質問主意書

第142回国会(常会)

答弁書


答弁書第二五号

内閣参質一四二第二五号

  平成十年七月七日

内閣総理大臣 橋本 龍太郎   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員阿曽田清君提出食料・農業・農村基本問題に関する質問に対し、別紙答弁書を
送付する。


   参議院議員阿曽田清君提出食料・農業・農村基本問題に関する質問に対する答弁書

一について

 食料・農業・農村基本問題調査会(以下「調査会」という。)は、現行の農業基本法(昭和三十六年法律第百二十七号)に替わる新たな基本法の制定を含む農政の改革が必要となっている状況に対応するために設置されたものであり、内閣総理大臣の諮問は、この趣旨を踏まえたものである。
 なお、調査会の検討対象である「食料」には水産物等が含まれ、また、「農村」には山村や漁村が含まれており、林業や漁業との関連も念頭に置いて調査会の検討が進められているところである。
 林業については、林業基本法(昭和三十九年法律第百六十一号)に基づき森林の有する公益的機能の確保等を考慮して施策を講じているほか、国有林野事業の抜本的改革や森林法(昭和二十六年法律第二百四十九号)の改正を国会で御審議いただいているところであり、漁業については、沿岸漁業等振興法(昭和三十八年法律第百六十五号)に替わる基本法の制定をも念頭に置きつつ、水産基本政策の在り方につき検討を進めているところであり、農業、林業、漁業の相互の関連にも留意しつつ、その性格に応じた施策を展開してまいりたい。

二について

 食料自給率の目標を設定するかどうかについては、食料安全保障政策を全体としてどのように構築し、国民が求めている食料についての安心を確保するかという観点から、調査会において、今後更に議論が行われることとなっている。
 調査会に提示された「我が国の食料安全保障上問題となる事態に備えた対応策と食料供給シミュレーション」については、水産物を含む食料の供給可能量について、様々な事態を想定し、試算したものであり、調査会においては、こうしたシミュレーションを踏まえつつ、我が国の食料の安定供給の確保の在り方について議論が行われているところである。
 調査会において幅広い観点から行われているこのような議論等を踏まえ、食料の安定供給の確保のための施策について更に検討することとしている。

三の1について

 町村部における、普通銀行本支店、信用金庫・信用組合本支店、農業協同組合金融取扱店舗及び郵便貯金取扱局の直近の数については別表のとおりである。
 現在、小規模企業共済の窓口を、小規模企業者に不便を来すことのないよう全国津々浦々の商工会議所、商工会等の団体約六千か所、更に金融機関約二万八千か所に整備している状況の下、今後とも現行の体制で対応が図れるものと考えている。

三の2について

 労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)に基づく労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)の特別加入制度は、中小事業主等労働者と同様な状態の下に働き同様な業務災害又は通勤災害を被るおそれのある人々についても、その申請に基づき、一定の条件の下に、特別に労災保険に加入することを認め、保険給付を受けることができることとした制度であり、昭和四十年の制度創設以来、数次にわたる法律改正等を経て適用対象が拡大され、特別加入者の総数は増加している。平成八年度末には、中小事業主等の特別加入者数は約百五万人、一人親方等の特別加入者数は約三十四万人、海外派遣者の特別加入者数は約九万人であり、特別加入者の総数は約百四十七万人に達しているところである。なお、特別加入制度の対象者数の把握は困難である。
 農業者に適用される特別加入制度(中小事業主等及び一人親方等)についても数次にわたり適用対象が拡大されており、農業者の特別加入者数は、近年約十五万人前後で横ばいであるが、農業就業人口に対する当該特別加入者数の割合は着実に上昇しているところである。今後とも農業者に対して特別加入制度の周知徹底に努めてまいりたい。

四について

 農村の郷土芸能、文化、景観については、地域住民のみならず都市住民の評価と期待も高まっており、農村と都市の交流の貴重な地域資源であることから、これらの資源の適正な維持、保全と有効な活用を図っていくことが重要である。このため、郷土芸能等の調査や農村景観のコンテスト等を通じ、これらの現状把握を行うとともに、その維持、保全についての普及、啓発を行っているほか、伝統芸能等の活用促進を図るためのふるさとのまつり推進事業や美しい景観の形成と環境及び生態系の保全を図るための美しいむらづくり対策事業等を実施しているところである。
 また、文化財保護とのかかわりについては、文化財保護法(昭和二十五年法律第二百十四号)に基づき、農具、農家、農村舞台等を重要有形民俗文化財に、御田植、田植踊、田楽等を重要無形民俗文化財に指定し、その保存及び活用のために所要の財政措置を講じるなど、農村における風俗慣習、民俗芸能等の保護にも努めているところである。

五の1について

 農業経営基盤強化促進法(昭和五十五年法律第六十五号)に基づく遊休農地に関する勧告等の措置及び農業振興地域の整備に関する法律(昭和四十四年法律第五十八号)に基づく特定利用権が活用されていないのは、これらの措置は財産権に対する制限であることから、現にその農地を耕作の目的に供していないということだけでなく、その農地を含む周辺の地域における農用地の農業上の効率的かつ総合的な利用を促進するため、その農地の農業上の利用の増進を特に図る必要があると認められる等の要件を満たす必要があり、この要件を満たしていないことによるものと考えられる。
 遊休農地は、その農地の耕作条件が悪いこと、高齢化の進行により労働力が不足していること等により生じているものであり、効率的かつ安定的な農業経営への農地の利用集積を図ることや簡易な基盤整備等を通じ遊休農地の解消に努めているところである。

五の2について

 食料、農業及び農村に係る政策は、農林水産省の所掌にとどまらず、環境庁、国土庁等関係省庁が多数に上ることから、調査会は総理府に設置されているところであり、関係省庁の協力を得つつ、幅広い観点から検討がなされているところである。なお、調査会の庶務は、農林水産省において国土庁の協力を得て処理することとされている。

六の1について

 平成九年一月現在で、農業生産法人である有限会社の数は三千五百二十四であり、その過半は、畜産、米麦作を主として経営している。株式会社による農地の取得を認めるべきであるとの意見は、情報力や技術開発力、マーケティング・ノウハウなどの導入により農業が活性化する等をその理由としている。
 なお、株式会社の農地取得の問題については、調査会において、日本農業の担い手の姿、農業・農村の活性化方策等農政全般にかかわる事柄として議論が行われているところである。

六の2について

 株式会社が山林等を開墾して農地にし、その農地を農家に分譲したという事例は承知していない。山林等を開墾して農地にした後、農業経営を廃止したという事例は仄聞するが、個別の農業経営の内容にかかわることであり、その詳細は承知していない。

六の3について

 フランス及び米国(ネブラスカ州等中西部の九つの州を除く。)では、日本の株式会社に相当する法人の農地保有が認められている。
このような法人は、米国では、約八千経営体(一九九二年)あり、一経営体当たりの平均経営規模は八百七十七ヘクタール(一九八七年)である。

六の4について

 中山間地域における就業機会の拡大等中山間地域の活性化方策の在り方及び株式会社の農地取得問題を含む農業の活性化方策の在り方は、いずれも重要な農政の課題として検討していきたいと考えている。

七の1について

 中山間地域等に対する直接所得補償については、生産条件の不利を補う等の理由により導入に積極的な意見がある一方で、零細な農業構造の温存につながる等慎重な意見もあることから、調査会において幅広い観点から行われている議論等を踏まえ、更に検討することとしている。

七の2について

 農業経営の安定を確保するための施策の在り方については、調査会において幅広い観点から行われている議論等を踏まえ、また、農産物の価格安定制度の在り方に留意しつつ、更に検討することとしている。

別表