質問主意書

第145回国会(常会)

質問主意書


質問第三二号

サハリンII石油開発プロジェクトにおける石油流出事故対策等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十一年八月十三日

加藤 修一   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   サハリンII石油開発プロジェクトにおける石油流出事故対策等に関する質問主意書

 本年七月、ロシア極東・サハリン島北東部の大陸棚鉱区で石油天然ガス開発が始まった(サハリンII石油開発プロジェクト)。同開発事業はアメリカや日本企業の参画のもと、今後数十年間にわたりサハリン沖の二鉱区で石油・天然ガスを採掘するものである。
 この開発プロジェクトの石油流出緊急防災計画(OSCP)において環境対策が不十分であるにもかかわらず、日本輸出入銀行が融資を決定し、本年七月に事業が開始されている。
 わが国では二年前にナホトカ号の沈没による油流出事故が発生し、北陸一帯の豊かな漁業資源、環境資産が打撃をうけ、地元経済も大きな被害を被った。原油汚染の影響は現在でも深刻な爪跡を残しており、今後数十年にわたって完全に元に戻ることはないともいわれている。
 この度のサハリンII石油開発プロジェクトに関しても、同様の油流出事故の発生が危惧されており、とりわけ採掘油の輸送タンカーの航路となっている北海道沿岸、東北地方の水産業関係者の不安は大きいものがある。また、これらの地域に限らず、事故発生の地点、規模によってはわが国のどこにでも、さらには東アジア地域にまで深刻な被害を及ぼすことがあり得るのである。
 これらの懸念を解消し、オホーツク海の非常に豊かな漁業資源、環境資産を次の世代に無事に引き渡すためにも、政府は事故の未然防止策及び事故が起きたときの万全な緊急時対策を設定し、実効性あるものとしなければならない。
 このような観点から、以下質問する。

一、ナホトカ号の石油流出事故において、政府の危機管理体制の脆弱さがもろくも露呈したとされているが、その後、危機管理体制についてどのように把握し総括を行い、どのような対策を講じているのか示されたい。

二、サハリンII石油開発プロジェクトに対して、特に油流出事故対策等が運輸省、通産省、資源エネルギー庁、海上保安庁、地元自治体及び直接に影響を受ける地元漁民の意見を取り入れることなく、日本輸出入銀行だけの判断で承認されることは問題であると思われる。
 関係省庁間の話し合いの上で、油流出事故対策を十分に検討し、現在の対策にどのような問題点があるのか、さらにはどのような対策をとる必要があるのか十分に検討する必要があると思われるが、政府の見解を示されたい。

三、日本は、油流出事故が起こった際に直接的に非常に大きな影響を受けることになり、とりわけ北海道沖に影響が及ぶ場合は、日本政府も油流出事故に対応することが求められている。ところがこの油流出事故対策に関して、開発当事者であるサハリン・エナジー社が作成した油流出事故対策計画(OSCP)は、非常に重要な資料であるにもかかわらず現段階においても日本語版が作成されていない。この計画は英語、ロシア語で作成されているが、日本語版資料も作成する必要があると思われるが政府の見解を示されたい。
 さらに、危機管理は情報の共有が生命線であることから、政府はこのOSCPをはじめとして、関連する情報を積極的に公開すべきである。北海道の主要な図書館等、公共の場において閲覧できるようにすべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

四、OSCPには「現時点では、ロシアの法によれば油の除去に化学薬品を使用することと燃焼による処理を行うことを禁止している・・・このような規制が撤廃されるためには啓蒙が必要である」とある。つまりこの計画で述べられている流出油の処理方法はロシアの現行法に違反している。これは、「サハリンII」に対する融資を行う国際金融機関(日本輸出入銀行、欧州復興開発銀行、米国海外投資公社)が定めた、融資を与える事業はその国の規制に従う、という規定にも違反する。しかし、サハリン・エナジー社のこの計画は、前述の国際金融機関の規定を無視する態度をとっていることになり、極めて問題である。政府は、ロシア国内法を順守するかたちで融資の判断をするよう日本輸出入銀行に指導していくべきであると思われるが見解如何。

五、日本輸出入銀行の現在の体制では、こうした広範囲にわたる大型開発プロジェクトの社会環境対策に十分に対応できない。より一層の情報公開と、社会環境ガイドラインの作成、環境室のスタッフの充実等が緊急に求められていると思われる。現在の社会環境対策にかかわるスタッフの体制について政府はどのように把握しているか示されたい。
 また、日本輸出入銀行は、情報公開の推進、社会環境ガイドラインの作成、社会環境対策部門の拡充をすべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。
 さらに、融資の決定に際しては、関連する環境保護団体等の意見をパブリックコメントのようなかたちで聴取し、融資決定の際の判断に資するべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

六、サハリン・エナジー社によって作成された油流出事故対策計画は、日本輸出入銀行、欧州復興開発銀行、海外民間投資公社によって承認されている。しかし、サハリンIIの石油開発に伴うオホーツク海での油流出事故対策、特にオホーツク海沿岸でのタンカー事故の対策が現在のところ不十分であることは明らかである。サハリン・エナジー社は「サハリン・日本間のタンカー航行における安全対策と事故の未然防止策は船主側の責任であり、船舶の安全航行確保については、当該領域を所管する政府の課題である」としている。政府としても開発当事者、荷主、船主等に対して何らかの助言・指導を行うべきであると考えるが政府の見解を示されたい。

七、サハリン・エナジー社、日本政府、ロシア政府、オホーツク海沿岸自治体、サハリン地方政府等との十分な協力の下、北海道、サハリンを含む地元漁業関係者との調整も行った上で、

1 サハリン・日本間のタンカー航行について安全対策と事故予防措置をとること
2 タンカーの石油流出事故の効果的な対策を立てること
3 流出事故が起こった場合、サハリンIIプロジェクトの実施会社やタンカー会社が十分な対策をとることができるよう、金銭的にも対策をとること
4 事故に対応できる十分な設備と人員を調達できるようにすること

の四点についての体制が確立されるよう早急に対応するべきであると考えるが政府の見解を示されたい。

八、さらに、北海道漁業協同組合長会議と北海道指導漁業協同組合連合会によって「サハリン海底油田開発事業に関する要請書」が本年七月、政府に提出されているが、

1 サハリン油田・天然ガス等開発計画の具体的な情報開示を行うこと
2 サハリン油田・油濁事故防災等に関する我が国アクションプログラム(行動計画)を早急に樹立すること
3 日本政府とロシア政府間のサハリン油田・油濁事故防災等に関する両国間協定を早期に締結すること

の三点について、政府はそれぞれどのような対応をとっているか、又はどのような検討をしているか示されたい。

九、アラスカ沿岸、北海道沿岸では、沿岸の油流出事故に対して、タンカー航路指定、オイルフェンスの長さ等、サハリンIIよりも厳しい事故対策がとられている。既に他の地域でとられている対策は、北海道沿岸部に多大な影響を及ぼすであろうオホーツク海での石油開発計画において採用されるべきであると考えるが政府の見解を示されたい。

十、現在、サハリン島沖ではサハリンIIだけでなく、サハリンI、III、IV、V等、次々と石油開発計画が進められているが、オホーツク海沿岸は石油資源のみではなく、世界で有数の水産資源の宝庫でもある。北海道指導漁業協同組合連合会によると、北海道だけでも漁業収益が年間二千億円、水産加工業が四千億円にものぼる収益をあげていると聞く。政府はこのような石油開発による水産資源への影響をどのように見ているのか。また、油流出事故の危険性が非常に高い地域であるオホーツク海で、今後どれほどの石油開発を見込んでいるのか明らかにされたい。
 さらに、石油開発の利益と、それに伴う水産資源、自然環境の破壊のリスクとのバランスをどのように考えているのか、また、そのリスクを回避するために、どのような手だてを考えているか示されたい。

十一、本年七月二十三日、モスクワにおいて日露エネルギー協議が行われ、サハリンI、IIプロジェクトも議題にのぼったと聞く。その中で、油流出事故対策等の環境問題についても触れられたのか。俎上にのぼったとすると、どのような内容であったか示されたい。
 また、日露環境保護合同委員会第二回会議が開催され、両国の直面する具体的な課題について議論したと聞いているが、どのような議論がなされたのか、概要を示されたい。とりわけサハリン沖での石油開発計画における環境汚染対策は俎上にのぼったか。またその内容を示されたい。
 この度の日露環境保護合同委員会のように、隣国との環境問題についての協議をすることは安全保障の観点からも非常に重要であると考える。とりわけ日露間における環境協議について、シベリア・極東ロシア地域の環境問題関係者はモスクワ地域とは異なる課題を抱えているとも聞く。今後、環境協議の場をハバロフスク等極東地域で開催することを検討すべきである。また、あわせて地域の環境保護団体の代表者も協議に参加できるようにすべきである。これらについての政府の見解を示されたい。

十二、一九八九年に米国・アラスカ湾で起きたエクソン・バルディーズ号の原油流出事故の後、海洋の油汚染事故に関する国際的な取組がG7で取り上げられ、国際海事機構(IMO)の主導で一九九〇年末、「油による汚染にかかわる準備、対応及び協力に関する国際条約(OPRC条約)」が採択され、我が国も国内体制を整えているが、ロシアは未加入である。
 この際、サハリン沖の石油開発を進めるに当たって、自然環境、水産資源等、オホーツク海の豊かな資源を共有する隣国として、ロシアに対しOPRC条約に加盟するよう積極的に働きかけて行くべきと思われるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。