質問主意書

第142回国会(常会)

答弁書


答弁書第八号

内閣参質一四二第八号

  平成十年五月二十九日

内閣総理大臣 橋本 龍太郎   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員荒木清寛君提出ジル・ド・ラ・トゥレット症候群に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員荒木清寛君提出ジル・ド・ラ・トゥレット症候群に関する質問に対する答弁書

一について

 ジル・ド・ラ・トゥレット症候群(以下「トゥレット症候群」という。)の患者数については、平成八年の厚生省患者調査においては、特定の調査日においてトゥレット症候群により継続的に医療を受けている者の数を五百人未満と推計しているが、米国精神医学会が作成した「精神疾患の診断・統計マニュアル第四版」(DSM-IV。以下「DSM-IV」という。)には、一万人に約四、五人発症すると記述されていること等を踏まえれば、この推計が患者数全体の推計とは言えないおそれがあるものと考えている。
 トゥレット症候群の我が国における平均発症年齢については、厚生省においては現在のところ把握していないが、DSM-IVによれば、トゥレット症候群の症状である運動性チック(不随意に生じる、急速かつ反復性を持った、律動的でない運動動作をいう。以下同じ。)の発症年齢の中央値は七歳であるとされている。
 トゥレット症候群の原因については、現在のところ、完全に解明されているわけではないが、神経学等の研究者からは大脳基底核等における障害が原因であるとの指摘がなされていると承知している。
 トゥレット症候群の病状については、DSM-IV等の文献においては、運動性チック及び音声チック(突然生ずる明らかな目的のない発声をいう。以下同じ。)が一日中頻繁に生じ、その状態がほとんど毎日又は一年以上にわたり間欠的に認められるものとされている。また、予後については、DSM-IVにおいては、大半の症例では症状が青年期から成人期までの間で軽減するものの生涯にわたり継続するが、一部の症例では症状が成人期早期までに消失するとされている。
 トゥレット症候群の治療法については、まず、経過観察を行うのが一般的であり、その後、精神療法が行われている場合があるほか、日常生活に支障が生ずる症状に対しては、薬物療法が行われている場合もあるものと承知している。

二について

 トゥレット症候群の臨床上の鑑別については、疾患の経過の中で運動性チックと音声チックの両方が現れるものをトゥレット症候群とし、運動性チック又は音声チックのどちらか一方が現れるものは単純性チック症としているものと承知している。
 トゥレット症候群の診療科については、これを専門に扱う診療科が特に定まっているわけではないが、一般的には小児科であり、精神科又は神経内科において診療が行われることもあるものと考えている。

三について

 トゥレット症候群を含む小児神経症、心身症等の治療法の研究及び実態調査については、厚生科学研究費補助金の交付の対象となる厚生科学研究の「子ども家庭総合研究」における平成十年度の課題として「心身症、神経症等の実態把握及び対策に関する研究」を取り上げたところであり、当該研究の中で実施することを検討しているところである。

四について

 トゥレット症候群に関する知識は、医師が身に付けるべき基本的知識であると考えており、医療関係者審議会医師部会に設けた医師国家試験改善検討委員会において医師国家試験の出題範囲等として公表している「医師国家試験出題基準」に、従来からトゥレット症候群を特に掲げているところである。
 医学教育におけるトゥレット症候群の取扱いについて、文部省において各国公私立大学医学部に確認したところ、全大学において小児科学、精神科学、神経科学等の授業科目の中で、トゥレット症候群に関する内容がチック障害等との関連で教えられているところである。また、卒業後の生涯教育におけるトゥレット症候群の取扱いについては、その全部を承知するものではないが、卒後臨床研修、自らの臨床経験又は関係する学会若しくは医師会の活動を通じてトゥレット症候群に関する学習の機会を得ているものと考えている。

五について

 御指摘のトゥレット症候群を始め慢性疾患を有する児童及びその家族に対しては、保健所、児童相談所及び学校等地域における児童の保健、福祉、教育等の関係機関で適切な相談又は支援を行うことが重要である。そのためには、これらの職員が小児の慢性疾患について理解していることが必要であると考えられることから、今後、厚生省が開催する児童相談所長会議、教育関係者が参加する研修会等の機会を利用すること等によりトゥレット症候群を始め小児の慢性疾患に関する知識の普及について検討してまいりたい。

六について

 御指摘の小児慢性特定疾患治療研究事業は、小児慢性特定疾患の治療研究を推進し、その医療の確立と普及を図り、併せて患者家庭の医療費の負担軽減にも資することを目的とするものであり、その対象疾病については、「小児慢性特定疾患治療研究事業の実施について」(昭和四十九年五月十四日付け児発第二百六十五号厚生省児童家庭局長通知)において悪性新生物、慢性腎疾患、神経・筋疾患等の十の疾患区分を設定している。トゥレット症候群については、現段階において神経・筋疾患の区分における対象疾病の基準である神経・筋細胞内の構造の異常又は神経・筋細胞の機能の異常に該当するものであることが解明されていないこと、神経・筋疾患以外の区分の対象疾病に該当しないこと、医療費の負担が必ずしも高額とは言えないことから本事業の対象とする予定はない。
 御指摘の特定疾患調査研究事業(以下「調査研究事業」という。)は、 難病のうち特定の疾患について原因の究明と治療方法の確立を図ることを目的とするものであり、その対象疾病については、平成八年度において、厚生大臣の私的諮問機関である特定疾患対策懇談会の意見を踏まえて希少性、原因不明、効果的な治療方法未確定及び生活面への長期にわたる支障等の要件を総合的に勘案して見直しを行い百十八の疾病を決定したものであり、当面、その見直しを行う予定はない。また、特定疾患治療研究事業(以下「治療研究事業」という。)の対象疾病は、調査研究事業の対象疾病のうち、難治度や重症度が高いことなど一定基準に該当するものとしている。したがって、トゥレット症候群については治療研究事業又は調査研究事業の対象とする予定はない。

七について

 お尋ねの疾病については、御指摘の条件が明確なものではないので、その数を答えることは困難であるが、進行性の慢性疾患で、従来、特定疾患又は小児慢性特定疾患の対象とすることについて要望されているもの又はいわゆる希少疾患として研究の推進が要望されているものの例として慢性肝炎(アルコール性のものを除く。以下同じ。)、アトピー性皮膚炎及び先天性無痛無汗症をあげることができる。これらの疾病の患者数は、平成八年の厚生省患者調査等によれば、慢性肝炎が約二十五万人、アトピー性皮膚炎が約三十二万人及び先天性無痛無汗症が約百人と推計されている。
 なお、厚生省においては、これら以外の慢性疾患についても、三年に一度実施される患者調査において患者数等の実態把握に努めているところである。

八について

 病気や障害に関する患者及びその家族に対する行政機関の相談体制については、医療に関する相談は保健所において、福祉に関する相談は福祉事務所等において、それぞれの設置者である地方公共団体が、難病対策の対象であるか否かにかかわらず、実施しているところであり、厚生省においてはこれらに対し財政的及び技術的な支援を行っているところである。
 また、従来の難病患者地域保健医療推進事業を拡充して平成十年度から実施している難病対策特別推進事業(以下「特別推進事業」という。)においては、その対象者を調査研究事業の対象疾病の患者とし、難病患者等居宅生活支援事業(以下「居宅生活支援事業」という。)においては、その対象者を調査研究事業の対象疾病及び病状が対象疾病に類似し、日常生活動作の程度においてこれに準じた特定の疾病の患者としているため、トゥレット症候群の患者を特別推進事業又は居宅生活支援事業の対象とする予定はない。

九について

 慢性疾患の状態にある児童生徒の教育の保障については、その健康状態に応じ、必要な期間療養に専念するか、病弱養護学校への通学若しくは当該学校の教員の家庭若しくは医療機関等への訪問により教育を受けるか、小学校若しくは中学校の病弱・身体虚弱特殊学級に通学して教育を受けるか又は小学校、中学校若しくは高等学校の通常の学級で教育を受けるかについて、都道府県及び市町村の教育委員会並びに学校長の判断の下に、適切な対応が行われていると考える。
 また、学習障害児(全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論する等の特定の能力の習得と使用に著しい困難を示す様々な障害を有する児童生徒をいう。)及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒(以下「学習障害児等」という。)に対する配慮については、平成四年六月から、文部省において、指導方法に関する調査研究を行うとともに、学習障害児等についての理解啓発を図るための教師向け冊子の作成及び配布等の事業を行っているところである。
 平成九年五月一日現在、御指摘の院内学級(病弱・身体虚弱特殊学級のうち病院内に設置されているものをいう。)に在籍している児童生徒数は、九百四十一人である。また、病弱養護学校に在籍している児童生徒数は四千四百八人であり、このうち教員の家庭又は医療機関等への訪問により教育を受けている児童生徒数は六百九人である。