質問主意書

第145回国会(常会)

質問主意書


質問第一〇号

廃棄物最終処分場の安全性に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十一年三月十六日

中村 敦夫   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   廃棄物最終処分場の安全性に関する質問主意書

 東京都西多摩郡日の出町の人口はわずか一万六千人あまりである。だが、そこに三多摩地域二十七市町の市民三百六十五万人を超える住民の一般廃棄物が運び込まれている。現在、ここには二つの廃棄物最終処分場(以下「処分場」という。)がある。そのうちの一つ、三多摩地域廃棄物広域処分組合(以下「処分組合」という。)が建設・運用している谷戸沢処分場は、一九九三年頃より地下水への汚水漏れ問題で周辺住民のみならず、下流域で生活している多くの東京都民・神奈川県民に不安を抱かせてきている。さらに、この汚水漏れ問題が解決されぬまま、同処分組合により、日の出町に周辺住民の反対を押し切って二つ目の処分場が建設され、運用されている。この処分場では、搬入された焼却灰の場外への飛散が住民に目撃され、新たな不安要因となっている。
 この東京・日の出町の処分場は、全国における処分場のモデルとなっている。そのため、日の出町が抱える問題はこの一地域にとどまらず、全国に共通しており、国政の立場からも決して無視できないものと考える。
 以上の観点から、次の事項について質問する。

一 処分場における地下水汚染問題について

1 現在、内陸式管理型処分場(一般廃棄物処分場及び産業廃棄物処分場)の既設及び計画中の数をそれぞれ明らかにされたい。
2 1のうち、地域住民が、その処分場に対する不安の声(署名活動、公害調停、訴訟行為等)をあげている処分場の数を、政府が把握している範囲で明らかにされたい。
3 処分場に埋め立てられた廃棄物は覆土されるが、雨水がこの廃棄物の中を浸透し浸出水となる。公共水域への排水にあたり有害化学物質が規制されているか。規制されているならば概要及び浸出水中のダイオキシン類や環境ホルモン等の有害化学物質に関して、いかなる処理工程により無害化されて公共水域に放出されているのか、それぞれ明らかにされたい。規制されていなければ、政府として現在規制していない理由及び規制する予定をそれぞれ明らかにされたい。
4 廃棄物の処理処分によって発生したダイオキシン類や環境ホルモン等の有害化学物質が住民に健康被害の不安を起こさせる事実を政府はいつから認識していたか示されたい。また、それが厚生省の処分場指針作成開始の前か後かも明らかにされたい。
5 廃棄物処理処分によって発生する有害物質による環境汚染、それに伴う人間及び生態環境を形づくる生物への被害という不安は、今や国民的な大問題に発展しつつある。水源地を処分場の立地とすることについての政府の見解を伺いたい。また、この問題について、既設処分場に対する実態調査及び調査に基づく対策を行うのか、行うならば概要を、行わないならば行わない理由を明らかにされたい。
6 谷戸沢処分場のように、厚さ一・五ミリメートルのゴムシート一重で遮水している内陸式管理型処分場が全国で何ヶ所あるか明らかにされたい。また、遮水シートの耐久年数及び耐久年数が過ぎた後の対策も明らかにされたい。
7 遮水シートが破損した場合、どのようにして浸出水による地下水汚染が防止できるのか、その仕組みについて具体的に示されたい。

二 谷戸沢処分場における地下水への汚水漏れに関する調査と二ツ塚処分場建設に関する厚生大臣の要請について

 平成八年三月二十二日、菅直人厚生大臣は、青島幸男東京都知事に対して、公開・住民参加による谷戸沢処分場の汚水漏れ原因調査を処分組合が行うことを前提として、それまで交付決定を保留していた二ツ塚処分場の、平成七年度廃棄物処理施設整備国庫補助金の交付決定を通知した。当時、処分組合は裁判所の仮処分命令を無視し、税金から間接強制金を支払う行政機関として、世論から強く非難されていた。だが、現在に至るまで、処分組合は、汚水漏れ究明を訴えている地元住民を交えた、厚生大臣の要請の趣旨に沿った調査を行っていない。
 補助金交付に対する前提条件を満たしていないことから、政府は補助取消しを含めて二ツ塚処分場への補助金交付を見直すのか。見直すならば、その概要と日程を明らかにされたい。見直さないならば、厚生大臣の要請と補助金交付を行うこととの間の整合性に関する見解を明らかにされたい。

三 処分場に搬入された焼却灰の飛散による周辺地域の大気、土壌汚染について

平成十年四月二日、小泉厚生大臣宛に提出された日の出町処分場周辺の住民団体「日の出の森・水・命の会」の要請文には、次の様な趣旨が述べられている。

・処分場に搬入される焼却残渣の粒径は、十ミクロン以下のものが多数を占める。この様な細かい粒子は、風に対して気体とほぼ同じ挙動をする。
・処分場はすり鉢状の形態をしている。そこでは日中、太陽光によって斜面が暖められ、気象学上谷風といわれている、斜面を登る気流が生ずる。
・また、処分場上空に風が吹き抜ける時すり鉢形状の地形から、いわゆる「霧吹き効果」と言われる現象が起こり、処分場内の気流は場外へ吸い出される。
・また、場内での灰の埋め立て作業は、厚生省の処分場指針に従い、埋立地盤の安定性、埋立地の延命化のために灰の上をキャタピラ装備のブルドーザー等の重機で「十分に締め固め」作業が行われているはずであるが、それにもかかわらず、実際にはこの様な重機により運び込まれて来た焼却残渣は、巻上げられて前述の谷風や上空の風に乗って場外に飛散している。
・さらに夜間放射冷却により、冷気が日中汚染された大気を下方に閉じ込めて、朝方逆転層が解消されるまで、処分場周辺の大気は有害物質が濃縮された状態にある。

 処分組合の管理している日の出町の二ツ塚処分場は、十分間の平均風速が五・五メートル毎秒を超えた場合に焼却灰の搬入及び埋立作業を中止することになっている。これは、処分場建設時に行った環境アセスメントの大気汚染の予測において「表土除去及び覆土による土壌粒子」の飛散の予測だけしかしていないためである。すなわち気象庁の風力階級四の「砂ぼこりが立ち、紙片が舞い上がる」を基準にしている。焼却残渣が場外に飛散することを全く予測していない欠陥アセスである。そこで昨年秋、住民は焼却灰の場外飛散の実態を確認するために、処分場を特定発生源として、環境庁のマニュアルに従った方法で周辺地域のダイオキシン調査をした。その結果、周辺土壌及び樹木の葉の表面から高濃度のダイオキシンが検出された。
 一方、同じ発ガン性の問題がある物質でも、アスベスト(石綿)に対する国の対策はかなり進んでいる。これまで、建築物の解体等に伴う石綿の飛散については、主として行政指導によって対応されてきた。一九九五年一月の阪神・淡路大震災を機に対策の徹底が図られ、平成八年五月九日に「大気汚染防止法の一部を改正する法律」が公布された。すなわち、石綿その他の特定粉塵を発生し、または飛散させる原因となる建築材料が使用されている建築物が改造・解体・補修されるときの作業場の環境条件が、(1)他の場所からの隔離を行う、(2)前室を設ける、(3)作業場を負圧に保つ、(4)高性能エアフィルターで捕集する、(5)薬液等により湿らせ、あるいは皮膜をつくり飛散を防ぐ、というように規制されたのである。
 これに対して、政府のダイオキシン対策は、規制対象を廃棄物焼却炉及び製鋼用電気炉に限定している。処分場は規制対象からはずされ、放置されたままである。前述したように、処分場の局地的な気象現象による灰の飛散を考えれば、この状態を放置していたら、全国の処分場から焼却灰が飛散し、日本全土が焼却灰に覆われ、所沢問題が各地に飛火し、日本中がパニックになるおそれがある。
 政府は、管理型処分場の焼却灰の飛散対策として行政指導等の緊急対策を行うならば、概要を明らかにされたい。行わないならば、理由を明らかにされたい。また、アスベスト並みに法規制を強化するのか明らかにされたい。法規制をしないならば、その理由を示されたい。

  右質問する。