質問主意書

第143回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第一号

内閣参質一四三第一号

  平成十年九月十八日

内閣総理大臣 小渕 恵三   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員竹村泰子君提出在日韓国・朝鮮人の市民的権利等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員竹村泰子君提出在日韓国・朝鮮人の市民的権利等に関する質問に対する答弁書

一について

 帰化後の氏名については、日本人らしい氏名を使用するよう指導していた時期もあったが、昭和五十八年から、そのような指導を行わないこととした。この点については、部内担当者の会議等様々な機会を通じて国籍事務担当者に周知させ、また、帰化相談等の際に帰化許可申請希望者その他の照会者に対して周知を図っている。
 また、御指摘のような簡易な手続はないが、帰化に当たって定めた氏については戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)第百七条第一項により、名については同法第百七条の二により、それぞれの所定の要件の下、家庭裁判所の許可を得て変更することが可能である。

二について

 昭和二十七年から平成九年までの間の年別帰化許可者数は、別表第一記載のとおりである。帰化の前後で氏と名の双方とも変わっていない者の数についての統計はない。
 また、帰化許可者については、帰化前の氏名を官報に告示している。

三について

 帰化前に所持していた外国旅券又は出生証明書等、公の機関が発行した書類により、「Pak」又は「Park」のつづりが確認できれば、本人が希望する表記を行うことは可能である。

四について

 在日韓国・朝鮮人を含む外国人が民族名を使用するか否かについては、基本的には個人が決めるべきものと解するが、法務省の人権擁護機関等においては、民族名を使用することによって生ずる偏見や差別を含めて、外国人に対する偏見や差別をなくすため、多様な啓発活動を展開している。具体的には、人権週間(毎年十二月四日から同月十日までの一週間)や人権啓発フェスティバルにおいて、外国人の人権をテーマとしたシンポジウムの開催、「在日韓国・朝鮮人の人権について」、「国際化時代の人権」等の演題での講演会の開催、ポスターの掲出、啓発冊子の配布等を通じて、外国人への偏見や差別をなくすための全国的な啓発活動を展開している。また、昭和六十三年以来、東京、大阪、名古屋等八の法務局、地方法務局で曜日を設定して外国人のための人権相談所を開設しているほか、その他の法務局、地方法務局においても、人権週間中などに特設人権相談所を開設し、外国人から人権問題について気軽に相談に応じられるような体制の充実、強化を図っている。
 また、外国人について基本的人権が侵害されるような事案を認知した場合には、人権侵犯事件として速やかに調査し、侵犯事実の有無を確かめ、その結果に基づき、事案に応じた適切な処置を講じているところである。
 今後とも、外国人に対する偏見や差別をなくすため、積極的な啓発活動等の推進を図ってまいりたい。

五のイについて

 別表第一記載のとおりである。

五のロについて

 別表第二記載のとおりである。

五のハについて

 人口動態統計によれば、昭和六十年から平成八年までの間の父母の国籍別にみた年別出生数は、別表第三記載のとおりである。

六について

 御指摘の通達については、その発出後にその内容を変更する行為を特に行っておらず、その効力を失していないが、現時点においては、朝鮮人のみを対象とする私立の教育施設(以下「朝鮮人学校」という。)のほとんどが、実態上、都道府県知事により各種学校として認可されており、文部省においてはそうした現実を踏まえながら対処しているところである。
 御指摘の市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五十四年条約第七号。以下「規約」という。)第四十条1(b)に基づく第三回政府報告(以下「第三回政府報告」という。)及び政府代表の発言はほとんどの朝鮮人学校が、実態上、都道府県知事の認可による各種学校として運営されているという現実を踏まえ、また、各種学校における教育内容については特段の制限が設けられていないことを前提として、在日韓国・朝鮮人に関する教育の状況について説明したものである。

七について
 市民的及び政治的権利に関する国際規約第四十条一項(b)に基づく日本国政府第四回報告書における在日韓国・朝鮮人問題に関する質問に対する答弁書(平成十年七月二十四日内閣参質一四二第二六号。以下「前回答弁書」という。)の一及び二についてでお答えしたとおり、我が国においては、何人も自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利は否定されていないので、我が国内の特定の集団が、規約第二十七条にいう少数民族であるか否かについては必ずしも判断を要しないものと考えている。
 御指摘の第三回政府報告において、アイヌの人々が規約第二十七条にいう「少数民族」であるとして差し支えない旨報告しているが、このことは、我が国内の特定の集団が自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利が認められるために、「少数民族」であるとの判断が行われる必要があるということを意味するものではない。したがって、前回答弁書は御指摘の第三回政府報告と矛盾するものではない。

八について

 平成十年の地方公務員の総数、そのうち日本国籍を有していない者の総数、国籍別内訳数については、把握していない。
 なお、地方公務員のうち日本国籍を有していない者の数については、平成四年に行った調査が最新のものであり、前回答弁書の六についてでお答えしたとおり、平成四年四月一日現在で、四千百四十一人となっている。

九について

 四についてでお答えしたとおり、法務省の人権擁護機関においては、外国人も人権相談ができるよう人権相談所を設けているところである。また、具体的に人権侵犯の疑いのある事案については、速やかに調査を行って事案に応じた適切な措置を講じているところである。一方、人権擁護委員は、日本国籍を有する者に限られているが、その職務を執行するに当たっては、人種、信条、性別、社会的身分、門地又は政治的意見若しくは政治的所属関係によって、差別的又は優先的な取扱いをしてはならないとされており(人権擁護委員法(昭和二十四年法律第百三十九号)第十二条第二項)、日本国民と在日外国人との分け隔てをすることなく、その人権の擁護のために諸活動を行っている。また、人権擁護委員の行う人権相談についても、前述のように外国人のための人権相談所において通訳を介するなどして、あらゆる外国人からの相談に応じている。
 以上のとおり、法務省の行う人権相談は、外国人の人権を擁護する上で十分に機能するよう努めているところであり、また、人権擁護委員が日本国籍を有する者に限られていることに特段の問題があるとは考えていない。
 なお、人権相談においては、相談内容がプライベートなものであることから、相談者は、自分の国籍を明らかにしないケースもあり、また、相談を受ける人権擁護機関も相談者のプライバシーを重視しているので、国籍を明らかにすることを求めていない事情もあって、前回答弁書の五についてでお答えした人権相談件数は、相談者が国籍を自ら明らかにした数字である。

十について

 人権擁護委員は、国家公務員法上の国家公務員ではないが、法務大臣から委嘱され(人権擁護委員法第六条)、その指揮監督を受けつつ(同法第十四条)、その職務執行区域において、人権尊重思想の普及高揚、人権擁護運動の助長、人権侵犯事件に関する調査及び情報の収集、法務大臣への報告、関係機関への勧告等の職務に従事しているものであって(同法第十一条)、人権擁護委員の右職務は、国が行う人権擁護事務を補完するものであり、法務省の人権擁護部門と一体的に遂行されるものである。特に、右の職務のうち、人権侵犯事件に関する調査及び情報の収集、法務大臣への報告、関係機関への勧告等の職務は、調査及び情報の収集の結果に基づく人権侵犯事実の認定、関係機関への勧告等の処置の要否、内容等の決定並びに当該処置の実行を内容とするものである。
 このような職務の性質及び内容に照らすと、人権擁護委員法上、法務大臣から人権擁護委員として委嘱される者が日本国籍を有する者に限られていること(人権擁護委員法第六条第一項から第三項まで、公職選挙法(昭和二十五年法律第百号)第九条第二項及び地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第十八条)には、合理的な理由があるものと考えている。
 御指摘の答弁書は、公務員に関するものであるところ、人権擁護委員は国家公務員法上の国家公務員ではないが、人権擁護委員法は以上に述べたような理由により人権擁護委員を日本国籍を有する者に限っていると解され、このことは、右の答弁書と矛盾するものではない。

十一について

 御指摘の規約人権委員会が第三回政府報告の検討後、千九百九十三年(平成五年)十一月四日に採択した意見においては、主要な懸念事項として、規約と国内法との関係、在日韓国・朝鮮人等に対する差別的慣行の存在、女性に対する差別的慣行の存在、婚外子に対する差別的法令の存在、死刑に処せられ得る犯罪の数及びその性質、被拘禁者の状態、判決前の拘禁、代用監獄制度等が挙げられ、また、提案及び勧告として、規約の選択議定書及び第二選択議定書等の締結、婚外子に関する法令の改正、死刑制度の廃止に向けての手段を講ずること、公判前の手続及び代用監獄の運営が規約の要請に合致されるべきこと等が挙げられているところ、規約第四十条1(b)に基づく第四回政府報告(以下「第四回政府報告」という。)においては、右意見において挙げられたそれぞれの項目について我が国の施策や立場をおおむね説明しているところである。
 また、御指摘の一般的な性格を有する意見については、それらを検討し考慮に入れた上で第四回政府報告を作成したところである。

別表第一 帰化許可者数の推移

別表第二 法務大臣への届出により日本国籍を取得した者の数

別表第三 父母の国籍別にみた年別出生数