質問主意書

第144回国会(臨時会)

答弁書


第百四十四回国会答弁書第一一号

内閣参質一四四第一一号

  平成十一年一月二十九日

内閣総理大臣 小渕 恵三   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員日笠勝之君提出コンピュータ西暦二〇〇〇年問題への政府の対応に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員日笠勝之君提出コンピュータ西暦二〇〇〇年問題への政府の対応に関する質問に対する答弁書

一について

 コンピュータ西暦二千年問題(以下「二千年問題」という。)については、昨年九月、小渕内閣総理大臣のイニシアティブにより、内閣総理大臣を本部長とする高度情報通信社会推進本部において、「コンピュータ西暦二千年問題に関する行動計画」(以下「行動計画」という。)を決定し、現在、行動計画に基づき、対応に取り組んでいるところである。行動計画においては、第一に、二千年問題への対応についての周知徹底、第二に、中央省庁の対応及び地方公共団体への要請、第三に、民間部門における対応、第四に、情報提供体制の構築を掲げ、行動計画の推進状況について、民間の代表者で構成する「コンピュータ西暦二千年問題に関する顧問会議」(以下「顧問会議」という。)及び全省庁の事務次官等で構成する「コンピュータ西暦二千年対策推進会議」(以下「推進会議」という。)において、四半期ごとに報告を行い、官民を挙げて適切な対応がなされるように努めているところである。
 特に、金融、エネルギー、情報通信、交通等社会経済上重要な分野(以下「民間重要分野」という。)については、行動計画に基づき、所管省庁は、模擬テストの実施や情報の提供を含めた自主的な総点検の実施と所管省庁への報告を求めている。
 金融分野については、金融監督当局において、これまで、金融機関経営者との意見交換の場を通じての積極的な取組の要請、各金融機関の対応状況を四半期ごとに把握するための報告命令の発出、金融検査におけるチェックリストの改訂、公表、対応の進ちょく状況が遅れている金融機関に対して積極的に改善を求めていくとする事務ガイドラインの発出、公表等の措置を講じてきたところである。昨年九月末時点での各金融機関の対応状況をみると、全国銀行、保険会社、大手証券会社等においては、おおむね、経営計画上明確な位置付けが行われ、適切な対応スケジュールに従って、準備が進められており、中小金融機関においても以前に比べ改善が行われていると承知している。
 航空分野については、航空管制システムは本年六月末までに二千年問題への対応を完了することとしている。また、主要な航空会社に対し昨年十月中旬に行った調査によると、二千年問題への対応状況について未着手又は調査中の段階にあるとしたものはなく、すべての会社において、現在、実作業を行っているところである。さらに、重要と考えられるシステムにおける模擬テストの進ちょく率も平均で四十パーセントの水準にあり、計画的に取組が進展していると承知している。
 エネルギー分野については、電力、都市ガス、石油の主要企業に対し昨年十月中旬に行った調査によると、二千年問題への対応状況について未着手又は調査中の段階であるとしたものはなく、すべての企業が、現在、実作業中又はすべて対応済みの段階にある。さらに、重要と考えられるシステムにおける模擬テストの進ちょく率も平均で約六十パーセントの水準にあり、計画的に取組が進展していると承知している。
 電気通信分野については、主要な電気通信事業者に対し昨年十月一日現在で調査を実施したところ、通信系システムについては事業者の八十二パーセントが実作業中又はすべて対応済みの段階にあり、全般的に取組が進展していると承知している。
 このように、我が国においては、主な分野ごとに計画的に対応作業が進められており、これまで欧米諸国から対応状況に懐疑的な見方をされる分野もあったが、最近では、諸外国政府関係者等から金融分野を始め我が国の対応について積極的な評価を得るようになってきている。
 政府としては、今後とも、行動計画に基づき、二千年問題に積極的に取り組み、その対応に万全を期してまいりたい。

二について

 二千年問題については、コンピュータ西暦二千年問題関係省庁連絡会議(以下「連絡会議」という。)を設置する平成九年十二月以前から、関係省庁が連絡を取りつつ、その対応に努めてきたところである。コンピュータ・システムに関する問題については、従前から関係省庁間で意見交換を行ってきたところであり、平成九年二月の行政情報システム各省庁連絡会議(昭和五十八年六月二十日付けの事務次官等会議申合せにより設置)のシステム担当者の会議において、総務庁から全省庁に対し二千年問題に関する注意喚起を行い、適切な対応を要請した。これと前後し、平成八年から九年にかけて、大蔵省、通商産業省、郵政省等各省庁から所管業界等への周知徹底等を実施している。連絡会議の設置は、こうした各省庁の対応を踏まえ、中央省庁が保有するコンピュータ・システムについての対応、地方公共団体、各省庁所管業界等に対する啓発普及活動をより円滑に実施し、各省庁の二千年問題への対応の強化を図るためのものであり、政府全体としての取組は連絡会議の設置以前から実施してきたものと理解している。

三について

 行動計画においては、中央省庁は、原則として、本年六月末までに、国民生活等に密接に関連するシステム等優先度の高いシステム(以下「優先システム」という。)すべてを対象として、模擬テストを完了することとしており、また、特殊法人等に対し、同様の対応を行うよう指導、要請している。これに基づき、現在、中央省庁、特殊法人等において模擬テストを含む総点検を進めているところである。昨年十一月時点の調査においては、中央省庁、特殊法人等の優先システムの中には模擬テストの実施時期が明らかでないものもみられるが、中央省庁、特殊法人等は、行動計画に基づいて模擬テストを実施することとしており、機器の更新時期や新システムへの移行時期との関係等やむを得ない事情がある場合を除いて、基本的には行動計画の期限内に模擬テストを完了するよう取り組んでいる。本年度内に、改めて対応状況の調査を行い、中央省庁、特殊法人等における模擬テストの実施状況等について把握することとしている。
 なお、政府としては、行動計画に基づき、地方公共団体に対し、模擬テストを含む総点検について、中央省庁に準じた対応を行うよう要請するとともに、民間部門、特に民間重要分野に対し、所管省庁から、業界団体を通じ、又は直接民間企業に対し、その対応を促しているところである。
 また、諸外国とのグローバルネットワークでの模擬テストの実施については、航空管制分野において、日米航空当局間で昨年十月に接続確認テストを実施し、問題が発生しないことを確認する等の取組を行っている。なお、金融、情報通信等の分野においても、関係国際機関等の場で、諸外国の関係者との意見交換を行ってきているところであるが、国際的な共同模擬テストを必要とするシステムは存在しないと考えている。
 金融機関における二千年問題については、その対応を誤れば、金融機関自身のみならず、決済システム等を通じて市場全体に極めて深刻な影響を及ぼすおそれがある重大な問題であるとの認識の下、その対応に万全を期しているところである。このため、金融監督当局において、昨年八月「コンピュータ西暦二千年問題に関する金融検査におけるチェックリスト(改訂版)」を策定し、これに基づき、個別金融機関に対し、システムの修正、修正後のテストの実施、危機管理計画の作成に重点を置いた検査を行っている。特に、昨年十月から民間専門家四名を登用し、主要行を中心に集中的な検査を実施しているところである。

四について

 航空分野については、御指摘の資料の作成に当たり調査対象となった航空会社十社において、二千年問題への対応状況について未着手又は調査中の段階にあるとしたものはなく、すべての会社が運航業務の制御に用いるシステムのプログラムの修正について、現在、実作業中の段階にあり、同システムのうち優先して対応すべきものと考えられるシステムに関しては、一社当たり平均で四十パーセントのものについて模擬テストまで完了していると承知している。また、すべての会社において、二千年問題を統括する役員又は部署が明確化され、取組体制が確立されており、二千年問題に対して計画的に取り組んでいるところであると承知している。
 エネルギー分野については、御指摘の資料の作成に当たり調査対象となった主要企業において、二千年問題への対応に未着手又は調査中の段階にあるとしたものはなく、すべての企業が、現在、実作業中又はすべて対応済みの段階にあり、優先して対応すべきものと考えられるシステムに関しては、一社当たり平均で約六十パーセントのものについて模擬テストまで完了していると承知している。また、すべての企業において、二千年問題を統括する役員又は部署が明確化され、取組体制が確立されており、二千年問題に対して計画的に取り組んでいるところであると承知している。
 政府としては、既に両分野の主要企業に対し二千年問題に関する総点検の実施等について要請したところであるが、今後とも、行動計画を踏まえつつ、各企業の実施状況に応じて必要な指導又は助言を適時かつ適切に行ってまいりたい。

五について

 平成十一年度予算の編成に当たって、二千年問題に係る経費については、その合理化、効率化、重点化を図りつつ、行動計画の着実な実施に支障を来すことのないよう配意した結果、平成十年度第三次補正予算及び平成十一年度予算において、約百九十三億円を計上することとしたところである。
 また、地方公共団体の取組に対しては、技術、財政の両面から積極的に支援していくこととしている。具体的には、平成十年度第三次補正予算の緊急経済特別枠に約六億円を計上して、現地調査等を実施し、地方公共団体が実効性ある実施計画、危機管理計画を策定する際に参考となる手引き等を作成の上、各地方公共団体に提供することとしている。また、地方公共団体の二千年問題対策に要する経費に対し、特別交付税措置を講じることとしている。

六について

 二千年問題に関する中小企業施策については、これまでも普及啓発、金融、税制面での支援策等を講じてきたところであるが、中小企業の場合、依然としてその対応の遅れが懸念されており、行動計画においても中小企業に対し可能な限りの支援を講じていくこととされている。これを受け、先の緊急経済対策では、中小企業の取組を更に促進するため、システムエンジニアの無料派遣、中小企業近代化資金等助成法(昭和三十一年法律第百十五号)に基づく都道府県における中小企業設備貸与事業の強化、地域における相談窓口の充実、広報の展開、政府系金融機関の融資制度における担保特例の導入といった施策が盛り込まれており、従来以上の一層の支援策を講じているところである。

七について

 社団法人情報サービス産業協会が昨年二月に発表した推計は、あくまで日本に存在するコンピュータプログラムのうち、西暦年について下二けたで処理を行う部分を有しているものをすべて修正するとの仮定に基づいたものである。しかし、現実に必要となるシステムエンジニアの数については、第一に、西暦年について下二けたで処理を行う部分を有しているプログラムのすべてが二千年問題によりそのプログラムによる情報処理に重大な影響を及ぼすものではないこと、第二に、機材の更新に伴い、プログラムの問題も同時に解決してしまうケースも多いこと、第三に、システムエンジニアが修正作業に習熟してきたため、より短い工期での対応が可能になっていることを考慮する必要がある。
 また、情報通信に係る機器やソフトウェアの製造業者、販売業者等で二千年問題対応のための要員を従来以上に増加させていることもあり、直ちにシステムエンジニアが大量に不足するといった状況にはないと考えられる。
 しかしながら、二千年が近づくにつれ、駆込みで対応の需要が増加し、一時的にシステムエンジニアが大幅に不足する事態も考えられる。このため、利用者が早急な対応を行うことが、需要の集中によるシステムエンジニア不足を回避する最善の手段であり、利用者に対して一刻も早く対応に取り掛かるよう周知徹底しているところである。

八について

 航空機については、二千年問題への対応状況等について把握すべく、航空機製造業者等に対し、昨年九月に調査を行った。その結果、一部の装備品について、西暦年の表示が正しく行われない等の問題点が認められているが、航空機の安全運航に直接影響を与えるような重大な問題を有する装備品は確認されていない。なお、マイクロ・コンピュータを含めた航空機に係るコンピュータ・システムについては、現在、航空機製造業者によりさらに詳細な調査が行われており、その結果を聴取することとしている。政府としては、仮に二千年問題に係る重大な問題が発生するおそれがある航空機が確認された場合には、航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)第十四条の二に基づき、当該航空機の運航を差し止める等、航空機製造業者及び航空会社の対応状況に応じて必要な措置を適時かつ適切に行ってまいりたい。
 また、医療用具については、二千年問題への対応状況等について把握すべく、医療用具製造業者等に対し、昨年十月に関係団体を通じ、予備的な調査を行った。その結果、一部の医療用具について、西暦年の表示や記録が正しく行われない等の問題点が認められているが、患者の生命に直接影響を与えるような重大な問題を有する医療用具は確認されていない。さらに、現在、すべての医療用具製造業者等を対象に、二千年問題への対応状況についての詳細な調査を実施中であり、その結果、仮に二千年問題に係る重大な問題が発生するおそれがある医療用具が確認された場合には、当該医療用具の製造業者等に対し、薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)第七十条に基づき、二千年問題の発生を防止するに足りる措置を採るべきことを命ずる等、保健衛生上の危険の発生を未然に防ぐよう努めてまいりたい。
 その他のマイクロ・コンピュータ搭載機器製造業者等についても、その二千年問題への取組状況について調査したところであるが、二千年問題対応必要製品の有無の確認や個別利用者への告知、インターネット等を通じた製品情報の提供等の取組が進められている。政府としては、利用者の自主的な総点検が更に進むよう、これら製造業者等の情報提供等の一層の徹底について、指導又は助言を適時かつ適切に行ってまいりたい。

九について

 二千年問題については、中央省庁、特殊法人等、地方公共団体、民間部門の各主体において、行動計画に基づき、模擬テストの実施を含む総点検を実施することに併せて、不測の事態が生じた場合を想定した危機管理計画の策定を進めているところである。
 政府としては、中央省庁における優先システムすべてを対象として危機管理計画の策定を進めるとともに、特殊法人等に対し、同様の対応を行うよう指導、要請しており、また、地方公共団体に対しても、これに準じた対応を行うよう要請しているところである。さらに、民間部門、特に民間重要分野に対し、所管省庁から、業界団体を通じ、又は直接主要企業に対し、危機管理計画の策定の徹底を促しているところである。
 各主体における危機管理計画の策定の進ちょく状況を含めた行動計画の推進状況については、今後とも、顧問会議及び推進会議において、四半期ごとに報告を行うこととしている。さらに、必要に応じ、高度情報通信社会推進本部を開催し、二千年問題への適切な対応を推進することとしている。
 政府としては、行動計画に基づく今後の推進状況に十分注意を払いつつ、二千年問題への対応に万全を期してまいりたい。