質問主意書

第144回国会(臨時会)

質問主意書


質問第四号

労働者の健康障害防止に向けた化学物質の規制の強化等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十年十二月八日

荒木 清寛   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   労働者の健康障害防止に向けた化学物質の規制の強化等に関する質問主意書

 今日、我が国で工業的な目的をもって製造及び輸入されている化学物質の数は、約五万種を数えており、さらに年間五百から六百種の新規化学物質が開発され、新たに使用されている。これらの化学物質の中には有害性を有するものがあり、様々な化学物質に取り囲まれている職場の労働者においては、化学物質による職業性のがん等の健康障害が後を絶たない状況にある。また、最近では生殖毒性や神経毒性等がん原性以外の有害性も問題となっている。
 このため、労働者の健康障害を予防するための施策の強化が求められており、このような観点から、以下質問する。

一、化学物質による職業性の健康障害の状況とその防止策について

1 化学物質による業務上疾病の発生は、どのような状況にあるのか。最近五年間の各年次における、業種別、疾病の種類別の発生状況及び発生原因等について明らかにされたい。また、業務上疾病に至らないまでも、化学物質が労働者の健康に与えている影響についての調査結果があれば、併せて明らかにされたい。
2 化学物質による労働者の健康障害を防止するには、その有害性について調査を十分行うとともに、有害性が確認された物質に関しては、適切な管理の下で製造、取扱いが行われるよう措置する必要がある。現在、政府が講じている健康障害の防止に向けた施策・体制について明らかにするとともに、労働者の健康障害が後を絶たない状況にかんがみ、今後、どの様な対応が必要であると考えているのか明らかにされたい。
3 化学物資に対する有害性調査の状況について、次の点を明らかにされたい。

(1) 新規化学物質について、最近十年間の各年次における、製造・輸入届出状況及び有害性が確認された物質の数と名称について明らかにされたい。
(2) 既存化学物質に対する有害性調査の実施について、調査制度導入以後、どの様に進めてきたのか。その概要とともに、対象物質の選定方法、各年次における調査物質数、調査によって有害性が確認された物質数と名称について明らかにされたい。また、未調査の既存化学物質の数及び今後の調査予定計画等についても明らかにされたい。
 なお、既存の化学物質の調査については、労働者の健康に関わる重要な問題であり、迅速に進める必要がある。現在の調査体制で十分か。例えば、関係省庁との連携等といったことも必要ではないかと考えるが、この点も含めて、調査の迅速化に向け、どのような対応を検討しているのか明らかにされたい。

4 化学物質の有害性については、労働者に中毒、アレルギー、がん等の健康障害を生ずるおそれのある性質(「平成十年度 労働衛生のしおり」)とされている。しかし、労働安全衛生規則第三十四条の三等において、有害性の調査としては、がん原性に関する調査のみが義務づけられている。なぜ、がん原性以外に関する調査が義務づけられていないのか、その理由を明らかにされたい。
5 平成九年三月、「化学物質の有害性調査のあり方に関する検討会」は、化学物質のがん原性の調査に加え、生殖毒性、神経毒性、臓器毒性、刺激性等の有害性についても調査する必要があるとの提言を行ったが、政府は、この提言について、どのように受け止め、対応していくつもりか。また、がん原性以外の有害性調査に関して、試験方法の研究開発等を既に進めているのかどうか明らかにされたい。
 加えて、同報告書においては、がん原性以外の有害性調査の必要性とともに、事業者等が共同して有害性調査を行う枠組みの創設、有害性調査の実施に係る中期的な基本方針の策定、有害性情報のデータベース化等に関する事項も併せて提言されているが、政府の対応方針を明らかにされたい。
6 労働者に職業がん、皮膚炎、神経障害等を発症させるおそれの大きい化学物質として規制の対象となっている特定化学物質等の製造等を行う場合、その種類や工程等に応じ、ガス、蒸気等の発散源の密閉化や局所排気装置の設置、漏えいの防止措置、特殊健康診断の実施等が義務づけられている。これら特定化学物質等は、それぞれ、どの様な有害性に着目して規制の対象となったのか、各物質ごとに明らかにされたい。特に、塩化ビニルについては、対象をモノマーに限定している(「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令の施行について」昭和五十年二月二十四日基発第一一〇号)が、その理由も併せて明らかにされたい。
 この塩化ビニルについては、例えば、雑誌のビニール包装等、ポリマーの状態のものを扱う業務においても、加熱作業等業務の形態によっては、微粒子が発生し、労働者の健康に悪影響を与える要因になり得るのではないかと懸念される。モノマーでなくても、こうした作業を行う場合は、特定化学物質を取り扱う作業の一つとして認めるべきであると考えるが、現行では、どのような扱いとなるのか、その理由も含めて、政府の対応を明らかにされたい。
7 健康障害の防止には、化学物質の製造、取扱いを行う場所での業務の環境改善が必要である。平成八年の労働環境調査報告(労働大臣官房政策調査部)によると、特定の化学物質を製造し又は取り扱う業務に従事する労働者の四割強が、作業の性質に起因する劣悪環境の改善を望んでいる。また、同業務に関して行われる特殊健康診断における有所見率が、企業規模が小さくなるにつれ高まる傾向が見られ、十人から四十九人規模の企業の有所見率は、千人以上規模の企業の五倍となっている。一方、こうした業務を行っている企業では、規模が小さいほど、資金がなく作業環境改善ができないとする回答の割合が高い。
 このような状況から見て、健康障害防止のため、規模の小さな企業に対する作業環境の改善に向けた支援が必要であると考えるが、現行では、どのような支援策を講じているのか。今後、小規模企業の作業環境改善を一層促進するため、政府は、どのような施策を講ずるつもりか。これらについて、政府の考えを明らかにされたい。

二、国際的動向を踏まえた有害性を有する化学物質の規制の状況と今後の対応について

1 OECDでは、国際的に大量に取り扱われる化学物質について、加盟各国が協力して有害性調査等を行うため、国際プロジェクトが推進されているが、我が国はこの中でどのような役割を担っているのか。
2 ロンドンガイドラインの対象化学物質のうち、我が国の規制法規である毒物及び劇物取締法、労働安全衛生法、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律等の対象外になっている物質にはどのようなものがあるか。また、規制法規の対象外としている理由についても概略を説明されたい。さらに、それらの物質の規制については、今後どのように対応するのか明らかにされたい。
3 ロンドンガイドラインについては、一九九五年の第一八回UNEP(国連環境計画)管理委員会においてPIC制度(特定有害化学物質の国際取引に関する事前通報制度)の早期条約化に関する勧告が行われており、それを受けて本年九月の条約化交渉会議でPIC制度の条約化が採択されたようであるが、これに対する今後の我が国の対応はどうか。

  右質問する。