質問主意書

第143回国会(臨時会)

質問主意書


質問第五号

環境汚染物質排出・移動登録制度(PRTR)に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十年九月十七日

福本 潤一   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   環境汚染物質排出・移動登録制度(PRTR)に関する質問主意書

 化学物質による環境汚染問題、すなわち、ダイオキシン類、廃PCBの処理間題そして内分泌撹乱化学物質等が、重大な社会問題となっている。世界中で、約一〇万ともいわれる化学物質が氾濫しているが、危険と判断される物質も少ない代わりに、安全とされるものも少ない。そこで、これらの物質の環境リスクを評価して、どのように管理し、安全を確保していくかが、我が国のみならず、世界的な課題となっている。
 ブラジルの地球サミットでは、アジェンダ21第一九章で、有害化学物質の適正管理に関する行動計画が定められた。この流れの中で、OECDは、PRTRによる化学物質管理の有用性に鑑み、加盟国に制度化を要請し、一九九九年に取り組み状況の報告を求めることとしている。我が国においても、環境庁が、この要請を受け、九六年から二地域においてモデル事業を実施し、その結果を基に中央環境審議会に諮問し、法制化に向けた審議を開始する一方、通商産業省は、昨年から化学品審議会で検討を開始し、九月に中間報告を出し、今臨時国会に法案を提出する意向が報じられた。
 PRTRが、化学物質の排出・移動量を登録させることによって、種類、量、事業所を把握し、それを公表することが排出抑制につながることを目的とする制度である以上、法制度としても、この目的に的確に応えるものでなければならない。また、通産省、環境庁という行政のみのいわば密室で法案作成を行うのではなく、この制度の享受者である国民が、制度構築に参加し得る仕組みを構築し、行政、事業者、学者ととも
に審議を重ねて結論を得て、これを行うことが、OECDの勧告の趣旨にもかなうものである。
 そこで、次のことを質問する。

1、PRTRは法制度化する過程が最も重要であり、かつ、この制度が二十一世紀の化学物質による環境汚染防止の柱となるべきものであるとの認識にたって、十分な検討を重ねる必要があると考えるが、

(1) どのような制度にするかについては、行政、事業者、学者、国民が対等に議論できる場を設け、合意形成をしていかなければならないと思うが、どのような場を設けるつもりなのか。
(2) 諸外国では、この制度は、我が国の環境庁に相当する行政庁が専管するのが通例となっているが、我が国は、どうするのか。
(3) 対象について、化学物質を使用する工場のみでは効果が薄いので、将来は、小規模事業所を含めたものとすべきだと思うがどうか。また、化学物質を生産する過程まで踏み込んでいく必要があると思うが、政府の見解を明らかにされたい。
(4) 登録される化学物質の数をどの程度と考えているか。
(5) PRTRの法制度化のためには、ハザードアセスメントの仕組みを検討しなければならないが、どのように検討しているのか。また、環境庁と通産省との連携は具体的にはどのように行っているのか。
(6) さらに、ハザードアセスメントを行う場合、行政、事業者、学者、国民が対等に議論できる場が求められてくるが、どのような場を設定して合意形成を行おうとしていくつもりなのか。

2、今ひとつ制度の根幹をなすものは、収集されたデータの公開である。

(1) 環境庁のモデル事業の結果及び諸外国の例においても収集されたデータで企業秘密に抵触するものはほとんどなかったと聞いているが、事実を確認したい。
(2) 情報公開の程度は、国によってさまざまであるが、行政が情報を独占して環境リスク対策に役立てるだけでは効果の薄いものとなる。この制度の効果として、国民が情報を利用していくことが化学物質排出量削減につながることはよく知られているので、個別事業所の情報に市民がアクセスできる方法及び専門家でなくても情報が利用できるような形で提供することが確保されなければならないと思うがどうか。

3、企業が懸念しているのは、情報公開、国民の反応である。諸外国では、情報公開を行い、積極的に周辺住民と対話していくことが、企業の信頼性を増す結果となることが認識されているが、我が国において企業が国民、特に周辺住民とのリスクコミュニケーションを進めていく上で行政としては、どのように支援するのか。

4、この制度は、柔軟性をもったものとすることも求められている。対象物質の追加、入れ替え等制度を機動的に見直していけるようにすることも必要となるが、どのような仕組みを考えているのか。

5、この制度は、化学物質管理の手段という位置づけをも持つものである。この成果を、今後、大気汚染防止法、水質汚濁防止法等の各環境媒体における汚染規制基準や対策に応用し、効果的な環境リスク対策につなげていかなければならないと思うがどうか。

  右質問する。