答弁書第二一号
内閣参質一四二第二一号
平成十年七月七日
内閣総理大臣 橋本 龍太郎
参議院議長 斎藤 十朗 殿
参議院議員阿曽田清君提出医療行政に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
参議院議員阿曽田清君提出医療行政に関する質問に対する答弁書
一について
医療保険制度における医療費に係る国庫補助の在り方については、厚生省としては、昨年八月に公表した「二十一世紀の医療保険制度(厚生省案)」において、医療保険の制度体系の改革の一つの案として、被用者保険の各保険者間の財政調整を行うことに伴い、政府管掌健康保険の国庫補助は廃止することを提示したところであり、これらの案を含め、今後、医療保険制度の改革の中で検討すべき課題であると考えている。
二の1について
診療報酬の定額払い方式の導入については、昨年八月に与党医療保険制度改革協議会から提示された「二十一世紀の国民医療~良質な医療と皆保険制度確保への指針~」(以下「指針」という。)において、急性期医療は出来高払い、慢性期医療は定額払いを原則とし出来高払いと定額払いの最善の組合せを構築することとし、急性期医療については入院当初は出来高払いとし容態の安定等を考慮して一定期間後は一日定額払いとするとともに、入院患者の診断群別定額払いについて基礎調査を進めその導入を検討すること、慢性期医療については入院について一日定額払いを原則とすること等が提案されたところである。厚生省においては、現在、この提案を基本としつつ、医療保険福祉審議会の制度企画部会における診療報酬体系の見直しの審議の中で、定額払い方式の導入等について検討しているところである。
なお、諸外国における診断群別定額払いで用いられる診断群分類は、米国で最も早く作成され、他の諸国では、米国のものを基本としてそれぞれの国の実情に合わせて修正して作成されたものが用いられていると承知している。
二の2について
現在、医療保険福祉審議会の制度企画部会においては、診療報酬体系の見直しについて、関係学会や医療関係者等の専門家及び関係者で構成される作業チームに依頼し、御指摘の各種の現場の事情も踏まえた具体的な見直し作業を行うこととしており、診療報酬の審査支払等の在り方を含め、この作業の中で検討してまいりたい。
二の3について
定額払い方式を導入した場合には、過少診療が行われるおそれがあることが指摘されており、定額払い方式を導入するに当たっては、診療内容の妥当性等を第三者が審査する体制を整える等の過少診療が起きないような方策についても検討してまいりたい。
三の1について
現行薬価基準制度における新薬の価格設定については、昭和五十七年九月の中央社会保険医療協議会の答申に基づき、類似薬効比較方式を原則とし、比較対照薬を選定できないものは原価計算方式により算定することとしている。また、類似薬効比較方式による場合は、補正加算を行うことができることとしている。
補正加算については、真に画期的な新薬に限り算定される画期性加算、既存の医薬品に比して高い有効性又は安全性を有する医薬品について算定される有用性加算及び市場規模が小さく新薬の開発が少ない医薬品について算定される市場性加算を設けているところであるが、平成七年十一月の中央社会保険医療協議会の建議(以下「平成七年建議」という。)に基づく新医薬品の価格設定方式においては、新医薬品の開発動向に照らし、真に医療に貢献する新医薬品の評価を行うため、補正加算の再編成を行ったところである。また、それぞれの加算を行うに当たり、画期性加算及び有用性加算については、新薬の承認の際の中央薬事審議会における有効性又は安全性の評価及び薬理学的特徴等に基づき、市場性加算については、薬事法上の希少疾病用医薬品の指定の有無及び薬事工業生産動態統計等による市場規模の算出結果に基づき加算を適用しているところである。
原価計算方式については、製品製造原価、販売費及び一般管理費、営業利益、流通経費等の費目を積算して算定しており、そのうち営業利益については、日本開発銀行が集計し公表している「産業別財務データハンドブック」の医薬品製造業における製品総原価に対する営業利益額の比率を標準に、最近の製品総原価に対する営業利益額の比率の動向等を勘案し調整を行ったものを用いている。原価計算方式においては、対象となる新薬には比較対照薬がなく、実際に要する費用を参照できる既存の事例から実際の費用を算定することが困難であるため、医薬品製造業における製品総原価に対する営業利益額の比率の平均値を用いているものである。
外国で販売されている医薬品の価格設定については、平成七年建議に基づき、外国価格と著しい乖離が生じないようにするため、価格設定に当たり二倍又は二分の一を超える内外価格差のある場合には、使用実態等を考慮し格差是正を図ることとされている。この具体的な事例としては、平成八年十一月に薬価基準に収載したハンセン病治療薬ランプレンカプセル五十ミリグラムの算定価格が外国価格の二倍を超えたため、また、平成九年十二月に薬価基準に収載した卵巣がん治療薬タキソール注の算定価格が外国価格の二分の一を下回ったため、外国価格との調整を行って価格設定を行ったところである。
三の2について
漢方薬の有効性及び安全性の再評価については、薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)第十四条の五第一項の規定に基づき、平成三年二月に厚生大臣が黄連解毒湯、桂枝加芍薬湯、芍薬甘草湯、小柴胡湯、小青竜湯、大黄甘草湯、白虎加人参湯及び六君子湯の八処方に基づく製剤について再評価の指定を行ったところであり、再評価の指定を受けた製剤については、同条の規定に基づき、他の医薬品と同様の方法によりその有効性及び安全性の評価を行っているところである。このうち大黄甘草湯については平成七年三月に再評価を終了し、小柴胡湯については同年同月に、小青竜湯については平成八年三月に効能の一部について再評価を終了したところである。小柴胡湯及び小青竜湯の残余の効能並びに残余の五処方に基づく製剤については、現在中央薬事審議会において審議が行われ、又は再評価を受けるべき者において臨床試験が実施されているところである。
三の3について
一般消費者が自らの判断に基づいて薬局等で購入する医薬品(以下「一般用医薬品」という。)であって、医師の処方する医療用医薬品に限って使用されていた有効成分を初めて含有することとなるもの(以下「スイッチOTC」という。)の薬事法第十四条第一項(同法第二十三条において準用する場合を含む。)に基づく承認の件数は、昭和五十八年に二件、昭和五十九件に一件、昭和六十年に四件、昭和六十一年に一件、昭和六十二年に七件、昭和六十三年に四件、平成元年に二件、平成二年に五件、平成三年に四件、平成四年に三件、平成五年に三件、平成六年に二件、平成七年に五件及び平成九年に四件の合計四十七件である。
スイッチOTCに係る副作用については、他の医薬品と同様、薬事法第七十七条の四の二の規定に基づき、製造業者等が副作用に関する事項を知ったときは厚生大臣に報告することが義務付けられており、また、「一般用医薬品の市販後調査及び承認申請の取扱いについて」(昭和六十一年十二月二十七日薬発第千百一号厚生省薬務局長通知)に基づき、製造業者等に承認後三年間、使用時の安全性の調査を求めているところであり、厚生省においては、これらの報告等に基づき必要な対策を講ずることとしている。御指摘のイブプロフェンを含有する一般用医薬品については、アナフィラキシーショック等の副作用の報告があったことから、厚生省においては、平成七年九月に製造業者等に対し、添付文書の使用上の注意に、「今までに本剤による過敏症状を起こしたことがある人は服用しない」旨を記載させる等の措置により、一般消費者等に対し注意を喚起したところであるが、他のスイッチOTCに係る成分については、これまでのところ安全性の面からみて特段の措置を必要とする状況にはないと判断している。
三の4について
薬価制度の見直しについては、指針において、薬価基準を廃止し、これに代わる新たな仕組みとして医療保険からの償還限度額を定めるいわゆる日本型参照価格制度を導入することが提案されたところであり、厚生省においては、この提案を基本としつつ、医薬品使用の適正化、より安価な医薬品の使用促進、償還限度額設定の透明性の確保及び健全な医薬品市場の形成という観点から、現在、医療保険福祉審議会の制度企画部会において、新たな仕組みの導入について審議を行っているところである。
御指摘の点に関しては、指針において、医薬品の分類や償還限度額を設定する医学、薬学等の専門家によって構成する委員会を設置し手続きを透明化すること、医薬品の分類、償還限度額、その根拠となった市場実勢価格等を公表すること、医療機関等が医薬品の購入価格の情報を公開するとともに、償還限度額を上回る部分について患者に負担を求める場合は説明及び明細書の発行を行うことが提案されている。また、製薬企業の新薬開発の意欲を損なわないようにする観点から、例えば、特許期間中の新薬のうち一定範囲の新薬については、医薬品の成分ごとに償還限度額を設定するとともに、画期的新薬や希少疾病用医薬品については、原則として自由価格とすることが提案されている。
現在、医療保険福祉審議会の制度企画部会においては、この提案を基本としつつ、医学、薬学、経済学等の専門家で構成される作業チームに依頼し、一部の薬剤群を対象として提案されている日本型参照価格制度における医薬品の分類、償還限度額の設定等具体的な作業を行うこととしており、この作業結果を踏まえ、薬価制度の見直しについて平成十二年度を目途に引き続き審議が行われる予定である。
四について
消費税は消費一般に広く負担を求める間接税であるが、社会保険医療サービスについては、政策的な観点から非課税とされている。
また、消費税は取引の各段階で課税されるため、課税の累積を排除する観点から前段階の税を控除する仕入税額控除制度が設けられている。この制度の下においては、課税売上げに対応する仕入れに係る消費税額については控除の対象としているが、社会保険医療サービス等の非課税売上げに対応する仕入れに係る消費税額分については当該売上げの価格引上げによって転嫁を図るというのが基本的な考え方である。このような仕組みは、諸外国の付加価値税においても同様である。
このような考え方から、診療報酬制度を基本とする社会保険医療サービスについては、平成元年四月に消費税の導入等に伴う開業医等の医療機関における仕入価格の上昇分を勘案して、社会保険診療報酬の改定が行われたところであり、その後の改定においても、消費税が非課税であることを前提として、仕入れに係る消費税額分を適切に織り込んだ改定が行われている。
五について
医療保険制度については、将来にわたり制度を安定的に維持していくための総合的な改革が急がれるが、一方、当面の財政危機を回避し、安定的運営を確保することが必要であることから、引き続き医療保険制度の改革を着実に進めていくことを前提として、制度の安定的運営の確保、世代間の負担の公平等を図るため、平成九年九月に実施された医療保険制度の改正において給付と負担の見直し等の措置を講じたものである。
改正後の平成九年九月から平成十年二月までの公的医療保険における医療費の対前年同期比の伸び率は平均〇・八パーセントであり、改正前の平成九年四月から同年八月までの対前年同期比の伸び率が平均二・五パーセントであったのと比較すると、医療費の伸びは低下している。その要因については、疾病構造別にみた患者の受診状況、医療機関における診療行為の変化等の視点から分析することが必要と考えており、現在、調査分析を行っているところである。
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