第142回国会(常会)
答弁書第二八号
内閣参質一四二第二八号 平成十年七月二十八日 内閣総理大臣 橋本 龍太郎
参議院議員加藤修一君提出内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)問題等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。 参議院議員加藤修一君提出内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)問題等に関する質問に対する答弁書 一の1及び5について 御指摘の内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)問題(化学物質が生物の体内に取り込まれて正常な内分泌を阻害し、生殖や発育等に影響を及ぼす可能性に関する問題をいう。以下同じ。)については、現時点においては科学的に未解明な点が多く残されており、政府としては、参議院議員加藤修一君提出エンドクリン問題等に関する質問に対する答弁書(平成十年一月二十三日内閣参質一四一第一四号。以下「エンドクリン答弁書」という。)の六の3についてで述べたとおり、必要な調査研究等を実施するとともに、それらを踏まえ、内分泌かく乱化学物質による人の健康や生態系へ、の影響を未然に防止する観点から、必要に応じ、適切な措置を講じてまいりたい。 一の2について 政府としては、御指摘の趣旨を踏まえ、関係各省庁において、情報交換を行いつつ緊密な連携を図るとともに、次のように必要な調査研究等を実施し、それらを踏まえ、必要に応じ適切な措置を講じていくこととしている。
一の3について 環境庁においては、平成九年七月に公表した「外因性内分泌撹乱化学物質問題に関する研究班中間報告書」に、これまでの内外の文献に基づいて内分泌かく乱作用を有すると疑われる六十七の化学物質を掲載したところである。しかし、現時点では、これらの物質の内分泌かく乱作用の有無、種類及び強弱について評価が定まっていない状況にある。したがって、内分泌かく乱化学物質に関して政府としての措置を講ずるためには、今後、スクリーニング試験法の開発及び実用化を急ぎ、これらの物質について内分泌かく乱作用の有無、種類及び強弱を確認することが必要であり、現時点において御指摘のような環境庁の所管する庁舎等の物品の調達に関する措置を行う考えはない。
一の4について 食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)第十一条第一項の規定により、厚生大臣は、公衆衛生の見地から、販売の用に供する食品等に関する表示につき、必要な基準を定めることができるとされているが、現段階においては、化学物質の内分泌かく乱作用により人の健康に重大な影響が生じるという科学的又は技術的知見は得られていないことから、御指摘の内分泌かく乱化学物質と疑われている物質について表示を義務付けることは適切でないと考えている。
二の1について 化学物質が乳幼児に与える影響については、国連環境計画(UNEP)、世界保健機関(WHO)及び国際労働機関(ILO)が化学物質の安全対策を推進するための共同プログラムとして設置した国際化学物質安全性計画(IPCS)においてその評価方法に関する考え方がまとめられたことを承知しているが、本年六月十八日現在、御指摘の乳幼児に対する基準値について国際機関又は外国政府がこれを設定している又はこれの設定を検討しているという情報は承知していない。 二の2について 平成八年六月に取りまとめられた厚生科学研究費補助金による「ダイオキシンのリスクアセスメントに関する研究」の中間報告に示されたダイオキシン類の耐容一日摂取量は、健康影響の観点から、乳幼児期も含め一生涯にわたって摂取しても耐容される値が、科学的根拠に基づいて設定されたものである。なお、千九百九十七年五月に開催された先進八か国環境大臣会合において、子供に特異な暴露経路及び量反応関係を考慮した基準の設定の必要性が提案されていること等から、今後とも、国際機関等で行われる専門的な検討を踏まえ、必要な対応をしてまいりたい。 二の3について 学校給食に使用される食材の購入に当たっては、どのようなものをどこから購入するかについては、学校給食の実施者にゆだねられているところであるが、従来から、「有害なもの又はその疑いのあるものは避けるよう留意すること」及び「内容表示・製造年月日・製造業者等が明らかでない食品、材料の内容が明らかでない半製品等については、使用しないようにすること」との指針を示し、学校給食における食材の生産及び流通の把握に努めるよう、学校給食の実施者に対し指導してきたところであり、今後ともその徹底を図ってまいりたい。
二の4について 学校給食に使用される食材については、食品衛生法に基づく安全性の基準を満たしているものが使用されている。学校給食に使用する食材の購入については、従来から、「学校給食において使用される食材について定期的に細菌、農薬、添加物等についての検査を実施すること」、「有害なもの又はその疑いのあるものは避けるよう留意すること」、「内容表示・製造年月日・製造業者等が明らかでない食品、材料の内容が明らかでない半製品等については、使用しないようにすること」等の指針を示し、学校給食の食材の安全性について、十分な配慮をするよう、学校給食の実施者に対し指導してきたところである。
三の1から3までについて 御指摘の内分泌かく乱化学物質問題に関する関係省庁間の情報交換については、これまでも必要な場合に実施しているところである。また、各省庁に設けられた検討会等において、関係省庁の有する情報を相互に積極的に利用しているほか、各省庁における検討会等には、他省庁の担当者が傍聴者として参加している。
三の4について 環境庁においては、本年五月に御指摘の環境ホルモン戦略計画を策定したところであり、今後はこれに基づき各種の調査研究を進め、行政的措置の在り方について検討していくとともに、国民への情報提供等に努めることとしており、また、環境ホルモン戦略計画においては、新たな知見が得られた場合等においては必要な見直しを行うこととしているところである。厚生省においては、一の2についてで述べたとおり、 現在、「内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会」において今後の対応方針を検討中であり、本年秋を目途に中間報告を取りまとめ、公表する予定である。それ以降に新たな知見が得られた場合には、必要に応じ、対応方針の見直しを行ってまいりたい。
四の1について 環境庁においては、本年六月に設置された「内分泌撹乱化学物質問題検討会」の審議を原則として公開している。
四の2について 三の1から3までについてで述べたように、関係省庁間で必要な情報交換を実施しているところであり、今後とも省庁間の連携を推進してまいる所存である。 四の3について 御指摘のPRTR(環境汚染物質排出・移動登録)に係る検討会のメンバーの氏名等については、別紙一のとおりである。 五について 御指摘の厚生省所管の庁舎等におけるポリカーボネート製食器の使用状況については、把握していない。ポリカーボネート製食器については、厚生省においては、本年三月十三日に開催された食品衛生調査会の毒性部会及び器具・容器包装部会の合同部会におけるポリカーボネート製食器から溶出するビスフェノールAの内分泌かく乱作用による人の健康への影響についての意見を踏まえ、現段階の知見に基づく限り、使用禁止等の措置を講ずる必要はないものと考えており、現時点において御指摘の国立病院等の病院で使用される食器の材質及び厚生省所管の庁舎等におけるポリカーボネート製食器の使用状況の実態調査を実施する予定はない。 六の1について 豊能郡美化センター周辺の土壌等から高濃度のダイオキシン類(ポリ塩化ジベンゾフラン及びポリ塩化ジベンゾ―パラ―ジオキシンの混合物をいう。以下同じ。)が検出された原因については、現在厚生省において原因究明のための調査検討を行っているところであるが、豊能郡環境施設組合が設置した豊能郡美化センターダイオキシン対策検討委員会の報告等のこれまでに得られた情報によれば、因果関係は不明であるが、豊能郡美化センターから排出されたダイオキシン類が検出されたものであると推測される。 六の2について 市町村(一部事務組合を含む。以下同じ。)の設置するごみ焼却施設から排出されるダイオキシン類の濃度の測定については、「ごみ焼却施設からのダイオキシン排出実態等総点検調査の実施について」(平成八年七月十二日衛環第二百十四号厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課長通知)において、年間の平均的な運転状況に近い条件の日を選定して測定を行うよう依頼したところであり、当該通知に基づいて行われた測定に関して、御指摘のような事実が判明した場合には、都道府県を通じて事実関係を確認するとともに、当該市町村に対して再度測定を求める等適切な措置を講じてきたところである。また、排ガス中のダイオキシン類濃度の測定については、平成九年十二月一日から廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(昭和四十六年厚生省令第三十五号)第四条の五第一項第二号カに基づいて実施することとされており、当該測定が適正に行われるよう厚生省において市町村に対する指導を強化してまいりたい。
六の3について 厚生省においては、ダイオキシン類濃度の測定の適正な実施を確保する方策として、都道府県等の立入検査や報告徴収の際に、測定時の燃焼温度を連続測定したデータと通常運転時の燃焼温度のデータとを比較する方法が効果的であると考えている。 また、ダイオキシン類濃度の測定の精度を向上する手法として、平成十年度に、同一の場所から同時に採取した試料を複数の測定機関において測定し、その結果を比較する方法について研究しているところである。 七の1について 御指摘の血液調査は、本年六月に京都で開催された日本環境化学会主催の第七回環境化学討論会において摂南大学の宮田秀明教授が、御指摘の地域の土壌及び住民の血液の調査結果を発表した件であると承知しているが、お尋ねの調査結果の原因、住民の健康への影響、焼却炉の改修の必要性等については、これらを検討するために必要な調査対象者の職業歴、居住歴、食生活の状況等の生活環境、当該焼却炉からのダイオキシン類の排出状況、周辺環境の汚染状況等の十分な情報がないこと及び現時点では血液中のダイオキシン類濃度からダイオキシン類の健康影響を評価する手法が確立していないことから、当該調査結果に対する厚生省の見解及びこれを示すことができる時期を答弁することは困難である。 七の2について 厚生省においては、ダイオキシン類による人体汚染状況の把握のための調査研究を推進しているところであり、平成九年度には、厚生科学研究費補助金を、東京農業大学渡邊昌教授を主任研究者とする血液等の人体汚染状況に関する調査研究に対して交付したところである。この調査研究に係る研究費補助金の額は千七百万円、研究概要は人体の各臓器中のダイオキシン類の分布及び人体の汚染指標としての血液中のダイオキシン類濃度の調査、血液中微ダイオキシン類濃度の測定方法に関する検討等であり、調査研究の結果については、研究者において報告書を取りまとめ、公表する予定である。 七の3について 御指摘の焼却炉周辺住民の血液中のダイオキシン類濃度の調査の実施については、地域住民の健康保持の観点から、関係する地方公共団体において必要性も含め個別に判断されるものである。厚生省としては、現時点においては調査の前提となる血液中のダイオキシン類濃度の測定方法、評価方法等が確立されていない状況にあり、全国的な調査を直ちに実施するよう地方公共団体を指導することは困難であると考えている。 七の4について 厚生省においては、平成九年度に厚生科学研究として行われる食品中のダイオキシン類濃度等に関する調査研究、母乳中のダイオキシン類に関する調査及び血液等の人体の汚染状況に関する調査研究の実施に関し、ダイオキシン類の人体に及ぼす影響を総合的に調査検討することができるよう厚生省と各調査研究の主任研究者が連絡調整を行う「厚生省ダイオキシン類総合研究検討会議」を設置し、意見交換を行っているところである。 八の1について 御指摘のコプラナーPCBの調査については、環境庁においては、平成二年度から化学物質環境汚染実態調査において、河川等の底質や生物中のコプラナーPCBの調査を実施しており、平成八年度にはその調査対象地域を拡大したところである。また、平成九年度に実施した大気環境モニタリング調査においては、全国十地点で大気中のコプラナーPCBをダイオキシン類と併せて測定したところである。平成十年度においては、ダイオキシン類緊急全国一斉調査の中で大気、河川等の底質、土壌、生物等の中のコプラナーPCBの測定を行うこととしているところである。
八の2について 本年五月に開催された御指摘のWHO欧州地域事務局及びIPCSの専門家会合(以下「WHO等専門家会合」という。)において、コプラナーPCBを含めたダイオキシン類の耐容一日摂取量の値として、体重一キログラム当たり一日一ピコグラムから四ピコグラムまでの範囲とすることが合意されたと承知しているが、この新たな耐容一日摂取量の値の設定の根拠等の詳細については、今後、出席した各国の専門家間で最終的な確認の上で、正式な報告として公表されるものと承知している。
九の1について 臭素化ダイオキシン類(ポリ臭化ジベンゾフラン及びポリ臭化ジベンゾ―パラ―ジオキシンの混合物をいう。以下同じ。)については、環境庁による昭和六十三年度の有害化学物質汚染実態追跡調査において河川等の底質や生物中の濃度を測定したところ、いずれの試料からも検出されなかったことから、当時の中央公害対策審議会化学物質専門委員会において、臭素化ダイオキシン類が人の健康に被害を及ぼしているとは考えられないと評価されたところであるが、今後、関係省庁が連携して知見の収集に努めるとともに、必要に応じて適切に対処してまいりたい。 九の2について ドイツ連邦共和国において、臭素化ダイオキシン類に対する規制があることは文献により承知しているが、その詳細については、現時点では十分把握していないところである。
九の3について 厚生省においては、平成十年度に厚生科学研究費補助金によりダイオキシン類に関する調査研究を行うこととしているが、その研究採択課題は現時点においては決定していないため、補助金の交付額、研究の概要等を示すことはできない。
十の1について 農林水産省においては、国民に対し安全かつ良質な食品を提供する立場から、年間を通じて、農林水産消費技術センターにおいて野菜、果実、いも類、茶等の農産物やその加工品についてヘキサクロロベンゼン等約五十種類の農薬の残留実態調査を実施するとともに、食糧事務所において米麦についてマラチオン等約八十種類の農薬の残留実態調査を実施している。
十の2について お尋ねの最大無作用量に相当すると考えられる無毒性量及びADI(一日摂取許容量。人が生涯にわたり毎日その物質を摂取し続けたとしても、安全性に問題のない量として、通常、無毒性量に安全係数百分の一を乗じて設定される量をいう。以下同じ。)については、環境庁長官が農薬取締法第三条第一項第四号から第七号までに該当するかどうかの基準(以下「登録保留基準」という。)を設定する際に考慮されているものである。
十の3及び5について 農薬を含む化学物質の内分泌かく乱作用による人の健康への影響については、その有無、種類、程度等が未解明であり、現在、関係省庁において、調査研究を行っているところである。したがって、現段階においては、御指摘の農薬の毒性評価及び残留農薬に係る基準の見直しを行う必要はないと考えているが、これらの調査研究の結果や国際的な動向を踏まえ、食品衛生調査会等の意見も聴きつつ、必要に応じて、その見直しについて検討してまいりたい。
十の4について 食品衛生法第七条第一項の規定に基づく残留農薬基準については、御指摘の農薬の収穫後使用(ポストハーベスト使用)に限定した検討は行っていないが、公衆衛生の見地から国民の健康を確保するため、農薬の使用時期にかかわらず、平成十二年までに二百農薬につき残留農薬基準を設定することを目標として、現在、食品衛生調査会の毒性部会及び残留農薬部会の合同部会において、検討を進めているところである。合同部会の現在の構成メンバーの氏名等については、別紙二のとおりである。 十一の1について 御指摘の有機農業については、消費者の安全志向、健康志向等にこたえつつ、生産者が様々に工夫しながら取組を拡大してきており、農林水産省においては、これを地域資源の循環活用及び環境への負荷軽減を図る環境保全型農業の一形態と位置付けているところである。
十一の2について 御指摘の無農薬食品、低農薬食品、有機食品等の基準について、特に内分泌かく乱化学物質問題を受けて検討は行っていない。
十一の3について 御指摘の報告は、「THE LANCET」第三百四十三号及び第三百四十七号に掲載されたものであると思料する。厚生省においては、現在、御指摘の有機食品の摂取と人の精子数との間の因果関係に関する調査は行っていないが、平成九年度から、健常男子の精子の数についての基礎的調査を実施しているところであり、調査研究の結果については、報告書として取りまとめ、公表する予定である。 |