燥筋膜については、現在、その輸入及び販売はなされていないと承知している。

四について

 臓器の移植に関する法律(平成九年法律第百四号。以下「臓器移植法」という。)第五条に規定する臟器のうち、人の心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓及び小腸については、厚生省において、臓器の別ごとに臓器提供者(ドナー)適応基準を定め、臓器あっせん機関である社団法人日本臓器移植ネットワーク(以下「臓器ネットワーク」という。)に対し、当該基準を遵守するよう通知しているところである。当該基準においては、臓器提供者が全身性感染症又は活動性感染症に感染していないこと、HIV抗体等が陽性でないこと等を掲げているところであり、当該基準を示した通知(平成九年十月十六日健医発第千三百七十一号厚生省保健医療局長通知)において全身性感染症にはCJDが含まれていることに留意すべき旨を記載している。また、眼球については、平成六年九月に日本角膜移植学会特別委員会が取りまとめた「提供眼球取扱いに関する提言」の中で提供眼球の選択基準が示されているところであるが、厚生省においては、現在、公衆衛生審議会疾病対策部会臓器移植専門委員会において、全国統一的な提供者の適応基準について検討を進めているところである。
 次に、臓器移植法に規定されていない皮膚、骨等の人体の組織については、それぞれの人体の組織についてその採取、保存等を行うバンクがそれぞれに提供者の適応基準を定めているものと承知している。
 次に、財団法人骨髄移植推進財団を通じて行われる骨髄移植については、同財団の定める「骨髄ドナー不適格条件」によりHIV、ATL等が陽性であることが判明している者等については、骨髄提供希望者としての登録等を行わないこととされていると承知している。
 次に、臍帯血移植については、従来、臍帯血保存を行うバンクごとの基準により保存が行われていたが、厚生省に設置した臍帯血移植検討会が平成十年七月に取りまとめた「臍帯血移植の実施のための技術指針」の中で、母体及び臍帯血に対して、HB s抗原等の検査を行うこととされたところであり、今後当該指針に基づいて臍帯血の保存が行われることとなる。
 また、御指摘のこれらの臓器等の移植における提供者の特定については、臓器等の摘出、採取を行う医療機関において、以上に述べた提供者の適応の判断を行い、その記録が当該医療機関等において保存されることにより行われるものと承知している。

五について

 アメリカ合衆国においては、心臓、肝臓等の臓器のあっせんを行う全米臓器移植ネットワークでは、臓器提供者に対しHBs抗原、HCV抗体等の検査を行っており、眼球についても、アメリカアイバンク協会の基準において、提供者が特定の感染症にかかっていることその他の二十三項目の状態にあるものを使用禁忌の眼球として定めていると承知している。骨髄移植については、全米骨髄バンクの基準において提供希望者の年齢、輸血歴等により使用禁忌を判断することとなっていると承知している。臍帯血移植については、ニューヨーク血液センターの基準によると、提供者に対し、HIV抗体、HTLV抗体等の検査を行うこととされていると承知している。
 また、アメリカ合衆国におけるこれらの臓器等の移植における提供者の特定については、四についてで述べたことと同様に、臓器等を摘出、採取した医療機関等において記録を保存することにより行われているものと承知している。

六について

 臓器等の移植に伴う感染症の予防対策については、四についてで述べたとおり、厚生省においては臓器提供者(ドナー)適応基準を定めるとともに、眼球について全国統一的な提供者の適応基準の検討を進める等の取組を行っているところである。また、臓器ネットワークにおいては、平成九年十二月に感染症対策特別委員会を設置し、臓器移植に伴う感染症対策についての検討を行っていると承知している。
 臓器等の移植は感染症の伝播の危険性を内在している治療法であり、その危険性を完全に排除することは困難であるが、厚生省においては、今後とも関係機関と協力し、臓器等の移植による感染症に関する情報収集に努めるとともに、感染症の発生の危険性が発見された場合には速やかにその評価及び対応策の検討を行い、適切な感染症予防対策を講じてまいりたい。