質問主意書

第142回国会(常会)

答弁書


答弁書第一〇号

内閣参質一四二第一〇号

平成十年六月九日

内閣総理大臣 橋本 龍太郎   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員本岡昭次君提出市民的及び政治的権利に関する国際規約第一選択議定書批准等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員本岡昭次君提出市民的及び政治的権利に関する国際規約第一選択議定書批准等に関する質問に対する答弁書

一及び二について

 市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五十四年条約第七号。以下「規約」という。)の選択議定書は、規約に規定されているいずれかの権利がこの議定書の締約国により侵害されたと主張する当該締約国の管轄下にある個人からの通報について、規約第二十八条1に基づき設置された人権委員会(以下「規約人権委員会」という。)は、当該個人が、国内的救済が不当に遅延する場合を除くほか、利用可能なすべての国内的救済を尽くしたことが確認されない限り、いかなる通報も審議してはならないと規定している。
 この規定に関連する例を挙げれば、千九百八十四年(昭和五十九年)七月二十五日に採択された、通報番号千九百八十二年第百三十一号、通報者エヌ・ジー、関係当事国ウルグァイ東方共和国に関する見解においては、同国裁判所での手続が係属中であったにもかかわらず、当該通報の受理についての許容性を認める判断をしている。また、千九百九十四年(平成六年)七月十五日に採択された、通報番号千九百九十年第四百十七号、通報者マニュエル・バラゲール・サンタカーナ、関係当事国スペインに関する見解においては、同国裁判所での第一審判決が、提訴から数年を経過した後においても示されていないことについて、裁判が著しく遅延している事例に当たるとして、当該通報の受理についての許容性を認める判断をしている。以上の例については、国内的救済が尽くされたかどうか又は国内的救済が不当に遅延したかどうかに関する見解について、我が国として慎重に検討すべき点を含んでいると考えている。

三について

 国際司法裁判所は、国と国との間の紛争を国際法に従って裁判することを任務とする国際機関であり、事件の当事者である国は、当該事件において同裁判所の裁判に従う義務を負う。我が国は、国際司法裁判所のいわゆる強制管轄権を認めているが、これは、同一の義務を受諾する他の国との関係において、当該国との間の紛争に対する国際司法裁判所の管轄を義務的であると認めるものである。このように、国際司法裁判所は、国と国との間の紛争を国際法に従って裁判するのであるから、同裁判所に係る右のような義務を受け入れたからといって、御指摘の司法権の独立を侵すというような問題が生じることはないと考えている。
 これに対し、規約人権委員会の見解については、規約人権委員会が裁判係属中の具体的事件について一定の判断を示すことになれば、その判断に法的拘束力がないとしても、担当裁判官の審理、判断に影響を及ぼすおそれがあるのではないかと考えられること等から、司法権の独立を侵すおそれがないか慎重に検討する必要があると考えている。

四の1について

 一事不再理規定がないことから乱訴を防止するための歯止めがなく、したがって、濫用のおそれが否定できないこと、現在の我が国の訴訟手続に基づく救済手続の体系に混乱をもたらすおそれがあること等の問題があると考えている。

四の2について

 最高裁判所の見解については、政府として答弁する立場にはない。

五について

 現在のところ、国連人権委員会の恣意的拘禁作業部会の見解等により司法権の独立等との関係で具体的問題が生じているとは考えていない。いずれにせよ、御指摘の決議に基づく手続については、規約の選択議定書による手続とその根拠が異なることもあり、両者を単純に比較することは適当ではないと考えられる。