質問主意書

第142回国会(常会)

答弁書


答弁書第一九号

内閣参質一四二第一九号

  平成十年七月七日

内閣総理大臣 橋本 龍太郎   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員山口哲夫君提出浜岡原子力発電所等の耐震安全性に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員山口哲夫君提出浜岡原子力発電所等の耐震安全性に関する質問に対する答弁書

一について

 浜岡原子力発電所については、マグニチュード八・〇の想定東海地震、マグニチュード八・四の一八五四年安政東海地震及びマグニチュード八・五の限界的な規模の地震として南海トラフ沿いに想定される地震を想定し耐震設計を行っている。その際には、各種の観測・測量及び研究等から、想定される断層の形状を断層モデルとして、断層が連続して破壊していくことを考慮して、地震の揺れを計算する手法等により基準地震動の評価を行っている。また、地震動の継続時間については、震源断層面の大きさと関係が深いマグニチュードとの関係式を用いて定めており、十分な長さを想定している。
 浜岡原子力発電所は、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(昭和五十六年七月二十日原子力安全委員会決定。以下「耐震設計審査指針」という。)に基づき、以上のように定めた基準地震動を用いて、安全上重要な施設については、許容限界に収まるよう適切に耐震設計がなされていることから、同発電所の想定東海地震に対する安全性は十分に確保されている。

二について

 浜岡原子力発電所の敷地、敷地周辺陸域及び海域の地質及び地質構造については、「原子力発電所の地質、地盤に関する安全審査の手引き」(昭和五十三年八月二十三日原子炉安全専門審査会)に基づき、十分な調査・検討を行っている。また、活断層の評価に当たっては、その断層が覆瓦断層か否かにかかわらず、断層の活動性に着目した調査・検討を行っている。
 これらの調査の結果認められた陸域及び海域の活断層による地震動の同発電所敷地への影響については、耐震設計上想定している想定東海地震の地震動の影響を下回ることを確認している。また、同発電所敷地内のH断層系については、ボーリング調査、試掘坑調査等の結果から、少なくとも御前崎礫層堆積以降(約八万年前以降)における活動はないものと判断されることから、覆瓦断層として活動することはないものと判断している。
 さらに、地震時に生じうる地盤の隆起により、同発電所敷地に傾斜が生じることも想定されるが、その傾斜量は十分小さいと考えられるため、原子力発電所の安全性に影響を与えるものではない。
 したがって、浜岡原子力発電所の耐震安全性は十分確保されている。

三について

 津波の予測に当たっては、地震の規模、震源の範囲、断層変位量、海域の地形等の情報が必要であるが、浜岡原子力発電所の周辺地域においては、過去に大規模な津波が繰り返し発生していることから、地震の規模、震源の範囲、断層変位量等を適切に設定することにより、津波による敷地前面海域の水位上昇を推定することが可能である。
 具体的には、浜岡原子力発電所については、過去に敷地に影響を及ぼしたと考えられる津波に関し、文献調査結果等を基に津波の断層モデルを設定し、文献調査及び事業者の調査結果に基づき海底地形をモデル化するとともに、地形等を勘案した適切な境界条件を設定した上で数値シミュレーションを行い、津波の高さを評価した結果、津波による水位上昇は、満潮を考慮しても、最大で標高五・八メートル程度であるものと推定される。したがって、同発電所の敷地整地面標高が六・〇メートルであること、敷地前面には海岸線にほぼ平行して標高十から十五メートルの砂丘が存在すること等を勘案すると、津波に対する安全性は十分確保されている。

四について

 金井式は、地震観測記録に基づき、岩盤上における地震動の最大速度、震源距離及びマグニチュードの関係を表す有用な経験式である。
 金井式を用いて基準地震動を適切に策定することは可能であると考えており、浜岡原子力発電所の耐震安全性は十分確保されている。

五について

 松田の式は、活断層の長さから地震の規模を推定する経験式として、地質学、地震学の分野において広く活用されているものである。
 原子力発電所の耐震設計に際しては、地表の断層地形のみならず、その周辺の地質構造をも調査し、保守的な断層の長さを想定した上で、松田の式を適用しており、浜岡原子力発電所の耐震安全性は十分確保されている。

六について

 原子力発電所の耐震設計において考慮すべき大規模な地震を引き起こす活断層は、繰り返し活動するものである。このような活断層であれば、浸食されて消えていくことはなく、また、御指摘の「震源断層面のズレ破壊が地表に現れない場合」であっても、周辺に断層が認められたり、その活動の結果が地表付近の地形又は地質構造に影響を与え、それが何らかの痕跡として認められる。このことから、原子力発電所の立地の際には、詳細な文献調査、現地調査等に基づく慎重な検討により、原子力発電所の安全性に対する活断層の影響は適切に評価することができる。
 また、浜岡原子力発電所の耐震設計においては、地震地体構造的見地から想定される地震として、南海トラフ沿いにマグニチュード八・五のプレート境界地震が考慮されている。
 一方、耐震設計審査指針においては、基準地震動S2の決定に際し、詳細な文献調査、現地調査等に基づき存在が明らかになっている活断層等を評価することに加え、念には念を入れるとの観点から、マグニチュード六・五の直下地震も考慮の対象に含めることとされているが、これは、マグニチュード六・五以下の地震では地表に断層が現れない場合もあり最悪の場合にはこのような地震を引き起こす活断層を見逃す可能性があるとの地震学、地質学等の知見を工学的に判断して定められたものであり、少なくとも現段階においては、基準地震動S2の決定に際して想定すべき直下地震の規模をマグニチュード六・五からマグニチュード七・三に引き上げるべき新たな知見等は得られていない。

七について

 耐震設計審査指針においては、基準地震動の策定に当たって、解放基盤表面の地震動の水平方向における最大速度振幅は地震動の実測結果に基づいた経験式等を参照して定めることができる等とされているが、当該経験式としては、昭和五十四年に大崎順彦氏が発表した基準地震動評価に関するガイドラインに示された評価方法(以下「大崎の方法」という。)が一般的に用いられる。
 大崎の方法においては、評価地点における震央距離が一定の計算式を用いて求められる距離(以下「震央域外縁距離」という。)より短い場合には、当該地点の震源距離及び応答スペクトルは、震央距離にかかわらず震央域外縁距離に基づいて算定されることとされている。これは、福井地震等の地震を引き起こした断層の近傍における被害状況の調査結果から、断層からの距離が近くなるにつれて最大加速度が増大する傾向が認められない領域があることが経験則上知られているからである。
 浜岡原子力発電所の耐震設計に当たっては、大崎の方法等を用いて基準地震動が評価されており、基準地震動の評価方法の妥当性については、個々の原子炉の設置許可等に係る審査等に際し、必要に応じ確認している。

八について

 浜岡原子力発電所一・二号炉については、中部電力株式会社が三号炉と同じ基準地震動S1及びS2を用いて、一・二号炉の耐震安全性を確認しており、資源エネルギー庁は、その結果及び専門家の意見を聴取した上で、一・二号炉についても耐震安全性が確保されていることを、平成七年九月に確認したものである。

九について

 過去の地震の発生状況等からすると、それぞれの地震発生区域ごとに地震の規模の上限があるとみなすことができ、地震の規模と発生域を、原子力発電所の敷地周辺の活断層及び地震地体構造に基づいて想定することは可能であると考える。また、耐震設計審査指針では、地震地体構造を考慮することを安全確保のための唯一の根拠としているわけではなく、考慮すべき項目の一つに加え安全確保のために活用しているものであり、地震地体構造に関する諸文献の中で特に表俊一郎氏らのものを使用することを規定しているわけではない。
 なお、浜岡原子力発電所の耐震設計に際しては、遠州灘(上限のマグニチュードが表俊一郎氏らの文献と松田時彦氏の文献でともに八と二分の一とされている)の沖合に、百から二百年に一回程度の割合でマグニチュード八級のプレート境界地震が発生しているため、他の各種文献の知見も併せ、地震地体構造的見地から、南海トラフ沿いにマグニチュード八・五の地震を限界地震として想定している。

十について

 平成七年兵庫県南部地震による構造物の被災原因の一つとして、衝撃的な力が作用した可能性があるといわれているものの確証は得られておらず、構造物の被災の主な原因は、周期が比較的長い水平動であるといわれている。

十一について

 原子力発電所の耐震設計に際しては、実績のあるコンピュータ解析手法を用いるとともに、設計に用いる許容値等については、適切な安全裕度を持たせたものとしている。
 また、財団法人原子力発電技術機構多度津工学試験所においては、原子力発電所の実物を模擬した試験体について、原子力発電所における設計用地震動により原子力発電設備に生じる揺れを上回るような振動試験を大型振動台を用いて行い、当該設備の健全性を確認するとともに、コンピュータ解析手法の妥当性を確認している。したがって、原子力発電所の耐震安全性は十分確保されている。

十二について

 東海地震を想定して、国、地方公共団体及び電気事業者は、防災計画の中で、災害予防、災害応急対策、災害復旧等に関する基本的な事項を定めている。
 浜岡原子力発電所では、東海地震の警戒宣言が出された場合には、地震警戒体制をとることとしている。また、大地震が発生した場合には、原子炉は自動的に停止する設計となっている。
さらに、緊急時においては、具体的には以下のような対策を講ずることとしている。

1 国は、浜岡原子力発電所における緊急時には直ちに事故対策本部を設置し、必要に応じて専門家の技術的、専門的助言を受け、対策を講ずる体制をとるとともに、現地に派遣する専門家を通じて技術的アドバイス、防災活動支援等を行うこととなっている。
2 静岡県、浜岡町等は、浜岡原子力発電所における緊急時には災害対策本部を設置し、国の専門家の指導、助言のもとに防災対策を決定するとともに、広報、モニタリング、避難、緊急時医療等の対策を実施することとなっている。