質問主意書

第145回国会(常会)

質問主意書


質問第二八号

ライト・レール・トランジットの国内普及に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十一年八月六日

櫻井 充   

       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   ライト・レール・トランジットの国内普及に関する質問主意書

 近年、我が国でもLRT(Light Rail Transit:ライト・レール・トランジット。生まれ変わった路面電車。以下「LRT」という。)の導入に関する具体的議論が、ようやく盛んになってきた。これは、従来の路面電車に技術面及び営業面から幾多の改善が加えられ、格段に進化・向上を遂げた市街電車であり、地下鉄にも準ずる速度能力、輸送能力等を有する新しい都市交通機関であって、欧州、北米、豪州、東南アジア等の諸都市において導入等が続いている。
 しかし、我が国の諸都市への導入に関し、LRTをLRTたらしめる諸特性が既存の法規制と抵触し、我が国ではLRTは無理だとの論も後を絶たない。その法規制とは、路面電車の準拠法である軌道法(大正十年法律第七十六号)及びその下にある諸省令のことである。軌道法の運用及びその下の省令に記されている規制値の見直しに関して以下質問する。

一 列車の長さについて

1 列車の長さについては、軌道運転規則(昭和二十九年運輸省令第二十二号)に記されている。同規則第四十六条では故障等によって牽引する場合を除き列車の長さは三十メートル以内とされているが、この列車の長さ「三十メートル以内」とは、どのような科学的根拠によるものか示されたい。
2 オランダのアムステルダム市等西欧では全長三十メートル前後のLRT車両が一般的である。中には、ドイツのマンハイム市のように一車体当たり約四十メートルのものが街路を全く問題なく安全に走行しているものもある。さらに、ドイツのケルン市では全長三十メートル程度の車両を二組連結したもの(連結した全長は六十メートル程度)が市街地を頻繁に走っている。ドイツにおける法規では列車長を七十五メートルまで許容していると聞く。ドイツでは、この程度まで列車長を許すことにより、地下鉄にも準ずる輸送能力等を確保し、市街地のより広い地域に市街鉄道の恩恵を普及させている。我が国でもLRTは、地方中枢都市、地方中核都市の基幹交通として有効と考えられる。LRTは、建設費も一キロメートル当たり十億円ないし三十億円程度であり地下鉄等より格安である。巨額の建設費用を要する地下鉄を考える前に、こうした使い方を認め、公共事業の費用対効果を上げることを考えるべきではないのか政府の見解を示されたい。

二 列車の速度について

1 列車の速度については、軌道運転規則第五十三条で最高速度は毎時四十キロメートルとされているが、今や一般の乗用車でも容易に毎時百キロメートルを出せる時代である。市街地の道路でも毎時五十キロメートル制限の所が珍しくない。それにもかかわらず、路面を走る電車にだけ毎時四十キロメートル制限とは余りに不合理である。路面電車の乗客はこの不合理な速度を我慢せざるを得ない状況に置かれている。この規定は、路面電車利用者に対して差別的ですらある。速度の上限を毎時四十キロメートルに留めている科学的な根拠は何か示されたい。
2 この最高速度制限は今すぐ見直すべきであると考える。この制限では、現に路線バスと同程度の速度性能を持つ路面電車が速く走れないし、仮にLRTを導入してもせっかくの高速性能がいかせない。LRTは性能上毎時七十キロメートルから八十キロメートルまでは容易に出せる水準に達している。欧米のものには毎時百キロメートルも可能なものがあるほどである。一昨年、熊本に導入された高性能のLRT電車は、わざわざ性能を下げて走らせていると報じられている。現在の路面電車にも路線バスや一般車と同程度の速度を今日からでも認めるべきではないか政府の見解を示されたい。

三 軌道の勾配について

1 軌道の勾配については、軌道建設規程(大正十二年内務省・鉄道省令)に記されている。その第十六条においては勾配は千分の四十以下(但書では千分の六十七まで認められている。)とされている。勾配を千分の四十以下とする科学的根拠は何か示されたい。
2 西欧諸国では、千分の八十級の勾配が当たり前になっており、当然電車の性能もこれに充分対応できるものとなっている。我が国では、一般に街中の道路の勾配は最大千分の六十とされている。LRT路線を街路等に設置することを考えたら、千分の四十以下では不十分である。確かに、但書で千分の六十七までは認められているが、但書によらず一般道路並の勾配を認めるべきではないか政府の見解を示されたい。

四 軌道の導入空間について

 電車の走る道路幅については、軌道建設規程第八条で道の中央に軌道を敷設する場合の車体外幅員、第九条で道の片側に偏して軌道を敷設する場合の車体外幅員について規定している。
 そしてこれら各々に、道が条件分けされ、電車車体外の幅員が規定されている。

1 巷間、しばしばLRT導入には道幅が二十七メートル以上必要であるとの説を聞く。道幅が広くなければ電車は走らせられず、しかも、道路の中心でないと駄目であるとも言われている。しかし、この第八条にも第九条にもそれら数字等の規定は見当たらない。二十七メートルと言われる根拠はどこにあるのか政府の見解を示されたい。
2 しかも、第九条には軌道を道路の片側に偏して敷設する場合の規定が用意されている。それにも関わらず、道路中央と言う文言のみが一人歩きをしており、運用が硬直していると考えられるが、この点について政府はどのように把握しているか示されたい。
3 また、歩行者の乗降時の利便性や安全確保の見地から、電車軌道を道の片側に偏する場合をもっと広く認めてもよいし、複線軌道の上下線を各々歩道側に寄せて敷設させてもよいはずである。さらには、歩行者天国道路に電車のみを乗り入れさせる方式(トランジットモール)も考えられてしかるべきであり、諸外国にはこうした事例が多い。もっと早い時期から我が国でも検討を始めてもよかった課題であるが、今日まで検討されないでいたのはなぜか政府の見解を示されたい。
4 さらに、欧米諸都市では、LRTは基本的に路面走行であるものの、他の車両との走行区分が充分になされると共に、地下区間、高架区間、専用軌道区間も必要最小限取り入れられており、高速性を確保すると共に旅客利便性にも応えている。こうした多様な走行空間を検討することも不可欠ではないか政府の見解を示されたい。

五 LRTに関する法制について

1 軌道法は、原文が漢字片仮名混じりで書かれるほど、また、今もって「内務省」、「鉄道省」という言葉が記されているほどかくも古式ゆかしき法令であるが、現代の地下鉄、モノレール、新交通システムにこれが適用される場合がある。今日建設される近代的な市街鉄道にも現に適用されており、感覚的にはかなり落差がある。新交通システム等については、道路を道路下の地下線及び道路上の高架線まで広義に解釈し、軌道法を適用しているのではないか政府の見解を示されたい。
2 建設省は、現に、道路下の地下鉄は「軌道」であると解釈し、大阪市営地下鉄に軌道法を適用している。その他、千葉モノレール等の都市交通モノレールも「軌道」扱いであり、軌道法を適用している。また、モノレールの仲間である神戸新交通システムや東京ゆりかもめも「軌道」扱いの区間を持っている。これらは軌道法が旧来の路面電車以外に適用されている実例である。
 LRTもモノレール等と同等の近代的な都市交通機関として位置付け、当面、軌道法の弾力的な運用を図り導入実績を積むべきではないか政府の見解を示されたい。
3 そして、同じ路線でありながら、線路の敷設位置や条件によって適用法律が区間毎に違うといった使い併せはやめ、一つの路線に対して一つの法が一貫して適用されるものとして、そして、LRTのみならずモノレール等も包括した、いわば「市街鉄道法」を制定すべきではないか政府の見解を示されたい。
4 この旧態依然たる軌道法等について、現代の優れた市街鉄道であるLRTの導入及び普及のため、運輸省、建設省は現在どのような運用策を取っており、また、今後どのような改善を進めていく予定か政府の見解を示されたい。

  右質問する。