質問主意書

第142回国会(常会)

答弁書


答弁書第一六号

内閣参質一四二第一六号

  平成十年六月十九日

内閣総理大臣 橋本 龍太郎   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員山口哲夫君提出納税者の権利憲章に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員山口哲夫君提出納税者の権利憲章に関する質問に対する答弁書

一について

 諸外国の納税者憲章等において納税者の権利として掲げられている項目及びその法的位置付け等は、各国によって異なっており、必ずしも共通するものではないと承知している。我が国においては、かかる諸外国の納税者憲章等に掲げられているような納税者の権利については、日本国憲法第八十四条に定められているいわゆる租税法律主義の下、国税通則法(昭和三十七年法律第六十六号)その他の国税に関する法律(以下「各税法」という。)において具体的な規定が設けられているものがあること及び各税法の具体的規定等の趣旨に則した適正な税務行政により、基本的にその保護が図られている。税務調査については、例えば、所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第二百三十四条に質問検査に関する規定が設けられているが、最高裁判所の裁判例によれば、「質問検査権を行使しうべき場合につき、具体的かつ客観的な必要性のあることを要件としており、質問検査の範囲、程度、時期、場所等、権限ある収税官吏の合理的な選択に委ねられていると解される実施の細目についても、質問検査の必要と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度内という制限を課して客観的にその範囲を画定している」と解されている(昭和五十八年七月十四日最高裁判所判決)。したがって、質問検査の範囲、程度、時期、場所等の税務調査の実施の細目は、権限ある税務職員の合理的な選択にゆだねられており、質問検査の必要と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度内という制限を課して、客観的にその範囲が画定されているものと考えている。また、国税庁において税務行政を遂行する上での基本原則を税務職員に示した税務運営方針(昭和五十一年四月一日)は、一般の税務調査においては事前通知の励行に努めること等としている。税務調査における納税者の権利は、このような質問検査に関する所得税法第二百三十四条を始めとする各税法の規定、税務運営方針等の趣旨に則した適正な税務行政を通じて保護が図られているところである。

二について

 御指摘のイから卜までに掲げられている項目は、必ずしも各国の納税者憲章等に共通して掲げられているものではないと承知している。例えば、アメリカ合衆国の「納税者権利章典」及び「納税者としてのあなたの権利」においては、誠実性の推定、税務調査の事前通知及び調査期間の制限に関する項目は掲げられていないと承知している。
 我が国においては、御指摘のイから卜までに掲げられている項目については、調査の目的を達成することができなくなるような場合を除いて事前通知を行うこと、必要に応じて概括的な調査理由の開示を行うこと、再調査は新たな資料情報等によって先の調査で把握した所得金額が過少であることが判明した場合等に行うこと等、所得税法第二百三十四条を始めとする各税法の規定、税務運営方針等の趣旨に則した適正な税務行政を通じて、基本的にその保護が図られているところである。なお、申告納税方式には、御指摘のような趣旨は含まれていない。

三について

 一について及び二についてで述べたとおり、我が国においては、諸外国の納税者憲章等に掲げられているような納税者の権利については、基本的にその保護が図られており、改めて納税者憲章等を制定する必要はないと考えている。なお、今後とも納税者の権利に配慮した適正な税務行政に努めてまいりたい。