質問主意書

第143回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一号

在日韓国・朝鮮人の市民的権利等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十年八月十日

竹村 泰子   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   在日韓国・朝鮮人の市民的権利等に関する質問主意書

一、政府代表は、市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五十四年条約第七号。以下「規約」という。)に基づき設置された規約人権委員会(Human Rights Committee)の第四十九会期で一九九三年十月二十七日、「帰化に際しては日本風の氏名に改めなければならないという法律上の規制もないし、法務省として日本風の名前を使うようにという指導はしていない」と答弁した。また、子どもの権利に関する条約(平成六年条約第二号)に基づき設置された子どもの権利に関する委員会(Committee on the Rights of the Child)の第十八会期でも一九九八年五月二十七日、「日本での戸籍の記載の際には、日本名で記載しなければならないという規定はない。当然に韓国名で記載することが認められている」と答弁している。
 法務省は従来「民族意識の発露としてことさらに外国人的な呼称の氏に固執するということになると、帰化により日本国民とするにふさわしい者とはいえない」(稲葉威雄「帰化と戸籍上の処理」、『民事月報』 一九七五年九月号)という行政指導を行い、帰化許可申請書には一九八五年の国籍法、戸籍法改正まで、作成上の注意として「(帰化後の)氏名は日本人としてふさわしいものにしてください」と記していたが、いつ指導方針が変わったのか。また指導方針の変更を窓口担当者ら関係者に周知徹底させるために、どのような指導をし、また、それを帰化申請希望者を含めた一般社会に知らせるため、どのような措置をとったか、明らかにされたい。
 また、当該行政指導により、不本意ながら日本風の氏名に改めた人々が、政策変更に伴って、もとの氏名を回復する簡易な手続き(回復措置)はあるのか。

二、帰化許可者の数と、そのうち帰化の前後で姓と名の双方とも変っていない者の数(原音の片仮名、平仮名表記及び同義の漢字による表記を含む。)を一九五二年から一九九七年までそれぞれ各年度ごとに示されたい。また、帰化許可者の官報告示はどの名前によるのか。帰化前の名前か、それとも帰化後の名前か、明らかにされたい。

三、在日韓国・朝鮮人が帰化した際の戸籍は韓国・朝鮮人名で記載できるというが、旅券のローマ字表記は、民族名(たとえば朴は「Pak」または「Park」)で表記できるのか。

四、前記子どもの権利に関する委員会で、政府代表(法務省人権擁護局)は「就労や居住の面で差別が行われる可能性がある状況の中で、在日韓国・朝鮮人の中には本名を名乗ることによって起こる偏見や差別を恐れ、日常生活において、日本名を通名として使用する場合があると認識している。こうした状況は、まさに平等の精神に反する誤った偏見・差別意識が依然として一部に存在するという判断で行われていることであり、たいへん憂慮すべきことだと考えている。引き続き、関係機関、その他団体等に対して差別意識の解消に向けた啓発を行っていきたい」と答弁している。民族名使用の問題について、具体的にどのような措置をとるつもりか、明らかにされたい。

五、次の人数について、それぞれ韓国・朝鮮籍者、中国籍者別に、また各年ごとに示されたい。

イ 一九五二年から一九九七年までに帰化によって日本国籍を取得した者の数
ロ 一九八五年の国籍法改正によって新設された、届け出による国籍取得によって日本国籍を取得した者の数
ハ 一九八五年の国籍法改正以降、日本国籍者との間に生まれた子どもの数

六、政府は国際連合に提出した規約第四十条一項(b)に基づく第三回報告書(以下「第三回報告書」という。)で「在日韓国・朝鮮人が我が国の学校教育を希望しない場合、韓国・朝鮮人学校に通学することも可能である。韓国・朝鮮人学校については、そのほとんどが各種学校として都道府県知事の認可を受けているところであり、その自主性は尊重されている」(国連文書CCPR/C/70/Add. 1, 30 March 1992, paragraph 50)と記している。また前記子どもの権利に関する委員会で、政府代表(文部省)は、朝鮮学校あるいはインターナショナル・スクールなどの外国人学校については「各種学校というカテゴリーを設けて、自由な教育を保障している」と答弁している。そうすると「朝鮮人としての民族性または国民性を涵養することを目的とする朝鮮人学校は、わが国の社会にとって、各種学校の地位を与える積極的意義を有するものとは認められないので、これを各種学校として認可すべきでない」とした文部事務次官通達(文普振第二一〇号、昭和四十年十二月二十八日)は、これと矛盾するので、今では効力を失していると受け止めてよいのか。

七、政府は私の質問に対する答弁書(内閣参質一四二第二六号。以下「答弁書」という。)で、「我が国においては、何人も自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利は否定されていないので、在日韓国・朝鮮人、かつての在日韓国・朝鮮人で日本国籍を有した人々、これらの者と日本国籍を有する者との間に出生した人々等が、市民的及び政治的権利に関する国際規約第二十七条にいうマイノリティであるか否かについては、必ずしも判断を要しないものと考える」との旨の答弁をしている。これは前記第三回報告書で「本条(第二十七条)との関連で提起されたアイヌの人々の問題については、独自の宗教及び言語を有し、また文化の独自性を保持していること等から本条にいうマイノリティであるとして差し支えない」(CCPR/C/70/Add.1, paragraph 233)としたことと矛盾しないか。なぜアイヌはマイノリティとして認め、在日韓国・朝鮮人についてはその判断を要しないのか、理由を明らかにされたい。

八、一九九八年の地方公務員の総数と、そのうち日本国籍を有していない者の数及び国籍別内訳数を明らかにされたい。

九、政府は答弁書で「人権相談及び人権侵犯事件の調査を通じ、積極的に外国人の人権の擁護を図ってまいりたい」としているが、最近五か年における人権相談総件数に占める外国人を被害者とするものの比率は、在日外国人の口比に比べて著しく低い。一方、人権侵犯事件総数に占める外国人を被害者とするものの比率は、人権相談総件数に占める比率に比べて二倍から六倍と高い。これは法務省の行う人権相談が、外国人の人権を擁護する上で十分に機能していないことを表しているのではないか。また、それは在日外国人を人権擁護委員から排除しているため、人権相談が外国人に疎遠な存在となっているためではないのか、政府の見解を明らかにされたい。

十、政府は答弁書で「公権力の行使又は公の意思の形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍を必要とするが、それ以外の公務員となるためには必ずしも日本国籍を必要としない」としている。そうであれば、常勤の公務員でもなく、「国が行う人権擁護事務を補完する」ことを職務とするにすぎない人権擁護委員を日本国籍を有する者に限るのは前述の見解と矛盾しないか。

十一、規約人権委員会は一九九二年の第四十四会期一一二三会合で、各締約国政府の報告書審議の終了後、委員会全体の意見を反映した「意見」(Comment)を採択することを決定し(UN Doc. CCPR/C/79)、締約国に対し、次回報告書においてこれら意見に関してとった措置について報告するよう求め、また「政府報告書の形式と内容に関するガイドライン」(UN doc.A/36/40 ANNEX VI)は、各国の政府報告書は規約人権委員会の一般的意見(General Comments)を考慮に入れて作成するよう求めている。
 政府は規約に基づく第四回報告書を作成する際に、規約人権委員会が第三回報告書の審議後、一九九三年十一月四日に採択した意見(Comments, UN doc.CCPR/C/79/Add.28)のうち、どの意見についてその後とった措置を記述し、また、報告書作成にあたって、同委員会が採択した二五の一般的意見のうちいずれを検討し、考慮に入れたのか、明らかにされたい。

  右質問する。