質問主意書

第142回国会(常会)

答弁書


答弁書第二六号

内閣参質一四二第二六号

  平成十年七月二十四日

内閣総理大臣 橋本 龍太郎   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員竹村泰子君提出市民的及び政治的権利に関する国際規約第四十条一項(b)に基づく日本国政府第四回報告書における在日韓国・朝鮮人問題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員竹村泰子君提出市民的及び政治的権利に関する国際規約第四十条一項(b)に基づく日本国政府第四回報告書における在日韓国・朝鮮人問題に関する質問に対する答弁書

一及び二について

 市民的政治的権利に関する国際規約第二十七条にいう「種族的、宗教的、言語的マイノリティ」の在日韓国・朝鮮人への適用に関する質問に対する答弁書(平成六年三月二十九日内閣参質一二九第二号。以下「平成六年答弁書」という。)の一及び二についてでお答えしたとおり、我が国においては、何人も自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利は否定されていないので、御指摘の在日韓国・朝鮮人、かつての在日韓国・朝鮮人で日本国籍を取得した人々、これらの者と日本国籍を有する者との間に出生した人々等が、市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五十四年条約第七号。以下「規約」という。)第二十七条にいう「少数民族」であるか否かについては、必ずしも判断を要しないものと考えている。今回の第四回報告書の審査に当たっても、以上に述べたような認識を前提に対応してまいりたい。

三について

 平成六年答弁書の四についてでお答えしたとおり、規約第二十七条は、特に種族的、宗教的又は言語的少数民族に属する者が、自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を有していることを確認的に規定したものと解される。また、同条における締約国の義務は、同条にいう権利を否定しないことであって、同条は、少数民族に対する積極的な諸施策を講ずることまで義務付けているものではないと考えている。

四について

 御指摘の点については、平成五年十月にジュネーヴにおいて開催された規約第二十八条1に基づき設置された人権委員会(以下「委員会」という。)第四十九会期に行われた日本政府第三回報告に対する検討の際に、委員会の委員から質問を受けて、我が国政府代表が戦傷病者戦没者遺族等援護法(昭和二十七年法律第百二十七号。以下「援護法」という。)の規定する国籍条項の趣旨について、「援護法による援護は、軍人軍属等の一定の戦争犠牲に対する国家補償的な性格を有しており、その支給範囲、内容等は極めて高度な政策的判断を要する立法政策上の事項である。同法の立法をめぐる諸事情の一つである我が国と朝鮮半島、及び台湾との間の財産及び請求権の問題については、我が国とこれら地域との間で何らかの特別取極を締結することにより解決していくことが念頭に置かれていたと考えられる。こうした事情のもとで援護法の国籍要件が存在している。」旨説明したところである。
 今後予定されている日本政府第四回報告に対する検討の際に、委員から同様の質問がされる場合には、再度政府の見解を説明し、各委員の理解を得たいと考えている。

五について

 法務省の人権擁護機関においては、人権尊重思想の普及高揚を図る立場から、在日韓国・朝鮮人を含む外国人に対する偏見や差別をなくすため、積極的に啓発活動を行うとともに、外国人のための人権相談所を設けてあらゆる外国人からの相談に応じるほか、具体的に基本的人権が侵害されるような事案を認知した場合には、人権侵犯事件として速やかに調査し、侵犯事実の有無を確かめ、その結果に基づき、事案に応じた適切な処置を講じているところである。今後とも、外国人に対する差別、人権侵害をなくすため、国民に広く啓発活動を行うとともに、人権相談及び人権侵犯事件の調査を通じ、積極的に外国人の人権の擁護を図ってまいりたい。
 お尋ねの最近五か年における外国人を被害者とする人権相談及び人権侵犯事件は、次のとおりとなっている。

図 表

 人権擁護委員が日本国籍を有する者に限られている点についてお答えすると、人権擁護委員の主要な職務は、その職務執行区域において、人権尊重思想の普及高揚、人権擁護運動の助長、人権侵犯事件に関する調査、情報の収集、法務大臣への報告及び関係機関への勧告等を行い、人権擁護に努めることとされている。すなわち、人権擁護委員の職務は、国が行う人権擁護事務を補完するものであり、法務省の人権擁護部門と一体的に遂行されるものである。このような人権擁護委員の職務の性質及び内容に照らすと、法務大臣から人権擁護委員として委嘱される者が日本国籍を有する者に限られていること(人権擁護委員法(昭和二十四年法律第百三十九号)第六条第一項から第三項まで、公職選挙法(昭和二十五年法律第百号)第九条第二項及び地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第十八条)については合理的な理由があり、在日外国人が人権擁護委員の委嘱に関して日本国民と別異に取り扱われたとしても、規約第二条が禁ずる差別には当たらないと考えている。

六について

 規約第二十五条に規定する権利は、国民に限って適用されることとされており、その我が国における法的枠組みについては、第二回報告及び第三回報告で既に報告しており、第四回報告においては第三回報告での記述を引用して報告している。
 地方公務員のうち日本国籍を有していない者の数は、平成四年四月一日現在の調査では、四千百四十一人となっている。また、外国人の公務員への採用に関する政府の見解については、第三回報告において、「公権力の行使又は公の意思の形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍を必要とするが、それ以外の公務員となるためには必ずしも日本国籍を必要としないものと解されている。在日韓国・朝鮮人の公務員への採用についても、この範囲内で行われている。」と報告しているところである。