質問主意書

第145回国会(常会)

質問主意書


質問第八号

徳島県吉野川第十堰改築計画等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十一年三月三日

竹村 泰子   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   徳島県吉野川第十堰改築計画等に関する質問主意書

 徳島県吉野川第十堰改築計画に関しては、平成十年五月二十八日に「徳島県吉野川第十堰改築計画等に関する再質問主意書」(以下「前回の質問主意書」という。)を提出し、政府から平成十年八月二十一日付で、内閣参質一四二第一八号の答弁書(以下「答弁書第一八号」という。)が寄せられたところである。その答弁内容については、未だ不明確な点も含まれており、事実関係のさらなる解明を行う必要があると考える。したがって、再度以下の質問をする。

一 粗度係数について

1 平成七年十一月に建設省四国地方建設局が作成した「第十堰改築事業に関する技術報告書」(以下「技術報告書」という。)によれば、「粗度係数の再現に用いた洪水の水位は高水敷部の水深が小さく大部分が低水路を流れているため、その水位はほとんど低水路の粗度によって支配されており、実績洪水の痕跡から求めた粗度係数は低水路の粗度係数と考えられる」とされており、実績の平均冠水深は、内閣参質一四一第三号の答弁書に示されているところである。当該答弁書によれば、各地点の高水敷部のかなりの部分で一メートルを超える冠水が見られる。
 その水深であるにもかかわらず、「高水敷部の水深が小さい」というのは、どのような根拠でそのような判断を行っているのか、計画高水時と実績洪水時の水深の比較をもとに具体的に説明されたい。
2 技術報告書によれば、吉野川の高水敷の草丈は一・二メートル程度であるとしているが、実際の草丈の調査はいつ、誰が、どのような形で行いどのような結果が出たのか、また、高水敷の草丈が一・二メートルであると誰がどのような根拠をもとに判断をしたのか、具体的に示されたい。
3 答弁書第一八号によれば、「十四・二キロメートルの地点における水位の値を所与として、原則として〇・〇二〇から〇・〇〇五刻みの粗度係数の値を与え、必要に応じて〇・〇〇五刻みの値の中間的な値も用いて、それぞれの粗度係数の値に対応する水位の値を同川の河口からの距離が十四・二キロメートルから二十四キロメートルまでの区間の複数の地点について求め、当該求められた値がそれぞれの同じ地点における痕跡水位の値をおおむね下回ることとならないような一個の粗度係数の値を、同川の河口からの距離が十キロメートルから二十四キロメートルまでの区間を代表する粗度係数の値として決定したものである」とされているが、「おおむね下回らない」という判断は主観的であり、客観的な根拠が不明であると言わざるを得ない。建設省の実績再現計算における十四・二キロメートル地点から二十四キロメートルまでの水位を計算した粗度係数ごとにそれぞれ示すとともに、なぜ河口から十キロメートル地点から二十四キロメートル地点までの実績洪水から求めた粗度係数が〇・〇三五であると判断したのかを示されたい。
4 吉野川第十堰の改築にあたっては、過去にかなりの委託調査を行い、報告書が出されている。過去の報告書において、吉野川の粗度係数の想定はどのように変化しているのか、計画高水時と実績洪水時の変遷を示し、なぜそのような変更が行われているのか、その理由を示されたい。

二 水位計算について

1 前回の質問主意書において、「「水理学上の基礎的な理論式によって一義的に算出される」とあるが、算出の前提となる、建設省の水位計算における「第十堰の上流側及び下流側の堰が共に十四・二キロメートル地点において流下方向に対して直角に存在するものと仮定して、同地点での流下断面については高水敷と第十堰とを区分せずに一体の河床部分として扱っており、吉野川に計画高水流量が生起しているものとした場合における流水の幅及び当該河床部分の平均的な高さの値は、それぞれ約六百十八メートル及び阿波工事基準面を基準とした高さ五・八七メートル」という仮定は、一義的なものなのか。一義的であると考える場合にはその理由と根拠を、考えない場合には、その前提が一義的でないにもかかわらず算出が一義的であると結論づける理由を示されたい。」との質問をしたところである。

(1) 答弁書第一八号によれば、「御指摘の「理論式」とは、開水路において水理学上の限界水深が生じる場合に、流速の値を重力加速度の値と水深の値の積の平方根で除して得られる値(以下「水理学上のフルード数」という。)が一となる式を指しており、この式については水理学上の基礎的な知見であると認識している。」とされている。しかし、これは堰形状がきちんと決まっていれば、水理学上のフルード数が一となる水深は一義的に算出可能であるという一般的な水理学上の意見を述べているにすぎないのではないのか。
(2) 当方の質問は、「堰形状(幅六百十八メートル、高さ五・八七メートル)を一義的に結論付ける根拠は何か」というものであり、一般的な水理学上の知見を聞いているわけではない。なぜ、堰形状が一義的に決まるとしているのか、明確に示されたい。
(3) 答弁書第一八号によれば、「計算上第十堰が流下方向に対して直角に存在するものと仮定した上で、昭和四十九年洪水を対象に、計算上の第十堰の存する地点の流下断面における平均的な水深及び流速から得られる水理学上のフルード数が一となるものとして建設省において算出した同地点におけるエネルギー水頭の理論上の最小値は、阿波工事基準面を基準とした高さ十・四六メートルとなる。このことから、当該最小値を下回る市民団体のエネルギー水頭の値は適切ではない」とされている。しかし、市民団体の計算上の第十堰の投影断面と、建設省の第十堰の投影断面が異なるのであるから、建設省の算出した理論上のエネルギー水頭の最小値を、市民団体の算出したエネルギー水頭が下回っても、何ら矛盾はないと考えるがどうか。矛盾があると考える場合にはその理由を示されたい。

2 答弁書第一八号によれば、「吉野川において過去に生起した十一洪水における流量の再現状況からその適合性は良好であると判断した」とあるが、いつ、誰が、どのようにして、何を根拠に適合性が良好であると判断したのか示されたい。
3 答弁書第一八号によれば、「吉野川に計画高水流量が生起した場合において、同川の河口からの距離が十六キロメートルの地点より上流の区間における同川の水位が建設省の水位計算から得られた値と同程度のものとなると予測することは、妥当であると考えている」としているが、誰が、何を根拠としてそのように判断しているのか、また、同程度というのは、どの程度の誤差を想定して同程度であると言っているのか、明確に示されたい。
4 下流に堰を投影する場合には、河川勾配を考慮すべきであると考えるがどうか。考慮すべきでないと考えるのであれば、その理由を示されたい。考慮すべきであると考えるのであれば、建設省の堰の仮定(幅六百十八メートル、高さ五・八七メートル)にどのように反映されているのかを具体的数字を示して説明されたい。
5 建設省の水位計算は、河川勾配という重要な点を考慮せず、河川勾配を無視した投影を行い、吉野川第十堰の上堰を過大なものとしているという指摘もあるが、この点についての見解を示されたい。

三 計画降雨等について

1 答弁書第一八号によれば、「「大きな変化」とは、治水計画において氾濫防御の対象とする氾濫原の市街化が著しく進むこと、治水計画の対象とされた河川において大きな被害をもたらすような洪水が生起すること等の変化を指す」とされているが、逆に大きな被害をもたらすような洪水が長年生じていないことも大きな変化ではないのか。もし、そのように考えなければ、過大な計画を見直す機会がないということになるのではないか。そうではないと考えるのであればその理由を示されたい。また、一級河川における基本高水等の見直しがどのような期間で行われているのか、各水系ごとに示されたい。
2 答弁書第一八号によれば、「当該試算により求められた値が現行の吉野川水系工事実施基本計画において用いられている計画降雨量の値と大きく変わらない旨を明らかにした」とあるが、どの雨量観測所のデータを用いてどのような試算を行い、その結果どのような値が求められたのか示されたい。
3 吉野川における河川整備基本方針策定の進捗状況について示されたい。

四 模型実験等について

1 答弁書第一八号によれば、空中写真の実体視から標高を求める方法については、河川砂防技術基準調査編において一般的な記述がなされている旨の記述があるが、吉野川における昭和四十九年九月洪水のピーク時付近で撮影されたとされる垂直航空写真による測量は、この河川砂防技術基準の作業内容に従って行われたものなのか。行われているとすればその詳しい作業内容を、行われていないとすればその理由を示されたい。
2 答弁書第一八号によれば、「「垂直航空写真の実体視」による洪水時の河川の水位の測定を行うことは、必ずしも一般的ではない」としているが、そのような手法をなぜ用いたのか、その理由を示されたい。
3 答弁書第一八号によれば、一次元不等流計算の手法を用いて再現することには限界があることから、模型実験も併せて行っている旨の記述がなされている。しかし、平成八年八月三十日付の毎日新聞によれば、「今回の実験は第十堰という斜め固定堰の上を流れる複雑な流れを見てもらうのが趣旨なので」、実験方法を検証する「公開実験は行わない」とされているところである。当初の模型実験はどのような目的で行う予定だったのか、模型実験の目的等を示した文書名とその内容を示されたい。
4 模型実験は移動床実験であり、「移動床実験では水位が合わないのはやむを得ないことを主として、河床変動に注目する」(「水理模型実験」須賀堯三編書 山海堂)とされているが、この点についてはどのように考えるのか。
5 模型実験の結果は水位計算の正確性を充分に担保しているとは考えにくい。模型実験で求まったポイントゲージ毎の水位と河床変動結果について詳細に示されたい。

五 異常深掘れについて

1 答弁書第一八号によれば、「建設省においては、第十堰下流の河床の洗掘に関する文献の記載については承知していない」としている。しかし、一方で「河床の洗掘については、第十堰が流下方向に対して斜めに設置されていることがその大きな原因であると考えている」ともされているところである。過去の文献に洗掘の記述が見あたらない原因をどのように考えているのか。
2 答弁書第一八号によれば、「御指摘の「箇所」において、御指摘の「堤防の決壊に至るような」河床の洗掘が生じたことがあるか否かについては、確認できない」としている。昭和五十一年以外に一回の洪水で大規模な洗掘が生じた例が確認できないとすれば、昭和五十一年の大規模な洗掘は、何が原因でそのような特殊な状況が生じたと考えるのか、データをもとに説明されたい。

六 代替案等について

1 答弁書第一八号によれば、「吉野川第十堰建設事業に関して、「特定多目的ダム法の施行について」(昭和三十二年建河発第五百七十六号建設省河川局長通達)に基づく基本計画の原案は作成されていない」とされているが、なぜ作成されていないのか、その理由を示されたい。
2 答弁書第一八号によれば、「これに代わるもの」として吉野川第十堰建設事業計画書をあげているが、なぜこれで代替可能なのか、法律上の根拠を含めその理由を示されたい。

七 過去の委託調査結果について

1 昭和五十一年度吉野川河床変動調査外一件業務委託報告書(第十堰の改築について)(以下「昭和五十一年度業務委託報告書」という。)によれば、「現状の状態で毎秒一八〇〇〇立方メートルの流量が流下した時でも計画高水位を越えることは、認められない」とされているところである。

(1) この計算はどのような手法を用いてなされたのか、具体的に示されたい。
(2) この計算において、吉野川第十堰は、どのような位置にどのように存在すると仮定したのか、具体的に示されたい。
(3) 昭和五十一年度業務委託報告書十八ページの不等流計算水位縦断図を見る限りは、第十堰付近における現在の計画高水流量である毎秒一九〇〇〇立方メートルが流下したとしても、昭和五十一年度業務委託報告書による計算によれば第十堰付近において計画高水位を超過することはないと思われるがどうか。

2 昭和五十五年度第十堰改築に伴なう水理的影響調査業務委託その1(第十堰改築による流下能力向上調査)概要書(以下「昭和五十五年度業務委託概要書」という。)によれば、「事業費からみれば築堤案がもっとも安い」とされているところである。

(1) 昭和五十一年度業務委託報告書や昭和五十五年度業務委託概要書の存在や内容を吉野川第十堰建設事業審議委員会に説明していなかったとされているが事実か。
(2) 昭和五十一年度業務委託報告書や昭和五十五年度業務委託概要書のような、現在の計画を基礎づける資料とは異なる内容の検討資料を吉野川第十堰建設事業審議委員会に説明しなかったことについてはどのように考えているのか。
(3) このような事実が吉野川第十堰建設事業審議委員会に報告されていれば、審議内容や結論が変わっている可能性はないか。ないと考えるのであればその理由を示されたい。

  右質問する。